もんじゃとホッケ
お仕事で金沢に行って、3日ほど留守にしてたので、あたしは、何よりも猫たちのことが気になってた。母さんには毎日電話してたけど、猫たちには電話することができにゃいからだ。それで、あたしは、帰って来た日の深夜に、何となく駐車場に出てみたんだけど、誰ひとりいなくて、リトル心配だった。でも、次の日の朝に、留守中の猫たちのことをお願いしてったマンションの猫仲間の人にアイサツに行ったら、みんな元気で何も問題ないって言われて、ホッとした。ただ、コマイケルが一度しか顔を出さなかったってことと、もんじゃがなかなか近寄って来なかったって言ってたから、あたしは、もんじゃのことが心配になった。
コマイケルは、うちのマンションの他でも、どこかでご飯をもらい始めたみたいで、ものすごく元気になった。あたしが最初に出会った時は、体はガリガリだし、毛並みはボロボロだし、顔は目ヤニで酷かったけど、ずっとご飯をあげ続けて、ブラッシングもして、念のために猫用の抗生物質も飲ませてたら、みるみるうちに元気になった。そして、アントニオ猪木も言ってるように、「元気があれば何でもできる」ってワケで、もともとが茶トラの猫だったから、元気になったら可愛くなって、ヨソでもご飯をもらえるようになったみたいだ。
そうなって来ると、猫なんて現金なもので、あたしの用意するカリカリや缶詰よりも、もっと美味しいものをくれるお家があれば、そっちに行くようになる。あたしのとこに来るのは、そっちでアブレちゃった時くらいだ。だけど、顔の模様がヘンテコなもんじゃは、臆病な性格もあいまって、なかなか人間から可愛がられない。もんじゃは、ホントはとっても可愛い子なのに、猫のことを分かってない人間の中には、人間を見る時だけじゃなくて、猫を見る時まで外見で判断する人がいる。キレイな柄の可愛い猫を見れば、「あ~ら猫ちゃん♪」なんて脳天から声を出す人が、もんじゃみたいなヘンテコな模様の猫を見ると、ギョッとして歩道を遠まわりしてったりする今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、あたしたち人間は、自分の理想とする顔や体に生まれることってメッタにないと思うし、中には、女性に生まれたかったのに男性に生まれちゃったなんて人もいる。だから、猫にしたって、自分がどんな柄に生まれるのかなんて分からないし、猫の場合は、どんな柄がいいかなんて希望もないと思う。だけど、猫の柄って、すごく不思議な猫だけの特徴だ。
だって、おんなじ種類の動物なのに、白猫、黒猫、白黒ブチのシングルコートの仲間たちと、トラ猫系のダブルコートの仲間たちがいる。そして、黒猫でも、月の輪グマみたいに首のとこだけに白い毛が生えてる子もいるし、白黒ブチにしたって、パンダみたいにみんなおんなじ柄ってワケじゃなくて、いろんなブチの子がいる。そして、トラ猫なら、大きく分けて茶トラとサバトラとキジトラがいるけど、これも柄の濃さやシマシマの具合が1匹ずつ違う。おんなじ動物なのに、こんなにいろんな柄があるなんて、猫ってホントに不思議だ。
他の猫科の動物を見ると、トラはみんなトラの柄だし、ヒョウもピューマもチーターも、みんなそれぞれがおんなじ柄だからだ。黒ヒョウはみんな真っ黒で、黒ヒョウ同士でしか交尾しない。トラと黒ヒョウが交尾することはない。だけど、猫の場合は、トラ猫と黒猫が交尾して、普通に子供を作る。
そして、猫科の動物だけじゃなくて、キリンも、パンダも、他の動物も、みんなおんなじ柄をしてる。だから、トラが10頭いたら、あたしには区別がつかない。キリンが10頭いても、パンダが10頭いても、やっぱり区別がつかない。もちろん、毎日毎日見に行ってたり、ご飯をあげたりして世話をしてれば、そのうち見分けもつくようになるだろうけど、初めて見たら、絶対に区別がつかない。
