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2008.09.15

中秋の名月

今夜は「中秋の名月」だ。タマに「仲秋の名月」なんて書く人がいるけど、これは間違いだ。「中秋」が「秋の真ん中の1日」を指す言葉なのに対して、「仲秋」は「秋を初秋、仲秋、晩秋と3つに分けた時の真ん中の期間」を指す言葉なので、「仲秋の名月」なんて書いちゃうと、今夜だけじゃなくて、2週間前から2週間後まで、1ヶ月も続いちゃう。それなのに、俳句をやってる俳人でも、タマに「仲秋の名月」なんて書く人がいるんだから、あたしはダッフンしちゃう。

それから、いくら「中秋の名月」だからって、それが「満月」とは限らない。もちろん、中秋の夜がちょうど満月になる年もあるけど、1日か2日くらいズレちゃう年もある。ちなみに、今年は、満月は1日ズレて明日の夜だ。だから、今夜の「中秋の名月」は、パッと見はほとんど満月みたいなもんだけど、細かいことを言うと、ビミョ~に欠けてるのだ。だけど、「中秋の名月」ってのは、「満月を愛でること」じゃなくて、「中秋の夜に月を愛でること」なので、たとえビミョ~に欠けてても、今夜見なくちゃ意味がない。

で、今の新暦は、別名「太陽歴」とも言って、太陽に合わせて作られてるけど、昔の旧暦は、月によって作られてた。新月の日が「1日(ついたち)」で、それからだんだんに月が太って行って、満月になった日が「その月の真ん中あたり」だ。そして、そこからだんだんと月が細くなって行き、1ヶ月が終わり、次の新月の日から、次の1ヶ月が始まる。こんなふうに、昔の暦は月の満ち欠けを基準にしてたからこそ、「1ヶ月」って言うのだ。だから、太陽を基準にしてる今は、ホントなら、「1ヶ月」のことを「1ヶ太陽」とか「1ヶ日」とか呼ばなきゃおかしいと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、この「中秋の名月」ってのは、もともとは中国の「中秋節」から来てる。中国には、たくさんのお祭りがあるけど、中でも「春節(旧正月)」「元宵(げんしょう)節」「端午節」「中秋節」の4つを「四大伝統祭り」としてるので、「中秋節」は、とっても大きなお祝いの日になる。ニポンでは、春の「お花見」と比べると、秋の「お月見」をする人は少なくなっちゃったけど、中国では、今も各家庭でお供え物を並べて、お月見をする。有名な「月餅(げっぺい)」も、「中秋節」のために作られたお菓子だ。

それで、中国の人たちが、なんでこんなに「中秋節」を大切にしてるのかって言うと、それは、昔の中国には、太陽が10個もあった上に、夜がなかったからだ。1個でも暑い太陽なのに、それが10個もあった上に、24時間ずっと照ってるんだから、そりゃあもう暑くてたまんない。海や川や湖は干上がっちゃうし、草や木は枯れちゃうし、作物もみんな干からびちゃう。そして、これだけでも大変なのに、いろんな怪物や魔物まで登場しちゃって、あちこちで大暴れを始めちゃった。

「鑿歯(サクシ)」っていう怪物は、自分の下アゴを貫通するほどの長い牙を持ち、右手に矛(ほこ)、左手に盾を持って、逃げ惑う人々をカタッパシからムシャムシャと食べて行った。「九嬰(キュウエイ)」っていう怪物は、頭が9つあって、それぞれの口から、火を噴いて家々を焼き払ったり、水を噴いて洪水を起こしたりと、もう、やりたい放題。「大風(タイフン)」っていう怪物は、その名の通り、モーレツな暴風を巻き起こして大暴れ。

これだけでも国が滅びそうなイキオイなのに、サスガは、広大な中国はスケールが違う。まだまだ強力な怪物が登場しちゃうのだ。続いての「アツユ」っていう怪物は、ニポン語に漢字がないからカタカナで行くけど、中国の毛の生えた怪物の中では最大って言われてて、体長が80mもある。文献によって、体が虎で頭が龍だとか、体が牛で頭が人間だとか、諸説あるんだけど、この辺のことはギリシャ神話とおんなじで、アバウトに考えるしかない。

