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2007.09.09

岸辺のアルバム

台風のお父さん、台風のお母さん、台風のお兄ちゃん、台風の妹、台風のポチ、みんな合わせて「台風一家」‥‥なんてことも言ってみつつ、ようやく台風が過ぎてくれたんだけど、このマンションに住んで約10年、今までにも何度も台風は来たワケだけど、今回、あたしは、初体験の出来事があった。それは、初めて「避難勧告」ってもんを食らったってことだ。あたしの住んでるマンションは、多摩川のすぐ近くなんだけど、今回の台風9号は雨がすごかったみたいで、多摩川が決壊して洪水になりそうになったのだ。

あたしの住んでる辺りの多摩川って、川沿いの道路と河川敷とを隔ててる土手から、対岸の川崎市側の土手までの距離が、だいたい500mくらいある。そして、その真ん中を流れてる多摩川の川幅は、だいたい40~50mくらいで、川岸は石ころの河原が広がってる。それで、その次に3~4mくらいの高さの護岸があって、そこから土手までがすごく広い河川敷なんだけど、それなりに管理されてて、自然散策路があったり、野球やサッカーのグランドがあったり、売店があったり、ホームレスの人たちが住んでたりする。

つまり、上から航空写真とかで見たりすると、こっちの土手から対岸の土手までの幅は500mくらいあるんだけど、その真ん中をクネクネと流れてる多摩川の川幅は40~50mくらいしかなくて、河川敷の約9割の面積は「水のない場所」ってことになる。そして、そこは、川よりも2段も高くなってるから、グランドとかいろんなことに使われてて、一部にはホームレスの人たちも暮らしてるってワケだ。だけど、今回の台風の大雨で、この500mの幅の河川敷がぜんぶ川になっちゃって、グランドも、売店も、ホームレスの人たちのテントも、すべてが濁流に飲み込まれちゃったのだ。もう、揚子江とか黄河とか、中国の大河並みの‥‥ってのは大ゲサだけど、川幅が一気に10倍になったんだから、そのインパクトは分かってもらえると思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、土手から河川敷へ降りるのに、だいたい3~4mくらいの高さの傾斜があって、そこから河原に降りるのに、また3~4mくらいの高さの護岸ブロックがあるんだから、通常時の川面から土手の1番高いとこまでは、たぶん7~8mくらいの高低差があると思う。だけど、河川敷をすべて飲み込んだ濁流は、昨日、7日の朝の6時ころにピークを迎えて、この土手の高さギリギリのとこまで迫って来ちゃった。もしも、川面がこの土手を超えちゃったら、川沿いの道路からこっちの住宅街はみんな低くなってるから、あっと言う間に水びたしになっちゃう。それで、河川事務所の職員さんたちが総出で、土のうを積み上げたりしてくれたみたいだけど、それでも、もうヤバイってことになって、あたしの住んでる一帯に、「避難勧告」が出されちゃったってワケだ。

ま、あたしの場合は、2階に住んでるから安心なんだけど、もしも土手が決壊したら、少なくとも駐車場の車は、ジ・エンドになっちゃう。あたしんとこの駐車場は、道路からスロープで下って来る形になってて、道路よりも1mくらい低くなってるから、たぶん、プールみたくなって、車はみんな屋根まで水没しちゃうだろう。それで、あたしは、そんなことになったらシャレになんないから、車に乗って逃げようかとも思った。足をケガしてから、もう4ヶ月も運転してないけど、何とかヒザを曲げられるようになったから、死ぬ気で運転すれば何とかなると思った。

