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2008.06.29

後生うなぎ

テケテンテンテンテンテンテンテン‥‥‥‥ええ~~東京メトロの副都心線が開通したおかげですか? 本日もお運びがよろしいようでしてぇ、本当にありがたいことでございますねぇ。あたしら噺家の中には、テレビやラジオにばかり出て金儲けに忙しい商売人もおりますが、噺家の仕事場ってえのは、お客さま方と直接ふれあう寄席でございます。こうして寄席に足を運んでくださるお客さまがいてくださってこそ、あたしらもオマンマを食って行けるのでしてぇ、本当にありがたいことでございます。

あたしら噺家も皆さんと同じで、動物界、脊索動物門、脊椎動物亜門、哺乳綱、霊長目、真猿亜目、狭鼻下目、ヒト上科、ヒト科、ヒト属、ヒト種に属する「ヒト」でありますので、オマンマを食わなきゃ死んじまいます。すき焼きだのトンカツだのと贅沢は申しませんが、朝は飯と味噌汁と漬物、昼は蕎麦でもたぐって、晩は飯と味噌汁と漬物にメザシの2~3匹でも添えていただけりゃあ大満足でございます。

毎日毎日、贅沢な食事をしているセレブなんてぇ人種もおりますが、世の中、上を見たらキリがありませんので、あたしは下を見るようにしております。道を歩いていましても、上を見て歩いていてもハトの糞くらいしか落ちて来ませんが、下を見て歩いていれば10円玉や100円玉、年に一度くらいは500円玉とのご対面もございますので、そんな日は、晩飯のオカズが一品増えたりするんですねぇ‥‥なんて申しましても、これは噺のマクラでして、本当にそんなことをしたら拾得物ナントカ罪で捕まってしまい、飯は飯でも「臭い飯」を食わされることになってしまう今日この頃、皆さん、いかがお過ごしでげすか?


‥‥そんなワケでしてぇ、いくら質素な食事でも、原油高に物価高、自殺者の数や失業者の数がうなぎ上りの昨今では、三食のオマンマにありつけるだけでも幸せなのでございます。それに、あたしの場合には、常に下を見て生活しておりますので、飯と味噌汁と漬物にメザシの2~3匹でも添えてありゃあ、坊さんたちの精進料理よりは遥かにゴージャスってぇことになるんです。

昔から仏教では、戒律五戒で殺生が禁じられておりますので、動物を食べることができません。そのため坊さんたちは、穀物や野菜だけを食べて生活していて、今どきの「ベジタリアン」なんてぇ呼び方をすればカッコ良くも聞こえますが、実際にはつらいものがあるんでしょうねぇ。

それにしましても、あたしのような凡人になりますと、銭がないから質素な食事をするってぇことは理解できましても、宗教上の理由でアレを食うなソレを飲むなってのは、どうしても理解ができません。まあ人間にはいろいろありますから、別に坊さんでなくても、長く生きているうちに世の中のいろんなことが分かって来て、悟りのようなものもひらけて来て、自然と殺生を嫌うようになって行くこともあるんでしょうねぇ。

お金持ちの家に生まれたことから、若いうちから焼き肉にステーキ、トンカツにしょうが焼き、鶏の丸焼きに親子丼、鯛の活き造りにアワビの地獄焼きと、殺生まみれで贅沢三昧の食事を楽しんで来た男も、家督を継ぎ、莫大な遺産を手にし、人生の晩年を迎えたころになりますってぇと、何かを悟ったのでしょうか? ある日突然、いっさいの殺生を嫌うようになり、とても信心深くなってしまったのでございます。

それまでとは正反対の、穀物と野菜だけの質素な食事をするようになり、もちろん虫1匹、殺さなくなってしまいました。夏になっても蚊遣火などは点さず、腕に蚊がとまれば、静かに血を吸い終わるのを待っているほどです。

