明治時代のルアーフィッシング
楽しみに見てたテレビ朝日の「いきなり!黄金伝説」の「海の上で釣った魚しか食べられない1週間」が、ゆうべの第3回で無事にフィニッシュを迎えた。「いきなり!黄金伝説」は、ヤラセが満載でバカバカしいし、カルト教団ナンミョーの洗脳広告塔、久本雅美が出てて気持ち悪いから、ふだんはほとんど見ないようにしてるんだけど、釣り関係の企画の時だけは、釣り番組ウォッチャーとしてなるべく見るようにしてる。だから、当然のヤラセとして、釣った魚以外にも、差し入れのお弁当を食べたり、陸に上がって普通に食事をしてることは知ってるけど、そんなことは抜きにして、企画として楽しんで割り切って見てる。
日本テレビの「ラブカツ」のように、一般人の番組参加者を騙すようなヤラセは最低だけど、バラエティー番組の企画をシナリオ通りに遂行して、視聴者を楽しませる目的でのヤラセなら、こんなのは許される範囲だろう。だいたい、オリエンタルラジオが、ホントにマグロだけを食べ続けただなんて、誰ひとり信じてないと思うし、テレビに映ってないとこで何を食べてても、誰も何とも思わないだろう。所詮、バラエティーなんてそんなもんなんだから‥‥。
で、今日の放送だけど、相変わらず異常なテンションの高さを見せるさかなクンと、相変わらず異常なテンションの低さを見せるまちゃまちゃが、最初はマダイを狙うんだけど、なかなか釣れなくて、ようやく釣れたのはチカメキントキって言うお魚。次の日は、最終日ってことで、大物のメダイを狙うんだけど、海がシケてて苦戦するも、ラスト1時間でまちゃまちゃが大物を釣り上げ、メデタク最後の豪華な晩餐をした。それで、マダイ釣りもメダイ釣りも、仕掛けは少し違ったけど、エサはおんなじで、コマセカゴにオキアミを入れて、その下の釣り針には大きめのアミエビをつけてたんだけど、メダイ釣りの時には、ゴマサバも釣れてた。つまり、おんなじエサで、チカメキントキとゴマサバとメダイが釣れた今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、釣りの経験はほとんど無いけど、釣り番組ウォッチャーとしてはキャリアのあるあたし的には、釣りのエサにも興味がある。なんでかって言うと、「えっ?」って思うようなエサを使う釣りがあるからだ。たとえば、釣りをする人には常識なんだろうけど、釣りをしないあたしがビックル一気飲みしたのは、イイダコ釣りだ。イイダコは、ナナナナナント! 「ラッキョウ」をエサにして釣るのだ!
「テンヤ」って呼ばれてる小さなソリみたいな形の仕掛けがあって、そこにラッキョウをセットして投げて、少しずつ引いて来ると、そのラッキョウにイイダコが乗っかって、テンヤの後ろについてる釣り針に引っ掛かるってシステムだ。だけど、イイダコは、別にラッキョウが大好物なワケでもないし、それ以前に、海の中にはラッキョウなんか無いから、ふだん、イイダコはラッキョウを食べてない。じゃあ、なんでラッキョウをエサにして釣れるのかって言うと、ラッキョウの白い色が、イイダコには何かのエサに見えるからだそうだ。
ミミズをエサにしてフナを釣ったり、ゴカイをエサにしてハゼを釣ったりするのは、ふだんから食べてるものをエサにしてるワケだけど、イイダコ釣りの場合は、ふだんから食べてるものじゃなくて、エサっぽく見えるもので騙して釣るワケで、食べ物をエサにしてても、どっちかって言うと、疑似餌(ぎじえ)釣り、ルアー釣りって感じになるんだと思う。
他にも、タチウオを釣る時には、ドジョウをエサにするんだけど、これも、ドジョウは淡水魚だから、海にはいない。だから、タチウオは、ふだんはドジョウを食べてないってワケで、何でドジョウで釣れるのかって言うと、海中でのドジョウの体の光り方が、タチウオの好むエサに見えるから食いつくそうだ。だから、タチウオ釣りも、ナマのエサを使ってても、ルアー釣りに近い感じになるんだと思う。その証拠に、ドジョウが手に入らない時には、ドジョウの代わりに白いサラシの布を細長く切って、それを釣り針につけて釣ることもあるそうだ。あとは、スイカをエサにして釣るクロダイ釣りとか、エサもルアーも使わずに、縄張りの習性を利用して釣るアユの友釣りとか、魚釣りには、ホントに色んな釣り方がある。
