時給も格差社会
神戸市内の知的障害者の作業所で、障害者たちをタダ同然で労働させてたとして、神戸東労働基準監督署は、社会福祉法人「神戸育成会」に改善の指導をした。ここは、クリーニング工場やリサイクル工場などの施設をいくつも持ち、そこで知的障害者たちを働かせてるんだけど、今回、問題になったのは、そのうちの3施設で働かせてた16人の知的障害者で、毎日、朝から夕方まで、普通の人たちと同じ時間を働かされてたのに、月にもらってたのが、たった2万円ちょっと、年間でわずか25万円だった。これは、時給にすると、たったの120円~130円だ。
だけど、やらされてる仕事は通常のクリーニング作業で、年間に約1600万円もの収益を上げていた。で、支払ってたお給料は、16人×25万円=400万円てワケで、差し引いた1200万円を「神戸育成会」がボロ儲けしてたのかって言うと、そうじゃない。この他に、「障害者のメンドウを見てる施設」ってことで、神戸市から年間に約1400万円もの補助金までもらってたのだ。つまり、「神戸育成会」は、知的障害者16人を労働させることによって、年間に3000万円もの収入を得ていて、そのうちの400万円だけを本人たちに支払って、残りの2600万円をフトコロに入れてたってワケだ。
もちろん、知的障害者たちに仕事の指導をするスタッフの人件費や、他にもいろんな費用も掛かると思うけど、それにしても、時給120円てのは、あまりにも酷すぎる。それで、こんなことを何十年も続けて来た「神戸育成会」はって言うと、あまりにも儲かりすぎちゃって、去年の2月には、総工費6億円のほとんどを自己資金でまかなって、5階建の立派な「育成会会館」をおっ建てちゃった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、ニポンでは、労働法によって、都道府県別に「最低賃金」てもんが決められる。それで、兵庫県の場合は、今は時給683円だから、時給120円なんてのは、当然、ぜんぜん足りない。ちなみに、この「最低賃金」がニポン中で一番高いのは、もちろん東京都で719円、2位が神奈川県で717円、3位が大阪府で712円、あとはすべて600円台で、ニポン中で一番低いのが、青森県、岩手県、秋田県、沖縄県の610円だ。だけど、これは、単なる「地域別の最低賃金」で、この他に、「産業別の最低賃金」てのが決められてる。東京都の場合なら、鉄鋼業が810円、産業用機械製造業が798円、自動車製造業が797円、商品小売業が770円‥‥ってふうに、他にもいろいろと決められてる。
だから、東京都の最低賃金が719円だからって言っても、東京都内で働いてる人で「産業別の最低賃金」に分類されてる職種に就いてる人は、こっちの時給のほうが適用される。たとえば、東京都内で「自動車部品の組み立て」の仕事をしてたら、最低でも797円は保障されるワケで、もしもそれ以下の人がいたら、東京都の最低賃金の719円以上をもらってたとしても、それは、雇用者側がインチキしてるってことになる。
この最低賃金は、ほぼ毎年見直されてるんだけど、その地域の物価を基準に決められてる。だから、考えようによっちゃ、駐車場代だけで月に10万円以上もする東京の真ん中に住んでて、時給719円で働くよりも、駐車場付きの一軒家が月に5万円で借りられる秋田に住んでて、時給610円で働いてたほうが、結果的には得かもしんない‥‥なんてことも言ってみつつ、この最低賃金のうちの「産業別の最低賃金」てのは、誰でも保障されてるワケじゃなくて、年令が「18才から64才まで」って決められてるから、17才のバイトなら、小売業であっても、770円は保証されない。だけど、「地域別の最低賃金」のほうは、年令には関係なくすべての労働者に適用れるから、東京都内で働いてる人なら、何才でも、どんな職種でも、絶対に719円以上は保障される。
で、兵庫県の場合は、この「地域別の最低賃金」が683円なんだから、労働者の年令が18才以下だったとしても、見習い期間だったとしても、雇用者側は、ホントなら、絶対に683円以上は保障しなくちゃなんない。それなのに、「神戸育成会」は、どうして時給120円で人を働かせるなんていうデタラメなことをしてたのかって言うと、これは、労働法の網目をくぐってた‥‥って言うか、労働法が適用されないように、うまいことやってたからだ。労働に対する賃金てのは、正規の労働力として雇用した労働者に対して支払わなきゃなんないもので、この最低賃金を定めた労働法も、この「正規の労働者」に対しての法律だ。そして、特別な場合、たとえば、知的障害者などに「自立するための訓練」として仕事をさせる場合などは、この「正規の労働者」とはみなされず、労働法は適用されない。つまり、「神戸育成会」は、この法律をうまいこと利用してたってワケだ。
