« 呆れ果てるイイワケ | トップページ | 気の持ちようでハッピー »

2006.09.24

あとで良くなるホッケの太鼓

あたしは、テレビのグルメ番組とかで、タレントさんが美味しそうな「うな重」を食べてるとこを見ても、雑誌のグラビアで美味しそうな「うな重」の写真を見ても、それどころか、実際に、うなぎ屋さんの前を通って、モクモクと出て来る煙の美味しそうな匂いを嗅いでも、「ああ~うな重が食べたいな~」とは思うけど、「うなぎの口」にはならない。「うなぎの口」ってのは、今年の2月28日の日記、「シルバーのリング」の中に書いたんだけど、読んでない人のためにリトル説明しとくと、「うなぎを食べたくて食べたくて、うなぎ以外のものは受け付けなくなっちゃった口」のことだ。詳しく知りたい人は、過去ログを読んでもらうとして、そんな時間のない現代人のために、もうちょっと説明すると、「うなぎが食べたくなって、だけど、そんなお金はなくて、ずっとガマンしてたんだけど、ふとしたことでお金が入って、それで、今日は思い切ってうなぎを食べに行こうと決めて、何年前かに行ったことのあるすごく美味しかったうなぎ屋さんに向かったんだけど、わざわざ電車に乗ってって、そのお店の前に着いたら、今日はお休みの日だった」って言う下地が必要なのだ。それで、その上で、「もう、どうしても、うなぎを食べないと気持ちがおさまらない状態」の時の「口」が、「うなぎの口」だ。

だから、この状態になると、お目当てのお店がお休みだったからって、どんなにお腹がペコペコでも、隣りのおそば屋さんや向かいの定食屋さんに入ろうとは思わない。うなぎ屋さんを探して、その街をさまようことになるし、その街に他のうなぎ屋さんが無ければ、駅に戻って、電車に乗って、隣りの駅まで行ったりする。これが、「うなぎの口」のパワーなんだけど、たいていは、おんなじ地域のうなぎ屋さんて、おんなじ曜日が定休日だったりするから、お目当てのうなぎ屋さんがお休みだったってことは、次のうなぎ屋さんも、その次のうなぎ屋さんもお休みだったりして、あたしの「うなぎの口」は収拾がつかなくなる。もちろん、これは、ひとつの例として「うなぎの口」を出しただけで、他にも、「天丼の口」とか、「アユの塩焼きの口」とか、「焼き松茸の口」とか、色んな口がある今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?

‥‥そんなワケで、いくら「色んな口がある」って言っても、「かっぱえびせんの口」とか、「コアラのマーチの口」とかはない。かっぱえびせんやコアラのマーチなら、どっちも100円前後で買えるから、いくらお金のないあたしだって、「かっぱえびせんの口」や「コアラのマーチの口」になるための下地、つまり、「食べたくなったのに、お金がなくて、ずっとガマンしてる」って下地ができる前に、普通に買って食べることができるからだ。

だけど、かっぱえびせんやコアラのマーチとおんなじに、100円持ってれば買えるものでも、この「口」になるパターンもある。それは、「お金はあるのに、カンジンの物が売ってない」ってパターンで、たとえば、期間限定のお菓子とかで、食べたくなって近所のコンビニに行ったら、もう、販売期間が終わってて、どっかに残ってるんじゃないかって思いながら、次のコンビニ、その次のコンビニって探して回るんだけど、どこに行っても残ってないってパターンだ。

だから、もともとが高級な食べ物で、お金がなくて食べられないパターンだけじゃなくて、あたしの持ってるお金でも買えるような安い食べ物なのに、そのカンジンの食べ物が売ってなくて、食べられないってパターンもある。何て言うのかな、あの、タクシーのメーターみたいなもんだ。あれって、時間と距離の併用メーターだから、道路が渋滞してれば、ぜんぜん動いてなくても、「カチッ‥‥カチッ‥‥」って金額が上がってく。つまり、「うなぎの口」ってのは、あたしの自宅から湘南の海までタクシーで行くようなもんで、行ったことないからいくら掛かるのか分かんないけど、きっと1万円とか2万円とか掛かりそうだから、当然、高くて乗ることはできないってパターンだ。そして、100円のお菓子なのに、期間限定が過ぎちゃって買えないってのは、道路が空いてる時なら、あたしの持ってるお金でも楽勝で行ける距離なのに、その日に限って大渋滞で、どう考えても所持金をオーバーしちゃいそうだから、やっぱり乗ることはできないってパターンだ。