そして、次の「修蛇(シュウダ)」は、南にある洞底湖に住んでる大蛇で、体が黒くて頭が青い。で、長さは1800mって、おいおいおいおいって感じだけど、この巨大な体で大波を起こして漁師たちを苦しめた。ここまで来ると、一番最初の「太陽が10個もあるセイで海や川や湖が干上がった」って部分との矛盾を感じるんだけど、スケールの大きな中国神話は、こんな矛盾なんか気にしない。そして、次の「封キ(ホウキ)」っていう怪物は、これまた「キ」って漢字がニポン語にないからカタカナで行くけど、コイツは巨大なイノシシで、ものすごく気が荒くて、手当たり次第にナンでもカンでも破壊して、人間も食べちゃう上に、全身を覆う毛皮がヨロイのように硬くて、どんな攻撃も受けつけない。

‥‥そんなワケで、とにかく、太陽が10個の上に、サクシ、キュウエイ、タイフン、アツユ、シュウダ、ホウキっていう6匹もの怪物が大暴れしちゃったもんだから、懐かしいゲームの「女神転生」を思い出しちゃった上に、中国は大変なことになっちゃったワケだ。だけど、このまま滅びちゃったら神話にならないワケで、ここで「ジャジャジャジャ~ン!」って登場するのが、人間として最初に中国を統一した皇帝、堯(ギョウ)だった。堯は、苦しんでる民を救うために、中国一の勇者、后ゲイ(コウ・ゲイ)っていう若者を派遣した。

「ゲイ」は「羽」の下に「廾」って書くんだけど、これまたニポンにはない漢字なので、これまたカタカナで書くしかないワケで、カタカナで「ゲイ」なんて書くと、ナニゲに弱そうに感じちゃう上に、おネエ言葉で話しそうな雰囲気がマンマンなんだけど、そんなこたーない。筋骨隆々で、ハンマー投げの室伏みたいなビジュアルの若者だった‥‥って、それはそれで、別口の「ゲイ」から狙われちゃいそうだけど、ま、そんなことは置いといて、ゲイは、右腕よりも左腕がリトル長かった。それは、弓の名手だったからだ。

ゲイは、彼にしか引くことのできない「万斤(まんきん)の宝の弓」と「千斤(せんきん)の神の矢」を愛用してて、これさえあれば、射抜けないものはなかった。ちなみに、「万斤の宝の弓」の「万斤」は、「鼻くそ丸めて万斤丹」の「万斤」とおんなじだけど、別に矢の先に鼻くそはついてない。それにしても、「ゲイがマンキンだのセンキンだのを愛用してる」だなんて、どうしても話が新宿2丁目のほうへ行きそうになっちゃう‥‥って、こんなにダッフンしてると、なかなか進まない。で、ゲイは、まずは昆侖山(こんろんざん)に登って、頂上から空に向かって9本の矢を放った。これで、一気に9つの太陽を射落としたゲイは、残った1つの太陽にも矢を向けて、こう言った。


「我に射落とされたくなければ、これからは早朝に昇り、夕方に沈むのだ! 分かったか!」


目の前で、他の仲間をすべて射落とされちゃった太陽は、ゲイの言うことを聞くしかなかった。そして、空に太陽は1つだけになり、昼と夜とができたのであった。めでたし、めでたし‥‥って、まだ怪物たちが残ってたか。で、太陽が1つになって涼しくなったので、さらにパワーアップしたゲイは、100mを9秒68のスピードで疾走して、怪物たちを退治しに行った。

そして、登場する時には説明のために時間が掛かっちゃった怪物たちだけど、退治する時は時間短縮のために、野原でサクシをやっつけて、川のほとりでキュウエイをやっつけて、丘の上でタイフンをやっつけて、その流れでアツユもやっつけて、ついでに洞底湖までシュウダをやっつけに行った帰りに、桑林に寄ってホウキもやっつけちゃった。ホントは、それぞれのやっつけ方もそれぞれ違うんだけど、そんなことまで書いてるのはメンドクサイので、サクッと割愛する。

‥‥そんなワケで、これでやっと中国に平和が戻り、人々も平和に暮らせるようになったし、たった1人で9個の太陽と6匹の怪物を退治しちゃったゲイは、全国的な英雄になっちゃった。そりゃそうだよね。そして、まだ若くて独身だったゲイのとこには、全国から美女たちが押し寄せた。たぶん、ゲイの筋肉美にシビレちゃった男性も混じってたかもしれないけど、ゲイにその気はなかったから、集まった美女の中から、誰よりもバツグンに美しかった「嫦娥(ジョウガ)」っていう女性をお嫁さんに選んだ。ク~~~ッ!ウラヤマシ~~~ッ!