一般の人を外部から雇ったら、それは「正規の労働者」になっちゃうから、法に従って、最低賃金の683円以上を保障しなくちゃなんない。でも、自分のとこの知的障害者たちを「自立するための訓練」て名目で働かせれば、最低賃金法や労働基準法や労働衛生法などの労働法には縛られなくなる。だけど、知的障害者などを「自立するための訓練」として仕事させる上でも、「作業収入は必要経費を除き、障害者に全額工賃として支払う」「能力により工賃に差を設けない」「出欠や作業時間、作業量などは自由で、指導監督をしない」などの決まりがあって、施設側は、これらを守って、初めて「労働」じゃなく「訓練」て言えるようになる。
つまり、その施設の知的障害者たちが、それぞれ自分の出勤したい日だけ出勤して、自分の働きたい時間だけ働いて、自分のできるぶんだの作業をすればいいワケで、そこには、管理側の強制があっちゃいけないワケだ。そして、その施設での作業によって利益があった場合には、個々の能力によって工賃に差をつけずに、必要経費を差し引いた全額を全員に平等に配分して支払わなくちゃなんないってワケだ。
だけど、「神戸育成会」は、知的障害者たちを朝から夕方まで厳しく管理して働かせてた上に、作業収入のほとんどを巻き上げてた。そして、何よりも酷いのは、遅刻した者は「罰金」の名目で、もともと低かった工賃をさらに下げられてたのだ。「遅刻したから賃金を下げる」ってのは、まさに一般の労働者に対する対応だと思うし、この1点を見ただけでも、「出欠や作業時間、作業量などは自由で、指導監督をしない」「能力により工賃に差を設けない」などの規定に違反してることは明白だ。それに、どんな状況だとしたって、今のニポンで時給が120円だなんて、何かの冗談としか思えない。
でも、上には上があるように、下にも下があるワケで、この「時給120円」だって、羨ましいと感じる人たちがいる。それが、刑務所で懲役刑に服してる犯罪者たちだ。刑務所内での作業は、工具を使って家具を作ったり、調理器具を使って炊事をしたり、何らかの「器具」を使うものや、ある程度の専門知識が必要なものが「A作業」、体が不自由で他の人たちと同じ作業ができない人や、刑務所内で問題を起こして独房に入れられてるような人が、房内でやらされるのが「C作業」、そして、それ以外が「B作業」って分けられてる。それで、それらの中にも、10等工(見習い工)から1等工までの段階があって、賃金は等級によって決められてるんだけど、その時給ってのが、コレだ。
10等工 5円20銭
9等工 6円50銭
8等工 8円50銭
7等工 10円70銭
6等工 13円90銭
5等工 15円50銭
4等工 19円20銭
3等工 23円30銭
2等工 28円90銭
1等工 36円70銭
つまり、刑務所内では、最高でも時給が「36円70銭」てワケで、1日に8時間働いても、300円にもならないのだ。それどころか、入所したばっかの見習い工は、時給がたったの「5円20銭」だから、1日働いても40円、1ヶ月で1000円にもならないのだ。それで、1等工まで昇格できるのは、A作業をやってる人だけで、B作業の場合は最高でも3等工、C作業の場合は最高でも5等工までしか昇格できない。まあ、悪いことをして服役してるんだし、家賃も食費もタダなんだから、その上、たくさんのお金まで払うこともないとは思うけど、それにしても、今どき「20銭」だの「50銭」だのって、世の中で流通してない貨幣単位を使ってるズレ具合にビックル一気飲みだ。せめて、1円以下は切り上げるなりして欲しいと思う。
‥‥そんなワケで、刑務所に服役してる犯罪者と比べたら、「神戸育成会」で働かされてる知的障害者のほうが、まだマシなんだろうけど、今回のことって、「神戸育成会」だけのことなんだろうか? それとも、たまたま発覚したのが「神戸育成会」のケースだったんだろうか? 全国の都道府県には、たくさんの「育成会」があって、どこも「神戸育成会」とおんなじように、知的障害者を「手助けするため」って名目で働かせてるけど、他の施設は、どこもキチンと規定を守って、利益から必要経費を差し引いたぶんをちゃんと賃金として分配してるんだろうか? そして、仕事をしたがらない知的障害者を時間で拘束したり、ムリヤリに働かせてたりはしてないんだろうか?
