地球の家族たち
キリンの首が長いのは、他の草食動物が届かないような木の高いとこの葉っぱを食べるために進化したものだし、ゾウの鼻が長いのは、食べ物を口に運んだり水を飲んだりと、手の代わりにアレコレをするために進化したものだって言われてる。キリンの祖先だって言われてる動物の絵を見ると、ウマやシカくらいの首の長さだし、ゾウの祖先だって言われてる動物の絵を見ると、鼻は太くて短くて、今のゾウみたいに自由に動かすことはできなそうだ。
もちろん、キリンやゾウだけに限らず、他のいろんな生き物の体の特徴は、それぞれの環境に合わせて進化して来たものだ。だから、あたしたちから見たら「キレイだな」としか思わないようなチョウチョの羽の丸い模様だって、実は、大きな動物の目を模してる模様で、天敵の小動物から自分の身を守るための擬態だったりする。
だから、たくさん羽化したチョウチョの中で、1匹だけ、突然変異でこの模様のないチョウチョが生まれたとしたら、仲間たちの中で、真っ先に天敵の餌食になっちゃうだろう。そして、これとおんなじように、突然変異で、首の短いキリンが生まれたとしたら、他のキリンたちよりは、生存率が低くなる。動物園とかで飼育されてるなら、食べ物の心配がないから問題ないと思うけど、野生のキリンだったら、ケッコー厳しい状況になるだろう。
たとえば、アフリカの草原にいる野生動物の場合なら、肉食動物も草食動物も「速く走る」ってことが何よりも重要だ。だから、生まれつき足に障害があって走ることができなければ、肉食動物なら自分で獲物を捕ることがなきないし、草食動物なら逃げることができない。そのため、気の毒だけど、たいていの場合、その子は親から見捨てられる。
でも、これを「気の毒」って思うのは、人間ならではの感覚であって、自然の世界では普通のことだ。親は子供よりも先に死ぬものだから、子供が寿命をまっとうするまで親がメンドウをみることはできない。だから、1人で生きてくことのできない子供は、早い時期に見捨てられる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、おんなじ動物でも、野生の場合と人間に飼育されてる場合とでは、状況が大きく違う。野生なら絶対に生きて行けないようなハンデを持ってても、人間に飼育されてれば、何とかなる場合も多い。最近だと、沖縄の「美ら海水族館」のバンドウイルカの「フジ」が有名だ。テレビでもドキュメンタリーとして放送されたから、知ってる人も多いと思うけど、フジは、6年前の2002年に、病気で尾ビレの75%を失ってしまい、それまでのように自由に泳ぐことができなくなった。イルカにとって、泳ぐことができないってことは、完全に「死」を意味する。
でも、フジの場合は、少しは尾ビレが残ってたから、ジャンプや芸はできなくなったけど、ゆっくりと泳ぐことは可能で、水族館の中で生きて行くぶんには、そのままでも何とかなる程度の欠損だったそうだ。実際、フジとおんなじくらいに尾ビレを欠損した野生のイルカでも、ちゃんと自分でエサを捕って、がんばって生きてる例もあるそうだ。
だけど、美ら海水族館の担当者たちは、何とかフジを以前のようにジャンプできるようにしてやりたいって思って、株式会社ブリヂストンの全面協力を受けて、世界初の「人工の尾ビレを作るプロジェクト」がスタートした。そして、試行錯誤を繰り返した2年後、素晴らしい人工の尾ビレが完成して、今のフジは、自由自在に泳ぐことも、シャンプもできるようになった。
あたしは、ジャンプできるようになったフジをテレビで見て、それまでとは明らかに表情が違うことが分かった。イルカの顔って、いつでも笑ってるみたいな感じがするけど、尾ビレを失って自由に泳げなかった時と比べると、人工の尾ビレをつけてもらって、昔のようにジャンプできるようになったフジの顔は、間違いなくキラキラと輝いてた。あたしは、感動して、涙が止まらなくなった。
だけど、「美ら海水族館」のサイトには、「決して、フジがかわいそうだから(人工尾ビレを)作ろうという考えに端を発したものではありません」って書いてある。それは、最初にも書いたように、フジのレベルのハンデなら、そのままでも水族館の中で暮らしてくことができたからだ。だから、担当者たちは、「フジを昔のようにジャンプできるようにしてあげたい」って気持ちだけじゃなくて、このプロジェクトによって、まだ解明されてないイルカの泳ぎの不思議な部分をいろいろと調べたりするってことも含まれてた。
