暴風への郷愁
今回、沖縄を直撃した台風13号は、ホントにものすごかったみたいだ。台風に慣れてる沖縄の人たちも、「こんなにすごい台風は生まれて初めてだ」って言うほどで、多くの被害が出た。あたしは、沖縄にも九州にも何人かのお友達や俳句仲間がいるので、すごく心配で、チョコチョコと情報を集めてたんだけど、次々と入って来る情報が、「家が飛びそうだ!」だとか、「ガラスがぜんぶ割れた!」だとか、「200本近い電柱が根元から折れた!」だとか、「住民が避難を始めた!」だとか、ホントに心配なものばかりだった。台風の直撃を受けた宮古島のガーラ船のモリゾー船長のブログには、台風が来る前に、ダイビング船の「ジャウトゥー」とガーラ船の「海坊」を陸上げしたんだけど、あまりの強風で、船が心配で落ち着いて寝てられないって書いてあって、その後、ブログの更新が無いから、すごく心配してる。
今回の台風13号は、「925ヘクトパスカル」もあって‥‥って言っても、あたしは、未だに、この「ヘクトパスカル」で言われても、どうもピンと来ないんだけど、西表島では、瞬間最大風速「69.9m」を記録したそうで、こっちの「瞬間最大風速」なら、その凄まじさが良く分かる。普通の台風なら、瞬間最大風速は50mから60mくらいで、60m以上あったら、サスガのヤラセレポーターの阿部祐二でも、演技をしなくてもまっすぐには歩けないだろう。それが、70m近くもあったら、もう外なんかには出られないだろうし、「家が飛びそうだ!」ってのも、決して大ゲサじゃないだろう。その上、沖縄電力によると、八重山諸島では全世帯の約8割に当たる19000世帯、宮古島では7200世帯が停電したそうだ。
九州でも、多くの被害が出た。宮崎県では、巨大な竜巻が発生して、たくさんの住宅が全半壊して、3人が死亡、100人以上の負傷者が出た。JR日豊線の特急列車は脱線して、乗客と運転士の数名がケガをした。長崎県では、三菱重工長崎造船所の高さ60mの鉄製クレーンが倒れたそうだけど、この時の最大瞬間風速が「43.5m」だったって言うから、これから考えると、西表島を襲った「69.9m」の暴風が、どれほど凄まじいものだったかが想像できる。今回の台風で被害を受けた方々に、心よりお見舞いを申し上げます。
‥‥そんなワケで、あたしとしては、他にもショックだったのが、原爆の爆風にも耐えて、平和のシンボルになっていた長崎の山王神社の「大クス」の枝が、2本も折れちゃったってことだ。木自体が折れたワケじゃないけど、樹齢600年を超える老木にとって、直径が1mもある大きな枝が2本も折れたってことは、ものすごいダメージで、今後のケアをきちんとしないと、これが原因になって枯れることもあるからだ。
電信柱やクレーンみたいな、人間が作った人工物が倒壊するのは分かるけど、自然界の大木が倒れたりするのは、ものすごいことだと思う。だって、この「大クス」にしたって、樹齢600年てことは、600年もの間、どんなに強い風が吹いても大丈夫だったのに、今回の台風で、初めて、太い枝が折れたってワケだからだ。きっと、木も何百年も経つと、金属疲労みたいな感じで、若いころよりは耐久力が無くなって来るのかも知れないけど、それにしても、この木にしてみたら、600年間で初めての体験だったってワケで、今回の台風のスゴサが分かる。
それにしても、沖縄から九州から中国地方まで、これほどの大被害が出てるって言うのに、明日までこの国の総理大臣のコイズミも、明日からこの国の総理大臣になる安倍晋三も、テメエのことしか考えてなくて、台風の被災地に飛んでくどころか、台風の被災者たちに対するマトモなコメントすら出さないってんだから、なんなんだろうね、この国の政治家どもって。普通の神経をしてたら、デキレースの総裁選なんかよりも、とにかく真っ先に被災地に飛んでくもんじゃないの? 特に、安倍晋三なんて、自分の地盤の山口県だって被害を受けてるのに、総裁選のバックアップをお願いする時ばっか足しげく通ってたクセに、明日から総理大臣になれることが決まったと思ったら、もう田舎なんか完全無視。サスガ、台風よりもタチの悪い統一協会の回し者だけのことはあるね。
‥‥そんなワケで、あたしの大好きな詩人の山之口貘(やまのぐち ばく)は、明治36年(1903年)に沖縄で生まれて、少年時代をずっと沖縄で過ごした。当時は、学校で沖縄弁を使うことを禁止されていて、ウッカリと沖縄弁を使っちゃうと、「方言札」って言う札を首から掛けられて、見せしめにさせられた。これは、当時の政府による「琉球語根絶運動」の一環で、今で言う、「共謀罪」による言論弾圧みたいなもんだった。だけど、こんなバカげたことに反発した山之口少年は、叱られても叱られても、先生の前でワザと沖縄弁ばかり使い、何枚も掛けられた方言札をマトメてトイレに捨てちゃうような、なかなかミドコロのある子供だった。
