歳旦三つ物
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あたしは、お仕事関係の年賀状とは別に、プライベートの年賀状には、一応、俳人のハシクレなので、「歳旦三つ物(さいたんみつもの)」を書くことにしてる。歳旦三つ物ってのは、五七五の発句(ほっく)と、七七の脇と、五七五の第三で構成される連句のミニ版だ。連句って言うのは、この、五七五、七七、五七五、七七ってのがずっと‥‥って言うか、36とか24とか14とか数を決めて、何人かで詠んで行く遊びなんだけど、この三つ物ってのは、その連句の「最初の3句」の部分だけってことだ。で、三つ物の中でも、この「歳旦三つ物」ってのは、その名の通り新年の三つ物なので、新年を迎えた喜びを詠うことになってる。松尾芭蕉も、お正月には俳句仲間を集めて、それぞれが作って来た歳旦三つ物をみんなで披露しあってた。これを「歳旦開き」って言って、新しい年のスタートにしてたのだ。それで、今年のあたしの歳旦三つ物はって言うと、こんなのだ。
多摩川の水ゆたかなる初日かな
宝船には犬もあひのり
紙ふうせん恋の吐息の満ちたりて
きっこ
正直に言ってイマイチのデキなんだけど、忙しくてゆっくり詠んでる時間がなかったので、これでいいことにしちゃった。歳旦三つ物は、ちょっと決まりごとが多くて、それらをすべてクリアしながら詠まなくちゃならないから、お正月になってからゆっくり詠むんならいいんだけど、暮れのバタバタしてる時に、年賀状に間に合わせて詠むのにはリトル苦労する今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、歳旦三つ物にはどんな決まりごとがあるのかって言うと、最初の発句は、新年の季語を入れて、「や」「けり」「かな」のどれかの切れ字を使う。脇は、新年の季語を入れて、最後を体言止めにする。第三は、春の季語を入れるか無季にして、最後を「て」「に」「にて」「らん」「もなし」のどれかで止める。これが形式上の決まりごとで、あとは、詠む上での心構えって言うか、センスって言うか、ノリって言うか、そう言った上での決まりごととして、発句に対して脇はナニゲに寄り添わせる内容にして、第三は、発句と脇が作り出した世界観から大きく飛躍させる‥‥って言うのが、3句を構成する上でのポイントだ。
あたしの今年の歳旦三つ物で説明すると、発句の「多摩川の水ゆたかなる初日かな」ってのは、「初日」が新年の季語で、「や」「けり」「かな」のうちの「かな」を使ってる。脇の「宝船には犬もあひのり」は、「宝船」が新年の季語で、最後が「あひのり」、つまり「相乗り」って言う名詞(体言)で止めてある。第三の「紙ふうせん恋の吐息の満ちたりて」は、「紙ふうせん」が春の季語で、最後が「て」で止めてある。だから、形式上の決まりごとは、ぜんぶクリアしてる。
それから、構成の上での決まりごととしては、発句が水の豊かな多摩川のことを詠み、脇でその川を上ってくる宝船のことを詠んでるので、ナニゲにって言うか、ベッタリと寄り添ってる。その上、今年の干支の「犬」を乗せて、戌年をアピールした。だけど、今回、自分でイマイチのデキだって思ったのは、第三での飛躍が弱いからだ。それは、脇の「あひのり」から、テレビ番組の「あいのり」を連想されちゃうと、「恋」って言うキーワードが生まれて、それが第三の恋の描写とオーバーラップしちゃう、つまり、第三が脇から飛躍しきれてないってことになるのだ。その上、第三の「紙ふうせん」を漢字で書くと、「紙風船」てなる。これも、脇の「宝船」と、「船」って言う文字がカブッちゃう。だから、「紙ふうせん」ってワザとひらがな表記にして、視覚的にカブッてる印象だけは希薄にさせたんだけど、細かいことを言えば、ワリとNGな感じの第三ってことになる。
だから、あたしの今年の歳旦三つ物は、発句と脇はまあまあなんだけど、第三の飛躍が足りなくて、イマイチのデキになっちゃった。でも、今年は厄年なので、そんなに飛躍もしそうにないから、「ま、いっか!」ってことで、そのまま年賀状にプリントしちゃった。ちなみに、自分でもなかなか良く詠めたと思ってて、ワリと気に入ってるのは、オトトシのお正月の歳旦三つ物だ。
初釜やローズヒップの赤き湯気
ごまめに並ぶ猫は六匹
ハイヒールぴよんと春風とびこえて
きっこ
