お姫様な日
子供のころのあたしは、別に貧乏でご飯が食べられなかったワケでもなく、ツギアテだらけのボロボロの服を着せられてたワケでもなく、ましてや、働かない親に命令されてアルミ缶を拾って歩いてたワケでもない。毎日ちゃんと美味しいご飯を作ってもらい、お洋服も普通に着せてもらい、本やオモチャも普通に買ってもらい、母さんの愛情タップリに育ててもらった。だから、あたしは、自分の生い立ちや育てられ方には何も不満はない。細かいことを言えば、そりゃあそれなりにあるけど、大人になった今、あえて言わなきゃならないほどの不満なんかなかった。だから、子供のころに体験したホニャララによって、その後の人格形成に問題が生じた‥‥ってこともなけりゃ、子供のころに受けたハニャララによって、お金に執着するミジメな大人へと成長した‥‥ってこともない。
だけど、女の子ならほとんどがそうだと思うけど、ちびまる子ちゃんが花輪くんの家に行って「おおーっ!」って思うみたいに、お城みたいなお家に住んでるものすごいお金持ちのご令嬢とか、本物のお城に住んでる本物のお姫様とか、そういう女の子に憧れてた時期がある。自分と同い年なのに、フリルがたくさんついたドレスを普段着として着てて、ニポン人なのに茶色い髪で、さらにはパスコの「十勝スティック」を何本もぶらさげてるみたいな立て巻きロールで、目の中にはオリオン座が輝いてて、下校時間になると校門のとこにロールスロイスが迎えに来て‥‥って、こんな女の子を見ちゃうと、いくらマンガの中の話だって分かってても、「一度でいいから見てみたい、自分がセレブになったとこ、歌丸です」って気持ちになっちゃう。
だから、決して自分の生い立ちや現在の生活に不満があるワケじゃなくても、マンガに出て来る「ご令嬢」とか「お姫様」とかに憧れちゃうのは女の子のサガってワケで、あとは、憧れだけで終わらせるか、ホントにそれを目指しちゃうかの違いしかない。だけど、目指すったって、自分の親をチェンジすることはできない。普通のサラリーマンのお父さんをどこかの大富豪のおじさんとチェンジすることなんてできないから、生まれながらにしての「ご令嬢」にはなれないし、ましてや「お姫様」になるためには、自分のお父さんをどこかの国の王様とチェンジしなきゃなんないんだから、どう考えてもムリだと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、ほとんどの女の子は、妄想の世界の中だけで「ご令嬢」になったり「お姫様」になったりして、それで満足する‥‥っていうか、それで満足するしかないと思って現実の世界に戻って来る。だけど、あまりにも憧れが強くて、どうしても「ご令嬢」や「お姫様」になることを諦められない「ごく一部の女の子」は、雰囲気だけでも近づこうと努力してみたりする。それが、「天蓋付きベッド」と「シャンデリア」の2点なのだ。この2点が、雲の上の人たちの生活を象徴するものだと思ってるのが、あたしたち庶民てワケだ。
「ちびまる子ちゃん」でも、まる子が「天蓋付きベッド」に憧れて、ダンボールか何かでヘンテコなベッドを作るってお話があった。まる子のお母さんは、「またいつものが始まった‥‥」って感じで冷めた目で見てたけど、まる子としては夢中だった。まる子の場合は、自分が「ご令嬢」や「お姫様」になりたいってことよりも、この「天蓋付きベッド」そのものに強い憧れを抱いてたワケだけど、そこには、「こんなにステキなベッドで眠ったら、どこかの国のお姫様みたいな気分になれるだろうな」って気持ちがあった。
人によって違う場合もあるだろうけど、たいていの場合は、この「天蓋付きベッド」と「シャンデリア」の2点が「脱・庶民」のメインアイテムになるワケで、その次に来るのが、例のライオンの口からお湯が出てる大理石のお風呂だ。だから、まず目に見える部分から入りたがる庶民としては、自分のベッドの上に、長さが調節できるツッパリ棒を渡して、それにインドの布かなんかを掛けて、天蓋付きベッド風味にしてみたりする。狭いマンションの部屋に、歩く場所もないほどの大きなベッドを入れてみたりする。天井の低い部屋に、リサイクルショップで見つけて来たキャバクラかどこかの整理品のシャンデリアをぶらさげてみたりする。
本物の大富豪のご令嬢から見たら、こういうのって完全にオッペケペーだと思われちゃいそうだけど、あたしには、分からなくもない感覚だ。これは、「あたしは興味ないけど、そういうことをしたがる人たちの感覚も分からなくもない」ってことだ。そして、どこかの地方都市で流行ってる「姫ファッション」てのも、ハタから見たらバカ丸出しだけど、あたしは嫌いじゃない。ヤマンバだの汚ギャルだのと比べたら、清潔感があるだけマシだと思うし、何よりも、女の子たちの永遠の憧れである「お姫様」を雰囲気だけでも味わおうと必死に具現化してんだから、ある意味、コスプレの一種として捉えてあげるべきだろう。