‥‥って、あたしなりに上手な喩えだと思ったんだけど、よくよく考えてみると、これって、ちょっと違うよね? 「うなぎの口」のほうの喩えはいいけど、100円のお菓子のほうは、「お金はあるのに物が売ってない」ってことなんだから、「あたしはタクシーに乗るお金を持ってるのに、いつまで待ってもタクシーが来ない」ってことに喩えないと、意味がおかしくなっちゃう。つまり、タクシーのメーターが、時間と距離の併用だなんてことは関係なかったってワケで、こんなに書いて来たのに、この喩えは無意味だったってワケだ。だから、本来なら、この「クダリ」の部分はサクッと削除して、新たに書き直したほうが良さそうなんだけど、それはそれでメンドクサイから、何も無かったことにして、このまま書き進めちゃう。

で、何でこんな話を書いて来たのかって言うと、この「うなぎの口」までは行かないんだけど、日々、「食べたいな~」って思ってるのに、高くて食べられなかったものが出て来ちゃった。それは、「ホッケ」なんだけど、この時季になると、とにかくムショーに食べたくなる。それで、スーパーに行ったら、すごく美味しそうなホッケのヒラキが真空パックになってるのを発見したんだけど、値段を見たら、ナナナナナント! 1匹580円もしやがった! クルリンパと振り返ると、発泡スチロールの箱に氷水が入ってて、サンマがいっぱい入ってて、1匹90円で売ってたから、ホッケ1匹が、サンマ6匹以上もするってワケだ。いくら何でも、これは高すぎる。だけど、あたしは、ホッケが食べたくて食べたくて、それこそ「ホッケの口」になりかけてたから、どうしても「ホッケは高いからサンマにしよう」って気持ちは起こらなかった。

‥‥そんなワケで、あたしは、10年くらい前のアシスタント時代のことなんだけど、あるお仕事のロケで、青森県に行ったことがある。ちょっと大きなお仕事で、スタッフも3班に分かれてたんだけど、末席にあたしがいた班は、「前ノリ」って言って、前日から青森入りしてた。だけど、これは、今だから言えることなんだけど、あたしは前ノリする必要はなかったのに、ディレクターのハカライで、連れてってもらえることになったものだった。つまり、「撮影の下見をする」って言う名目で1日早く行って、スタッフが制作費で美味しいものを食べたりするっていう「前ノリ」だった。

それで、ぜんぶ書くと長くなりすぎちゃうから、大幅にハショルけど、青森駅の周りって、メインの大通りが巨大なアーケード街になってて、歩いたら回れないほどの広範囲に渡ってお店が並んでる「一大繁華街」って感じだった。それで、その番組は、大物女優さんが娘さんと2人で、青森の美味しいものを食べ歩きする旅行番組だったんだけど、その女優さんがお酒の好きな人だったので、最後に地元で人気のある大きな居酒屋さんに行くことになってて、あたしは、その居酒屋さんに「前ノリ」で連れてってもらった。

で、その時に、あたしが生まれて初めて食べのが、ホタテの貝ガラにタマゴとお味噌を入れて焼いた「貝焼き味噌」とか、ウニとアワビを塩味で炊いた「いちご煮」とか、タラがたっぷり入ってる「じゃっぱ汁」とか、青森を代表する名物料理の数々だった。もう、どれもこれも美味しくて、青森に永住したいと思うほど美味しかった。だけど、これらの名物料理よりも、さらに、あたしが美味しいと思ったのが、ホタテを貝ガラごと焼いてお醤油を垂らしたのと、焼きホッケだったのだ。ホタテは、安岡力也もビックル一気飲みしちゃうほどの美味しさで、身はプリプリだし、大きいし、新鮮だし、とにかく、ヨケイな味付けなんか何もしないで、お醤油を垂らしただけでサイコーだった。そして、もっと美味しかったのが、お皿をはみ出るほど大きい焼きホッケだった。頭が落としてあって、開いてあって、軽く塩をしてある一般的なホッケなんだけど、身はポロポロとお箸で取れるほど柔らかいのに、口に入れるとプリプリで、それまでに食べたどんなホッケよりも美味しかった。

