タイガー&ドラゴン
TBSの「タイガー&ドラゴン」だけど、前回の「権助提灯」は、本妻のいる自分の家と妾の家とを行ったり来たりしてるうちに、夜が明けちゃうって言う落語の噺に、何か、ムリヤリ合わせたストーリーが鼻についた。特に、提灯の代わりがカーナビって設定に無理があった。同じ場所を行ったり来たりするだけだから、ホントならカーナビなんか必要ない。そこに必然性を出すために、夜中だって言うのに道路工事をしたり、挙句の果てには、「同じ道ばっかり走ってると飽きちゃうから、ワザと別の道を走ったら迷子になった」なんて言う設定は、あまりにも無理がありすぎた。
だけど、最初の「三枚起請」が良かっただけに、あとはどんどん尻スボミになって行くのかと思ったら、今回の「厩(うまや)火事」は、凝りに凝った作りで、なかなか楽しめた。古田新太と清水ミチ子って言うキャスティングも良かったけど、このドラマは、シナリオがすべてだから、やっぱり宮藤官九郎のテガラが9割だろう。
あたしの場合は、1回目の「芝浜」は見てなくて、2回目の「饅頭こわい」は見たけど、そんなに面白くなくて、3回目の「茶の湯」は見てなくて、4回目の「権助提灯」は見たけど、これもつまんなくて、5回目の「厩火事」が、やっと面白かった。だから、もしかしたら、あたしの見てない「芝浜」とか「茶の湯」とかは面白かったのかも知れないけど、こうなって来ると、残りの6回が、どんな落語の噺を持って来るのか、そして、現実の話とどんなふうに絡ませて行くのかってとこに、興味が集まる。次回の第6回は「明烏」だそうだから、何をやるのか分からないのは、実際には、あと5回だけど、たぶん、「時そば」や「じゅげむ」みたいな単純な噺はネタになりそうもないから、「目黒の秋刀魚」「死神」「質屋蔵」「天狗裁き」「猫の茶碗」「火焔太鼓」あたりのどれかは使いそうだし、これから夏場を迎えるから、1回くらい、「皿屋敷」や「四谷怪談」なんかの恐い噺もありそうだ。それから、最初の「三枚起請」のラストで、「品川心中じゃあるまいし」なんてセリフがあったから、もしかしたら、最終回は「品川心中」かも知れない‥‥なんて思う今日この頃、皆さん、長瀬智也と浜崎あゆみがダーツバーを貸し切りにしてデートしてたって知ってますか?(笑)
‥‥そんなワケで、宮藤官九郎って、そんなに大騒ぎするほど才能があるとも思えないし、逆に言えば、テレビドラマの世界にロクな脚本家がいなくなって‥‥って言うか、野島伸司とかが、ぜんぜん時代について来れなくて、いつまでも同じことの焼き直しばかりやってて、完全に世の中から見放されちゃったから、それで、サブカルチャー的な劇団関係の宮藤官九郎とかにスポットが当たったってワケで、テレビしか見てない人たちには、「池袋ウエストゲートパーク」だの「木更津キャッツアイ」だのが目新しく映ったんだと思うけど、ああ言うノリって、ひと昔前に、小劇団がやり尽くしちゃったことで、宮藤官九郎は、それをテレビの世界でリメイクしてるだけなんだよね。特に、中途半端な年齢層にしか理解されないような、70年代や80年代のアイドルネタを使ったくだらないギャグとか、シリアスな場面の真ん中に、雰囲気をドーンとひっくり返すようなアホなセリフまわしを折り込んだりって言うパターンは、まんま演劇ノリで、小劇団ブームの時に、下北沢の本多劇場とかで飽きるほどやってたことだ。
小劇団ブームってのは、ちょうど、今のお笑いブームと同じで、それまでは、一部のマニアだけの特別な世界だった演劇が、商売として成り立たせるために、とにかくミーハーなファンを増やす方向へと大きく方向転換して、チケットさえ買ってくれるなら何でもやりますよってノリになって、芸術から演芸へと堕ちて行った時代だ。演劇も、音楽も、テレビに出ないことをステイタスにしてた時代から、テレビへ出るため、メジャーになるために、前衛やアンダーグラウンドやインディーズをステップにするって言う時代になり、プライドやポリシーや志などミジンも無く、ワズカなギャラでホイホイとテレビに出るような商人だらけになってしまった。
最初のころは、お金のためにテレビに身売りして行くヤツラのことを蔑んで見ている者も多かったし、一緒に苦労して来た仲間の元を去って、テレビなんかに出ることは、すごくカッコ悪いって言う風潮があったから、テレビに出る道を選んだヤツラのほうが、負け犬ってイメージが強かった。それが、今では、「ロード・オブ・メジャー」なんて言う名前の田舎バンドが出て来ちゃうほど、インディーズは情けない世界になり、売れようが売れまいが、やりたい音楽をやるだけ、やりたい演劇をやるだけって言う、バンカラな骨太君たちは少なくなった。