だけど、銀行員だったお父さんが、銀行を辞めて、自分で事業を始めたんだけど、大正10年(1921年)、山之口貘が18才の時に、その事業が大失敗しちゃって、一家離散しちゃう。そして、山之口貘は、翌年、19才で単身上京して、今の文京区本郷にあったオンボロ下宿の2階に間借りして、毎日の食べ物にも困るような極貧生活をしながら、詩を書き続けるようになった。それで、ものすごくハショルけど、関東大震災だとか第二次世界大戦だとかを体験して、55才の時に沖縄に戻り、アメリカにメチャクチャにされた故郷の姿にガクゼンとして、ガンになって59才で亡くなった。
そんな山之口貘の、「暴風への郷愁」って言う短編の随筆があるんだけど、そこに、とっても興味深いことが書いてある。19才で上京した山之口貘は、「東京というところは、ものごとをバカに、大げさにいうところだとおもった。」と感じたそうなんだけど、それは、何でもないような風が吹いただけでも、東京の人たちは「暴風」だって言うからだって書かれてる。そして、「しかし、それが結局は、暴風の名産地に生まれたところのぼくの東京観」だったと書いている。瞬間最大風速が、50m、60mの暴風をいつも経験してた自分にとっては、東京の人が大騒ぎする20m程度の風なんて、とても「暴風」のうちには入らないんだけど、暴風らしい暴風が吹かない東京の人にしてみれば、このくらいの風を「暴風」と呼んどかないと、「暴風」と呼べる風が無くなっちゃうって結論づけてる。
それで、沖縄時代の子供のころの思い出として、那覇の真ん中にあった巨大な「がじまるの木」が、暴風で幹から折れちゃった話を書いてるんだけど、その「がじまるの木」は、大人3人が手を結んで、ようやく幹を1周できるほどの大きさだったと言う。さらには、「がじまるの木」は、他の樹木よりも柔軟性があって、もっとも暴風に強い木だって説明してあって、そんな木でさえも倒してしまうほどの暴風を子供のころから何度も何度も経験して来た山之口貘にとっては、東京に吹く20m程度の風など、とても「暴風」とは思えないってことらしい。で、あたしは、山之口貘の詩はどれも好きなんだけど、中でも「がじまるの木」って詩が、一番好きだ。
「がじまるの木」 山之口貘
ぼくの生まれは琉球なのだが
そこには亜熱帯や熱帯の
いろんな植物が住んでいるのだ
がじまるの木もそのひとつで
年をとるほどながながと
気根を垂れている木なのだ
暴風なんぞにはつよい木なのだが
気だてのやさしさはまた格別で
木のぼりあそびにくるこどもらの
するがままに
身をまかせたりして
孫の守りでもしているような
隠居みたいな風情の木だ
あたしは、木登りが好きなんだけど、ふと考えると、もう1年以上も木登りをしてない。少なくとも、今年になってからは一度もしてない。チュッパチャプスを1本持って、木に登って、座り心地のいい枝にまたがって、幹に背中をもたれかけて、遠くを見ながら、チュッパチャプスをゆっくりなめる。これが、あたしの大好きなヒトトキなのに、こんなことをする時間も無いほど、毎日をバタバタと暮らしてたんだ‥‥。
この、山之口貘の「がじまるの木」を読むと、ムショーに木登りをしたくなる。いつか、「がじまるの木」にも登ってみたいって思う。植物に対して、「生えている」じゃなくて「住んでいる」って言ってるとこもいいし、最後の「隠居みたいな風情の木だ」なんて、ホントにサイコーの表現だ。だから、「がじまるの木」をこんなふうに見てた山之口貘にとって、那覇の真ん中にあった大木が折れちゃった時は、ものすごく悲しかっただろうなって思う。
それにしても、沖縄出身の山之口貘は、50m、60mの暴風なんか当たり前って思ってたワケで、東京の人たちが20m程度の風を「暴風」って呼ぶのは大ゲサだって思ってたワケだけど、これって、前に、たった5cm雪が積もっただけで、大パニックになっちゃう東京って、雪国の人たちから見たら笑われちゃうだろうなってことを書いたけど、それとおんなじことだと思う。これは、山之口貘だけが特別なんじゃなくて、きっと、沖縄に生まれた人なら、みんな似たようなもんだと思う。もちろん、いくら沖縄に生まれたからって、暴風が苦手な人もいっぱいいると思うけど、少なくとも、東京の人よりは慣れてるハズだし、その対応もキチンとできると思う。「東京の人よりは」って言うよりも、ニポン中のすべての地域の中で、沖縄の人たちが、一番、暴風や台風に慣れてると思う。
‥‥そんなワケで、これほど台風に慣れてる沖縄の人たちが、「こんなにすごい台風は生まれて初めてだ」って言ったくらいなんだから、今回の台風13号のスゴサって言ったら、東京生まれのヘナチョコなあたしなんかの想像を遥かに超えたものだったと思う。そして、ものすごい被害が出て、未だ復旧されてない地域もたくさんあるってのに、この国の中枢と来たら、協栄ジムにシナリオを書いてもらった八百長総裁選のことで頭がいっぱいみたいだ。そして、口先だけで「地方」「地方」って言いながらも、その「地方」が大変なことになっても、平気で見て見ぬフリをするような大バカ総理大臣が、明日、誕生するんだろう‥‥なんて思う今日この頃なのだ。
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