郷に入れば郷に従え
あたしは、東京生まれの東京育ちで、東京以外に住んだことがないので、他府県の文化やノリが分からない。中でも、特に分からないのが、関西の人たちの感覚だ。普通は、地方から東京に上京して来ると、ほとんどの人が標準語を話すように努力する。自分の地方のナマリが恥ずかしいってこともあるだろうけど、基本的には「郷に入れば郷に従え」ってことで、これは常識だろう。でも、関西の人たちの多くは、東京に上京しても関西弁を使い続けてる。これは、テレビのタレントもおんなじで、明石家さんまや島田紳助を始め、多くの関西人タレントが、全国ネットの中央の放送なのに、方言を使い続けてる。
あたしたち東京の人間は、関西弁の8割か9割くらいはヒヤリングできるけど、1割か2割は何を言ってるのか理解できない。それに、言ってる意味の分かる8割の部分でも、言葉のビミョ~なニュアンスまでは分からないものも多い。たとえば、東京では、友達同士なら、相手に「バカ」って言っても怒られないけど、「アホ」って言うと怒られることが多い。東京では、「バカ」はよく使う軽い言葉だけど、「アホ」は相手を軽蔑する言葉だからだ。だけど、関西圏では逆みたいで、「バカ」って言うと怒られるけど、「アホ」って言っても怒られない。
これが、あたしが関西に行った時なら、それこそ「郷に入れば郷に従え」なんだから、関西の人たちの感覚に合わせて、あたしのほうが使う言葉を選ばなきゃならない。それは当然だ。そして、関西の人が東京にやって来て、あたしが生まれて育って今も住んでるこの東京で会話をするのなら、関西の人のほうが東京の感覚に合わせるべきだ。でも、あたしの知る限り、関西の人の多くは、東京に来ても、自分たちの感覚で話す。そして、それどころか、東京の感覚に対して怒ったり、文句を言ったりする。あたしには、これが理解できない今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、あたしは、地方それぞれの文化ってものをリスペクトしてるし、何を言ってんのかサッパリ理解できない青森弁とかでも、それはそれで素晴らしい文化だと思ってる。だけど、「言語」ってものは、コミュニケーションの手段なんだから、何よりも重要なことは、何度も書いて来たけど、「郷に入れば郷に従え」ってことだと思ってる。あたしたちニポン人が、アメリカとかイギリスとかの英語圏に行ったら、まったく英語ができない人だって、旅行用の英会話の本を見たり、手振り身振りを加えたりしながら、何とか英語でコミュニケーションを取ろうとするハズだ。
それとおんなじで、地方から東京に上京して来たら、標準語を話すのが当たり前だし、どうしても標準語を話すことができなかったとしても、せめて、自分たちの方言と標準語とのニュアンスの違いに対して、自分のモノサシで怒ったり文句を言ったりすることだけはやめてもらいたい。東京に来ても関西弁を使い続ける関西人って、アメリカやイギリスに行っても関西弁を使い続けてることとおんなじで、その土地にずっと住んでる人たちにしてみたら、自分の家に土足で上がり込んで来られたような気持ちになる。
何で、こんなことを書いてるのかって言うと、今日、今年の春に大阪から上京して来たヘアメークの男の子との会話で、ムカッとすることがあったからだ。あたしから見れば、年齢も技術も実績も、遥か見下ろすようなレベルの子なんだけど、初対面の時から、腹が立つほど軽くて、タメグチが全開だった。分かる人にだけ分かるような喩えで言うと、中尾彬の付き人の男の子とおんなじくらいのレベルで、あたしと話してても、あたしだけじゃなく、社会そのものをナメまくってるようなノリなのだ。その上、本人はそれに気づいてない。
まあ、今どきの子なんだから、そんなことは別に気にもしてなかったんだけど、今日は、ホントにムカついた。ある現場で、ヘアメークはあたしともう1人で、アシスタントが2人ついてて、その1人がその子だった。で、もう1人のヘアメークは、あたしの後輩で、問題の子は、そのヘアメークのアシスタントだった。ようするに、あたしの後輩のアシスタントって立場だったってワケだ。そして、もう1人のヘアメークでさえも、先輩であるあたしに敬語っぽい話し方をしてるのに、そのアシスタントの彼は、あたしにタメグチが全開で、もちろん、自分のついてるヘアメークにも、さらには、担当してるモデルさんたちにもタメグチが全開だった。それも、関西弁で。
だから、現場の人たちは、みんな、暗黙の了解みたいな感じで、「やれやれ‥‥」って感じで、あえて誰も注意もしなかったし、サクサクとお仕事を進めてた。みんなプロだから、プロの現場での常識以前に、社会人としての常識も欠落してるようなお子様に、いちいち「社会の基本」なんてものを教えてあげるほどヒマじゃなかった。そして、午後になって撮影が終わり、あたしたちは残りのお仕事がチョコっと残ってたので、モデルさんたちを帰してから、ランチ休憩をはさんで片づけちゃうことになった。それで、今日のスタジオには給湯室があったから、あたしは、お茶をいれておにぎりを食べようと思ってたら、給湯室でお茶の用意をしてるとこに、その子がやって来て、こう言ったのだ。
「きっこさ~ん、この辺にマクドある?」
