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2005.01.28

鼻白き猫の話

去年の大晦日まで、愛媛県の内陸部に、五十崎町と言う町があった。松山市から40kmほど離れた場所で、自然が豊かで、周りを緑の山々に囲まれた人口6000人ほどの小さな町だ。鎌倉時代から伝わる「けんか凧」が有名で、毎年、5月5日には、500以上の大凧が糸を切り合う「大凧合戦」が行なわれ、町には「凧博物館」もある。

 

なんで、「去年の大晦日まで」なのかって言うと、この五十崎町と、隣接する内子町、小田町の3つが合併して、今年の1月1日から、「新内子町」となったからだ。だから、もともと内子町に住んでた人たちは、「新」がついただけだからいいけど、五十崎町と小田町の人たちは、歴史ある町の名前が、跡形もなく消えてしまったのだ。

 

この、五十崎町‥‥って言うか、今は、元・五十崎町だけど、町の周りを囲んでる山々の急斜面が、とっても美しい棚田(たなだ)になっている。「日本の棚田百選」にも選ばれていて、お天気のいい日の景色も素晴らしいけど、夜になって満月が上ると、棚田の1枚1枚に月が映り、ホントに美しい。あまりの美しさに、こんな俳句を思い出しちゃうほどだ。

 

肥打つて棚田しづかや春の月 前田普羅

 

その何百枚もある棚田の中に、季羽(きば)浅喜さんて言う、大正生まれのおじいちゃんの田んぼがある。このおじいちゃんは、お酒や雑貨を扱う季羽商店を経営しながら農業もやってるんだけど、10年以上前から、農薬をいっさい使うのをやめて、完全無農薬に切り替えた。そして、作っているのは、お酒用の酒米で、「無農薬みそぎ棚田米2号」って言う名前だ。ちなみに、「みそぎ」って言うのは、「御祓(みそぎ)地区」って言う場所の名前なのだ‥‥なんて、ミソギチクって言うよりも、ウンチクから入っちゃった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?(笑)

 

 

‥‥そんなワケで、このおじいちゃんが言うには、無農薬に切り替えたら、収穫量が、農薬を使ってた時の7割ほどに減ったそうだ。それは、無農薬で一番怖いのは害虫だから、苗と苗の間隔を広くして、風通しを良くしてやる必要があるので、しかたないことだそうだ。そして、雑草取りや害虫取り、時にはイノシシを追い払ったりしながら、すべて手作業で、丹精込めて酒米を作っている。このおじいちゃんは、ホントにカッコ良くて、無農薬のお米を作ってるだけじゃなくて、水脈を見つけて井戸を掘ったり、石垣を積んだり、お天気を当てたりと、誰からも習ったワケじゃなくて、ぜんぶ自然から学んで身につけている。

 

そして、このおじいちゃんの愛情がたっぷり注がれた酒米、「無農薬みそぎ棚田米2号」は、地元の亀岡酒造の亀岡社長の手によって、丁寧に丁寧に磨き上げられ、地元の湧き水で仕込まれ、宝石のようなお酒になる。それが、あたしの憧れのお酒、「鼻白き猫の話」だ。この、ちょっと変わった名前のお酒には、こんな詩が添えられている。

 

棚田 棚田
季羽さんの棚田
数百年も今のままにて
神々殿の降り立つ所
鼻白き猫達の見廻る所
さやけき風の吹く所

 

これは、五十崎町の棚田が、「神々の降り立つ所」と言われ、また、「夜になると、鼻の白い猫の親子が一列になって、棚田の見廻りをした」って言う、この土地の言い伝えに由来しているのだ。

 

ここで、この「鼻の白い猫」ってのは、ナニ?‥‥ってことになって、久しぶりに、頭脳は子供でもベッドでは大人、迷探偵キッコナンの登場かと思ったんだけど、亀岡酒造のホームページに、「おそらく、鼻白心のことと想定されます」って書いてあった。でも、ここで、迷探偵キッコナンからツッコませてもらうけど、「鼻白心」って、ナニ?