そんなご隠居さんが、二子玉川の玉川大師を詣でた帰り道のことでございます。駅まで戻って来た時に、二子大橋のたもとにあるうなぎ屋をふと覗くと、その店の主人が、ちょうど割き台の上に1匹のうなぎを乗せたところでございました。


隠居 「おいおい、お前さん!いったい何をしようってんだい?」

主人 「何をって、そりゃあ、うなぎをひらいて蒲焼きにするんですよ」

隠居 「なんて残酷なことをするんだ!うなぎにだって命があるんだよ!」

主人 「そんなこと言われましても、こちとらこれが商売ですから‥‥」

隠居 「わたしの目の前で殺生をするなんて、絶対に許さないよ!」

主人 「何を言ってんですか、ご隠居さん。これは2階のお客さんから注文を受けたうな丼の蒲焼きなんですよ。お客さんが注文したから作る。これがうなぎ屋の仕事ですよ」

隠居 「そうか‥‥ところでお前さん、うな丼はいくらなんだい?」

主人 「うな丼は1000円ですが‥‥」

隠居 「よし!それならわたしが、そのうなぎを倍の2000円で買い取ろうじゃないか!それなら文句はないだろう?」

主人 「はあ?」

隠居 「お客には、今日はうなぎが売り切れてしまいました、あいすみませんと言って、帰ってもらえばいいだろう」

主人 「そこまでおっしゃるなら、そういたしましょう」


‥‥そんなワケでしてぇ、あと一歩で割かれるところだったうなぎを買い取ったご隠居さんは、そのまま多摩川の河原へと降りて行き、玉川高校のカップルたちがイチャイチャとしている間を抜け、うなぎをポチャンと川へ逃がしてやったのでございます。


「ああ、これでひとつ徳を積んだぞ」


ご隠居さんは、1匹のうなぎの命を救ったことに大満足で、意気揚々と帰って行きました。一方、うなぎ屋の主人のほうも、思いがけない臨時収入に、ニヤニヤとしていました。何しろ、手間をかけて調理をして、ようやく1000円の売り上げだったところが、何もせずに倍の2000円が手に入ったのです。うな丼を待っていたお客には、ご隠居が帰ったあとに、別のうなぎでうな丼を作って出したのですから、こちらでも利益が出ております。まさしく、濡れ手に粟の臨時収入でございました。

そして次の日のこと、主人が「昨日のご隠居、また来てくれたらいいのになあ‥‥」などと思いながら開店の準備をしておりますってぇと、本当に昨日のご隠居がやってまいりました。


隠居 「お前さん、今日は何匹のうなぎを仕入れてるんだい?」

主人 「はあ?」

隠居 「あれから考えたんだがね、わたしが1匹のうなぎを買い取ったところで、わたしが帰ったあとに、お前さんが他のうなぎを殺生していたら意味がない」

主人 「はあ‥‥」

隠居 「それでだね、今日はお前さんの店にあるうなぎをすべて買い取ろうと思って、やって来たんだよ」

主人 「本当ですか!」

隠居 「ああ、今日は何匹のうなぎを仕入れたんだい?」

主人 「今日は30匹でございます」

隠居 「そうか。それなら1匹2000円として、30匹ぶん6万円払うから、ぜんぶ買い取らせてもらおうじゃないか」

主人 「へ、へい!」


主人は足元の木桶ごと、30匹のうなぎを渡しました。大変な思いをして30匹のうなぎを蒲焼きにしても3万円の売り上げにしかならないのに、何もせずに、仕入れたうなぎを右から左へ渡すだけで倍の6万円になるなんて、主人は内心「こりゃあ、しめたもんだ」と思ってニンマリとしました。そして、ご隠居さんのほうはと申しますと、木桶を抱えて多摩川へと降りて行き、うなぎたちに「元気で暮らせよ」と声をかけ、ザバーッと逃がしてやったのでございます。