この「マクド」は、もちろん、標準語のアクセントでなめらかに発音する「マクド」じゃなくて、関西弁の「マクド」だ。音階で言うと「ド・ソ・ド」だ。標準語なら「ミ・レ・ド」って感じで、なめらかに発音するけど、関西弁の場合は、真ん中の「ク」だけがヤタラと上がる。で、あたしは、東京じゃ「マック」って言うけど、関西人が「マクド」って言うことを知ってたし、関西人には「郷に入れば郷に従え」って意識がゼロで、東京に来ても「マクド」って言い続けてるってことも知ってたから、極めて普通に、極めて親切に、こう返事した。
「マックなら、駅の反対側にあるわよ。駅の通路を抜けて、すぐ右側のとこよ」
そしたら、何て言ったと思う? あたしは、ヒサビサにムカッと来ちゃった。このバカ野郎は、こう言ったのだ。
「マック? マックって何やねん? マクドナルドのことはマクドって言うのが普通やん。なんでもかんでもカッコつけて、これだから東京もんは、かないまへんわ」
あまりにもムカついたから、この「やねん」とか「やん」とかの辺はリトル違うかもしれないけど、とにかく、こっちが「マクド」なんていうダサい言い方にまったくツッコミを入れずに、すごく親切に教えてやったことに対して、いったいぜんたい何なの? この異常な感覚。だいたいからして、マクドナルドのことを「マック」って呼ぶのが、何で「カッコつけてる」ってことになるの? その上、「東京もん」て何なの? もう、完全にあたしの理解を超越してるよ、このバカ野郎は。
‥‥そんなワケで、別にあたしが呼んだワケでもないのに、自分から勝手に東京にやって来て、質問されたことに「東京で使われてる標準語」で親切に答えてあげただけなのに、何でこんなに不愉快な気持ちにさせられなきゃならないんだろう? すべての関西人がこのバカ野郎とおんなじとは思ってないけど、多くの関西人が東京に来ても関西弁を使い続けてることや、東京の言葉や感性やニュアンスにケチをつける現状を見ると、あたしは、「そんなに東京が嫌いなら来なきゃいいのに」って思う。「きっこの日記」が嫌いなのに、毎日毎日読みに来て、嫌がらせや揚げ足取りのメールを送って来るようなヤツラと、イメージがオーバーラップしちゃうよ、まったく。
だから、こうした人たちの感覚って、あたしには死ぬまで理解できないんだけど、ここでひとつ、関西の人たちに聞きたいことがある。東京には、「東京スター銀行」って銀行があるんだけど、その銀行のCMで、ずいぶん前から、「完済人(かんさいじん)になろう」ってのをOAしてる。どんなことなのかって言うと、あちこちのサラ金とかでお金を借りまくって、首が回らなくなっちゃった多重債務者に対して、すべての借金を「東京スター銀行」が肩代わりして返済してくれて、債務者は、その総額を「東京スター銀行」へ返済すればいいってシステムの宣伝だ。
ようするに、よくある「借金の1本化」ってヤツだけど、これに対して「東京スター銀行」は、「完済人になろう」ってキャッチフレーズのCMを流してるってワケだ。もちろん、この「完済人」てのは「完済する人」って意味だけど、当然、「関西人」と語呂合わせしてることは誰もが知ってる。あたしは、このCMを初めて見た時に、まず思ったことは、「関西の人たちは怒らないのかな?」ってことだった。だって、いくら語呂合わせとは言え、借金で首が回らなくなった多重債務者に呼びかける言葉として、「かんさいじん」て言葉を使ってるからだ。
たとえば、「東京人」の語呂合わせで、頭が狂った人のことを「頭狂人(とうきょうじん)」て言われたら、あたしはムカつく。だから、これとおんなじで、こんなCMを流されたら、関西人の多くはムカつくんじゃないかって心配したのだ。だけど、しばらくしてから、これは「東京スター銀行」だから、たぶん支店は東京にしかないだろうし、CMだって関東圏でしか流してないだろうから、そんなに問題にはならないかとも思った。だから、関西在住の関西人で、東京でこんなCMが流れてることを知らなかった人がいたら、多重債務者に呼びかける言葉として「完済人」て言葉を使ってることをどう感じるか、正直なとこを教えて欲しいと思った。
‥‥そんなワケで、方言は文化なんだから、あたしは方言を否定してないし、それどころか、とっても素晴らしいものだと思ってる。この東京にだって、あたしが使ってる標準語とは別に、東京弁てものが存在する。もう、下町のほうのお年寄りくらいしか使ってないけど、独特の味わいがあって、すごく心があたたかくなる。だから、それぞれの地方の人たちが、自分たちの方言を大切に思ってるのとおんなじように、東京が故郷であるあたしにとっては、標準語や東京弁が大切なのだ。もしも、あたしが、どこか他府県に移り住むことになったら、できるだけ早くその土地の方言で話せるように努力するだろう。それが、その土地や人々に対するリスペクトであり、それが、「郷に入れば郷に従え」ってことだからだ。だから、関西の人たちも、もしも東京に上京して来るんなら、できるだけ早く標準語を覚えて欲しいと思し、せめて、マクドナルドのことは「マック」って言ってもらいたいと思う今日この頃なのだ。
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