だけど、白黒ブチの猫が10匹いれば、パンダと違って、1匹1匹のブチの具合が違うから、初見でもそれなりに区別がつく。そして、これは、白黒ブチの乳牛とか、犬のダルメシアンとかの場合にも言えることだ。だけど、白黒ブチの乳牛やダルメシアンの場合には、1頭ずつブチの具合こそ違っても、猫みたく真っ白や真っ黒はいないし、ましてや茶トラとサバトラの乳牛やダルメシアンなんていない。
‥‥そんなワケで、おんなじ動物なのに、これほどいろんな柄があるなんて、やっぱり猫だけだと思う。鳥や魚や昆虫で、オスとメスとの柄が違うってのはあるけど、オスもメスも関係なく、これほどいろんな柄があるのは、何万種もいる動物の中で、猫だけだろう。その上、猫の場合は、柄だけじゃなくて、顔の形もいろいろだ。特に、ニポン猫の場合は、目の大きさ、目と目の間隔、頭からオデコにかけてのライン、鼻のライン、ホッペのふくらみ具合などなど、いろんな部分が1匹ずつ違ってて、それぞれ顔が違う。
馬でも牛でも他の動物でも、1頭1頭の顔や体つきはビミョ~に違う。生まれた時から可愛がって育ててれば、他人にはおんなじような馬に見えても、飼い主が見れば区別がつくだろう。これは、どんな動物にも言えることで、なかなか区別がつかないようなイルカだって、1頭ずつ背ビレに特徴があって、見分けられる人は見分けられる。
だけど、そうした「限られた人にしか区別できないビミョ~な違い」とは違って、猫の場合には、初めて見た子供にも簡単に区別がつく。黒猫と、白黒ブチの猫と、茶トラの猫が1匹ずついれば、幼稚園児にだって、フロッピー麻生にだって、ひと目で区別がつくだろう。だから、猫の柄ってのは、猫同士だとそんなに重要じゃないだろうけど、人間にとっては大きな「区別のための目印」になる。そして、それだけじゃなくて、人間の持つ美意識で、その柄を見ようとする。
だから、おんなじ白黒ブチの猫でも、マックスみたいに、オデコの真ん中でキレイに左右対称に分かれてて、頭が黒くて顔が白ってパターンと、もんじゃみたいに、まるで顔にもんじゃ焼きをぶちまけたみたいなヘンテコなパターンだと、人間にはマックスのほうが可愛く見える。両方とも白猫だったとすると、丸顔のマックスも可愛いけど、目鼻立ちのバランスが良くて、鼻スジも通ってるもんじゃのほうが、猫の顔としては美しい。だけど、パッと見ると、その顔立ちの良さが分からないほどの模様だから、もんじゃは子供にも人気がない。
子供の中にも残酷な子がいて、キレイな柄のマイケルやマックスやペペロンチーノには、ニコニコして近づいて来て、頭や背中をなでたりするのに、顔の模様がヘンテコなもんじゃを見ると、気持ち悪がって追い払おうとする女の子がいる。だから、もんじゃは、ヨケイに憶病になって、ヨケイに人間を怖がるようになるんだと思う。子供には悪気はないと思うけど、あたしは、こんな子供のうちから、外見だけでモノゴトを判断するなんて、大人になったら絶対にジャニタレみたいな「外見だけで中身は最低」のバカアイドルとかに夢中になりそうな予感がする。
‥‥そんなワケで、あたしは、すべての猫を平等に扱うようにしてるつもりなんだけど、やっぱりあたしも人間だから、自分になついてる子は、特別扱いをしたくなっちゃう。もちろん、みんなが揃ってるとこでは、みんなに平等におんなじものを食べさせてるけど、その子だけしかいない時には、特別のものをあげちゃう時もある。
で、金沢に行く前のこと、あたしは、いつものスーパーで、1匹78円ていう破格のホッケを見つけた。頭の先から尾の先まで20cmちょいしかないミニホッケのヒラキで、一応は「北海道産」て書いてあったけど、明らかに怪しい。だけど、こんな値段で大好きなホッケを食べられる機会なんてメッタにないから、あたしは、サンマを買う予定を変更して、このホッケを2枚買った。