あたしは、人間の目線から動物を見て、ただ「かわいそう」って気持ちだけで何かをすることって、良くないことだと思ってる。野良猫にご飯をやることにしても、やるんだったら、雨の日も風の日も1日も休まずに死ぬまでやり続ける覚悟をしてから、最初の1回をやらなきゃいけない。そして、当然のことながら、周りの住民には絶対に迷惑をかけちゃいけない。だけど、実際には、全国で起こってる野良猫の問題にしても、犬屋敷の問題にしても、こうした常識を持ち合わせていない人たちが、自分の目線からの「かわいそう」って気持ちだけで自己満足のための行為を始めたことが原因になってる。
マンションのベランダをフンだらけにしてるハトの群れにしても、観光地のお土産屋さんを襲撃してるサルの群れにしても、観光客の持ち物を強奪するシカの群れにしても、すべてが無責任な人間による「最初のエサやり」が原因だ。アトサキのことを考えずに、その場の自分の「かわいそう」って気持ちだけで短絡的にエサやりを始めちゃうから、すぐに収拾のつかない状態になっちゃう。だから、あたしは、動物のことを知らない人間が、自分の感覚や価値観だけで「かわいそう」って思い込み、短絡的なことをするのって、周りに迷惑をかけるだけじゃなくて、その動物のためにもならない愚行だと思ってる。
だけど、美ら海水族館の人たちのように、その動物の専門家たちが、キチンとした考えに基づいて行なったプロジェクトには、「かわいそう」を遥かに超えた重要な意味がある。このプロジェクトの成功によって、フジと同様に尾ビレを失ったイルカたちが救われるってだけじゃなく、イルカの泳ぎの秘密を解明することによって、それが、あたしたちの生活にフィードバックして行くだろう。たとえば、船や潜水艦のスクリューに代わる新しい動力が開発されるかもしれないし、イルカの尾ビレからヒントを得た水中翼を取り付けることによって、現行の船の操作性や燃費が増すようになるかもしれない。
‥‥そんなワケで、イルカにとっての尾ビレは、鳥にとっての翼であり、翼をケガして飛べなくなった鳥も、野生じゃ生きて行けなくなる。そして、翼には問題がなくても、クチバシを失ったら、これまた野生じゃ生きて行けなくなる。3年前の2005年に、アメリカのアラスカ州の埋立地で、死にかけているハクトウワシが見つかった。密猟者に撃たれて上のクチバシを失ったハクトウワシは、自力でエサをとることができなくなり、餓死しかけていたのだ。
このハクトウワシは、体重が6.8kgのメスで、「ビューティー」と名づけられた。上のクチバシを失ってしまっていたため、舌と鼻孔が露出していて、自力では、エサを食べることも、お水を飲むこともできなかった。そして、鳥には重要な羽づくろいもできなかった。羽づくろいができなければ、飛ぶこともできなくなってしまうのだ。
それで、最初の1年間は、拾った人がエサを食べさせてたんだけど、何とかしてやりたいと思い、生物学者のジェーン・カントウェルさんに相談して、アイダホ州の「猛禽類回復センター」にビューティーを持ち込んで、エンジニアのネイト・カルバンさんの協力のもと、人工クチバシの製作が始まった。カルバンさんは、ビューティーの残った下のクチバシから型を取って、コンピューターでそれに合う上のクチバシを設計して、長い時間をかけてプロトタイプを完成させた。そして、今年の5月、ようやくプロトタイプの装着が成功したので、今後は、より強固な材質で作ったものに変更していく予定だという。
あたしは、写真を観たけど、なかなかカッコ良かった。ただ、長いこと人間からエサをもらってたビューティーは、野生に還しても自分でエサをとって暮らしてくことが難しいそうだ。そのため、生物学者のカントウェルさんが、人工クチバシを装着したビューティーを連れて全国をまわり、猛禽類を密猟しないようにと講演会を行なって行く予定だそうだ。
‥‥そんなワケで、鳥にとってのクチバシは、ホントに重要で、釣り人の捨てた釣り糸がクチバシにからまって、エサを獲ることができずに死んでしまう水鳥も多い。鳥たちをライフルや散弾銃で直接的に撃ち殺すことも、捨てた釣り糸やゴミによって間接的に餓死させることも、やってることはおんなじだ。そして、こうした酷いことをするのも人間なら、それを助けようとするのも人間だ。
秋田県の「大森山動物園」には、タイサ君(オス)とヒメちゃん(メス)っていう2羽のニホンコウノトリがいるんだけど、タイサ君は上のクチバシが折れてしまった。コウノトリのクチバシって、あたしたちが使ってるお箸みたいに細長くて、それこそお箸のように使ってる。クチバシの先ではさんだお魚をクックックッて飲み込んで行く。だから、コウノトリが片方のクチバシを失うってことは、あたしたちがお箸1本だけでご飯を食べろって言われてるようなもので、とてもじゃないけど何も食べられない。
そして、コウノトリの場合は、それだけじゃない。カタカタとクチバシを鳴らす「クラッタリング」っていう行為によって、相手を威嚇したり求愛したりと、コウノトリ同士での意思表示をしてる。だから、コウノトリにとってクチバシを失うってことは、エサが食べられなくなるだけじゃなくて、仲間同士でのコミュニケーションも失ってしまうことになる。
