言論のボーダー
「少年マガジン」で連載してる野中英次のマンガ、「魁!クロマティ高校」が映画化されたことに対して、元巨人軍のクロマティが、「自分の名前を無断で不良高校の名前にされ、イメージを傷つけられた」として、映画の配給差し止めの訴えを起こしたのが、先月の月末だった。だけど、そのあとも、この映画に出演してる板尾創路とかが、「笑っていいとも!」のテレフォンショッキングなどで、ガンガンと映画の宣伝をしてた。あたしが見ただけでも、3〜4本のバラエティーで宣伝をしてて、中には、訴えを起こされる前に収録した番組もあるとは思うけど、「笑っていいとも!」はナマだし、たとえ録画番組でも、ホントにマズイことなら、放送前に編集するだろう。つまり、映画関係者も、テレビ関係者も、みんな、クロマティの訴えなんか、絶対に通らないって確信してるってことだ。
だいたい、突然、映画ができたワケじゃなくて、最初に少年マガジンでマンガの連載が始まり、それで人気が出て来たので、次にはテレビ東京でアニメになって、つい、この前まで放送してた。あたしは、少年マガジンの原作は読んだことがないけど、テレビ東京の深夜アニメでこのマンガを知り、時々見てた。だから、クロマティが訴えるなら、原作者の野中英次や、原作を連載してる講談社を訴えるのがスジで、映画の配給停止を求めるのなら、マンガの連載停止も同時に求めないと、スジが通らない。
だけど、現役の選手ならともかく、15年も前に現役を引退してるんだし、引退後もずっとニポンでタレント活動か何かしてたのなら別だけど、ニポンで稼ぐだけ稼いで、あとはトットとアメリカに帰っちゃったんだから、クロマティなんて名前、知らない人のほうが多いと思う。あたしは、子供のころからジャイアンツファンだったから、クロマティが泣きそうな顔してバットを振ってる試合も見てたし、愛称が「クロウ」だったってことも覚えてるけど、ジャイアンツファンじゃない一般の人は、ほとんど覚えてないと思う今日この頃、皆さん、クロマティを覚えてますか?(笑)
‥‥そんなワケで、たとえ、クロマティのことを知ってた人でも、ここ10年くらいは、頭の片隅に名前が浮かんで来たこともなく、最近になって、マンガやアニメなどで、「魁!クロマティ高校」を知り、それで初めて、「ああ、そう言えば、そんな選手がいたな〜」って思い出したと思う。少なくとも、あたしはそうだった。
まあ、クロマティが腹を立てるのもの分からないことはないけど、それにしたって、「映画の配給の差し止め」は無理だろう。他に考えられるのは、「著作権の侵害」とか「名誉毀損」あたりだけど、「クロマティ」ってのは名字だから、ニポンで言えば「山田」や「田中」と同じで、著作権登録はできないし、クロマティは申請もしてないと思う。それに、クロマティ本人の名誉を直接に傷つけてるワケでもないから、名誉毀損としての立証も不可能だ。つまり、クロマティ側にできることは、マンガや映画などのタイトルの下に、「この作品は、元巨人軍のウォーレン・クロマティ選手とは、一切関係がありません。」って言う一文を挿入させることくらいしか、現実的にはできないだろう。だけど、当のクロマティは、先日のインタビューで、こんなトンチンカンなことを言っている。
「私は日本で7年間も、日本人チームの一員として、一生懸命に仕事をした。その私の努力によって、私は、日本中から、『良い人』と認識されるようになった。そして、今では、私の『クロマティ』と言う名前は、日本では『伝説』になっているのだ。その『伝説』を汚すようなことは、私は絶対に許さない。」
あの〜どなたか、「クロマティの伝説」って聞いたことある人、いますか?(笑)
とにかく、このインタビューで、「LEGEND」って単語を連発してたクロマティだけど、だいたい、クロマティが訴えるんなら、このマンガには、他にも、バース学園とかデストラーデ工業高校とか、すごい不良がいっぱいいる悪い学校が出て来るんだから、バースやデストラーデのほうが、先に訴えるべきだと思う。だけど、明らかにクロマティよりも有名なバースやデストラーデが、現時点で、何もアクションを起こしてないって現実が、クロマティにとっては、すごく不利なことなのだ。無断で名前を使用された3人全員が訴えを起こした場合と、3人のうちの1人だけが訴えを起こした場合では、東京地裁の判断も大きく変わって来るからだ。