あたしは、今回の「神戸育成会」のニュースを聞いて、すぐに、先月の大阪府八尾市の事件を思い出した。1月17日に、近鉄八尾駅前の歩道橋で、吉岡一郎容疑者(41)が、3才の子供を投げ落とした事件だ。吉岡容疑者は、地元の知的障害者の授産施設、「ゆうとおん」に入所していて、この日は、自分たちで作ったクッキーを駅前で販売していた。もちろん、施設の職員が付き添ってたけど、吉岡容疑者は職員の目を盗んで逃げ出して、たまたま近くを歩いていた子供を投げ落としたのだ。そして、警察の取り調べに対して、「仕事のストレスがたまっていて、むしゃくしゃしていた」「仕事がイヤで、何か悪いことをすれば仕事場に戻らなくていいと思った」って供述したそうだ。この供述だけを信じれば、この施設の「働かせ方」に、何か問題があったんじゃないかって思えて来る。
でも、吉岡容疑者の供述は二転三転してて、あとからは、「同じ施設の女性を好きになったがうまくいかなかったので、施設を出たくなった」とも言ってるそうだ。それに、何よりも、吉岡容疑者は幼児に対して異常な関心を持ってて、1987年から2000年までの間に、子供の連れ去り事件などで6回も逮捕されてて、刑務所にも服役してた。だから、「仕事がイヤで」ってのはウソであって、ホントは、ただ単に幼児に危害を加えたかっただけなのかも知れない。そして、幼児にしか興味がないのなら、「同じ施設の女性を好きになったがうまくいかなかったので」ってのも、ウソって可能性もある。
とにかく、この吉岡容疑者の場合は特殊なケースなんだから、供述を鵜呑みにして、そのまま「仕事のさせ方に問題があった」って考えるのは短絡的だと思う。だけど、1つだけ言えることは、この吉岡容疑者は、何度も逮捕されてる上に、服役までしてた犯罪者で、以前の施設を「子どもを連れ回す傾向がある」「粗暴で手に負えない」って理由から追い出された男であり、今回の事件当時は、精神科にも通院してたのだ。そんな男なのに、女性の職員を付き添わせただけで駅前に立たせて仕事をさせてたのは、施設側の認識が甘すぎたんだと思う。
だけど、これは、結果だけを見てのあたしの客観的な見解であって、施設側の話を聞いてみると、印象はまた違って来る。この施設、「ゆうとおん」の畑健次郎理事長は、事件後の記者会見で、吉岡容疑者が外出する時には、必ず職員やヘルパーを付き添わせたり、余分なお金を持たせないように気をつけてたってことを述べて謝罪した。でも、吉岡容疑者を入所させたイキサツについては、「(服役していたという)状況からみて、吉岡容疑者を受け入れるところは他にないだろう」って判断して、自分の施設で受け入れることを決意したことや、再び犯行に及ばないように、独自に対策を立てて努力してたことも伝えた。
この会見で、畑理事長は、「可能な限りのことをしてきたつもりですが、力不足で不十分でした」って述べたけど、この言葉の裏には、行政の怠慢がある。少ない職員数で多くの知的障害者を看ている「ゆうとおん」では、吉岡容疑者を受け入れる上で、八尾市にも支援の要請をしてた。だけど、八尾市側からは、具体的な支援は何もなく、市の職員たちは、再発防止のための相談に乗ることすらしなかったのだ。ようするに、コイズミ内閣が作り上げた「民間への丸投げ体質」が、こんなとこにまで蔓延してたってワケだ。メンドクサイものは、みんな民間へ丸投げして、相談にも乗らず、何か問題が起こっても、政府はいっさい関知しませんってワケだ。耐震偽装問題の場合だって、悪いのは構造計算書を偽装した建築士であり、それを黙認してたデベロッパーであり、それを見抜けなかった民間検査機関であり、われわれ国交省には何ひとつ責任はありませんってことで終わりにさせようとしてるけど、この問題もまったくおんなじ背景がある。
‥‥そんなワケで、この吉岡容疑者の事件は特殊なケースだけど、「神戸育成会」の問題は、耐震偽装問題とおんなじで、それこそ氷山の一角だろう。全国の知的障害者の社会福祉法人の多くが、立派なビルを建てたりしてる事実を見れば、数え切れないほどの知的障害者が、タダ同然で強制的に働かされてることは簡単に推測することができる。結局、何でも民間に丸投げする無責任な政府と、それを悪用して私腹を肥やす企業や法人て図式が無くならない以上は、いつの世も泣きを見るのは、長期ローンでマンションを買うサラリーマンから、障害者や病人やお年寄りに至るまで、社会的弱者、格差社会のピラミッドの底辺にいる国民たちだってことだ。まあ、そういう社会を作ってる政党が、未だに政権与党の座に居座ってるってことは、国民の多くがそういう社会を望んでるってことなんだろうから、あたしが文句を言ってもジンジャエールなんだろうけど、社会的弱者を虐げるような国を「美しい国」だなんて思える感覚が、あたしには、どうしても理解できない今日この頃なのだ。
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