「ああ、今日もたくさん徳を積むことができた」


ご隠居さんは、満足して帰って行きました。


‥‥そんなワケでしてぇ、それからと言うもの、ご隠居さんは、毎日毎日、開店時間にやって来ては、すべてのうなぎを倍の値段で買い取り、多摩川へと逃がし続けたのです。一方、笑いが止まらないのが、うなぎ屋の主人のほうでございます。仕入れたうなぎをセッセと調理して、大変な思いをしていたころと比べると、ほとんど何もせずに倍の儲けになるのですから、これほど面白いことはございません。いい金ヅルを見つけたものだと、こんなことを繰り返しているうちに、わずか半年ほどで、主人の貯金は1000万円を超えてしまいました。貧乏していたころと比べると、夢のような話でございます。

しかし、人間の欲というものは際限のないものでございましてぇ、一度でも楽して金儲けをしてしまった人は、今度はもっと美味しい思いをしてやろう、今度はもっと儲けてやろうと思い始めるものなのでございます。企業と政治家、企業と官僚の癒着がズブズブと深みにはまって行くのも、これと同じことなんですねぇ。一度でも美味しい思いをしてしまった人間は、モノゴトの良し悪しの感覚がマヒしてしまい、「真面目に働いて正当な賃金を得る」という当たり前のことが、バカバカしく思えて来てしまうのです。

このうなぎ屋の主人も例外なく、もう真面目に働く気などサラサラなくなってしまいました。そして、ある日のことです。すっかり楽して儲ける味を覚えてしまった主人は、さらに儲ける手段を思いついたのでございます。


「うちからうなぎを買い取ったご隠居は、うなぎを蒲焼きにして食べるわけではなく、そのまま多摩川に逃がしてるんだよな‥‥ってことは、何も仕入れ値の高い浜名湖産のうなぎを仕入れる必要なんてないってこった!」


そう思いついた主人は、国産の半値以下で手に入る中国産のうなぎをまとめて仕入れて、それを今まで通りの値段でご隠居に買い取らせようともくろんだのです。食べれば味の違いでバレてしまうかもしれませんが、川へ逃がすだけなのですから、どこのうなぎでも変わりありません。

それで、主人は、ここ一番の大勝負に出ることにしたのです。今までご隠居からせしめて来た1000万円をすべてつぎ込み、中国からうなぎを大量に輸入する。そして、うまいことを言って、それをまとめてご隠居に買い取らせる。中国のうなぎは1匹100円程度ですから、それを2000円で買い取らせれば、元手の1000万円は、20倍の2億円になるのです。聞けば、あのご隠居は、大きなお屋敷に住み、莫大な財産を持っているという話ですから、このくらいの金額はすぐに出すでしょう。そうすれば、一生を左うちわで暮らすことができるのです。

そして、主人は、全財産をつぎ込んで、中国から大量のうなぎを輸入したのでした。その数、なんと10万匹です。うなぎ屋の中も外も、何十匹ものうなぎが入った箱が積み上げられ、ご隠居の到着を今や遅しと待ちかまえています。主人の頭の中には、札束に埋もれてブランデーを飲む自分の姿が浮かんでいて、これぞまさしく「獲らぬタヌキの皮算用」でございます。


‥‥そんなワケでしてぇ、主人のもくろみなど何も知らないご隠居さんは、今日も開店の時間に、ひょっこりとやってまいりました。そして、店の前に積み上げられているうなぎの箱に驚きました。


隠居 「おいおい!これはいったいどうしたことだい?」

主人 「ご隠居、実は、うちがいつも仕入れていた問屋が潰れてしまったのでございます。それで大量のうなぎの在庫が残ってしまい、このままだと畑の肥やしにしてしまうと言うので、うちが引き取ったのでございます。たとえ、うなぎと言えども、命ある生き物を殺生して畑の肥やしにしてしまうなんて‥‥ねえ、ご隠居!」


主人は、用意しておいたセリフを言いました。信心深いご隠居なら、こう言えばすぐに、「それならわたしがすべて買い取ろう!」と言い出すと思ったのでございます。しかし、ご隠居は腕組みをしたまま、じっと黙っているのです。