それで、「じゃっぱ汁」や「いちご煮」などの豪華なお料理が並ぶテーブルで、あたしは、ホッケばっか小皿に取って、ニポン酒の冷やをクイクイと飲み続けてたら、隣りにいたスタッフが、「そんなにホッケが好きなの?」って言って、巨大なホッケのお皿をあたしの真ん前に置いてくれた。で、みんなは色々なお料理を食べてるのに、あたしは「ホッケ担当」みたいな感じになっちゃって、ホッケ、ニポン酒、ホッケ、ニポン酒、ホッケ、ホッケ、ニポン酒、ホッケ‥‥って感じで飲んでたんだけど、これがもう至福のヒトトキで、「世の中にこんなに美味しいものがあったなんて‥‥」って思うほど、美味しかったのだ。

だけど、それから、東京に戻って来て、スーパーで買って来て自分で焼いてみたり、色んな居酒屋で注文してみたりしたんだけど、どこのホッケも、それなりには美味しいんだけど、青森で食べたホッケと比べると、ぜんぜん違ってた。もちろん、東京でも、高級なお店に行って、お金に糸目をつけずに注文すれば、青森で食べたのとおんなじくらい美味しいホッケを食べられるんだとは思うけど、あたしが行けるようなのは、お台場のフジテレビの並びにあるチェーン店の居酒屋とかだから、値段も安いけど味もそれなりのホッケしか出て来ない。

だから、あたしは、青森のホッケの美味しさに感動してから、もう10年近くも、青森レベルのホッケを食べてなかった。でも、これが、「ずっとホッケを食べてなかった」って言うんならいいんだけど、そうじゃなくて、色々とホッケを食べてるのに、青森で食べたほど美味しいホッケに巡り会えてないってことだったから、あたしも、あたしの中の小さいきっこたちも、知らず知らずのうちに、「あの美味しいホッケを食べるためには、青森まで行かないとダメなんだろうな‥‥」って思い始めてた。だから、どこかの居酒屋さんでホッケを注文する時も、心の中では、あんまり期待しないで注文するようになってた。

‥‥そんなワケで、今日の夕方、地元の商店街を歩いてたら、タマに行く居酒屋の店長さんが、ドアを開けたまま開店の準備をしてた。それで、目が合ったから軽く会釈したら、店長さんは、「あっ!」って何か思い出したような顔をして、あたしを呼び止めた。それで、お店に入って行くと、「きっこちゃん、サイコーのホッケが入ったよ!」って言った。店長さんは、あたしが何度か、「青森で食べたホッケがメチャクチャ美味しかったこと」とか、「東京では美味しいホッケは食べたことがない」とかって話したことを覚えてて、別に、いつ来るか分かんないあたしのためにホッケを仕入れたワケじゃないけど、タマタマ、すごくいいホッケが入って、タマタマ、お店の前をあたしが歩いてて、タマタマ、あたしが美味しいホッケを食べたがってるってことを覚えてくれてたから、声を掛けてくれたってワケだ。

それで、その居酒屋さんはずっとゴブサタしてたし、今日は少しだけ自由になるお金を持ってたから、久しぶりに1人で外食なんてゼイタクをしてもいいか!って気分になって、チョコっと寄ることにした。そして、まだ開店前だったんだけど、店長さんは、「1杯目はサービスだよ」って言って、生ビールを注いでくれた。生ビールは、最初の1杯目は泡が多いから、いつもサービスしてくれる。それで、ヒジキのお通しも出してくれたので、カウンターに座って、生ビールを飲みながら店長さんとお話しをしてたら、バイトの男の子もやって来て、サクサクと開店準備が進んで、ノレンを出すと同時に、あたしの前に、ホッケが運ばれて来た。

