浴衣の君は
オトトイの花火大会で、久しぶりに浴衣を着たんだけど、浴衣とは言え一応はお着物なワケで、何よりもカンジンなのは、「どれだけ粋に着こなせるか」ってことだった。で、今回は、どうしても神崎すみれちゃん風味にしたかったので、ネットの通販ですみれちゃんぽい浴衣を探して買ったんだけど、何しろ2000円ていうチョー安物だったから、仕立てなんてテキトーに決まってると思って心配してた。だけど、届いたのが花火大会の2日前で、忙しくて合わせてるヒマがなかったから、当日に着てみて、ダメだったら他の浴衣を着て、この浴衣は改造してすみれちゃんのコスプレ用にしようかと思ってた。
女性用のお着物は、男性用とは違って、前ミゴロと後ミゴロを肩のとこでずらして仕立ててある。何でかっていうと、衿をキチンと着つけてから、首の後ろをゲンコツ1個ぶんくらい後ろにずらして、セクシーなうなじをタップリと披露するためだ‥‥ってのはアトヅケの理由だけど、とにかく、男性の着つけとは違って、衿を後ろに引いて、首の後ろを見せるようにする。これを「衣紋(えもん)を抜く」って言うんだけど、男性用とおんなじに仕立ててあったら、衣紋を抜いたら肩山(肩の位置)も後ろにずれちゃって、ものすごくカッコ悪くなっちゃうし、着心地も悪くなっちゃう。
そのため、女性用のお着物は、衣紋を抜いた状態で、肩山がちゃんと肩のとこに来るように、最初からそのぶんをずらして仕立ててある。この寸法のことを「繰り越し」って言って、通常は5分(約2cm)なんだけど、あたしの場合は若干イカリ肩なので、繰り越しが8分くらいないと、衣紋を抜きにくいし、長時間着てると肩が凝ってきちゃう。だから、もともとの自分の浴衣やお着物は、繰り越しを多めにして仕立ててもらったり、母さんに直してもらったりしてるんだけど、今回はネット通販の2000円の浴衣だったから、繰り越しがどうこう言う以前に、ちゃんと届くかどうかも心配だった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、あんまり引っ張るような話でもないので、トットと結論を言っちゃうと、届いた浴衣は、生地はそんなに悪くはなかったんだけど、予想通りにテキトーに仕立ててあった。見た瞬間に、お着物なんか着たこともなく、ニポンの文化なんか何も知らない異国の人が、月給80元とか、日給150バーツとか、時給2000ドンとかで縫製したのが一目瞭然のコスプレ衣装‥‥もとい、浴衣だった。だけど、それが幸いしたのか、キチンと測ったワケじゃないけど、なんか5cmくらい繰り越しがあるみたいで、それこそ、すみれちゃんみたいに両肩を出して着られるほどのだらしなさが全開だった(笑)
それで、あたしは、用意してた黄土色の半幅帯と合わせて、すみれちゃん風味を楽しむことができたんだけど、久しぶりに浴衣を着て感じたことは、「帯が暑い!」ってことだった。お着物のことを知らない異国の人から見れば、ニポンのお着物って、きっと「帯で留めてる」って思われてるだろう。ようするに、体にお着物を巻きつけて、それを帯で結んで留めてるって思われてるハズだ。「バカ殿」とかでも、女性が帯の端を引っ張っられて、「あ~れ~!」とか叫びながらクルクルと脱げて行くお約束のコントがあるけど、帯を解いたってお着物は脱げない。
実際には、お着物を体に留めてるのは腰紐や胸紐であって、帯はあくまでも装飾品だ。帯を解いたって、お着物はそのままだ‥‥ってことは、帯、いらないじゃん。何しろ、帯さえなけりゃ浴衣ってなかなか涼しいのに、帯をしたトタンに暑さが2倍くらいになるからだ。特に、背中が暑い。浴衣って、帯がなければ甚平とおんなじくらいの涼しさなのに、帯をしたトタンに、帯の部分を中心にして、ジワジワと暑くなって来る。つまり、帯のレーゾンデートルってのは、ビジュアル的な視覚効果だけであって、そのために、「涼しい浴衣を暑くする」っていう負の副産物をも合わせ持ってるってことだ。
