アカナーと鬼
昔から、季節を代表する美しいものを「花鳥風月」だとか、「雪月花(せつげつか)」だとか、いろいろと呼んでるけど、こういった言葉に必ず入ってるのが、「花」と「月」だ。「花」って言うのは、もちろん「桜」のことで、この、春を代表する季語の「花」と、秋を代表する季語の「月」に共通してるのは、それぞれを眺めて愛でる風習があること、つまり、「花見」と「月見」だ。
それで、お花見の場合は、何月何日って決まってるワケじゃなくて、桜が満開になったらお花見をするワケだから、地域によって日にちが変わる。北よりも南のほうが開花が早いから、桜前線は南から上がって来るワケで、一番早い地域と一番遅い地域だと、1ヶ月以上も差がある。だけど、お月見の場合は、ニポン全国、愛でるのは「中秋の名月」って決まってるから、その年によって日にちは変わるけど、地域によって日にちが変わることはない。
で、今年の「中秋」は、10月6日なんだけど、この日のお天気は、北海道と九州を除いて、ほとんどの地域が雨か曇りみたいだ。東京もお天気が悪いみたいだから、お月見はできないかもしんない‥‥って言っても、これは、暦の上での「中秋の名月」が見られないってだけで、実は、この「中秋」の日は満月じゃないのだ。ま、満月って言えば満月に見えるんだけど、厳密に言うと、ほんのちょっとだけ欠けてて、まだ満月にはなってないのだ。
それで、ホントの満月ってのは、翌日の7日と、その次の8日で、9日から、またちょっとずつ欠け始める。だから、暦なんか関係なく、ホントの満月を愛でるんだったら、7日か8日ってことになるから、6日はお天気が悪くても、まだ希望は持てる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、「月」と言えば「うさぎ」、「うさぎ」と言えば「月」ってワケで、こんなことも知らないと、月野うさぎがセーラームーンに変身して、月にかわってお仕置きされちゃうけど、なんで「月」と言えば「うさぎ」なのかって言えば、そりゃあ、月の模様が、うさぎがお餅つきをしてるように見えるからだ。だけど、「うさぎのお餅つき」って言うのは、ニポンと韓国だけで、中国では、おんなじ「うさぎ」だけど、「お餅」じゃなくて、「薬草」をついてるとこだって言われてる。そして、中国は広いから、他にも、「カニ」だとか、「女性」だとか、「巨大なカエル」だとか、いろんな見方がある。
その他にも、アメリカは「女性の横顔」、インドは「ワニ」や「トカゲ」、ヨーロッパは「カボチャを食べる男」や「キャベツ畑の泥棒」や「木につながれたロバ」、アラビアは「立ち上がって吠えているライオン」、インドネシアは「編み物をする女性」、ベトナムは「木の下で休む男」‥‥って感じで、世界中にいろんな見方がある。だけど、あたしは、正直に言って、子供のころから今まで、数え切れないくらい「うさぎのお餅つき」を見ようと努力して来たけど、一度たりとも、そう見えたことがない。どんなにがんばって見ても、どれが「うさぎ」なんだか、どれが「ウス」なんだか、ぜんぜん分かんない。だから、インドの「ワニ」や「トカゲ」くらいなら、まだ何とか見えそうだけど、ヨーロッパの「カボチャを食べる男」や「キャベツ畑の泥棒」とか、インドネシアの「編み物をする女性」なんて、絶対に見えないと思う。
ま、あたしは、ニポンに生まれたニポン人だから、他の国のことはどうでもいいとして、ニポン人として、やっぱり一度くらいは、「うさぎのお餅つき」を見てみたい。だから、お月見の時だけじゃなくて、どんな季節でも、満月を見るたびに、「うさぎ‥‥うさぎ‥‥」って思って見てるんだけど、どうしても見えない。だけど、ニポンには、「うさぎのお餅つき」の他にも、「オケを担いでるアカナー」ってのがある。これは、沖縄の大宜味村(おおぎみそん)に伝わるもので、「アカナー」ってのは、妖怪みたいなもんだ。