それで、その日の晩に、1枚を焼いて、ご飯のオカズにした。ちっちゃかったけど、久しぶりのホッケはとっても美味しくて、夢中で食べた。だけど、途中まで食べた時に、最近、首のまわりの毛が抜けて来て、ちょっと痩せて来たもんじゃのことが頭をよぎった。それで、あたしは、もんじゃにも少しホッケを分けてあげようと思って、皮の部分とか、頭や尾を残した。頭や尾は最初から残すけど、皮は大好きだから、すごく食べたかったけど、もんじゃの喜ぶ顔を想像して、残すことにした。
そして、少しお醤油をかけちゃったし、もともと塩味もついてるから、その皮と頭と尾をお水に浸けて、塩抜きをした。次の日の晩もホッケを食べたから、今度は、サービスで身も少し残した。そして、2日ぶんのホッケの皮と、頭と、尾と、ほんのちょっとの身をラップで包んでフリーザーに入れた。
‥‥そんなワケで、あたしは、金沢から帰って来て、「ご飯の時間に、もんじゃがなかなか近寄って来なかった」って話を聞いた。もんじゃは、あたしがいればみんなと一緒にご飯を食べるんだけど、あたし以外の人にはなついてないから、みんながご飯を食べてるとこを遠くから見てたみたいだ。そして、金沢から帰った翌朝、その話を聞いてから、あたしは猫たちのご飯の用意をしたんだけど、もんじゃは来なかった。
それで、あたしは、みんなのご飯が済んでから、一度、お部屋に戻って、もんじゃの好きなカリカリを入れたタッパーと、お水のタッパーと、フリーザーに入れといたホッケをレンジで解凍して、もんじゃ捜索の旅に出た。ま、もんじゃがいつもいる空き地に行っただけなんだけど、あたしのカンはバッチリで、いつもの空き地のいつもの場所に、もんじゃはチョコンと座ってた。それで、あたしと目が合うと、猫まっしぐらに飛んで来た。ああ~なんて可愛いの♪
もんじゃは、やっぱりあんまり食べてなかったみたいで、いつもの「ひざスリスリ」を短めに切り上げて、あたしのエコバッグの中のご飯をクンクンし始めた。だから、あたしは、すぐにタッパーを並べたら、もんじゃは夢中でカリカリを食べ始めた。それから、あたしは、ホッケを出したんだけど、そしたら、それまでカリカリを夢中で食べてたもんじゃが、シューマッハの速さでホッケのほうに来たかと思ったら、匂いをかいで大コーフン!
最初は、フガフガ言いながら皮の部分を食べてたんだけど、その下にあったホッケの頭を発見したら、ソッコーでカプッとくわえて、あたしの顔を見て、タタッと空き地の奥まで走ってって、そこでムシャムシャと食べ始めた。あんまり豪華なご飯だから、あたしに取られると思ったのか、頭を食べ終わると、またコソコソと戻って来て、今度は皮と尾が一緒になった大きめのとこをくわえて、またさっきの場所まで持ってった。どこで食べても猫の自由だし、自分が落ち着く場所が一番なんだけど、そこって、土の上なんだよね。せっかくタッパーに入れて来たのに、わざわざ土の上に置いて食べるなんて、あたしは、お母さんとして悲しいぞ。
‥‥そんなワケで、4日ぶりで会ったもんじゃは、ホッケをぜんぶ食べてから、カリカリもちょっと食べて、お水をいっぱい飲んで、大満足の表情でペロペロと顔を洗い始めた。あたしは、ブラッシングしてから、しばらく背中をなでてたんだけど、もうお仕事に行く時間が迫ってたから、後ろ髪を引かれる思いで空き地をあとにした。すべての猫を平等に扱うようにしてるつもりのあたしだけど、今は、どの子よりも、もんじゃが可愛くて、いじらしくて、目の中に入れても痛くないほど可愛くて仕方ない。一部の歪んだ価値観を持った人間が、くだらない「外見」なんてものでもんじゃを嫌ってるぶん、このあたしが、その何倍も愛してあげる。だって、この子は、そんな人間たちよりも、遥かに美しい心を持ってるからだ‥‥なんて思う今日この頃なのにゃ。
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