茶碗蒸しな日々
東京は、今日、梅雨入りした。今年は、南から順に梅雨入りするんじゃなくて、九州よりも先に関東地方が梅雨入りするって言う、変則的なパターンみたいだ。東京は、ここ1週間くらい、だんだん湿度が高くなって来て、梅雨入り前の数日、急に蒸し暑くなったり、気温が下がってもジメジメしたりで、あたしは、もともと無かった食欲が、さらに無くなった。あたしは、バリケードな人間‥‥じゃなくて、コルゲートな人間‥‥じゃなくて、デリケートな人間なので、湿度が低くなるとお肌のコンディションが悪くなるし、湿度が高くなると食欲が無くなるのだ。
だから、ここ3日くらい、何も食べられなくて、毎日、アイスコーヒーとガリガリ君だけで暮らして来たんだけど、このままじゃヤバイ。それで、この湿度の高い中でも食べられそうなものを考えることにした。湿度が高くても食べられるもの、蒸し蒸ししてても食べられるもの、蒸し蒸し‥‥蒸し蒸し‥‥蒸し蒸し‥‥茶碗蒸しだぁ〜!ってことで、あたしは、目には目を 歯には歯を 蒸し蒸しには蒸し蒸しを‥‥って結論に達して、茶碗蒸しを作ることにした。だけど、蒸し蒸ししてるのに、熱い茶碗蒸しなんか食べる気がしないから、この前の、母さんとの箱根旅行で食べた、冷製の茶碗蒸しを作ることにした‥‥って言っても、普通の茶碗蒸しを作ってから、冷蔵庫で冷やすだけだけど(笑)
さて、ここまでで、何回、「蒸」って字が出て来たでしょう?‥‥なんて言いつつ、今回は、たった2分で出来ちゃう茶碗蒸しの作り方を紹介しようと思うんだけど、たった2分でできちゃうだけあって、茶碗蒸しの作り方だけを書くと、すぐに終わっちゃう。それで、長さがトリエの「きっこの日記」としては、関係ありそうに見えて、実は大した意味もないようなことを書いて、短い話を長―――く伸ばそうと思う今日この頃、皆さん、茶碗蒸しはお好きですか?(笑)
‥‥そんなワケで、あたしの尊敬する芸術家、赤瀬川原平が、色んな食べ物について書いている「明解ぱくぱく辞典」で、茶碗蒸しの項を引いてみると、「古池や蛙飛び込む茶碗蒸し、という句を詠んだのは、状況劇場に出ていたころの四谷シモンであったが、茶碗蒸しは温かいうちに食べるのが原則。」と、一見、冷製の茶碗蒸しを否定しているように書かれている。でも、この文章をちゃんと読めば、これは、あくまでも、温かい茶碗蒸しについてのことであることが分かる。これは、「温かい茶碗蒸しは冷めないうちに食べろ」って意味であって、カエルが飛び込んでも大丈夫なほどに冷めてしまった茶碗蒸しは、古池、つまり、まだ春の訪れていない池のようなものである、と言っているのだ。だから、涼しさを楽しむために作られた冷製の茶碗蒸しに当てはめて考えてみれば、冷蔵庫から出してから時間をおかずに、良く冷えてるうちに食べろってことになる。
赤瀬川原平は、「茶碗蒸しの前奏曲はまずセトモノの触れ合う音だ。硬質で、しかもふっくらと内にこもった音をカチャカチャと響かせながら運ばれてくる。蓋をコチャリを取ると、中には半透明の、微温の水面が待ち構えている。水面といっても半ば固まっていて、匙ですくうとプルンと揺れる。」と、芸術家らしく、聴覚や視覚から、茶碗蒸しの世界を解説している。「硬質で、しかもふっくらと内にこもった音」と言うのは、中身の入った茶碗蒸しの音であって、空の容器だったら、内にこもった音はしない。こう言った音の違いを聞き分けて、それを「茶碗蒸しの前奏曲」として捉えるのは、豊かな感性のなせるワザだろう。
そして、その茶碗蒸しを食べるためのスプーンについては、「茶碗は立派でも、紅茶用の金属のスプーンが添えてあったりすると、やや興ざめする。といってごろりと口の厚い陶製の匙は何となく食べにくい。食べやすいのはむしろ金属スプーン。」と、食べやすさを追求すれば芸術性から遠ざかる、芸術性を重んじれば食べにくくなる、と言う茶碗蒸しの欠点を突き、「茶碗蒸しはまだ完成されていない世界だと思う。」と結んでいる。