それで、この前の参院選で区役所に期日前投票をしに行った時に、ついでにもらって来といた「世田谷区洪水ハザードマップ」ってのを見てみたら、あたしの地区は、瀬田の交差点のほうへ非難するようにって矢印が書いてあった。瀬田の交差点てのは、246と環8の交差点のことで、汽車ポッポ型のバスに乗ってく瀬田温泉があるとこだ。ま、長くて急な坂をずっと上ってくんだから、洪水になったら高いほうへ逃げるのは当たり前っちゃ当たり前だけど、このハザードマップに描かれてる矢印が思いっきりアバウトで、細かい説明とかはぜんぜんない。ただ単に、「あっちのほうへ行け」的な描き方しかしてない。たとえば、大地震とかのハザードマップなら、細かく「何丁目の何公園へ避難してください」とか「何小学校の校庭へ避難してください」とかって書いてあるんだけど、この洪水用のハザードマップは、大きな矢印が1つだけ、フランク・ザッパで大ザッパに、瀬田の交差点のほうへ向けて描かれてるだけなのだ。

そして、瀬田の交差点て言えば、いつでも大渋滞してるポイントとしてオナジミで、あたしたち地元の人間は、車じゃ絶対に通らないようにしてる‥‥って言うか、瀬田の交差点だけじゃなくて、246も環8も絶対に使わない。夜中ならともかく、昼間にこんな混んでる道路を使ってたら、いつまで経っても目的地に着かないからだ。だから、たとえ台風の時だって、絶対に渋滞してることは想像がつくから、そんな場所へ向かって車を発進させたら、大変なことになっちゃう。きっと、あたし以外にも、おんなじことを考えてる人は多いハズだから、この地域の何百人、何千人て人たちが、みんないっせいに車で瀬田の交差点へ向かって、瀬田の交差点からニコタマまでずっと大渋滞になっちゃって、坂の1番下の渋滞の末尾にあたしが付いたら、後ろから洪水の水がザザ~ン!って襲いかかって来て、あたしの車は屋根まで沈没しちゃう。

‥‥そんなワケで、あたしは、ここまで考えて、「これなら一緒じゃん」て思って、車で避難するのをヤメにした。「車で避難する」って言うか、あたしは2階にいて安全なんだから、正しくは、「車を安全な場所に移動するのをヤメにした」ってことだ。だけど、テレビでは、増水した多摩川のものすごいライブ映像が流れ続けてる。多摩川がどんどん増水して、今にも決壊しそうな映像を見ても、遠くに住んでる人たちは何でもないだろうけど、あたしの場合は、テレビに映ってるものすごい映像が、実際に目と鼻の先で起こってる出来事ってワケで、臨場感どころか、焦燥感まで感じて来ちゃった。

だって、多摩川ったって、奥多摩の源流から東京湾まで約140kmもあるのに、そんなに長い川の中で、あたしの住んでるとこの目の前が決壊しそうだなんて、ものすごい確率の話だ。これが、あたしのとこから10km上流が決壊しそうだとか、5km下流が決壊しそうだとかなら、遠くに住んでる人たちとおんなじに、あたしものんびりとテレビを見てられたのだ。何しろ、初めての「避難勧告」だったから、それだけでもドキドキモンなのに、窓からは見えない多摩川の様子をテレビで流してるもんだから、臨場感どころか、焦燥感どころか、残尿感まで感じて来ちゃった。

もちろん、テレビは、多摩川の映像だけを流してたワケじゃなくて、他の地域の映像も流してたんだけど、2回目に多摩川の映像が映ったら、大変なことになってた。河川敷に住んでるホームレスのおじさんが、濁流の中に取り残されてて、ほんのちょっとだけ水面から出てるテント小屋の屋根の上にうずくまってた。そして、そのすぐ横にあった木にも、1人のおじさんが上ってた。この時の映像じゃ良く見えなかったけど、あとから分かったのは、何匹かの猫たちも一緒にいたみたいだった。この辺りで猫の世話をしてるおじさんなら、たぶん、あたしの知ってるおじさんだ。最終的には、ヘリコプターで救助されたから良かったけど、テレビの映像では、顔までは判別できなかったから、無事に救助されたって分かるまでは、すごく心配だった。