それで、大森山動物園では、地元の歯医者さんに協力してもらって、タイサ君の人工クチバシを製作することになった。そして、完成した人工クチバシをつけてもらったタイサは、つばらくすると羽づくろいを始めて、1年ぶりに自力でドジョウを食べることもできたのだ。そして、今では、メスのヒメちゃんと仲良くコミュニケーションをとりながら暮らしてる。だけど、これは、2羽だけで飼育されてるからこそ、うまくいってるのかもしれない。
あたしの大好きな「多摩動物公園」には、オス33羽、メス31羽、ニューハーフ1羽の合計65羽のニホンコウノトリがいる。もちろん、ニューハーフってのはジョークで、この1羽は「性別不明」ってことだ。で、こんなにたくさんのコウノトリがいたら、飼育係の人だって分からなくなっちゃうし、名前をつけても区別できない。2羽だけなら、タイサ君とヒメちゃんて名前をつけても識別できるけど、サスガに65羽もいたら、専門家でもムリだろう。
だから、多摩動物公園では、それぞれの脚に識別のためのタグをつけて、右脚に赤いタグをつけたのを「右赤」、左脚に青いタグをつけたのを「左青」なんてふうに呼んでる。味もソッケもないけど、これは仕方ないことだ。だけど、そんな中の1羽、左脚に赤いタグをつけた7才のオスだけは、あたしが見ても一発で分かる。それが、「ジョーロ君」だ。ジョーロ君は、5年前の2003年、ケージの金網にクチバシを引っかけてしまい、そのままムリに動いたため、上のクチバシを5cmほど残して折ってしまった。
それで、何とかエサを食べられるようにと、園の獣医師が機転を利かせて、園内にあったプラスティック製のジョーロの注ぎ口をタテに切って、残ってたクチバシに針金と樹脂で取り付けたのだ。これで、何とかエサを食べられるようになった上に、「ジョーロ君」なんてニックネームまでついちゃって、人気者になっちゃった。だけど、ジョーロ君は、クラッタリングをしなくなった。上のクチバシがプラスティックだから、みんなのような音が出ないからだ。それで、ジョーロ君は、自分のほうからは仲間とコミュニケーションしなくなり、このままじゃイジメの対象になっちゃうってことで、隔離されてケージで飼われるようになった。
それで、2年前に、いい音が出るようにと、アルミ製のクチバシに交換してもらったんだけど、ジョーロのクチバシを長いこと使ってたからなのか、まだクラッタリングをしようとはしないそうだ。やっぱり、大森山動物園のように2羽だけの場合なら「家族」だけど、65羽もの群れの場合だと「社会」になっちゃうから、みんなに馴染むのはなかなか難しいのかもしれない。
こんなふうに、鳥の欠損したクチバシを人工で補うってのは、たくさんの例があるんだけど、その中でも珍しいのが、神奈川県川崎市にある「夢見ヶ崎動物公園」のフンボルトペンギンだ。6年前、当時4才のオスのペンギンが、オス同士のケンカで、クチバシの3分の1を折ってしまった。それで、このままじゃエサを食べることができないので、歯医者さんや歯科技工士さんたちの協力のもと、人工クチバシが完成した。
耐久性などの問題もあって、今でも2ヶ月ごとに調整したり付け直しをしたりしてるそうだけど、この人工クチバシによって、ちゃんと求愛行動もできるようになって、めでたく子供を作ることもできたのだ。夢見ヶ崎動物公園は、あたしの大好きな動物園のひとつで、もう軽く10回以上は行ったことがあるけど、何でかっていうと、ここだけの話、入園料が「無料」だからだ。上野や多摩も600円なので、動物園て水族館と比べて遥かに安いけど、それでも、無料に勝るものはない。パチンコ屋さんでの喫煙を全面禁止にするのはアホだと思うけど、夢見ヶ崎動物公園だけに関して言えば、川崎市もなかなかワンダホーだと思う。
‥‥そんなワケで、どんなにがんばっても、すべての命を救えるワケじゃない。タイサ君とヒメちゃんのいる大森山動物園には、病気で片脚を失い、義足をつけてたフラミンゴのメンコちゃんがいたんだけど、みんな必死にがんばってたのに、病気が悪化して、5月12日に亡くなってしまった。もちろん、これが野生の世界だったら、誰にも助けてもらえずに死んでたワケだけど、あたしは、こうした努力は、決してムダだとは思わない。残念ながら、メンコちゃんは亡くなってしまったけど、今回のことが、きっと次に生かされると思うからだ。だから、あたしは、趣味やイタズラで生き物を殺す残酷な人たちが後を絶たないことはすごく悲しいけど、こうして、たったひとつの命を救うためにがんばってる人たちもたくさんいるってことを未来への希望にして行きたいと思う今日この頃なのだ。
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