このお店は、普通の焼き魚の場合は、長方形のお皿を使うんだけど、あまりにも立派なホッケだったから、もっと大きな丸いお皿を使ってた。だけど、前も後ろもはみ出してて、とにかく、身が厚くて、見るからに美味しそうだった。それで、まずは、お醤油をかけないで、そのままでヒトクチ食べてみた。割り箸で簡単に身がポロッと取れて、口に入れたら、口の中いっぱいに脂の乗ったホッケの味が広がって、プリプリの触感の奥から、ほんのりとした塩味がして、もう、「味の津軽海峡ホッケ景色やぁ~♪」って感じがした。

あたしの全身に、青森で食べて感動したホッケの味が蘇り、それとおんなじか、ヘタしたらそれ以上のホッケが目の前にある喜びに、小さいきっこたちも次々と現れて、大きなホッケのお皿のまわりでMAXのモンキーダンスを始めた。あたしは、2杯目の生ビールを半分くらいまで飲んでたんだけど、こんなに美味しいものでビールを飲むのなんてもったいないから、すぐにニポン酒を注文しようと思って、「あの~」って言ったら、店長さんのほうから「お酒でしょ?」って言われちゃった。それで、ニポン酒が出て来るまでに、残りの生ビールを飲み干して、万全の体勢で待ってるとこに、良く冷えた辛口のニポン酒が、2合の備前のトックリで登場した。クク~!このコンビネーション!

「どお? サイコーでしょ? ホッケ」って言う店長さんに、「うんうん!」って答えながら、あたしの口の中は、脂の乗ったホッケのプリプリの身と、良く冷えたニポン酒とが、交互にパラダイスを構築して行く‥‥なんてことも言ってみつつ、今度はお醤油をちょっと垂らして食べてみようと思って、お醤油のビンを手にした瞬間、「きっこちゃん、ちょっと待って!」って店長さんに言われた。それで、あたしが、「へ?」って顔をしてたら、店長さんは、小皿にマヨネーズを出して、あたしに渡してくれた。


「そのマヨネーズに、一味をパラッと振って、それにホッケの身をつけて食べてごらん」


あたしは、ニポン酒を飲んでるんだし、頭の中には「お醤油」ってイメージができちゃってたから、「マヨネーズはちょっとな‥‥」って思ったんだけど、とりあえず、言われた通りにしてみた。そしたら、これが、もう言葉にはできないほど美味しくて、それも、ニポン酒に合うの合わないのどっちなの?って言うくらいバツグンの相性だった。良く考えてみたら、アタリメにマヨネーズをつけてニポン酒のオツマミにしたり、マグロの赤身にもマヨネーズをつけて食べたりするから、そんなに変な組み合わせでもないんだけど、焼き魚にマヨネーズってのは、あたしは初めてだった。とにかく、この組み合わせがバツグンで、途中から、お醤油もチョコっと垂らしてみたり、お醤油を垂らしたとこにマヨネーズをつけてみたりと、色々とやってみたんだけど、もともと薄い塩味がついてるホッケだから、マヨネーズをつけるんなら、お醤油は垂らさないほうがいいってことに気づいた。

‥‥そんなワケで、あたしは、念願だった美味しいホッケを食べることができて、他にも色々と美味しいものを食べて、何よりもニポン酒の2合ドックリを5本も飲んで、「2合が5本て1升じゃん!」なんてことも思いつつ、帰路についたってワケだ。久しぶりに、地元のお友達とかとも飲めたし、あんまり記憶はないんだけど、5000円入ってたお財布は1500円くらいになってたから、一応はお金は払ったみたいなんだけど、どう考えても、ものすごくサービスしてくれたか、誰かが払ってくれたみたいな気がする。それにしても、落語でも「あとで良くなるホッケの太鼓」とか、「だんだん良くなるホッケの太鼓」とかってのがあるけど、ずっと食べたくて食べたくて、ようやく巡り会えたからこそ、こんなにも美味しく食べることができたんだな~なんて思った今日この頃なのだ。


★ 今日も最後まで読んでくれてありがとう♪
★ 1日1クリックお願いしま~す!
   ↓   ↓
人気blogランキング


★ 書籍版「きっこの日記」予約フォーム

 ★7&Y★

 ★楽天ブックス★

 ★アマゾン★

|

« 呆れ果てるイイワケ | トップページ | 気の持ちようでハッピー »