ジョウガは、外見が美しいだけじゃなくて、ものすごく穏やかな性格をしてて、頭も良くて、ホントにパーフェクトな女性だった。その上、ゲイが狩に行って獲って来た獲物を周りの人たちにもオスソワケしたりする気配りもあったので、周りの人たちからも「ゲイはホントにいいお嫁さんをもらった」って評判が良かった。そんな感じで、2人は、仲むつまじく幸せに暮らしたのだった。めでたし、めでたし‥‥って、まだまだ終わるどころか、ここからようやく本編に突入するんだけど、ある日、狩に行ったゲイは、山の中で1人のおじいさんと出会う。このおじいさんは、魔術を使う道士で、ゲイの人柄に感心して、ゲイに不老不死の妙薬をプレゼントしちゃう。だけど、これが不幸の始まりだったのだ。

おじいさんの説明によると、これは不老不死の薬って言っても、今のまま不老不死になるんじゃなくて、これを飲むと天に昇って仙人になっちゃうって話だった。つまり、死ななくなることは死ななくなるんだけど、天に昇っちゃうワケだから、愛するジョウガとは離れ離れになっちゃう。そして、この薬は1人ぶんしかないから、2人で飲むことはできない。それで、ゲイは、ジョウガにこの薬のことを説明して、部屋の奥の箱の中に仕舞うように言った。ジョウガも、ちゃんと理解して、言われた通りにした。

だけど、隣りの部屋から、この話を盗み聞きしてた男がいた。英雄であるゲイの家には、毎日のように何人もの「弓矢の弟子」が集まってたんだけど、その中の1人に、「蓬蒙(ホウモウ)」っていう悪い男がいたのだ。「ゲイ」の家に来てた男が「ホーモー」だなんて、あまりにも出来杉くんな話だけど、原文にそう書いてあるんだから仕方ない。で、そのホウモウは、ゲイとジョウガとの話を盗み聞きして、不老不死の薬の存在を知ったので、何とか手に入れて自分が仙人になろうと考えた。

そして、旧歴8月15日の夕方、ゲイが弟子たちと狩に行ってる時に、ホウモウはコッソリとやって来た。そして、1人で家にいたジョウガに詰め寄り、不老不死の薬を渡すようにと脅したのだ。このままだと自分は殺されちゃう。でも、こんな悪い男に薬を渡して、仙人になっちゃったら、その力でどんな悪さをするか分からない。そんなことにでもなったら、愛するゲイにも大きな迷惑をかけちゃう。そう思ったジョウガは、ホウモウの目の前で、自ら不老不死の薬をぜんぶ飲んじゃったのだ。すると、ジョウガの体がぼんやりと光り出し、少しずつ宙に浮き始め、そのまま窓から空へと昇って行っちゃった。でも、ホントなら誰にも見えないほど遠くへ昇って行くハズなのに、愛するゲイと離れたくないって気持ちが強かったから、それがブレーキになって、ジョウガは地上から一番近い「月」に着陸した。

それからしばらくして、狩から戻って来たゲイは、ジョウガがいないことに気づく。そして、どこに行ったのか家の周りを探してると、たまたま一部始終を見てた女性から、ジョウガが月へ行ってしまったことを聞かされる。驚いたゲイは、パッと夜空を見上げると、ミゴトなまでの満月が輝いてた。思わずゲイは、盗んだバイクで走り出す~行き先は~月のほう~暗い夜のトバリの~中へ~えええ~~~♪ 誰にも奪われたくないと~呼び続ける~ジョウガの名を~1人になってしまった~十五夜の夜~~~♪

でも、いくら走っても走っても月へ行くことのできなかったゲイは、毎年「中秋」の日の夜になると、庭に立派な脚付きのお供え台を並べて、ジョウガが好きだった果物をたくさん積み上げて、月に向かってジョウガを想うようになった。そんなゲイの姿を見た近所の人たちも、一緒にお供えをするようになり、だんだんに広がって行き、いつしか「中秋節」として、全国的なお祭りになったのだ。きっと、ジョウガのほうも、毎年「中秋」の日の夜になると、月の宮殿「広寒宮(こうかんきゅう)」から外へ出て、地球に向かってゲイを想っているのだろう。そして、遥か遠い昔に、ゲイは亡くなってしまったけど、不老不死になってしまったジョウガのほうは、今夜も、月からこの地球を眺めてるのかもしれない‥‥。