‥‥そんなワケで、前にも紹介したことがあるけど、正岡子規の「病牀六尺(びょうしょうろくしゃく)」って本がある。これは、新聞「日本」に連載してたミニエッセイをまとめたもので、明治35年5月5日に連載を開始して、同年の9月17日まで、127回も続いた。ちなみに、子規は、9月18日のお昼ころに絶筆の3句を書き残し、その日の深夜、日付の変わった19日の午前1時ころに亡くなってるから、亡くなる日の前日まで、新聞の連載の原稿を書いてたのだ。さらに、ちなみに‥‥って言うか、念のために書いておくと、子規が生まれたのは、慶応3年、つまり、江戸時代の最後の年ってワケで、翌年は明治元年になる。だから、明治35年に亡くなった子規は、享年36才だったってワケで、ボブ・マーリィとおんなじだ。
そんな正岡子規の「病牀六尺」だけど、連載29回目の6月10日のところに、釣りのエサに関する興味深い記述がある。子規の生まれ故郷の愛媛は伊予松山の魚釣りのエサについて、細かく書かれているのだ。
二十九
魚を釣るには餌が必要である。その餌は魚によって地方によってよほど違いがあるようであるがわが郷里伊予などにては何を用いるかと、その道の人に聞くに
蚯蚓(ミミズ)を用いるものは鮠(ハヤ)釣、鮒(フナ)釣、ドンコ釣、ゲイモ釣、鰻(ウナギ)釣、手長海老釣、スッポン釣
川海老を用いるものは鮠釣、ゲイモ釣、ギゾ釣
エブコ(野葡萄のごとき野草の茎の中に棲む虫)を用いるものは鮠釣
キスゴ、ハタハタを用いるものは鮠釣
蚕(カイコ)を用いるものは鮠釣
セムシ(川の浅瀬の石に蜘蛛(クモ)のような巣を張りて住む大きなものと川の砂の中に砂を堅めて小さき筒状の家を作りて住む形の小さなものとの二種類ある)を用いるものは鮠釣
田螺(タニシ)を用いるものは手長海老
赤蛙(アカガエル)を用いるものは鯰(ナマズ)釣
海の小海老を用いるものは小鯛(コダイ)釣、メバル釣、アブラメ、ホゴその外沖の雑魚(ザコ)釣
シャコを用いるものは小鯛釣
小烏賊(コイカ)を用いるものは大鯛釣
シラサ海老を用いるものは大鯛釣、鱸(スズキ)釣、チヌ釣
ゴカイ、チヌ釣、雑魚釣
などのごとく多くは動物を用いるのであるが、中には変則な奴もある、それは鮎を釣るにカガシラ(蚊頭)を用い、鮠を釣るにハイガシラ(蝿頭)を用い、ウルメを釣るにシラベ(白き木綿糸を合せたるもの)を用い、烏賊を釣るに木製の海老を用いるごとき類いである。カガシラとは獣毛を赤黒黄等に染めたる短きものを小さき鈎(ハリ)につけて金または銀の小さき頭がついている。鮎はこの美しき鈎を見て蚊と思いあやまりて喰いつくという事である。ハイガシラは獣毛を薄墨色に染めた短いものを鈎につけてそれに黒い頭がついている。木製の海老とは木で海老の形に作った二寸ばかりのもの、尾の所に三本の鋭き鈎が碇形についている。烏賊はこれを真の海老だと思って八本の手で抱きつくと鈎は彼れの柔かな肉を刺すのである。
東京の釣堀なぞではおもに鯉(コイ)を釣るのであるが、さてその餌とすべきものは甚だ種類が多い。フカシイモ、ウドン、ゴカイ、ムキミ、ミミズ、サナギを飴糟にて練りたるもの、などを用いる。さすがは都の産れだけに東京の鯉は贅沢になってこんなに様々なご馳走を貪(むさぼ)るのであろうか。地方によってはこの外になお種々の異った餌があるであろう。
(六月十日)
‥‥そんなワケで、色んなお魚が出て来たけど、あたしは、「ゲイモ」と「ギゾ」と「ホゴ」ってのは聞いたことなかったから、調べてみた。それで、「ギゾ」と「ホゴ」は、今でも釣られてるお魚だってことが分かったんだけど、「ゲイモ」だけは分からなかった。ミミズをエサにするってことと、ハヤやフナやドンコやウナギと一緒に書かれてるから、淡水魚には違いないと思うけど、図書館にまで行って調べたのに、分からなかった。
その上、インターネットで「ゲイモ」って調べてみたら、「ゲイモ」とは「ゲイ・モード」の略だってのしか見つけられなくて、ガックリ来ちゃった。ちなみに、「ゲイ・モード」ってのは、カミングアウトしてないゲイの人間が、同性愛者たちの集まる店などに行き、本来の自分の姿に切り替わった状態のことみたいだ。たとえば、男性のゲイの場合なら、会社や家庭ではゲイだと分からないように生活してる人が、新宿2丁目のお店に着いたトタンに、急にオネエ言葉に切り替わって、仕草とかも変わるようなことなんだと思う。これが「ゲイモ」って言う状態のことみたいだ。だから、あたしの頭の中には、ものすごいお魚のイメージが出来上がっちゃって、ゲイモの大群が夢にまで出て来そうになった(笑)