‥‥そんなワケで、今回のクロマティの訴えで、あたしが思い出したのは、荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」だ。このマンガには、敵も味方もふくめて、ほとんどの登場人物の名前が、海外のミュージシャンやバンドの名前を使っている。「レッドツェッペリン」を「ツェペリ」、「ワム」を「ワムウ」、「ペットショップボーイズ」を「ペットショップ」、「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」を「レッド・ホット・チリ・ペッパー」と言うように、元ネタが分かるようにしつつも、ちょっとでも変化させて使ってるぶんには何も問題は無いだろうけど、「カーズ」「ンドゥール」「バッドカンパニー」「エアロスミス」「キング・クリムゾン」みたいに、そのまんまの名前が数え切れないほど出て来る。これらは、登場人物だけじゃなくて、能力の名前だったり、場合によっては武器の名前だったりと、とにかく、固有名詞のほとんどが、ミュージシャンやバンドの名前なのだ。中には、「キラー・クイーン」など、有名な曲のタイトルをつけてるものも出て来る。
これは、作者の荒木飛呂彦が、もともとはロックミュージシャンに憧れて上京して来て、でも、うまく行かなくて、それでマンガ家に転身したって言う過去があるので、マンガの世界で、自分の好きなミュージシャンやバンドの名前を使ってるんだと思う。そして、あたしが、「ジョジョの奇妙な冒険」を大好きな理由のひとつは、こう言うふうに、たくさんのミュージシャンの名前が出て来るとこなのだ。
だけど、作者の荒木飛呂彦が、こう言った海外のミュージシャンやバンドにイチイチ連絡を取って、名前の使用許可を打診してるとは思えない。それに、著作権にうるさい海外アーティストたちが、そう簡単に自分の名前の使用を認めるとも思えない。だから、これは、あくまでもあたしの推測だけど、たぶん、荒木飛呂彦は、無断使用してるんだと思う。そして、正義の味方の名前に無断使用されたのなら、本人もそれほど悪い気はしないと思うけど、何人もの市民を惨殺した悪者の親玉の名前に無断使用されてたら、いい気持ちはしないだろう。その上、ミュージシャン名やバンド名、曲のタイトルなどは、「クロマティ」や「バース」のような一般的な名前と違って、その固有名詞自体に、大きな権利が発生してる場合が多い。つまり、今回のクロマティの訴えが通ってしまったら、荒木飛呂彦は大変なことになるってワケだ。なんせ、クロマティの場合は、「不良高校」って言う人格を持たないものに名前を使われただけだけど、荒木飛呂彦の場合は、残酷な殺人鬼の名前に、現存するミュージシャン名やバンド名を使ってるんだから、遥かに問題性が高くなる。
ここで、カン違いしないで欲しいのは、あたしは、決して、荒木飛呂彦を責めてるワケじゃなくて、クロマティの訴えが、どれほどトンチンカンなのかってことを言うために、ひとつの例として、「ジョジョの奇妙な冒険」を出してるってことだ。つまり、有名人になれば、一般人と違って、その名前は、「公」のものになる。マンガのキャラクターに使われた程度で、イチイチ怒って裁判を起こすくらいなら、最初から有名人になるな!ってことであって、本来なら、マンガのキャラクターにも使ってもらえないような二流、三流の有名人がいっぱいいるんだから、クロマティは、怒るんじゃなくて、自分の名前が使われたってことに、感謝すべきなのだ。
たとえば、ジャイアンツの外国人選手なら、ぺタジーニとかガルベスとかだったら覚えてる人もいると思うし、「クロマティ高校」の代わりに「ぺタジーニ高校」でも「ガルベス高校」でも、何とか成り立っただろう。だけど、「サンチェ高校」や「ガリクソン高校」だったら、よほどのジャイアンツファンにしか分かんないだろうし、「パセラ高校」「スミス高校」「ホワイト高校」「カムストック高校」にでもなったら、ジャイアンツファンでも分かんないことウケアイだ。
‥‥そんなワケで、あたしの敬愛する芸術家、赤瀬川原平さんは、路上探索の第一人者で、町を歩いてて発見した無意味なもの、たとえば、ヒサシがあるのに、その下の窓が塗り込められていて、ヒサシが何の意味も成してないものとか、ガードレールがあるのに、ガードレールとブロック塀との隙間が20cmくらいしかなくて、人が歩くことができない歩道とか、建物の2階にドアがあるのに、そこまで上る階段がなくて、ドアとしての機能を果たしていないものとか、そう言った無意味なものに芸術性を見出して、長年、研究してる。原平さんは、これらを総称して、「トマソン」って呼んでるんだけど、これは、今から25年くらい前に、メジャーリーグから鳴り物入りでジャイアンツにやって来た選手の名前なのだ。当時では、破格の契約金や年俸だったのにも関わらず、打席に立てば、三振、三振、また三振で、何の役にも立たず、2年で解雇になっちゃったそうだ。それで、原平さんは、町の中の役に立たないもの、何の意味も無いもの、つまり、「無用の長物」に対して、この選手の名前をつけたのだ。もちろん、本人には無断で。