「初釜」ってのは、茶道での新年最初のお茶会で、初めて釜を火にかけることで、新年の季語だ。だから、ホントは、お家でローズヒップティーを飲むために、ガスにヤカンをかけたこととは違うんだけど、そこをシャレとして詠んでるってワケだ。そして、あたしは元日のローズヒップティーを楽しみ、駐車場の6匹の猫たちには、おせちのゴマメをあげた。つまり、発句は飲み物、脇は食べ物ってことで、ピタリと寄り添ってる。そして、第三で大きく飛躍して、欽ちゃん走りで元気良く1年を走って行こうって言う気持ちを表現してる‥‥ってなワケで、お正月ってことで自画自賛してみた(笑)
‥‥そんなワケで、お正月のテレビに飽きちゃった人は、歳旦三つ物にチャレンジしてみたらどうだろう。俳句の経験がないと、ちょっと難しそうに思えるかも知れないけど、もともとニポン人てものは、誰でもみんな俳句をやっていて、魚屋さんが八百屋さんに五七五でアイサツをしたら、八百屋さんが魚屋さんに七七でお返ししてたりしたのだ。町中の誰でもが日常的に、五七五や七七で会話をしてた。だから、ニポン人であれば、誰でも五七五や七七のリズムが体に流れてる。
歳旦三つ物の発句と脇には、新年の季語が必要だけど、発句も「初日」、脇も「初日」って言うように、両方に同じ季語を使ったらNGだ。発句が「初日」だったら、脇は「お雑煮」にしたり、「初夢」にしたり、「門松」にしたり、「お年玉」にしたり、「初詣」にしたり、「年賀状」にしたりと、別の季語にする。新年の季語は、「初空」「初霞(はつがすみ)」「初茜(はつあかね)」「初凪(はつなぎ)」「初富士」と言うように、新年を迎えて初めて見たものに「初」をつければ季語になる。新年を迎えて初めて雀(すずめ)の声を聞けば「初雀」、鴉(からす)の声を聞けば「初鴉」、ニワトリの声を聞けば「初鶏(はつとり)」だ。初めてお風呂に入れば「初湯」だし、お正月からがんばって働いてる人なら「初商(はつあきない)」ってことになる。
逆に、この「初」って文字が後ろにつくと、「書初(かきぞめ)」に代表されるように「そめ」って読む。新年を迎えて初めて本を読めば「読初(よみぞめ)」だ。どこかのバカな外務大臣なら、この「読初」が少年ジャンプとスピリッツだと思うけど、マトモなニポン人なら活字を読もう。それから、お正月の「初売」に行って「福袋」を買ったりすれば、「買初(かいぞめ)」ってことになるし、お掃除をすれば「掃初(はきぞめ)」、お裁縫をすれば「縫初(ぬいぞめ)」なんて感じで、他にもたくさん新年の季語がある。まあ、周りを見回して「お正月っぽい」って感じたものは、たいていが新年の季語だ。そして、発句と脇は寄り添うように詠むから、たとえばこんな感じでオッケーだ。
買初や銀座くまなく梯子(はしご)して
後部座席は福袋の山
脇が七八の字余りになっちゃったけど、このくらいは目をつぶっちゃう。それで、この2句に続く第三は、この世界観から大きく飛躍しなくちゃならないから、「買い物」「地名」「梯子」「自動車」「座席」「袋」「山」などに関係しないように、気をつけて詠む。そして、もちろん、1年のスタートにふさわしいように、ネガティブな思考や描写じゃなくて、ポジティブな思考や描写を詠む。たとえば、こんな感じだ。
買初や銀座くまなく梯子して
後部座席は福袋の山
チューリップ一年生のぴかぴかに
つまり、構成の上で気をつけることは、発句か脇に「犬」とか「猫」とか「雀」とかの動物を登場させたら、第三には動物を登場させない。発句か脇で植物を詠んだら、第三では植物は詠まない。発句か脇で食べ物や飲み物を詠んだら、第三では別の景を詠む‥‥ってことで、これが「第三で転じさせる」ってことなのだ。
‥‥そんなワケで、ニポン語さえ話せるなら、ちょっとしたコツだけで誰でも簡単に詠める歳旦三つ物だけど、これを覚えると、俳句の基本も身につくし、連句でも遊べるようにもなる。あたしは、俳句の他にも連句が大好きで、仲間内でコッソリと歌仙を巻いたりしてるけど、数人でワイワイと歌仙を巻くのは、どんな遊びをするよりも楽しい。だから、せっかくニポン人に生まれたんだし、あたしみたいに1年中ずっと俳句や連句のことを考えてなくてもいいけど、せめてお正月くらい、歳旦三つ物にチャレンジしてみたら楽しいのに‥‥なんて思う今日この頃なのだ。
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