赤瀬川原平の言う通り、紅茶用のスプーンは紅茶のためのモノであり、それで茶碗蒸しを食べろと言われると、間に合わせ的な感じがして、そのお店や料理人が、茶碗蒸し自体を低く見ているような気持ちがして来る。でも、これは、高級な料亭とかの、それなりのレベルの茶碗蒸しに対しての見解だろう。茶碗蒸しの器が、何千円もするような立派なモノで、中身も、高級なタマゴやちゃんと取ったダシに、マツタケだのカニだのが入ってて、それなのに、添えてあるスプーンが紅茶用だったら、ガクッとしちゃうと思う。
だけど、自宅で作って食べる時は、スプーンなんかまったく関係ない。あたしの場合は、もともと茶碗蒸し用の器を持って無いから、普通の湯呑みとか、マグカップとかで、茶碗蒸しを作る。マグカップで作れば、ティースプーンが添えてあっても、何の違和感もない。
ちなみに、この「マグカップ」って言うのは、間違った和製英語だ。もともと、「マグ」って言うのが、「持ち手のついた大型のカップ」って言う意味なので、その「マグ」に「カップ」を付けちゃうと、「持ち手のついた大型のカップのカップ」ってことになり、「馬に乗馬する」みたいになっちゃう。だから、ニポン人同士で話してる時はいいけど、英語圏の人と話す時は、「mugcup」なんて言うと笑われちゃうので、ちゃんと、「mug」って言ってちゃぶだい。
なんて豆知識もはさみつつ、マグカップで茶碗蒸しを作るようなあたしが言えることでもないんだけど、スプーンがどうこう言う以前に、もっと根本的な疑問がある。それは、茶碗蒸しの器についての疑問だ。茶碗蒸しってのは、その名の通り、お茶碗に入れて蒸すから茶碗蒸しなワケで、土瓶に入れて蒸したら土瓶蒸しだ。つまり、容器が変われば呼び名が変わるワケで、あたしがマグカップで作るモノは、茶碗蒸しじゃなくて、マグカップ蒸しってことになる。
でも、そう考えると、お店とかで食べる茶碗蒸しって、お茶碗じゃなくて、フタのついた茶碗蒸し用の容器で出て来る。アレって、どう考えても、お茶碗じゃない。お茶碗で蒸したら茶碗蒸し、土瓶で蒸したら土瓶蒸しって理論に当てはめて考えれば、茶碗蒸し用の容器で蒸したモノは、正式には、「茶碗蒸し用の容器蒸し」って呼ばなくちゃならない。
その前に、お茶碗てモノの定義だけど、お茶碗には、ごはんを食べる時のお茶碗と、茶道で使うお茶碗がある。そして、ふだんお茶を飲むモノのことは、お茶碗とは呼ばずに、湯呑みって呼ぶ。
あ〜〜〜〜混乱する!
ごはんを食べるモノがお茶碗で、お茶を飲むモノが湯呑みだなんて、本来の目的と名称とがぜんぜん一致してないじゃん!名称と使用目的とを一致させるのなら、ごはんを食べてるお茶碗でお茶を飲まなきゃならないワケだし、湯呑みは、お茶じゃなくて、お湯しか飲んじゃいけないワケだ。
さらに、湯呑みの正式名称は、湯呑み茶碗だ。つまり、お湯を飲むための茶碗、てことになる。これが、最大の問題なのだ。本来、お茶を飲むためのモノなのに、何で、「お湯を飲むための茶碗」て呼ばなくちゃならないのか。湯呑みは、本来の目的に合わせて呼べば、ただの「茶碗」でいいワケだし、他のモノとの混乱を避けるために、あえて形容をつけて呼ぶんなら、「湯呑み茶碗」じゃなくて、「茶呑み茶碗」て呼ぶべきだろう。だけど、「茶呑み茶碗」じゃ、「持ち手のついた大型のカップのカップ」と同じで、言語の成り立ちそのものをも否定しかねない愚かな形容としか言えなくなる。
だから、あたしが作るのは、言語学的に言うと、「マグ蒸し」ってことになる。だけど、「マグムシ」って、何だか気持ち悪いヘンテコな虫みたいだから、やっぱり、「茶碗蒸し」って呼ぶことにする。つまり、ここまで長々と書いて来たことは、すべて日記を長くするためのゴタクってワケで、ぜんぶ蒸し‥‥じゃなくて、ぜんぶ無視しちゃうってことだ(笑)
‥‥そんなワケで、あたしの作る茶碗蒸しは、あっと言う間にできる上に、材料も、タマゴが1個と、永谷園の「松茸の味お吸いもの」が1袋、これだけだ。もちろん、2個作る場合は、この倍を用意する。簡単に言えば、お吸いもののモトを150ccのお湯で溶かして、溶きタマゴと混ぜて、電子レンジで2分。これだけで、高級料亭にも負けない茶碗蒸しができる。でも、上手に作るためには、色々と細かいポイントがあるので、一応、説明しておく。