沖縄って言えば、大きなガジマルの木とかに宿ってる木の精、「キジムナー」が有名だけど、この「アカナー」ってのは、キジムナーの弟だ。ちなみに、キジムナーは、真っ赤な髪をした子供の姿をしてるけど、弟のアカナーのほうは、髪だけじゃなくて、全身が真っ赤な猿みたい姿をしてる。それで、キジムナーは巨木に住んでるけど、アカナーは月に住んでるって言われてる。もうちょっと詳しく説明すると、キジムナーもアカナーも、海での漁が得意なんだけど、捕まえた魚の目玉だけを取るのがキジムナーで、カニが大好物でカニばっか捕まえてるのがアカナーだ。そして、アカナーは、この世に人間が誕生する前から月に住んでて、最初に地球上に人間の子供が誕生した時、何も食べるものがなくて困ってたから、月から地球へお餅を投げて、その子供が飢え死にしないようにメンドウを見たそうだ。
‥‥そんなワケで、沖縄の大宜味村には、「アカナーと鬼」って言う昔話が残ってる。どんなお話なのかって言うと、アカナーが月に住むようになったイキサツを伝えてるお話だ。
むかしむかし‥‥って言っても、これは、まだ、アカナーが月に住む前の話だから、地球上に人間が誕生する前ってワケで、そんじょそこらの「むかしむかし」なんてレベルじゃないくらいの「むかしむかし」なんだと思うけど、とにかく、ものすごくむかしむかし、アカナーは、鬼を誘って海へ釣りに行った。それで、アカナーは木の舟を造ったんだけど、鬼は泥の舟を造って、それぞれ、その舟に乗って沖へ出た。で、アカナーのエサには次々に魚が食いついて、どんどん釣れるんだけど、なぜか、鬼のほうはぜんぜん釣れない。それで、鬼は、たくさん釣れてるアカナーに、「どうしてオレには釣れないのかな?」って聞いた。そしたら、アカナーは、こう答えた。
「あんた、鬼のクセに、合わせ方がヘタなんだよ! ものまね芸人のくじらを見習って、人気釣り番組ビッグバイトを見て、菊元俊文の電撃鬼合わせを勉強しろよ!」
‥‥ってのは冗談で、ホントは、こう答えた。
「舟のトモ(後ろの部分)に、あんたの小便をひっかけて、そこを舵(かじ)でぶっ叩けば、魚がうじゃうじゃ寄って来るさ~」
それで、鬼は、アカナーに言われた通りに、舟のトモにオシッコをいっぱいひっかけて、そこを舵で思いっきり叩いてみた。そしたら、皆さんのご想像通りに、泥の舟はぶっ壊れちゃって、ブクブクと沈んで行った。もちろん、鬼は、バシャバシャと溺れてる。アカナーは、軽いジョークのつもりだったのに、鬼が真に受けちゃったもんだから、このままだとぶん殴られると思って、必死に舟を漕いで、陸へと逃げて来た。それで、トウガラシの山の後ろに隠れた。
しばらくしたら、びしょ濡れの鬼が、カンカンに怒りながら、こっちへ歩いて来るのが見えた。それで、アカナーは、このままじゃ見つかっちゃうと思って、両手に山盛りのトウガラシを持って、それで自分の顔を隠して、そらっとぼけて鬼とすれ違おうとした。あんな冗談を真に受けちゃうような鬼だから、これくらいの変装でもごまかせると思ったからだ。
だけど、官僚の書いた文章を棒読みするしか能がない安倍晋三じゃあるまいし、いくらバカな鬼でも、これには騙されなかった。そして、鬼は、アカナーを怒鳴りつけた。「やばい!」って思ったアカナーは、両手に持ってたトウガラシをトッサに差し出して、「これで顔をこすると、海の向こうの本土や中国まで見えるようになるさ~」って言った。そしたら、民主党並みに学習能力のない鬼は、またまたアカナーの言葉を真に受けちゃって、両手に山盛りの真っ赤なトウガラシを受け取って、それで顔をこすり始めた。
こんなことしたら、顔中がヒリヒリするし、目は開けられなくなるし、もう大変。鬼が苦しんでる隙に、アカナーはダッシュで逃げて、池のほとりの大木に登って、池のほうに張り出した太い枝にしがみついた。そして、「ここでホトボリがさめるまでじっとしてよう」って思ったところに、まるで、スチーム係長のごとく、頭のテッペンから怒りの湯気をモクモクと出した鬼がやって来た。