‥‥そんなワケで、あたしにも、マンガや映画の世界でしか見たことのない「ご令嬢」や「お姫様」に憧れた少女時代があった。でも、あたしの場合は、子供らしくない、どこかさめてた部分もあったみたいで、「どうせ自分がお姫様なんかになれるワケがない」ってことをよく分かってた。もちろん、よほど能天気な子じゃない限り、どの子もみんな自分がお姫様なんかになれるワケないってことは分かってる。だけど、それでも無邪気にお姫様ごっこをして、お姫様気分を味わえるのが子供の特権てワケで、あたしの場合は、その部分が他の子たちよりも大人っぽかった。
つまり、あたしは、子供のころから、「どうせ自分がお姫様なんかになれるワケがない」っていう脳内の基礎工事がシッカリしてて、妄想は妄想、現実は現実として、クッキリと区別してたってことだ。だから、あたしが、今の時代にハイティーンだったとしても、ムリして耐震偽装の「姫ファッション」なんかには走らなかったと思う。そんなことしても、虚しいだけだって分かってるから。そんなことすれば、ヨケイに虚しくなるだけだって分かってるから。
憧れが遠くて、現実的には手にすることができないから、せめてコスプレまがいのことをして、雰囲気だけでも味わって、自分の気持ちを満足させたい‥‥って、理屈はよく分かるし、実際にそうしてる子たちを否定するつもりもない。あたし的には、どっちかって言えば、応援したいくらいの気持ちを持ってる。ただ、あたしは、この手のパターンは、あんまりやりたくない。たとえば、銀座の高級なお寿司を食べたいと思ったけど、自分にはそんなお金はないから、回転寿司へ行く。ブランド物のバッグが欲しいけど、自分にはそんなお金はないから、コピー品を買う。あたしの場合は、なんかこういうのと一緒で、やればやっただけ虚しくなっちゃうのだ。
せっかく回転寿司に行くんだから、あたしなら最初っから「回転寿司だ~♪」って気分で行って、回転寿司そのものを純粋に楽しむ。これがあたしの好きなやり方で、「銀座の高級なお寿司を食べられない穴埋めとして回転寿司でガマン」だなんて、あまりにも虚しすぎる。狭い部屋いっぱいの大きなベッドにしても、低い天井に吊るしたリサイクル品のシャンデリアにしても、あたしには虚しさしか感じられない。
ま、そんなこんなもありつつ、あたしは、今、ついに開眼したのだ!‥‥なんて大ゲサな言い方をしちゃうけど、3年くらい前に、あたしのことを探ろうとしてる人たちが何人もいて、いろんなテレビ局や撮影スタジオ、女性誌の編集部など、カタッパシからあたしのことを聞いてまわられた。それは、週刊誌の記者とか探偵とかなんだけど、その人たちのバックには、自民党の某議員と癒着してるホニャララ団の幹部や、右に傾いてる団体や、中には有名な総会屋までがいた。つまり、単なる興味本位とかじゃなくて、あたしの身元を調べて、あたしに何かするために記者や探偵を雇ってたってことだ。
あたしは、「きっこ」なんて名前でお仕事はしてないから、あたしの身元が割れることはなかったけど、それでも、あたしが「きっこの日記」を書いてるってことを知ってる数少ない仲間から、「昨日、○○のスタジオに、きっこのことを調べてる人が来たそうだよ」なんて話を連日聞かされてたから、ものすごく怖かった。それで、あたしは、ギャラがいいから受けてた芸能関係のお仕事をジョジョに奇妙に減らしつつ、本来のメインだった商業広告のスチールのお仕事を増やすようにした。そして、それだけじゃ収入が半分になっちゃったから、過去に何度もやったことのある写真スタジオのお仕事と、ブライダルのお仕事も受けるようにした。
‥‥そんなワケで、ケガから復活したあたしは、今、ブライダルのお仕事をメインにしてるんだけど、一生に一度‥‥じゃない人もいるけど、基本的には一生に一度の「結婚披露宴」てのは、その名の通り、愛する人との門出を「披露」する場だ。だから、女優やアイドルやモデルじゃない一般の女性が、一生で一度だけ、自分のために用意された舞台の上に立ち、スポットライトをあびて主役になれる日なのだ。それも、台本のあるお芝居に出演して誰かを演じるんじゃなくて、人生という真実の舞台に、自分自身として立つワケだから、純白のウエディングドレスにしたって、誰かを演じるための衣装じゃなくて、自分自身の美しさを引き出すための衣装ってことになる。そんなの当たり前のことだけど、これは、「お姫様」になりたくてもなれない女の子たちが、「姫ファッション」に身を包んで「お姫様気分」に浸ってるのとは違って、人生で一度だけの、自分が自分として、本当の「お姫様」になれる瞬間なのだ。