隠居 「‥‥‥‥」

主人 「ご隠居!」

隠居 「‥‥‥‥」

主人 「ご隠居!どうなすったんですか?」

隠居 「う~ん、どうも分からんのだ‥‥」

主人 「何が、何が分からないのですか?」

隠居 「いやね、うなぎたちの言ってることがだよ」

主人 「ええ?」

隠居 「お前さんは、わたしがどうして高いお金を払ってまで、お前さんからうなぎを買い取り続けていたのか分かるかい?」

主人 「そりゃあ、ご隠居は信心深いお方で、うなぎを殺生するのを見ていられないからでしょう?」

隠居 「もちろん、それはそうだが、わたしには聞こえるんだよ」

主人 「何がですか?」

隠居 「うなぎたちの声が聞こえるんだよ。『助けてください!』『殺さないでください!』って言っている、うなぎたちの声がね‥‥」

主人 「ええ!」

隠居 「最初にこの店の前を通った時、割き台の上に乗せられたうなぎが、わたしに向かって『助けてください!』って叫んだ声が聞こえたんだよ。だからわたしは、そのまま通り過ぎることができなくて、倍のお金を払ってまで買い取って、川へ逃がしてやったんだ」

主人 「そうだったんですか!」

隠居 「わたしが肉や魚を食べなくなったのも、虫1匹、殺さなくなったのも、ある日突然、動物や魚の声が聞こえるようになったからなんだよ。どの生き物も、わたしに向かって『助けてください!』『殺さないでください!』って言ってるから、気の毒で食べられなくなったんだ。腕に蚊がとまっても『どうか殺さないでください!』って言ってるから、かわいそうで叩けなくなったんだ」

主人 「ご隠居、そうだったんですか‥‥でも、それならなおのこと、これだけたくさんのうなぎたちが殺されようとしているのですから、ご隠居がドンと太っ腹ですべて買い取って、命を助けてやったらどうでしょうか?」

隠居 「それがな、不思議なのだよ。昨日までは、うなぎたちの命乞いの声がハッキリと聞こえたんだが、今日のたくさんのうなぎたちは、何を言っているのか分からないんだよ」

主人 「はあ?」

隠居 「うなぎたちが何か言ってるのは聞こえるんだが、それが中国語のようで、私には何と言ってるのか理解できないんだ。お前さん、これは本当に浜名湖のうなぎなのかい?」

主人 「ううっ!」

隠居 「わたしだって、そこら中のうなぎを片っ端から買い取って助ける義理はないんだよ。あくまでも、わたしに『助けてください!』って声をかけて来たうなぎを助けていただけなんだ。だから申し訳ないけれど、何を言っているのか言葉が分からないうなぎまでは、とても助けることはできないんだよ」

主人 「‥‥‥‥」


‥‥そんなワケでしてぇ、欲に目がくらみ、人の良心につけ込んで美味しい思いをしようとしたうなぎ屋の主人は、全財産を失ってしまい、山積みにされた10万匹ものうなぎの箱を前にして、茫然と立ちすくむのでございました。まあ、ナニゴトもホドホドが肝腎というお噺でございましたが、いつの世も、人を騙して金儲けをしようとする悪人が途絶えた試しはございません。ひと昔前は、「騙すより騙されたほうが良い」などと申しましたが、今やそんなキレイゴトなど言っておりますと、ケツの毛どころが、全身の毛という毛をすべて抜かれてしまい、うなぎのようにツルツルにされてしまう時代でございます。どうか皆さん、くれぐれもお気をつけくださいね。まあ、今のこの国は、政府自体が巨大な詐欺師グループのようなものでございますが‥‥ってなワケでしてぇ、おアトがよろしいような今日この頃でございます‥‥テケテンテンテンテンテンテンテン‥‥‥‥。


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【今日のオマケ】

紙芝居「後生うなぎ」(廣島屋さん)

その1

その2

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