ゲイモの他にも、あたしは、「キスゴ、ハタハタを用いるものは鮠釣」って部分が分かんなかった。「キスゴ」ってのは、関西方面での「シロギス」の呼び名だし、「ハタハタ」ってのも秋田のお魚だ。だけど、ここでは、ハヤを釣る時のエサの名前として書かれてる。だから、お魚のシロギスやハタハタのことじゃなくて、同名の別のものってワケだ。それで、あたしは、ハッと思い出したんだけど、確か、「バッタ」のことを「ハタハタ」って呼んだような気がした。もちろん、あたしは「バッタ」は「バッタ」って呼んでるけど、俳句の歳時記に書いてあったハズだ。それで、歳時記で調べてみたら、やっぱり、秋の季語の「バッタ」のとこに、「はたはた」とか「ちきちき」とかの別名が書いてあった。
だから、この正岡子規の書いた「ハタハタ」が「バッタ」のことなら、一緒に書いてある「キスゴ」ってのも、バッタみたいな昆虫って可能性が高くなって来る。だけど、これも、色々と調べてみたんだけど、分からなかった。ま、「ゲイモ」と「キスゴ」のことは保留しとくとして、今回、重要なのは、後半の文章の部分だ。ここを読んでみると、アユやハヤは毛針を使って釣るし、ウルメイワシはサビキで釣るし、イカはエギで釣るってことが分かる。釣りをする人にはオナジミだと思うけど、サビキってのは、たくさんの釣り針が等間隔に並んでて、それぞれにお魚の皮とかゴムとかがついてて、それをエサと間違えてイワシやアジが食いつく仕掛けだ。
あたしの大好きな映画、「釣りバカ日誌12 史上最大の有給休暇」で、ハマちゃんが、このサビキ仕掛けを作るために、薬局にコンドームを買いに行くシーンがある。サビキに使うのは、コンドームのゴムが何よりも向いてるそうで、ハマちゃんは、元気良く、「コンドームくださ~い!」って言うんだけど、奥から出て来た店員さんが知り合いの女性(宮沢りえ)だったので、大慌てで「風邪薬」に言い直す。こういうシーンも、「サビキ仕掛けに使うには、コンドームのゴムがいい」って知識を持ってると、より、楽しんで観ることができる。
それから、イカを釣るほうの「エギ」ってのは、「餌木」って書くんだけど、基本的には、岸から投げて引いて来る釣りに使うもののことで、船から垂直に垂らして使うものは、「イカ角(ヅノ)」って言って、ちょっと違う形をしてる。他にも、「スッテ」って呼ばれてる種類もあるし、「餌木」と「スッテ」を合体させた「餌木スッテ」って言うのもあるし、色々と研究してるんだけど、なんせ、イカ釣りをやったことがないあたしには、どうもイマイチ分かんない。
児島玲子ちゃんが提携してる釣具メーカー、「ヤマリア」は、こういったイカ用のルアーもたくさん開発、販売してるんだけど、今年の春に新発売されて爆発的に大ヒットしてるのが、ナナナナナント! その名も、「おっぱいスッテ」! この素晴らしいネーミングを見た時に、あたしは、全身に電気が走ったような衝撃を感じた。たとえば、あたしが、ひとりで釣り具屋さんに入って行ったとして、お店のカッコイイお兄さんに、「お客様、何かお探しですか?」とかって聞かれた時に、あたしが、うつむきかげんで、モジモジしながら、「あの‥‥おっぱいスッテ‥‥」なんて言えるだろうか? これは、ある意味、ハマちゃんが薬局にコンドームを買いに行くのよりも恥ずかしい(笑)
で、なんでこんな名前なのかって言うと、今までのイカ用のルアーは、本体の材質が木だったりプラスティックだったりと硬いものだったんだけど、この「おっぱいスッテ」は、やわらかい素材で出来てるから、やわらかいものの代表として、「おっぱい」ってことになったみたいだ。なんで、やわらかい素材にしたのかって言うと、イカがエサと間違えてルアーに抱きついた時に、材質が硬いと、ニセモノだってことに気づいちゃって、すぐに離しちゃうらしい。それで、やわらかい材質にすれば、本物のエサと感触が似てるから、イカが騙されて抱きついてる時間が長くなり、結果として、釣り針に引っ掛かる確率も高くなるってことらしい。