それでも、自分たちのオリジナルで勝負して、それでメジャーを目指すって言うのなら、まだ理解できるけど、最近では、「HIGHWAY61」とか言う、どこの田舎バンドだか知らないけど、ニポン全国の人たちが知ってる中島みゆきの大ヒット曲をソックリそのまんまパクッて、ただ替え歌にしただけの曲を自分たちのオリジナルだと偽って、平然と歌ってるような恥知らずまで出て来た。そこまでしても売れたいのかね?‥‥って言うか、他人のモノを盗んで、平然としてられるなんて、あびる優と安倍なつみを合体させたようなクズ野郎どもだ。
たとえば、宮藤官九郎みたいに、きちんと出典を明らかにして、古典落語の「三枚起請」だの「厩火事」だのに沿ったストーリーだってことを明確にしていれば、これは、「盗作」じゃなくて、言うなれば、「サンプリング」とか「カヴァー」ってことになる。だから、HIGHWAY61の曲も、クレジットに「作曲、中島みゆき」って書いてあって、ちゃんと中島みゆきに印税を払ってれば、何も問題はないだろう。それを安倍なつみみたいに、涼しい顔をして自分たちが作った作品として堂々と発表しちゃうから、ソッコーでバレちゃうのだ。安倍なつみの時にも思ったけど、パクるなら、もうちょっと上手くやればいいものを最初から最後までソックリだったら、どんなバカでも気づくよ、まったく(笑)
‥‥そんなワケで、宮藤官九郎は、安倍なつみやHIGHWAY61のように、他人の著作を盗んでるワケじゃない。だからと言って、決して新しいものを作り出してるワケでもなく、ようするに、10年前と同じネタを別の媒体の別のお客さんに見せてるだけなのだ。つまり、自分では、とっくに賞味期限切れだと思ってた使い古しのネタなのに、それを高く買ってくれるって言うテレビ業界からお呼びが掛かったから、たぶん、本当にやりたいことは、ぜんぜん別のことなんだけど、とりあえず今は、テキトーな仕事をして、儲けられるだけお金を儲けとこうってとこだろう。
だから、「タイガー&ドラゴン」のセリフの軽さって言うか、上滑り具合を見てると、思いっきりヤッツケ仕事って感が否めない。まあ、主役の2人が、演技力ゼロのジャニタレで、脇役に助けられて何とか成り立ってるドラマだから、あんまり凝ったセリフなんか組んじゃうと、NG連発で収録が終わらなくなるだろうから、正解と言えば正解だけど(笑)
とは言え、あたしとしては、たとえ、堕落しちゃった時代の劇団ネタでも、タダでテレビで見られるなら、こんなに嬉しいことはないし、所詮、シロートに毛が生えた程度の脚本家が書いてるんだから、当たり外れがあるのは仕方ないと思う。だから、「つまんなくて当たり前、面白かったらラッキー」って程度の期待度で見てるし、わざわざ録画してまでは見ない。どうせ、TBSのことだから、2ヶ月もしないうちに、深夜にシツコイくらいに再放送するだろうし。
‥‥そんなワケで、あたしは、落語家だと、春風亭小朝が一番好きだ。あの似合わない髪の色だけは閉口しちゃうけど、カンジンの落語は、ホントにホレボレするくらい巧い。落語は、すぐに本編が始まるんじゃなくて、「枕」って言う世間話みたいなのをして、それから落語へと入って行くんだけど、小朝の場合は、この枕から本題へと入って行く境目が分からない。面白い世間話をし始めて、笑いながら聞いてると、知らないうちに落語が始まってるのだ。そして、古典落語にしても、教科書に忠実にビシッとやる噺もあれば、大幅に現代風に改造しちゃって、ほとんど新作落語みたいなのもある。それで、この現代風に改造しちゃった噺って言うのが、それこそ、「タイガー&ドラゴン」の世界みたいで、すごく面白い。
でも、小朝は、元歌手の泰葉と結婚したことによって、林家一門と強いキズナが出来ちゃった。泰葉は、海老名美どりの妹で、こぶ平(現、林家正蔵)の姉だから、その流れで、どうしようもないこぶ平が、義理の弟になっちゃったワケだ。だから、「六人の会」とかを作って、落語のヘタクソなこぶ平を仲間に入れてやって、色々とメンドウを見るハメになった。だけど、今さらどんなに努力したところで、もともと落語のセンスなんかないこぶ平だから、何をやらせても半人前で、ヘタしたら、そこらの大学の落研のメンバーのほうが上手かったりするほどだ。それでも、九代目の正蔵を継いじゃうんだから、もう、林家は終わりだね。
‥‥そんなワケで、「タイガー&ドラゴン」には、小朝と同門で、「六人の会」のメンバーでもある春風亭昇太が、「林屋亭どん吉」の役で出てるけど、これが、自分の役をこなすだけじゃなくて、長瀬智也や西田敏行などの出演者に対する、落語の指導もやらされてる。だから、ドラマの中での出演時間は短いけど、誰よりも長い時間、拘束されてて、本業の落語のほうができない状態になってる。毎年、5月には、新宿や池袋の寄席に、必ず出演していた昇太なのに、今年は、ドラマの撮影のために、大切な寄席を休んでいるのだ。こぶ平じゃあるまいし、仮にも噺家たる者が、寄席よりもテレビを優先するようになっちゃ、お金のためにテレビに身売りする劇団員たちと、あんまり変わらないような気がしちゃう今日この頃なのだ。
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