だから、あたしは、しばらく前から、ブライダルのヘアメークに対する考え方をリトル車線変更をした。以前のあたしは、「一生に一度の披露宴なんだから、新婦さんの美しさを最大限に引き出そう」って考えでお仕事をしてた。だから、最初の打ち合わせの時に、新婦さんの顔とドレスとを見て、どんな形のヘアメークを作るのが「一番美しくなるか」ってことばかり考えて、いくつかのパターンを提案して来た。そして、自分の方法論にも自信を持ってた。
だけど、披露宴を「一生に一度の晴れ舞台」ってだけじゃなくて、それプラス「一生で一度だけ、女の子が本物のお姫様になれる日」って考えるようになってから、あたしは変わった。もちろん、基本的なプランはあたしから提案するし、全身全霊を傾けてお仕事と向かい合うことも変わらないけど、それだけじゃなくて、できるだけ新婦さんとヘアメーク以外のお話もするようにした。どんな少女時代を送って来たのか、どんな少女マンガが好きだったのか、どんな映画が好きなのか、いろんなお話をして、その新婦さんが「どんなタイプの女性に憧れてるのか」ってことを感じ取り、その理想に少しでも近づけるようなプランを出すようになった。
「それなら最初から『どんな女性タレントに憧れてるか』って聞けばいいじゃん」て思う人もいるだろうけど、それじゃダメなのだ。たいていの女性は、自分にないところを持ってる女性タレントに憧れてるワケで、それは、外見的な部分にも言える。だから、その希望を叶えるってことは、大ゲサに言えば、「本人とは正反対の顔を作る」ってことになっちゃう。技術的には可能なことであっても、誰かを演じるお芝居じゃなくて、自分が自分として一生に一度の舞台に立ち、本物の「お姫様」になれる日なんだから、これじゃあダメなのだ。
だから、あたしは、ナニゲない会話から相手の少女時代のことを聞き出して、本人も気づいてないかもしれない「潜在的に憧れてる女性像」を感じ取り、その姿に近づけるようなプランを作ることにした。そして、今までの数パターンの基本的なプランに、そのプランも添えて、それらの中から選んでもらうことにしたのだ。
それで、この方式を始めてから、まだ11人しか担当してないんだけど、恐るべきことに、そのうちの10人が新しいプランを選んでくれたのだ。だから、まだまだ試行錯誤の段階だけど、ワリと早いうちに、何かが掴めそうな予感がしてる‥‥って、ココまでは前向きでワンダホーな話なんだけど、披露宴を「一生で一度だけ、女の子が本物のお姫様になれる日」って考えるようになってから、あたしは、ある虚しさにとらわれるようになった。それは、「このままだと、あたしは、たくさんのお姫様を誕生させることはできても、あたし自身は、お姫様になれないまま一生を終えちゃいそうだ‥‥」ってことだ。
‥‥そんなワケで、あたしは、この虚しさを吹き飛ばすために、「お姫様」はムリでも、せめて「ご令嬢」の気分を味わおうと思って、あたしの大好きなご令嬢、神崎すみれちゃんのブログを作って、すみれちゃんになりきってウソ日記を書くことにした。なんせ、花組の強化合宿で、みんながお布団を並べて敷いて寝てるとこで、1人だけで「天蓋付きベッド」で寝てるほどのお嬢様なんだから、間違いなく本物ってワケだ。それで、あたしは、普段は使わないお嬢様言葉で文章を書いてたら、何だかホントに自分がご令嬢になったみたいな気分がして来て、すごく楽しくなってきちゃった。この「きっこの日記」を書いてる時のあたしは、あたしのまんまだけど、「スミレ大戦」を書いてる時のあたしは、完全にすみれちゃんになりきってて、六畳間の隅でセブンスターをふかしながらキーボードを打ってても、何だか、ゴージャスな広いお部屋で、紅茶かなんか飲みながら書いてるみたいな気がしてきちゃう。それで、今は、「きっこの日記」よりも「スミレ大戦」のほうを優先して書いてるんだけど、コレって、「姫ファッション」を身にまとってお姫様気分に浸ってる子たちとおんなじなのだ。だから、もうしばらくすれば飽きて来ると思うんだけど、あたしの心に芽生えた虚しさが癒えるまで、あと1週間くらいは、「きっこの日記」の更新が1日遅れになっちゃうと思う今日この頃なのだ。
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