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2005.06.09

がんばれ!ゲンちゃん

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二本足で立つレッサーパンダの風太くんが、JTの缶コーヒーのCMに登場する。東京では8日から、その他の地域では9日からOAされるそうだ。この日記は、7日の日付だけど、書いてるのは8日の早朝なので、もしかしたら、OAを見られるかなって思いながら書いてるんだけど、今のところ、まだ見てない。JT側は、「背筋を伸ばして立つ風太は、ブラックコーヒーのさえ渡る気分を表現するのにピッタリだった」って、アトから取ってつけたような理由を言ってるけど、ただ単に、今ブームになってるから起用しただけだってことは、誰の目にも明らかだろう。

風太くんは、千葉市の動物園の「所有物」なので、一般的な動物タレントの出演料とは違って、千葉市の公園条例に基づいた計算方法で出演料が決まった。それが、なんと、たったの「28350円」なのだ。これは、某悪徳金融会社のCMに出てるチワワの出演料の20分の1以下の金額だ。これで、市などが運営する動物園の動物の出演料が破格の安さだってことが広まっちゃったから、これからは、風太くんに限らず、色んな動物に出演依頼が殺到しそうなイキオイだ。

それにしても、見た目は、レッサーパンダとほとんど変わらないアライグマは、生態系のことよりも、自民党の癒着企業のゴキゲンを取ることばかりに必死な、厚顔無恥なバカ女、小池百合子の独断で、「特定外来生物」のリストに加えられて、捕獲したら必ず殺さなきゃならなくなった。二本足で立つどころか、たとえ、逆立ちで歩くアライグマがいても、バクテンするアライグマがいても、ブレイクダンスを踊るアライグマがいても、すべて、殺さなきゃならなくなった今日この頃、皆さん、「自然保護のために動物を殺す」って矛盾してると思いませんか?


‥‥そんなワケで、ちょっと前に、「風太くんフィーバー」が巻き起こった時に、「うちのレッサーパンダのほうが昔から立ってる」「うちのレッサーパンダは立つだけじゃなくて二本足で歩く」など、あちこちの動物園が名乗りを上げた。中には、このブームに乗っかろうとして、自分のとこの、もともと立たなかったレッサーパンダに、二本足で立たせる訓練を始めたなんて言う、呆れ返る動物園まで現れた。

そんなバカらしいブームに対して、北海道の「旭山動物園」の副園長のゲンちゃん(坂東元)が、5月27日、公式ホームページ上で、「レッサーパンダを見せ物にしないでね」と言うタイトルの緊急コメントを発表した。以下が、そのコメントだ。


最近レッサーパンダの見るに耐えないニュースが氾濫しています。どこのレッサーが何秒立った!レッサー様々入園者が増えた!名前を登録商標!昔のエリマキトカゲのブームを思い出してしまいました。いや,エリマキトカゲの方がまだましだったかもしれません。あれは良くも悪くも野生下でも見られる特徴的な行動だったから。
野生のレッサーパンダが普遍的に何十秒も直立する、あるいは立って歩く習性があって、これまで飼育下ではその行動を引き出してあげられていなかったのであれば「凄い!」ことです。しかし、よく考えてみて下さい。そうではないですよね。あの取り上げかたは「芸」です。「見せ物」です。というかレッサーパンダは解剖学的にも2本足で立つことは当たり前にできます。むしろ立つことができない個体がいるとしたらその方が問題です。「芸」以下ですね。レッサーパンダは外を覗きたい、エサをもらえるかもと立ち上がっているだけで、その行為だけを抜き取って「凄いこと」として取り上げています。「ここのレッサーパンダ立たないんだって。つまんない」これがレッサーパンダブームが招いたレッサーパンダの見方です。
このような言い方は失礼かもしれませんが、一般の方やマスコミの方は素人です。私たちプロの側が、素人に短絡的に「受けること」を続けていていいのでしょうか?来年の今日、どれくらいの人がこのブームを覚えているでしょうか?レッサーパンダを「見せ物」にしないで下さい。関係者の方お願いします。


以上が、ゲンちゃんの公式コメントだ。このコメントを読んで、「動物園て、もともと動物を見せ物にしてる場所なのに、この人、何言ってんの?」って思った人もいるだろう。確かに、上野のパンダやコアラなどは完全に見せ物だし、集客力をアップさせるためのものを「客寄せパンダ」なんて呼ぶようになっちゃったほど、「動物園の珍しい動物」イコール「見せ物」ってイメージは強い。見に行くあたしたちだって、珍しい動物を見たいから、わざわざ動物園に行くのであって、野良猫や野良犬やニワトリやカラスしかいないような動物園だったら、誰も行かないだろう。