‥‥そんなワケで、これが、「かぐや姫」でオナジミのニポンの「竹取物語」の元の元の元の元くらいの中国のお話なんだけど、このお話には、ギリシャ神話と同様に、複数のバージョンがある。ゲイが、10個の太陽のうち9個を弓矢で射落としたこととか、怪物をやっつけたこととか、そのあたりはほとんどおんなじなんだけど、それから先がいろいろある。たとえば、怪物を倒して英雄になり、美しいジョウガとも結婚して、何の不満もないように見えたゲイだけど、実は、「自分もいつかは寿命が来て死ぬ」ってことを恐れるようになる。そして、仙人を訪ねて不老不死の薬を譲ってもらうんだけど、それを今度はジョウガが盗んじゃって、1人で飲んで月へ行っちゃう‥‥ってのもある。

そして、月へ行ってからのジョウガも、「立派な宮殿で幸せに暮らした」ってパターンもあれば、「月でヒキガエルになってしまった」ってパターンもある。さらには、ジョウガが月へ行ったあとに、ジョウガを脅して薬を奪おうとした弟子のホウモウが、自分の師匠であるゲイのことを弓矢で殺してしまい、自分が中国一の弓矢の使い手になった‥‥なんていう酷い話もある。だけど、あたし的には、ジョウガがゲイを騙して自分だけ不老不死になるってのはイヤだし、ヒキガエルになるのなんてもっとイヤだから、いくつかあるバージョンの中で、あたしが一番気に入ってるバージョンを「きっこ風味」で紹介してみたってワケだ。

で、ここまでは、夢はあっても非現実的な神話のお話だったから、最後にちょっとだけ現実的な現代のことも補足しとくと、去年の秋に打ち上げられた中国で初めての「月の周りを回る人工衛星」の名前は、「嫦娥(ジョウガ)1号」っていうのだ。だから、「神話なんてバカバカしい!」っていう夢のない人でも、今夜、「中秋の名月」を見上げれば、目には見えなくても、その視野の中には、ちゃんと「ジョウガ」が存在してるのだ。ま、人工衛星の「ジョウガ」は、別に今夜じゃなくても、いつでもグルグルと回ってるんだろうけど、どうなら、本物のジョウガが月へと昇った今夜、眺めてみたほうが、味わいがあるってもんだ。

そう言えば、話はクルリンパと変わるけど、メル友の石川喬司先生からいただいた最近のメールに、色川武大(阿佐田哲也)さんや吉行淳之介さんたちと麻雀を打った思い出話が書いてあった。それで思い出したんだけど、麻雀牌には「花牌」っていって、ニポンのルールだと使わない牌が4枚入ってる。たいていは「春」「夏」「秋」「冬」になってて、四季折々の絵が描いてある。だけど、象牙を彫って作られた中国の古い麻雀牌になると、この「花牌」には、「春夏秋冬」の他にも、いろんな種類がある。たとえば、「山間明月」とか「晴耕雨読」とか「江上清風」とか、ようするに、四字熟語が使われてて、それぞれの内容に合わせた美しい絵が彫られてる。

そんな中に、すごく珍しいパターンとして、「嫦娥奔月(ジョウガホンゲツ)」と「天女散花(テンニョサンゲ)」っていう「花牌」がある。あたしは写真でしか見たことがないんだけど、1枚1枚に美しい天女の絵が彫ってあって、完全に芸術品のレベルだ。そして、これはすごく特殊なパターンで、この2組の8枚が1セットの「花牌」として、136枚の牌と一緒になってるものだ。つまり、この2つの四字熟語は、お互いに呼び合ってるってことになる。「月へと飛んで行ったジョウガ」と「花のように散った天女」だなんて、なんて儚くもステキなんだろう。

‥‥そんなワケで、ゆうべ見上げた真夜中の月は、まるで天女の羽衣を羽織ってるかのように、半透明の雲のスジが幾重にも外郭をフチ取ってた。月自体も少しだけぼんやりしてて、それがまた何とも言えない雰囲気を醸し出してた。あんまり美しかったから、駐車場の真ん中で、しばらくの間、見上げてた。今夜は、東京の夜は曇りみたいだけど、ぼんやりとでも見えればいいし、もしも見えなくても、それはそれで「無月(むげつ)」っていって、心の目で楽しめばいい。だから、今夜は、タップリとお月さまを愛でて、F1が始まったらテレビを観て、F1が終わったら、また、お月さまを愛でようと思う今日この頃なのだ。


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