まず、スピードアップと光熱費を節約するために、150ccのお水をすべて沸かすんじゃなくて、その半分くらいを沸かす。マグカップにお水を入れて、電子レンジで温めてもいいし、ガスで沸かしてもいいんだけど、とにかく、お吸いもののモトを溶かすことが目的だから、完全に沸騰しなくてもいい。そして、お椀か何かの中に、お吸いもののモトを1袋入れて、そのお湯で溶かして、残りのお水を入れる。ようするに、ぜんぶで150ccになればいいワケだし、ある程度は冷めないとタマゴを混ぜられないから、こうしたほうが、光熱費も半分で済むし、冷めるのも早いのだ。
それから、タマゴ1個は、別のお椀とかで溶きタマゴにするんだけど、できるだけ泡立てないように、お箸で切るようにして溶いて行く。泡立てちゃうと、滑らかな茶碗蒸しにならないので、ゆっくりと、細かく、お箸の先をタマゴから離さないように、ていねいに混ぜて行く。白身のカタマリが無くなって、全体が均一に黄色になったらOKだ。ホントは、ここで一度、細かいアミで漉すと、さらに滑らかになるんだけど、めんどくさいし、洗い物が増えるから、あたしはこのままだ。それで、冷めたお吸いものとタマゴを混ぜるんだけど、ここでも、できるだけ泡立たせないように、静かに、しっかりと混ぜて行く。そして、マグカップや湯呑みなど、電子レンジで加熱しても大丈夫な容器に、静かに流し込む。
そして、ここが重要なポイントなんだけど、真ん中に穴を開けたアルミ箔でフタをする。穴は、容器の直径の半分くらいの大きな穴を開ける。たとえば、直径が8センチくらいの湯呑みだったら、直径が4センチくらいの丸い穴を開けたアルミ箔をかぶせる。これは、電子レンジの電磁波が、その穴から入って、中で乱反射みたいになって、「蒸す」のと同じ効果を出すためだ。だから、最初から茶碗蒸しが作れる機能のついてる高級な電子レンジの人は、こんなことしなくていいんだけど、世の中の多くの人たちは、たぶん、あたしと同じに普通の電子レンジだと思うから、この「魔法のフタ」が必要になる。
これで、強弱の切り替えがついてるレンジなら、弱で2分30秒から3分くらい、切り替えのないレンジなら、1分45秒から2分くらいで、驚くほど美味しい本格的な茶碗蒸しが出来上がる。気をつけるのは、1個の時はいいんだけど、複数の茶碗蒸しを作る時は、アルミ箔のフタが隣りのフタと触れちゃうと、ビューティホーな火花が散って、最悪の場合は、電子レンジが爆発しちゃうかも知れないから、なるべく離して並べるように(笑)
あ、それから、複数作る時には、それなりに時間を長くしたり、それなりに途中で容器の位置を変えたりするから、とにかく、レンジを覗きながら、様子を見つつ、作って欲しい。でも、初めてチャレンジする時は、まずは1個だけで試してみたほうが、間違いないと思う。
それから、永谷園の「松茸の味お吸いもの」には、輪の形のお麩とか、ネギとかの具が入ってるので、それだけでも十分に美味しいんだけど、他の具も入れる場合は、カマボコとかはそのまま入れればいいんだけど、ニンジンやシイタケの場合は、生のまま入れないで、一度、茹でてから入れないと、硬くて歯ざわりが悪い。三つ葉を入れる場合は、出来上がってから上に乗せる。
‥‥そんなワケで、たった2分で出来た茶碗蒸しだけど、あたしは、冷製の茶碗蒸しが食べたかったので、それから2時間以上も冷蔵庫に入れておいた。だから、食べるまでに、すごく長い時間が掛かったんだけど、お風呂上りに、良く冷えた茶碗蒸しにチョコンとワサビを乗せて食べたら、すごく美味しくて、体中にパワーがみなぎった。永谷園の「松茸の味お吸いもの」は、4袋入りで100円ちょっとで買えるので、皆さんも、一度お試しください‥‥なんて、茶碗蒸しパワーのおかげで、久しぶりにキレイにまとめちゃった今日この頃なのだ(笑)
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