実際、ニポン中のほとんどの動物園が、動物の保護や繁殖などに力を注ぎつつも、商売として成り立たせるために、目玉となる集客力のある動物を導入したり、色んな企画を考えたりして、必死で運営している。それらの企画の中には、動物愛護や自然保護の立場からは、批判されてしかるべきものも当然ふくまれている。

だけど、これは、仕方ないことなのだ。現在、ニポンには、規模の小さいものもふくめると、100以上の動物園がある。これは、国の面積に対する割合から見ると、世界のトップクラスで、ニポンって、いい意味でも悪い意味でも、動物園大国なのだ。そして、そのほとんどが、入場者数の減少によって、閉鎖の危機を迎えているのだ。

たとえば、大人のライオンは、1日に10キロ前後の馬肉を食べる。そして、馬肉だけだとバランスが悪いので、その他にも、ブタの骨などを与える。平均すると、1ヶ月のエサ代は、約15万円だ。これが1頭ぶんだから、ライオンが2頭なら30万円、4頭なら60万円って増えて行くワケだけど、これは、あくまでも、エサ代であって、この他にも、病気になれば薬代もかかるし、小屋や檻の補修や、施設の維持など、様々なお金が掛かる。あんまりエサ代が掛かりそうに見えないペンギンだって、毎日1キロ近い冷凍アジを食べるので、10羽飼育するためには、1ヶ月に20万円近いエサ代が掛かる。ゾウやキリンなどの草食動物にしたって、毎日、何10キロもの草を食べるワケだから、ものすごい金額になる。

だから、大規模な動物園になると、毎日、エサ代だけで何百万円も飛んで行くワケで、600円だの800円だのの入場料から考えると、最低でも、毎日、1万人以上は来てくれないと、完全に赤字になる。だから、集客能力のある動物を導入したり、色んな企画をして、少しでも来客数を増やそうとするのは当然のことなのだ。最近では、経営難から、「動物サポーター制度」を導入して、有志から募ったカンパによって、施設の改装などをする動物園も現れて来たほどだ。

‥‥そんなワケで、北海道の「旭山動物園」も、他の動物園と同じように、入場者数の減少から、閉鎖の危機に追い込まれた。だけど、他の動物園が、集客能力のある動物を導入したり、動物に芸をやらせたりして、必死に来客数を増やそうとしたのとは違って、旭山動物園のゲンちゃんは、他とは正反対のことをしたのだ。

「珍しい動物でお客を呼ぶ」とか、「動物に芸をやらせてお客を呼ぶ」とかって言うのは、ただの見せ物であって、本来の動物の生活とはかけ離れてるものだし、何よりも、人間に動物を見せることだけを最優先に考えてて、動物たちの気持ちを何も考えてないってことに気づいたゲンちゃんは、それまでの「人間に動物を見せるための施設」から、「動物たちが自然に楽しく暮らせる施設」への改革へと乗り出した。そして、ただの狭い檻だったオランウータン舎は、広くて自由に空中散歩のできるスペースへと生まれ変わり、ただのプールだったアザラシ舎は、漁港をイメージした外観にして、小型の漁舟まで浮かべ、少しでも野生の状況に近づけるために、ウミネコやハヤも飼育するようになった。他にも、ホッキョクグマ舎やペンギン舎など、順番に作り直して行き、すべての動物たちが、より自然に近い形で生活ができるようにしたのだ。

ゲンちゃんの熱意と努力によって、ストレスから開放された動物たちは、それまでの何倍もイキイキと動き回るようになり、入場者のほうも、自然に近い動物たちの生活が見られるようになったので、どんどん増えて来た。そして、珍しい動物を導入したワケでもなく、動物に芸をやらせたワケでもないのに、一時は、年間26万人にまで落ち込んでいた入場者数が、2003年には3倍以上の82万人にまで増え、現在では、なんと、1ヶ月で20万人を軽く越えるようになった。去年の7月と8月は、2ヶ月連続で上野動物園の入場者数を上回り、名実ともに、ニポンイチ人気のある動物園になった。そして、今年の4月には、動物園としては初めて、「スポニチ文化芸術賞」まで受賞してしまったのだ。

