五月の風 中編
遊覧船を降り、宿のある仙石原へ向かって出発したあたしは、母さんと今の遊覧船からの景色のことを話しつつも、その目は、キョロキョロとコンビニを探していた。そう、もちろん、ビールを買うためだ。そして、あたしは、執念で、赤い「酒」マークのあるコンビニを見つけ、ダッシュで飛び込んだ。他の時は、運転用のペタンコ靴から、ちゃんとした靴に履き換える。今日の場合は、ピンヒールのミュールに履き換えてから車を降りるんだけど、この時は、運転用のペタンコ靴のまんまダッシュした(笑)
今日は特別な日なので、発泡酒じゃなくて、アサヒのスーパードライを買った。そして、宿までは、あと10分くらいの距離だったので、ホントは、車に戻って、すぐにプシュッと開けて、ゴクゴクと飲みながら運転してったんだけど、日記の上では、宿の駐車場に着いてから飲んだってことにしておこうと思う今日この頃だ(笑)
‥‥そんなワケで、2時ちょっと過ぎに宿に着いたんだけど、これが、写真で見たよりも、何倍も素晴らしい宿だった。とっても落ち着いた雰囲気で、母さんとのんびり過ごすには、ピッタリの感じだった。ウェルカムドリンクも、和風なタタズマイなのに、この日は暑かったから、冷たいハーブティーが出た。そして、手入れの行き届いたお庭を拝見しつつ、ハーブティーとお菓子をいただき、お部屋に案内された。お部屋が、また素晴らしくて、チョー和風なタタズマイなのに、ホテルタイプのお風呂までついてる最新式で、ヒツジの皮をかぶったオオカミって言うか、フェラーリのエンジンを積んだシビックって言うか、コンピューター制御された水車小屋って言うか、黒澤明が監督したアンパンマンって言うか、逆に言えば、関西弁を話すアイボみたいで、ホントに素晴らしかった(笑)
富士山を遠くにアイスハーブティー きっこ
母さんとあたしは、お部屋で30分ほど休んでから、さっそく温泉に入ることにした。チャチャッと浴衣に着替えて、まずは内湯へと向かった。これが、すごく良くて、何が良かったかと言うと、まず、母さんとあたし以外には誰もいなくて、広い湯舟が貸し切り状態だった。ガラスの向こうは、涼しげな竹林が、目隠しの役目をしてる。そして、何よりも嬉しいのは、あたしの大好きな登別カルルスと同じで、乳白色のお湯なのだ。それで、誰も来ないうちに早く入ろうってことで、ふたりでパッパと浴衣を脱いだ。
似たやうな母と娘の裸かな きっこ
仙石原には、温泉は湧いていない。それで、仙石原にある温泉宿は、どこも、大湧谷の温泉を引いて来ている。だから、浴場の泉質表示表を見ると、「大湧谷温泉」って書いてある。でも、この大湧谷温泉って言うのも、厳密に言うと、天然の温泉じゃない。箱根の湿原の地下水を汲み上げて、その水を大湧谷から噴き出す蒸気と混ぜて、それで温泉を作っているのだ。これは、「蒸気井泉(じょうきせいせん)」って呼ばれてる温泉製造方法で、すごく珍しいそうだ。乳白色のお湯は、成分的に言うと、カルシウムやマグネシウムを含んだ硫酸塩泉で、効能は、高血圧、動脈硬化、皮膚病、婦人病、リウマチ性疾患などって書いてあったけど、それよりも、あたしを惹きつけたのは、「美肌を作る美人の湯」って言う謳い文句だ。これじゃあ、まるで、あたしのために地下水を汲み上げて、あたしのために大湧谷から噴き出す蒸気と混ぜて、あたしのためにここまで引いて来てるようなもんだ(笑)
竹散るやあたしのための美人の湯 きっこ
あたしは、まだメークを落とすワケには行かないので、体の日焼け止めだけを洗い流してから、湯舟にドボンと飛び込んだ。ほんのりと硫黄の匂いがして、いかにも「温泉」って感じで、体をこすると、ベビーパウダーをつけてこすってるみたいな、スベスベでサラサラな感じがして、ホントに効き目がありそうだ。お湯の温度も熱過ぎなくて、手足を伸ばしてずっと浸かってられる。
初夏の湯舟へ四肢を伸ばしけり きっこ
‥‥そんなワケで、お風呂上りに少しお昼寝して、夕方から、宿の周りをお散歩した。晩ごはんに向けて、お腹を減らしておく作戦だ。宿の周りって言っても、この宿の敷地らしくて、ちゃんとお散歩コースみたいになってて、歩きやすいように、ちゃんと整備されてた。可愛らしいピンクのお花を見つけたら、母さんが、九輪草(くりんそう)だって教えてくれた。
母さんのあと着いてゆく九輪草 きっこ
楽しみにしてた晩ごはんは、一品ずつ運んで来てくれる懐石のコースで、味はもちろんのこと、器も盛り方も美しくて、溜め息が出るほどだった。食前酒は、自家製の梅酒が出て、グラスもステキで美味しかった。あたしは、先付けとか、箸洗いとか、そう言うのが分からないので、食べたものを覚えてる順に書くと、ごま豆腐、青梅の甘露煮、雲丹しんじょ、じゅんさい、冷製のカニの茶碗蒸し、マグロの中トロとカンパチと車海老のお刺身、イサキの塩焼きと焼きタケノコ、桜海老のかき揚げ、タケノコご飯‥‥あと、何だっけ?
青梅の甘露煮ころり母の箸 きっこ
あ、デザートにメロンが出たし、他にも、霜降りの牛肉を串に刺して焼いたのにワサビをつけて食べるのもあったし、湯葉とえんどう豆の寄せナントカってのもあったし、まだ何かあったはずだけど、思い出せない。とにかく、どれもこれも美味しくて、ゼイタクで、まるで、北大路魯山人か、「美味しんぼ」の海原雄山にでもなったみたいな気分だった。あたしは、途中から冷酒に変えたんだけど、お医者さまのOKが出てたので、母さんもビールを少し飲んだ。
幸せは母にビールを注ぎしこと きっこ
ふたりとも、苦しくて動けないくらいお腹がパンパンになって、少し休んでから、今度は、貸し切りの露天風呂に入った。これが、とにかく素晴らしくて、お湯はもちろんのこと、夜風も気持いいし、星もケッコー見えたし、身も心も満ち足りた。それに、今度はメークも落として、顔にもいっぱい「美人の湯」を吸収させたので、あたし的にも完璧だった(笑)
‥‥そんなワケで、まだ書ききれないので、明日の後編へと続く♪
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