でも、いくらこんな屁理屈を並べたって、帯のない浴衣なんて「クリープを入れないコーヒー」みたいもんで、歴史あるニポンの浴衣を語る上では、こうした比喩にも、古さや懐かしさが必要だってことなのだ‥‥とか言ってみつつ、あたしは江戸っ子だから、夏に暑くても、冬に寒くても、自分の好きなファッションのためなら、「服」というものの根本理念である「体温調節」なんて屁のカッパだ。「伊達の薄着」って言葉があるように、「暑い」とか「寒い」なんてのは二の次で、ファッションで重要なことは、何よりも「見た目」だ。
‥‥そんなワケで、あたしは、花火大会の日に、たくさんの浴衣の女の子を見たんだけど、ちゃんと着てる子の少なさに、あらためてビックル一気飲みしちゃった。サスガに「死人」は見かけなかったけど、せっかく髪をアップにしてるのに、衣紋を抜かずに男みたいな着方をしてる子とか、はしょりすぎでバカボンみたいになっちゃってる子とか、思わず「あららららら‥‥」って声が出ちゃいそうになった。でも、どうせヨケイなお世話だろうから、「お前は温泉旅館にでも来てるつもりか!」とか、「そんなにはしょりたいんならマジックでホッペに渦巻きを描いてやろうか!」とか、心の中でツッコミを入れるだけにしといた。
それにしても、衣紋を抜かずに浴衣を着る子の多さには驚いた。あたしの前を横一列になって歩いてた5人組の浴衣の女の子は、そのうちの2人が衣紋を抜いてなくて、ものすごく変だった。当然、お母さんに着つけてもらったワケでもなく、美容院で着つけてもらったワケでもなく、本とかで調べたワケでもなく、自分だけで見よう見まねで着たんだと思うけど、それにしても、何で他の3人の子たちが教えてあげないのか‥‥って思った。たぶん、ちゃんと衣紋を抜いてる3人にしても、お母さんとか美容院とかで人任せにして着たもんだから、この「衣紋を抜く」ってことを理解してないんだろうね。
で、この「衣紋を抜く」の「衣紋」てのは、お着物用のハンガーのことを「衣紋掛け」って言ったり、お着物の着崩れを直す時に使う姿見のことを「衣紋鏡」って言ったりすることからも分かるように、広義では「お着物」のことを意味する。他にも、「衣紋方(えもんかた)」なんてのもあって、これは、今で言うスタイリストさんのことだ。平安時代以降の「十二単」を着る時なんかは、長い髪を持ち上げてる係の「髪持ち方」と、前から着つけをする係の「前衣紋方」と、後ろを任されてる係の「後ろ衣紋方」と、3人の係が3人ががりで‥‥って、こんなとこにオヤジギャグを入れてみつつ、着つけてたのだ。
自分の後ろ姿って、なかなか自分じゃ見ないから、ついついテキトーになっちゃう人もいるだろうけど、お着物の場合は、メインの装飾品である帯を後ろで結ぶことからも分かるように、何よりも大切なのが「後ろ姿」なのだ。それなのに、和装の女性としての最大の魅力である「うなじ」をアピールするための「衣紋を抜く」ってことをしないなんて、「仏を作って魂入れず」だ。ちょっと違うけど(笑)
‥‥そんなワケで、美女が大好物なあたしとしては、もう何度も書いて来たけど、「鎖骨」と「うなじ」と「腰のくびれ」が世界三大珍味で、このうちの「鎖骨」と「腰のくびれ」を隠しちゃうお着物の場合は、唯一の「うなじ」にすべての魅力が凝縮してる。3つの好物のうち、2つを隠されたことによって、残りの1つが激しく光り輝き、「これほどのうなじなんだから、きっと、見えない鎖骨や腰のくびれもサイコーなんだろうな」って思わせてくれるのだ。
