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2007.09.05

長葱エレジー

高い!高い!高い!高い!高~~~~い!‥‥って、思わず叫んじゃうけど、何がって、長ネギがだよ! いつもなら、太くて長くて立派なのが3本で98円とかで、どんなに高い時でも150円以下のハズなのに、もう1ヶ月以上も、ずっと、メチャクチャに高くて、手も足も出ないし、ヒゲもシッポも肉球も出ない。何しろ、3本で298円だの348円だの、1番マシな時でも248円だのって、完全に薬味の範疇を超えちゃってるからだ。売ってるほうのスーパーにしたって、あまりにも高くてお客さんに申し訳ないからって、最近じゃバラ売りしてて、1本98円だと。

百歩ゆずって、ダイコンとかニンジンとかが高いんならガマンするけど、長ネギはダイコンやニンジンとは違って、細かく切って、おそばとかラーメンとか冷やっことかに乗っけるための薬味なんだから、こんな金額は絶対に払えない。ダイコンとかニンジンなら、それだけ食べてもお腹がいっぱいになるけど、細かく切った長ネギは、それだけ食べるワケにも行かないし、それだけでお腹がいっぱいにもなんない。ようするに、長ネギってのは、食べ物ってよりもスパイスに近いジャンルで、「具」としては数えないものだ。

キツネそばの上に、オアゲ、ナルト、ホウレン草、長ネギの千切りが乗ってたら、オアゲとナルトとホウレン草は「具」だけど、長ネギの千切りは「具」としては数えない。どっちかって言うと、七味唐辛子とおんなじほうのジャンルになる。ラーメンにしたって、チャーシューやシナチクや茹でタマゴは「具」だけど、その上の長ネギの千切りは「具」としては数えない。たとえば、ラーメンの上に山盛りの長ネギが乗ってて、それを売り物にしてる「ネギラーメン」の場合は別だろうけど、それ以外の普通のおそばやラーメンの場合は、長ネギの千切りは「具」としては数えない。だって、何の「具」も入ってない「かけそば」を注文したって、長ネギの千切りだけは乗ってるんだから、これが何よりの証拠だと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、あたしは、もう1ヶ月以上も、長ネギをガマンしてる。おそばを茹でて食べる時は、チューブのワサビしか使ってないし、金ちゃんラーメンを作って食べる時は、コショウを振りかけるだけだ。そして、大好きな冷やっこを食べる時も、オカカとお醤油をかけるだけだし、あたしのメインのオカズである納豆を食べる時も、カラシとお醤油をかけるだけだ。だから、おそばも、金ちゃんラーメンも、冷やっこも、納豆も、すごく味気ない。だけど、あたしは、別に300円が無いワケじゃない。ただ、今まで100円以下で買ってたものが、一気に3倍に値上がりしたことに対してイキドオリを感じてるワケで、さらには、まったくおんなじ長ネギが3倍に値上がりしたんならともかく、そうじゃなくて、100円以下だった時よりも遥かに悪い品物が3倍に値上りしてるから、激しいイキドオリを感じてるワケだ。

前は、太くて長くて立派なのが3本で98円とかで、リトル高い時でも128円とかで、ワリと高い時が148円とかだった。それで、あたしは、98円なら普通に買ってたし、128円ならリトル考えてから買ってたし、148円ならワリと悩んでから買ったり買わなかったりしてた。だけど、ここに共通してたのは、どの値段の時でも、長ネギ自体は、太くて長くて立派な品物だったってことだ。おそばやラーメンの薬味としてタップリ使うとしても、1本の長ネギを10cmも刻めば十分だったし、冷やっこや納豆の場合は、5cmも刻めば有り余るほどだった。そして、長ネギ自体の長さも長かったから‥‥って、「長」って文字を連発しちゃったけど、使える部分が40cmくらいはあるから、1本でおそばやラーメンなら4~5回、冷やっこや納豆なら10回近くも使えた。

だけど、今、スーパーに並んでる長ネギは、高いクセに品物が悪い。まあまあの長ネギだと、それこそ1本で150円、3本で400円前後もしちゃうし、3本で300円前後のものだと、細いし短いし使える部分が少ないのだ。その上、いつもの長ネギなら、外側を1枚だけ剥けば使えるのに、今の高い長ネギは、1枚剥いただけだと、まだ次のとこが固かったりして、もう1枚剥かなきゃならなかったりする。そして、そうすると、タダでさえいつもより細い長ネギが、さらに細くなっちゃって、10cmくらい刻んでも大した量にならない。