だけど、これは、あくまでもあたしの推測なんだけど、「やわらかいもの」イコール「おっぱい」ってだけの発想じゃなくて、絶対に、「スッテ」って言葉につなげた時のことまで考えてのネーミングだと思う。だって、ヤマリアの商品紹介のページを見てみると、「ぷにぷに感がたまらない!触って下さいおっぱいスッテ!」だとか、「離したくない抱き心地!!」だとか、どう考えてもエッチな想像をしちゃうようなコピーが見られるからだ。だから、メーカー側にそういう意図が無かったとしたら、あたしが欲求不満で、何でもエッチな方向へと連想しちゃうってことなんだろうけど、自分でもモンモンとしてワケが分かんなくなって来ちゃったから、この判断は、皆さんのご想像におまかせしまスッテ(笑)
‥‥そんなワケで、話をクルリンパと戻して、正岡子規は、この「病牀六尺」の中で、他にも魚釣りのことを書いてる。たとえば、連載をスタートしたばかりの5回目、5月10日付の文章の中には、ドンコ釣りについての記述が見られる。
五
(前略)
ドンコ釣の話し。ドンコ釣りはシノベ竹に短き糸をつけ蚯蚓(ミミズ)を餌にして、ドンコの鼻先につきつけること。ドンコもし食いつきし時は勢よく竿を上ぐること。もし釣り落してもドンコに限りて再度釣れることなど。ドンコは川に住む小魚にて、東京にては何とかハゼという。
(後略)
(五月十日)
「ドンコ」ってのは、川にいるハゼの一種で、マハゼよりも小さくて黒くて、天ぷらとかじゃなくて、佃煮にしたりして食べる。全国で色んな呼び名があるんだけど、関西の「ドロボウメ」をはじめとして、ガンゾ、ガンド、ガブロ、ドグロ、トチンコ、クロドンボ、ゴオンなど、変な名前で呼ばれてる。中には、「コジキマラ」、ようするに、「乞食のオチンチン」なんて言うとんでもない名前で呼んでる地域もある。で、「病牀六尺」だけど、亡くなる1週間ほど前、連載122回目には、次のような記述も見られる。
百二十二
(前略)
四方太(しほうた)品川に船して一網にマルタ十二尾を獲しかも網を外れて船に飛び込みたるマルタのみも三尾あり、すべてにて一人の分前四十尾に及びたりという。非常の大漁なり。昨また隅田の下流に釣して沙魚(ハゼ)五十尾を獲(とり)同伴のもの皆十尾前後を釣り得たるのみと。その言にいう釣は敏捷(びんしょう)なる針を択ぶことと餌を惜まぬこととに在りと。
(後略)
(九月十一日)
四方太(しほうた)ってのは、子規の弟子の高浜虚子(たかはまきょし)や河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)の親友の阪本四方太のことで、この日、寝たきりの子規のところに訪ねて来て、この話をしたのだ。子規は、世の中の色んなことに興味を持ってたけど、ずっと寝たきりだったから、毎日のように訪ねて来る俳句の弟子や仲間から、色んな話を聞くことを何よりの楽しみにしてた。それで、この日は、四方太の魚釣り‥‥って言うか、魚獲りの話を聞いて、ワクワクしたんだと思う。
ちなみに、「マルタ」ってのは、別名「マルタウグイ」とも言うんだけど、「ウグイ」ってのは「ハヤ」のことだから、ハヤの仲間ってことになる。普通のハヤは、大きくても25cmとか30cmくらいまでにしかならないけど、マルタは50cm以上にもなる。川で生まれて、海に降りて、産卵のためにまた川を上って来るお魚で、昔は、隅田川だけじゃなくて、江戸川でも多摩川でもいっぱい獲れたそうだ。多摩川で川漁師をしてたおじいさんの話によると、戦前はひと網で20匹、30匹ものマルタが獲れたそうだ。
‥‥そんなワケで、100年以上も前の正岡子規の時代にも、現代と同じような毛針やサビキやエギ、つまり、フライやルアーがあったってワケで、これらは、外国から入って来たものがニポンふうにアレンジされたものって考えるよりは、ニポン古来のもの、ニポンの漁師や釣り人が考え出して進化して来たものって考えられる。そう思うと、今では、西洋から入って来た釣りの代表みたいに思われてるフライやルアーだけど、ニポンにはニポンの疑似餌(ぎじえ)釣りのルーツがあるワケで、魚釣りウォッチャーを自負するあたしとしては、こういったことをもっと調べてみるのも、ワクワクして来るような感じがした。だから、病床の子規が、明治時代のフライフィッシングやルアーフィッシングに思いを馳せて色々と調べたように、あたしも、もうちょっと調べてみようと思った今日この頃なのだ。
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