だから、パチンコで初めてすみれちゃんを見た時には、お着物なのに「鎖骨」を見せてたもんだから、あたしは新境地を開眼しちゃったんだけど、現実にはそんな女性はいないから、通常モードなら「うなじ」だけってことになる。だから、せっかく浴衣を着て、せっかく髪をアップにしてるのに、衣紋を抜かずに温泉旅館の浴衣みたく着てる子たちを見て、連続ヒザカックンをされたくらい脱力しちゃったのだ。
それで、何で女性だけが衣紋を抜くようになったのかを調べるために、「マンガはじめて物語」のきっこお姉さんは、モグタンと一緒に、「クルクルバビンチョパペッピポ、ヒヤヒヤドキンチョのモ~グタン!」って呪文を唱えて、一瞬のうちに江戸時代へとタイムスリップして来た。それで分かったことは、これは、当時のヘアスタイルに由来してたってことだ。
今から380年くらい前、江戸時代の初期の寛永年間に流行し始めた「島田髷(しまだまげ)」ってヘアスタイルがある。これは、今の花嫁さんの「文金高島田」の原型で、当時は、このヘアスタイルのアレンジが何百って生まれて大流行した。それで、このヘアスタイルは、首の後ろの部分に「髱(たぼ)」っていう膨らみを作り、それを髪油で整えて崩れないようにするんだけど、その髪油が、お着物の後ろ衿を汚しちゃう。それで、衿を汚さないように後ろに引いたのが、女性だけが「衣紋を抜く」ようになった始まりなのだ。
ちなみに、この「島田髷」は、現在の静岡県島田市にあった「島田宿」の遊女から始まったって説と、当時の歌舞伎の人気女形、島田万吉から始まったって説がある。どっちにしても、このヘアスタイルは大流行して、様々なアレンジが生まれて、それにともなって、衣紋を抜きやすくするために、女性のお着物は繰り越しして仕立てるようになったってワケだ。そして、遊女や芸者は、より大きく平たい「髱」を結うようになり、それに合わせて、衣紋も大きく抜くようになって行った。
そして、江戸時代の中期には、この衣紋を大きく抜いて見せた肌をさらに美しく見せるために、「衿白粉(えりおしろい)」って言って、衿首におしろいの筋を引くお化粧が流行るようになった。つまり、もともとは、髪油で衿を汚さないために衣紋を抜き始めたものが、時代の流れとともに、その肌を見せることにフォーカスが移動してったってワケだ。現代だと、首の後ろにまでおしろいを塗ってるのは舞妓さんくらいだけど、舞妓さんの美しさって、やっぱり、あたしは「後ろ姿」だと思う。
‥‥そんなワケで、今の若い女の子たちの何割かは、何よりもオシャレに興味があって、ギャル雑誌とかを欠かさずに読んでて、渋谷の109とかに通ってて、憧れのモデルさんが着てる服とおんなじものをお小遣いをはたいて買ったりしてるけど、こういうのって、流行に敏感なワケでもなく、センスがいいワケでもなく、ただ単に「大人たちに利用されて食い物にされてるだけ」でしかない。ジャニタレの追っかけをして、バカバカしいグッズなんかを買いあさってる女の子たちにしても、憧れのアイドルの後ろにいる大人たちに食い物にされてるだけで、10年も経てば自分の愚かさに気づくだろう。このニポンには、素晴らしい文化や伝統がマウンテンで、たった2000円の浴衣だって、そのルーツを知り、伝統に則って楽しめば、何十倍ものワクワク感を得ることができる。だから、あたしは、衣紋も抜かずに浴衣を着るような女の子たちに言いたい。「ドラえもん 衣紋を抜けば ただのドラ」と‥‥なんて感じの今日この頃なのだ(笑)
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