特に、高くなった長ネギの場合は、3本のうちの1本は、まるで抱き合わせ商法のように、小指よりも細いようなのが混じってたりもする。3本が紺色のテープでマトメてある長ネギの山を見ると、どの3本セットも、そのうちの1本がヤタラと細かったりする。つまり、この3本セットを作る時に、まあまあマシな長ネギの山と、細くて売り物になんないような長ネギの山があって、マシなほうから2本、ダメなほうから1本を取って、テープでマトメてるってことだろう。だから、この情けない「抱き合わせ細ネギ」の場合だと、1本ぜんぶを刻んで、ようやくおそばに乗せられる量になる程度で、ちゃんとした時の立派な長ネギと比べると、5分の1くらいの量にしかなんない。で、あとの2本のまあまあマシなほうの長ネギでも、おそばに乗せるためには半分くらいを刻まなきゃなんないから、値段は3倍にもなってるってのに、使える全体量としては半分以下なのだ。

‥‥そんなワケで、これが、どんなに金ちゃんラーメンにパンチが無くなろうとも、どんなに納豆が味気なくなろうとも、あたしが高い長ネギを買わずにガマンしてる理由なのだ。おんなじものが3倍の値段になってるだけなら、まだ許容できる範囲なんだけど、全体量が半分以下になった上に値段が3倍になってるんだから、実質的には6倍以上の値上がりってことで、その上、味まで悪いんだから、とてもじゃないけど買う気にはなれない‥‥って、「長ネギが高い」ってことに対する文句だけで、ここまで2500文字近くも書いて来たあたしもアッパレだと思うけど、ま、農業的に不作だからお野菜が高くなるワケで、長ネギに限らず、どんなお野菜でも、高い時にはモノは悪くなる。

そして、他のお野菜はみんな安いのに、長ネギだけが高くなるってことはなく、他のお野菜も、それなりに高くなってる。たとえば、キャベツやレタスやダイコンは、どれも200円くらいだから、ふだんの2倍くらいになってる。キュウリも高いし、ホウレン草も高いし、ほとんどのお野菜が2倍くらいの値段になってる。だけど、不思議なことに、ニンジンだけは値上がりしてなくて、いつもの通り、3本入りのが100円のままだ。だから、もしかしたら、ニンジンは猛暑に強いのかもしんないけど、長ネギは冬のお野菜だから、夏の暑さに弱いのはジンジャエールだ。

で、こんなにも長ネギが高くて困ってる今、たまたま出かけた先で通りかかった八百屋さんで、もしも太くて長くて立派な長ネギが3本で50円で売られてたら、普通は絶対に買っちゃうよね。それも、1束じゃなくて2束は買っちゃうと思う。だけど、これが、オシャレしてお友達の結婚式に向かってるとこだったり、喪服を着て知り合いのお通夜に向かってるとこだったりすると、買うことはできない。もちろん、スーツを着て打ち合わせに向かってる時でもムリだし、お仕事に向かってる時でもムリだ。つまり、長ネギってのは、どこにでもぶらさげて行けるものじゃないってワケだ。

だから、もしもそんな状況になったら、帰りに八百屋さんに寄って買おうと思う。だけど、最初に見つけた時点で、長ネギの残りが少ししかなかったり、他にも、帰りにこの八百屋さんの前を通る時には、もう夜遅くなってて、絶対に閉まってる時間だって場合には、泣く泣くあきらめるしかない。そして、あたしは、思いっきり後ろ髪を引かれる思いで、その八百屋さんをアトにすることになる。

でも、もしもこれがデート中だったらどうするだろう? ものすごく具体的に言うと、あたしの場合は、相手と場所による。何年も付き合ってる気心知れた相手とのデートで、場所も地元とか三軒茶屋とか下北沢とか自由が丘とかなら、デート中でも長ネギを買っちゃう。だけど、気心知れた相手とのデートでも、これから六本木に映画を観に行くとかの場合には、サスガに長ネギをさげて六本木の映画館には入れないから、とりあえずあきらめる。そして、初めてデートする相手の場合には、場所がどこであろうと、長ネギを買うことはできない。これは、あたしだけじゃなくて、ほとんどの女性がおんなじ感覚だと思う。