だけど、さらにあとから分かったのは、あたしが思ってたのとは正反対の事実だった。これは、映像で見たんじゃなくて、あとから「救助された人の話」として伝えてたんだけど、ホームレスのおじさんが、濁流の上にホンのちょっとだけ残った屋根の上に立って、一生懸命にヘリコプターに向かって手を振ってたのは、「助けてくれ!」っていう合図をしてたんじゃなくて、「あっちへ行け!」ってヘリコプターを追い払ってたんだそうだ。ヘリコプターが近づいて来たら、一緒に屋根の上に取り残されてた猫たちが、ヘリコプターの音とプロペラの風で、怯えて水に飛び込みそうになったんだって。それで、「こっちに来ないでくれ!」って合図してたんだって。だけど、普通、濁流の中に人が取り残されてて、屋根の上で救助ヘリに向かって両手を振ってたら、誰だって、救助を待つ人が「ここだ~!ここだ~!」って言ってるんだと思うよね。

‥‥そんなワケで、結局、「避難勧告」は3時間後の9時すぎに解除になって、あたしは、Fカップの胸をホッと撫で下ろしたワケだけど、あたしが不思議に思ったのは、ホームレスの人たちの多くが避難しなかったことだ。ホームレスの人たちだって、ラジオくらいは持ってるし、中には、テレビやパソコンまで持ってる人もいるんだから、強力な台風が近づいてることも、その台風が東京を直撃することも、それによって多摩川が氾濫するかもしれないことも、すべて事前に分かってたハズだ。それなのに、なんで避難しなかったんだろう? 「他に行くとこがない」ってことなのかもしんないけど、それにしたって、自分の命に関わることなんだから、とりあえず、貴重品だけ持って、3~4m上の土手に上ってれば、こんなことにはならなかったのに‥‥。

結局、多摩川では29人の人が救助されて、3人が行方不明になったそうだけど、この行方不明の3人のうち、もしも1人でも亡くなってたとしたら、この約30人の人たちは、文字通り、「命がけで避難しなかった人たち」ってことになる。あたしは、地元のホームレスのおじさんたちのうち、何人かの人とは顔見知りで、一升瓶を下げてって一緒にお酒を飲んだこともある。顔を見ればアイサツするし、みんな、極めて普通の人たちだ。それなのに、なんで避難しなかったのか、あたしには、どうしても分かんない。きっと、あたしには理解できない、何らかの思いや心の動きがあるんだろうけど、どんな事情があったとしても、命を大切にしない人たちがいることは、すごく悲しい気持ちになる。

今日、9月8日に、内閣府が発表した「国民生活に関する世論調査」によると、「日常生活で悩みや不安を感じている」って答えた人が、全体の69.5%にも上り、この調査を始めた1981年以来、過去最高の数字になったそうだ。もちろん、「パブリックコメント」でイカサマばっかしてる内閣府が行なってる世論調査なんだから、ホントは80%くらいあったものをワザと少なく発表してるって可能性も十分に考えられる。だけど、少ない数字を多くして発表するなんてことはアリエナイザーだから、この「69.5%」ってのは、「少なくとも69.5%以上は」って考えとけば、間違いないだろう。

‥‥そんなワケで、国民の生活の7割をコイズミがぶっ壊して、残りの3割を今、アベシンゾーがぶっ壊してる最中なんだから、生活に不安を感じてる人が増えるのは当たり前だけど、ハッキリ言って、この「日常生活で悩みや不安を感じている」って答えた69.5%の人たちってのは、少なくとも、住む場所のある人たちで、お金に困ってる人もいるだろうけど、餓死するようなレベルの人はいないだろう。つまり、少なくとも、ホームレスの人たちよりは恵まれてる人たちばかりに聞いた数字なのだ。そして、住む場所もあって、食べるものもあって、それなりに趣味や楽しみを持って暮らしてる平均的な人たちでさえも、約7割もの人たちが「日常生活で悩みや不安を感じている」って答えたんだから、全国のホームレスの人たちや、病気で働くこともできず、アパートの電気やガスも止められてるのに、生活保護の申請を門前払いされたような人たちもみんな含めて、この世論調査をしたら、この数字はもっともっと大きくなると思う。だから、結局、今の時代は、台風や洪水などの天災よりも、コイズミやアベのような人災のほうが遥かに恐ろしい時代になっちゃったんだと思う今日この頃なのだ。


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