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2005.06.01

浴衣・デ・モード

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昨日は、某ブランドの浴衣ショーのお仕事に行って来た。あたしは、ショーのお仕事が一番好きなんだけど、ショーって言ってもピンキリで、流行を発信するための本格的なコレクションショーを「ピン」とすれば、あたしに回って来るような、そこらのデパートや小売店のバイヤー相手の浴衣ショーなんてのは、限りなく「キリ」に近い世界だ。それでも、もちろん全力でやるけど、和装関係は、とにかくヘアを作るのが大変なので、完全に肉体労働の分野に入るお仕事だ。

ショーの場合は、他のお仕事と違って、あたしたち裏方の役割分担が、ちょっと違って来る。ヘアメークのあたしはほとんど変わらないんだけど、一番違って来るのが、スタイリストだ。テレビや雑誌のお仕事の場合は、スタイリストが、タレントさんやモデルさんに似合うお洋服を何パターンか用意して、その中から着るものを決め、それに合わせて、ヘアメークを作って行く。もちろん、カメラマン主導の撮影や、プロデューサー主導の撮影もあるし、スポンサー絡みで内容が変更する場合もあるから、一概には言えないけど、ものすごく簡単に言えば、スタイリストがお洋服を準備する係、あたしがそれに合わせてヘアメークを作る係ってワケだ。

だけど、コレクションショーの場合は、スタイリストがお洋服を準備する必要がない。デザイナーの新作を発表するためのショーなんだから、まず、「お洋服ありき」で、すべての準備が始まるからだ。キャスティングディレクターが、コレクションのデザインのイメージに合わせて、モデルを選ぶことからスタートし、ショーの構成も、BGMも、モデルに持たせる小物も、そして、もちろん、ヘアメークも、すべては主役である「お洋服」を引き立たせるために組み立てられて行く。だから、タレントが主役で、ファッションやヘアメークが脇役であるテレビや雑誌のグラビアとは、根本的に逆になる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、ショーの場合は、通常のスタイリストとは違う役割の「ショースタイリスト」が、デザイナーが作ったお洋服が引き立つような、靴や帽子、アクセサリーなどを用意する。つまり、通常のスタイリストは、お洋服を用意する係なんだけど、ショーのスタイリストは、用意されてるお洋服に合う、その他のものを用意する係ってワケだ。そして、フィッターが、モデルにお洋服を着せたり、小物を持たせたりする。たいていのショーでは、モデル1人にフィッター1人がつき、自分の担当したモデルだけを進行に沿って着替えさせ、ステージへと送り出して行く。

あたしはと言えば、ショーが始まる何時間か前から、担当しているモデル数名のヘアメークを作るのが基本的なお仕事で、ショーがスタートしたら、オロオロと‥‥じゃなくて、テキパキと、戻って来たモデルの着替えのあと、ヘアメークのお直しをする。

でも、これは、東京コレクションのような、ちゃんとしたショーの場合で、もっと小規模な場合は、フィッターの人数が足りなくて、6人のモデルを3人のフィッターで担当したりする場合もあるので、そう言う時は、あたしも手伝う。特に、今回みたいな浴衣ショーなどの和装の場合は、あたしは着付けもやるので、ショーが始まるまではヘアメーク、ショーが始まったらヘアメーク&フィッターってパターンも多い。

だけど、お着物の場合は、バイヤーやファッションジャーナリストを対象とした純粋なショーじゃなくて、DMなどで集めた一般のお客さんを対象に行なう、ショー形式の即売会とかもある。最近の着物ブームで、こう言った、ショー形式の展示即売会のお仕事も入って来るようになったんだけど、ちょっと前に、原価の10倍、20倍で、言葉巧みにお着物を売りつけると言う、ナニゲに詐欺に近い商売の片棒をかつがされそうにもなったので、今は気をつけるようになった。

‥‥そんなワケで、詐欺まがいの展示即売会の対極にある、本格的なファッションショーと言えば、ファッションに興味の無い人でも、たぶん名前だけは聞いたことのある「パリ・コレ」が、世界で一番有名だし、世界で一番権威がある。パリ・コレに代表されるデザイナーズ・コレクションのショーは、パリの他に、ミラノ、ロンドン、ニューヨーク、そして、東京が、世界五大コレクション・ショーと呼ばれている。だけど、ここ数年で、ロンドンの魅力は低下して来て、他の4ヶ所に一歩遅れを取ってる感じだ。そして、これらの、ちょっと下にあるのが、スペインのマドリードやバルセロナ、韓国のソウルなどのコレクション・ショーだ。

でも、それは、「権威」や「歴史」なんて言う、あんまり意味の無い部分での上下問題であって、最近のモードのイキオイから言えば、これはあくまでもあたしの主観だけど、スペインのコレクションショーは、完全にロンドンを超えたと思う。ノリとしては、ミラノに近い感じで、あたしの大好きなデザイナーデュオ、アイラントも、マドリードのショーを経て、ブランド設立からたった10年で、世界的なトップブランドの仲間入りを果たした。アイラントのデザインは、ポップだけど品があって、カラフルだけど大人っぽくて、特に、動いた時に現れるスカートのラインとかの表情は、たまらなく魅力的だし、何よりも新鮮だ。