‥‥そんなワケで、あたしの大好きな短編小説で、芥川龍之介の「葱(ねぎ)」って作品がある。主人公は、神田神保町のカフェで女給さんをしてる「お君(きみ)ちゃん」ていう美人で、名前も、美人てとこも、ナニゲにあたしのことみたいだ(笑) オマケに、髪結いさんの2階に間借りしてるから、そこんとこも、何となくあたしに関連してて、どうしても他人とは思えない。ちなみに、お君ちゃんは、年のころは16か17の夢見る乙女で、まだバージンだ。

そんなお君ちゃんが、ヒソカに思いを寄せてた田中くんていう男性から、ある日、デートに誘われた。田中くんは、無名の芸術家なんだけど、詩も書くし、バイオリンも弾くし、油絵も描くし、役者もやってるし、歌カルタもうまいし、薩摩琵琶(さつまびわ)もできるマルチな才能を持ってるから、お君ちゃんはメロメロだった。だけど、ハッキリ言えば、そのどれもがイマイチだから無名なんだと思うけど、ウブなお君ちゃんから見れば、「何でもできるステキな人」ってふうに見えてたのだ。で、お君ちゃんは、前の日から落ち着かなくて、髪結いさんの2階の六畳間で、あれこれと妄想にふけりながらデートの当日を迎える。そして、精一杯のオシャレをして、待ち合わせの場所に行くと、田中くんは、いつものカッコイイ姿で待ってるってワケだ。

それで、待ちに待った初デートがスタートするんだけど、初めて握られた手の感触にドキドキしつつ、町を歩いて行くと、1軒の八百屋さんがあった。そして、冬ってこともあって、八百屋さんの店先には、冬のお野菜や果物がマウンテンに積み上げられてたんだけど、お君ちゃんがふと目をやると、長ネギの山のとこに、「1束4銭」ていうフダが立ってた。この金額がどんなもんなのかってのは、他のとこに、お君ちゃんの六畳間の家賃が「1ヶ月で6円」、お米が「1升で70銭」て記述が出て来るから、そこから考えてみる。今だと、お米は5kgで2000円くらいで、お米の1升は約1.5kgだから、今だと1升が約600円てことになる。つまり、600÷70=約8.6ってことで、当時の1銭は今の約8.6円てことになるから、「1束4銭」の長ネギは、今で言えば「1束35円」てことになる。

でも、あたしは、この「1束」は、今みたいな3本とかじゃなくて、もっと多いような気がした。今でも、泥のついた長ネギが10本くらい束になってるヤツを見るけど、もしかしたら、そんなのかもしんない。だけど、1束が何本なのかについては、どこにも書かれてないから、この点については推測でしかないんだけど、たとえ3本だったとしても、メチャクチャに安い値段てことになる。そして、憧れの田中くんと手をつないで初デートを楽しんでたお君ちゃんは、この長ネギの値段を見たトタンに、それまでの夢見心地の気分から、一気に現実世界へと引き戻されちゃったのだ。

お君ちゃんの頭の中には、毎月の家賃や、お米代や、電気代や、炭代や、その他モロモロの生活費で苦しんでる現実が渦巻いちゃって、「こんなに安い長ネギを買わない手はない!」ってことになっちゃって、ポカーンとしてる田中くんを待たせたまま、その場で反射的に、2束もの長ネギを買い込んじゃったのだ‥‥って、オチの部分まで書いたから、完全なネタバレゲリオンになっちゃったけど、この、毎月の家賃や光熱費で苦しんでるってとこも、とても他人とは思えない設定だ。

‥‥そんなワケで、あたしは、どんなに安い長ネギを発見したとしても、初めてデートする相手と一緒だったら、絶対に長ネギを買うことはできないんだから、いくら困ってるって言っても、お君ちゃんと比べたら、まだまだ甘いんだと思った。ホントに困ってて、ホントに安い長ネギを必要としてんなら、初デート中だろうが、お仕事へ行く途中だろうが、たとえホノルルマラソン中だろうが、すべてのことをアト回しにして、長ネギを買うべきなのだ。そして、思うぞんぶん刻んで、思うぞんぶん金ちゃんラーメンの上に乗せて、思うぞんぶん食べるっきゃないと思った今日この頃なのだ。


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「葱」 芥川龍之介
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