特別、珍しい動物がいるワケでもない動物園が、施設の改装だけでここまで成功したと言うのは、他に例がない。つまり、「施設の改装だけ」って言っても、そこには、入場料を支払う人間たちのことよりも、そこで生活する動物たちのことを優先すると言う、根本的な意識改革があったからこそ、成功したのだ。

この、ゲンちゃんの方法論は、一見、逆転の発想みたいに思えるけど、良く考えてみたら、動物を飼育、展示する施設にとって、何よりも一番大切なことであって、今までの動物園のほうが、本来の方向性を見失っていたと言えるだろう。そして、最近では、この旭山動物園の成功を見て、全国の動物園が、少しずつ、同じような方法を取り始めて来たのだ。

ここまで、あたしの書いて来たことを読んでもらったら、初めに挙げたゲンちゃんのコメント、「レッサーパンダを見せ物にしないでね」の内容にも、納得できたと思う。あのコメントは、これだけのことをやって来た人だからこそ言えることであって、「動物園の役割は、動物の生き生きとした姿の素晴らしさを伝えること。立たないレッサーパンダには価値がないのか、と言いたくなる。」って言うゲンちゃんの言葉も、ブームに対する無責任な批判などではなく、確固たる信念に基づいた言葉だってことが分かる。

だけど、世の中には、自分は何もしてないクセに、人のアゲアシを取ったり、文句を言うことを生き甲斐にしてるヒマジンが多い。ゲンちゃんのコメントに対しても、応援や支持をするメッセージだけじゃなく、「所詮、見せ物の動物園のくせに、レッサーパンダを見せ物にするなとは、言っていることが矛盾している」など、トンチンカンな批判の意見も、数多く寄せられた。ようするに、ゲンちゃんが今までやって来たことや、今の旭山動物園の運営方針などを何も調べずに、ただ、あのコメントだけを読み、単細胞な批判をしてるだけのバカどもだ。

そして、ゲンちゃんは、そう言った批判のメッセージに対して、6月7日付けで、「行き過ぎた表現をお詫びします」と言うコメントを発表した。そこには、前出のコメントだけしか読んでいないバカどもの、言葉尻を取ったり、アゲアシを取ったりした低レベルな批判に対して、きちんと謝罪した上で、動物に対する自分の思いや考えを述べている。すべてを引くと長過ぎるので、全文を読みたい人は、旭山動物園のホームページへ行ってもらうとして、ここでは、あたしが一番感動した部分だけを引いておくことにする。


(前略)さて、家で飼っているネコがソファーで寝ているのを見て気持ちが和むのに、多くの人は、動物園でライオンが寝ていると、なぜ「つまらない」と思うのでしょう?ライオンはもう見飽きたからなのでしょうか?飼っているネコを見飽きることはないと思います。それはきっと成長の過程を見続けていて、命として感じているからではないでしょうか。動物園の動物も命を持っています。命として伝えられれば、命が流行ったり飽きられたりするはずはないと思います。私たちは、いいところだけをつまみ食いするのではなく、においや気配など全てをありのままに伝えていきたいと考えています。
芝刈りをしている時、驚くほどたくさんの種類の虫やカエルが出てくると、「どこか少し刈り残しておこう」と思う人がいます。アリの巣がたくさん見つかると、「ひとつくらいは駆除せずに残しておいてあげよう」と思う人がいます。私たちは、来園された方々の心にそんな気持ちが芽生えたり、育ってくれることを願っています。それが私たちが目指す動物園ですので、これからも試行錯誤を続けて少しでも理想に近づいていきたいと思います。環境保護、野生動物の保護、地球温暖化問題、それらは、頭の中の理解からはどこか他人事で、一人一人の行動には結びつきにくいと思います。問題解決に向けて心が動くこと、何事もここから始まるのではないでしょうか。現実には、自然を破壊することも守ることも、そこに価値があるのかないのかさえ人間が決めてしまっています。そこにどんなすばらしい命が存在していて、それらがとても尊く愛おしいものであるかをどこかで伝え続けなければならないと思います。それが動物園の大きな役割なのだと信じています。動物園は「見せ物」ではないはずです。(後略)


‥‥そんなワケで、あたしは、ゲンちゃんを応援するし、これからも、ゲンちゃんの活躍に期待して行きたいと思う。ただ、ひとつだけ、どうしても分からなかったのは、何で「旭川」にあるのに、「旭川動物園」じゃなくて、「旭山動物園」なんだろう?‥‥なんて疑問に思う今日この頃なのだ(笑)

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