 

それを言うなら、「白鼻芯」だろがっ!
「心」と「芯」の間違えはしかたないとしても、「鼻白心」じゃ「ビハクシン」になっちゃうじゃん!

 

‥‥まあ、そんなことは置いといて、この「ハクビシン」って動物は、その名の通り、額から鼻にかけて白い線があり、猫って言うよりも、イタチとかタヌキに似た姿をしてる。正確には、ジャコウネコ科の動物で、ネコって名前がついてても、猫とはすごく離れた分類になる。

 

ちなみに、ジャコウネコのジャコウって言うのは、英語で言うところの「ムスク」のことで、香水の香りの種類のムスクのことだ。このジャコウネコとかジャコウジカとかのオスには、お尻の穴のとこに強い匂いを出す分泌腺があって、そこから出て来る液を加工して、香水の原料にしてるのだ。だから、ムスクの香りを漂わせたステキな男性がいたら、ネコやシカの肛門の匂いだと思って欲しい(笑)

 

そう言えば、しばらく前に、オランダのニュースで、スマトラ島のジャコウネコのウンチの中に、未消化のコーヒー豆が混ざってて、それを集めてコーヒーを煎れて飲んだら、ものすごく美味しかったことから、普通のコーヒー豆の何倍もの値段で取り引きされてるってのを見たけど、これも、きっと、ジャコウの効果なんだろう。

 

‥‥そんなワケで、ちょっと脱糞‥‥じゃなくて、脱線しちゃったけど、ジャコウネコ科のハクビシンは、夜行性で、果物や魚などを食べる雑食性だけど、稲は食べないから、棚田の周りをウロウロしてるのが、見廻りをしてくれてるみたいに見られたんだろう。ハクビシンは、近年になって、東南アジアや中国などから入って来たって言う説もあるけど、五十崎町の古い言い伝えになってることから考えれば、もともとニポンにもいたのかも知れない。

 

そんなハクビシンも、中国では、去年、新型肺炎SARSのウイルスを保菌してるって疑いをかけられて、3400匹ものハクビシンが処分されたのだ。同じジャコウネコ科の動物でも、ワシントン条約で保護されてるものもいれば、ウンチが高値で取り引きされるものもいれば、大量虐殺されるものもいる。まあ、中国のハクビシンは、もともとが食用に飼われてたものだから、遅かれ早かれ殺される運命だったんだけど。

 

それに比べて、五十崎町のハクビシンは、昔から農民たちに大切にされていて、今やお酒の名前にもなったのだ。これは、とても素晴らしいことで、是非とも、「鼻白き猫の話」を飲んでみたいものだ。でも、普通のお酒の何倍もの手間をかけて造られている「鼻白き猫の話」は、1升5250円もする。あたしの大好きな銀嶺立山でさえ、1升2200円、ふだん飲んでる紙パックのお酒なんか、2リットルで800円だ。だから、あたしにとって、「鼻白き猫の話」は、「鼻白き猫の神話」であり、「鼻白き猫の伝説」であり、永遠に飲むことのできない高嶺の鼻(笑)なのだ。だけど、このお酒、毎年、12月から5月までの期間限定なので、期間限定に弱いあたしの急所をズワイガニとタッグを組んで、ツンツンと突きまくって来る。

 

‥‥そんなワケで、なんで今日の日記に、「鼻白き猫の話」を取り上げたのかって言うと、実は、お仕事関係の偉い人から、1本もらえそうな感じなのだ。まだ、ハッキリとは分からないけど、ちょうど、その人が、お仕事で愛媛に行くことになって、「何かお土産で欲しいものある?」って聞かれたので、あたしはソッコーで、「鼻白き猫の話」ってリクエストしちゃった今日この頃、シッカリと亀岡酒造の住所と電話番号までファックスして、一日千秋の思いでワクワクしているのだ(笑)

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