それに比べて、ソウルのショーは、あまりにもお粗末だ。韓国人お得意のサルマネデザインやパクリコレクションのオンパレードだし、ショーを見に来てるのも、ダサいファッションに変なサングラスをかけた韓国スターばかりで、とても流行の最先端のコレクションショーとは言いがたい。それにしても、韓国スターって、どうしてみんな、「ヒロシです‥‥」みたいな、売れないホストみたいなファッションをしてるんだろう? ああ言うのって、カッコイイとかカッコ悪いとか言う以前の問題として、少なくとも、芸能人のファッションとしてアリエナイザーだと思うんだけど‥‥。もちろん、ファッションだけじゃなくて、ヘアスタイルも、ニポンの流行から見たら、韓国って、完全に20年くらい遅れてる。この前、お昼のちょっと前にTBSでやってる変な韓国ドラマをちょこっと見たら、主役の男のヘアスタイルが、あたしが子供のころに隣りの家のお兄さんがやってたような、見事なツーブロックだったので、あたしはブッ飛んだ(笑)

‥‥そんなワケで、ソウルのショーだけは、デザインはパクリだし、見に来てるヤツラはダサいから、ちょっと異様で特別だけど、それ以外の国のショーは、デザイナーそれぞれのセンスが光り、常に新しい流行を生み出している。これらのコレクションショーは、基本的に年2回、秋冬物と春夏物が行なわれる。たとえば、パリ・コレなら、毎年、1月と7月に、オートクチュールとメンズのショーがあり、3月と10月にレディースのプレタポルテのショーがある。このうち、もっとも注目されるのが、3月と10月のレディースのプレタポルテで、普通、「パリ・コレ」と言えば、このショーのことを指す。

世界のトップデザイナーから、人脈を使ったり、自力で努力したりして、下からノシ上がって来た新進デザイナーまで、毎日、10人前後のデザイナーのショーが、1週間以上も続き、期間中に、何百と言うショーが行なわれる。そして、世界中のバイヤーや、ファッション・ジャーナリストなどが、何千人も集まって来る。だから、モデルはもちろんのこと、スタイリストも、ヘアメークも、フィッターも、すべてトップクラスの顔ぶれが揃う。ちなみに、トップデザイナーのショーに出るトップモデルは、ワンステージで、あたしの年収を軽く超える(笑)

パリ・コレの場合は、ルーブル美術館の敷地内にある専門のショー会場で行なわれるけど、東京コレクションの場合は、1ヶ所の会場でまとめて開催するんじゃなくて、デザイナーごとに、別々の会場を使い、1ヶ月以上の日程で行なわれる。そして、他の国のショーとバッティングしないように、2月のニューヨークに始まり、ミラノ、パリ、東京と、きちんと日程が決まっている。

世界の先陣を切ってスターとするニューヨーク・コレクションは、アナ・スイ、カルバン・クライン、ジル・スチュアート、ダナ・キャラン、ディーゼル、マーク・ジェイコブス、ラルフ・ローレンなど、いかにもニューヨークって言う顔ぶれが揃ってて、欧州系のコレクションとは一線を画している。そして、あたしが一番好きなミラノ・コレクションは、アルベルタ・フェレッティ、アレッサンドロ・デラクア、アンナ・モリナーリ、エミリオ・プッチ、グッチ、ジャンニ・ヴェルサーチ、ジョルジオ・アルマーニ、ジル・サンダー、トラサルディ、ドルチェ・アンド・ガッバーナ、バーバリー、フェンディ、プラダ、マックスマーラ、ミュウミュウなど、安心できる定番ブランドの新作が楽しめる。

そして、ニューヨーク、ミラノに続いて開催される世界一のコレクションショー、パリ・コレと言えば、ザッと挙げても、イヴ・サンローラン、イッセイ・ミヤケ、ヴェロニク・ブランキーノ、エルメス、クリスチャン・ディオール、クリスチャン・ラクロワ、ケンゾー、コム・デ・ギャルソン、ジバンシィ、シャネル、ジャン・ポール・ゴルチエ、ジュンヤ・ワタナベ、ズッカ、セリーヌ、ハナエ・モリ、バレンチノ、ポール・アンド・ジョー、ヨウジ・ヤマモト、ルイ・ヴィトンなどなど、知らない人はいない世界的なトップブランドが目白押しで、押され過ぎて、目白どころか目黒まで行っちゃいそうなイキオイだ(笑)

だから、昨日の浴衣ショーは、こう言った本格的なコレクションショーとは雲泥の差があるけど、それでも、ちゃんとしたバイヤー相手のブランド浴衣のショーだったので、あたしとしては、すごく、赤貝‥‥じゃなくて、ミル貝‥‥じゃなくて、ヤリガイがあった。新しいデザインの浴衣だから、現代風なアレンジが必要で、ヘアメークも、リストだけを見ると、とても和装のショーとは思えないイメージだ。小物とかも、色々と考えられてて、たとえば履物は、普通は、浴衣には下駄や草履だろうけど、今回は、すべて和風テイストのトングやサンダルを合わせた。鼻緒がちりめんとかの和柄だから、前からパッと見た感じは草履っぽいんだけど、横や後ろから見ると、少しヒールがあるから、全体的にスラッとした感じに見える。つまり、本来の丸い体型を良しとした和装じゃなくて、キャシャでスラリとした現代的な和装スタイルってワケだ。

‥‥そんなワケで、きんちゃく袋の代わりに小型の藤のカゴを持たせたり、帯に洋風のコサージュをつけたりと、楽しいアレンジがいっぱいで、色々と勉強になったし、へアアレンジも、色々と遊ばせてもらえたので、すごく楽しかった。ただ、ひとつだけ問題だったのは、ベーシックな古典柄を基調として、そこに現代風な猫のデザインをアレンジした柄の浴衣があって、あたしの物欲に火がついちゃった。もちろん、買えるワケはないけど、せめて、和柄のトングが欲しいので、手持ちのトングの鼻緒の部分に、和風のハギレでも巻きつけてみようかと思う今日この頃なのだ(笑)

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