あたしの場合は、「トマソン」なんて選手は知らなくて、先に、赤瀬川原平さんの「超芸術トマソン」って本を読んで、その本の中で、「トマソン」て言う無能な選手がいたってことを知ったぐらいだ。「超芸術トマソン」が生まれたのは、今から20年くらい前で、あたしが本を読んで知ったのはもっとアトなんだけど、世の中的には、もう20年も、「無用の長物」の代名詞として、「トマソン」て名前が使われてるのだ。原平さんの著作は、「超芸術トマソン」だけじゃなくて、他にも多数の関連書が出てるし、そのすべてが、今では文庫本にもなっている。あたしは、ぜんぶ読んだけど、それぞれの著作の中にも「トマソン」て言葉が出て来るので、原平さんは、20年間に渡り、複数の著作の中で、役に立たないものの代名詞として、トマソン選手の名前を無断で使用してるってことになる。これは、クロマティの比じゃないだろう。
‥‥そんなワケで、マンガの中の殺人鬼の名前に、自分の名前を無断で使われても、何の役にも立たないものの代名詞として、自分の名前を無断で使われても、文句を言えないのが有名人であり、そこが、一般人とは違う部分なのだ。たとえば、インターネットの公共性の高い掲示板などに、タレントや有名人の悪口を書き込んでも、何の問題にもならないけど、一般人の悪口を書き込んだりしたら、それだけで罪になる。有名人と一般人では、立場がまったく違うのだ。
それなら、どのあたりまでなら、個人を揶揄するような発言をしても、法的には問題にならないのだろうか。これは、「三国人発言」や「従軍慰安婦発言」など、今までに数え切れないほどの暴言を吐き続けて来て、何度も何度も問題を起こしてるのに、未だに反省のハの字も無く、今度は、「フランス語は数も勘定できない言葉だから、国際語としては失格だ」などと言う他国の言語をバカにする発言をして、フランス語学校の校長などから、謝罪広告の掲載と慰謝料を求めた訴えを起こされた、東京の恥、石原慎太郎を例にすればいいだろう。名前が「慎太郎」なのに、まったく口を慎まない男は、前にも書いたけど、過去にこんな発言をしてる。
「文明がもたらした最も悪しき有害なものはババァなんだそうだ。女が生殖能力を失っても生きてるってのは、無駄で罪。男は80、90才でも生殖能力があるけど、女は閉経してしまったら子供を生む力はない。そんな人間が、きんさん、ぎんさんの年まで生きてるってのは、地球にとって非常に悪しき弊害。」
これは、どこかの講演会か何かで、ついウッカリと言っちゃったんじゃなくて、週刊誌と言う、いつまでも残る活字媒体においての発言だ。この、あまりにもヒドイ暴言は、ニポン国内だけじゃなく、アメリカやフランスの婦人団体からも猛抗議されて、大問題になったのだ。そして、都内の女性100人以上が連名で、謝罪広告の掲載と損害賠償を求めて訴えたんだけど、この訴えに対して、東京地裁のトマソン、河村吉晃裁判長は、「ババァと言う不適切な表現が用いられ、女性の多くが不愉快な感情を抱いたことは推測できるが、深刻な精神的苦痛を与えるほどの発言とは認められない」ってノタマッて、女性たちの訴えを全面的に棄却して、石原は無罪放免になったのだ。
「きんさん、ぎんさん」は、テレビとかにも出てたし、ニポン中の人たちが知ってたから、有名人と言えば有名人だった。だけど、タレントでもスポーツ選手でも政治家でもなく、ただの一般人だった。その一般人のお年寄りを名指しして、東京都知事ともあろう立場の人間が、「生きてることが罪」「生きてることが地球にとって非常に悪しき弊害」って言って、その言葉が、活字として週刊誌に掲載されて、ニポン中で売られたのだ。これって、あたしの感覚じゃ、絶対に許されないことだ。それなのに、東京地裁の判決は、無罪。大きな影響力を持った立場の人間が、何の罪も無い一般人に対して、これほどの暴言を吐いても、何のオトガメも無し。
この他にも、石原は、障害者の施設を視察に行った時に、目の前の知的障害者を指差して、「しかし、ああいう人ってのは人格があるのかね?」って言ったり、必死に介護を続けてたボランティアたちに向かって、「こんなことを美徳と考えてるのは世界中で日本くらいだ。西洋社会なら知的障害者など切り捨てる。」って言った挙句に、「知的障害者など安楽死させたほうが本人と家族のためだ。」とまで言ってるのに、これらの暴言も、すべて何のオトガメも無し。こんな異常な考えを持った人間が、あたしの住んでる東京のトップだなんて、ホントに、穴があったら、入ったり出たり入ったり出たりしちゃうほど、恥ずかしいことだ。
‥‥そんなワケで、あたしはどうしても納得できないけど、これがニポンて国であり、これが現実なのだ。だから、天地がひっくり返っても、クロマティの訴えが認められるなんてことは絶対にアリエナイザーだし、東京都知事が、消すことのできない活字媒体に、何の罪も無い一般のお年寄りの実名を挙げて、「生きてることが罪」って書いても、それでも法律的には何のオトガメも無いんなら、一般人のあたしが、自分の個人の日記に書くぶんには、もっともっと過激なことを書いたって、ぜんぜんOKじゃん!‥‥なんて思っちゃう今日この頃なのだ(笑)
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