鬼は、トウガラシでこすった目をシバシバさせながら、「あの野郎! 絶対に許さんぞ!」と叫ぶと、池の水で目を洗おうとして、かがみ込んだ。そして、その瞬間、池に映ったアカナーの姿を見つけた。だけど、鬼の目は、トウガラシのセイでかすんでて、ハッキリと見ることができなかった。それで、鬼は、木の枝にいるアカナーが池に映ってるとは思わなくて、アカナーが池の中に隠れてると思っちゃった。で、鬼がとった行動と言えば、当然、「この野郎!」って叫びながら、池の中にバシャバシャと入って行って、アカナーが映ってた場所へ飛びかかって、大暴れした。
そしたら、そのイキオイで、池の水はみんな外へあふれちゃって、アッと言う間に池が干上がっちゃった。そして、どこにもアカナーがいなくて、呆然と立ち尽くす鬼の周りで、何匹ものフナや手長エビがピョンピョンと跳ねてる。それを見た鬼は、もうアカナーのことなんか忘れちゃって、夢中でフナや手長エビを捕まえ始めた。そして、すぐにたくさんのフナや手長エビを捕まえることができたんだけど、あまりにも大漁だったから、それを持って帰る方法がない。
池のほとりに腰掛けて、しばらく考えてた鬼は、ポンと手を打って立ち上がると、1匹のフナを手にして、それを体の毛に結びつけた。今度は、手長エビを手にして、それも体の毛に結びつけた。そして、小山のようになっていたフナと手長エビを全身の毛に結びつけたら、鬼は、まるで、お正月に飾る熊手のような姿になった。
それで、鬼としては、グッドアイデアだと思った運搬方法だったんだけど、この一部始終を木の上から見てたアカナーは、全身にフナと手長エビをぶら下げた鬼を見て、もう笑いをこらえることができずに、思いっきり大爆笑しちゃった上に、「欧米かっ!」ってツッコミまで入れちゃった。この鬼の姿の、どこが「欧米」なんだか分かんないけど、たぶん、際限なくモノを欲しがる人間性が、欧米人みたいだってことなんだろう。竹中平蔵みたいに。
もちろん、鬼は、すぐに木の上のアカナーを見つけて、それこそ「鬼の形相」で木を登って来た。アカナーも、必死に木を登って逃げるけど、木のテッペンは突き当たりだ。木のテッペンから動けないアカナーと、ジワジワと登って来る鬼。そして、アカナーは、困った時の神頼みってワケで、空を見上げてこう言った。
「天の神様! あなたの言いつけなら、水汲みでも塩汲みでも、どんなことでもいたします! だから、私のことを可愛いやつだと思ったら、鉄のハシゴを下ろしてください! 可愛いやつだと思わなかったら、縄のハシゴを下ろしてください! どうかお願いします!」
そしたら、天の神様は、アカナーの願いを聞き入れてくれて、鉄のハシゴを下ろしてくれた。それで、アカナーは、そのハシゴを上って行った。それを見てた鬼は、アカナーのマネをして、同じように言ってみた。だけど、天の神様は、鬼のことは可愛いやつだと思わなかったから、縄のハシゴを下ろした。それで、鬼は、その縄のハシゴを上ってったんだけど、途中まで上ったとこで、縄が切れちゃって、鬼は落っこちた。そして、木の枝に叩きつけられて、死んでしまった。そして、月まで逃げたアカナーは、月の住人となって、天の神様のために、水汲みや塩汲みをするようになった。
‥‥そんなワケで、若干、「きっこ風味」にアレンジしちゃったけど、これが、沖縄の大宜味村に伝わる「アカナーと鬼」って言う昔話で、月の模様が「オケを担いでるアカナー」に見えるってのは、このお話から来てるもので、「オケを担いでる」ってのは、水汲みや塩汲みをしてるとこなのだ。だから、6日はお天気が悪くても、7日か8日がもしも晴れたら、たまにはお月見でもして、月の模様が「オケを担いでるアカナー」に見えるかどうか、のんびりと眺めてみよう。そして、どうしても、「オケを担いでるアカナー」には見えなくて、その代わりに、「女性の横顔」や「カボチャを食べる男」、「キャベツ畑の泥棒」や「木につながれたロバ」に見えちゃった場合には、自分自身に対して、「欧米かっ!」ってツッコミを入れて欲しいと思う今日この頃なのだ(笑)
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