チームオーダーという必要悪
オトトイの中国GPは、地味な投手戦だったけど、地味は地味なりに、ところどころに見どころがあった‥‥って、「ところどころに見どころ」って面白いね(笑)‥‥なんてことも言ってみつつ、激しい順位の入れ替えもなかったから、お酒を飲みながら、のんびりと楽しむことができた。で、「ところどころに見どころ」ってのは、たとえば、オープニングラップのバックストレートでのコバライネンとアロンソのサイド・バイ・サイドとか、フェラーリチームがナニゲにロリポップを使ってたこととかだ(笑)
でも、まあまあそれなりに楽しんでたレースだったのに、最後の最後で、ライコネンが減速してマッサを先に行かせたのを見て、あたしは、何とも言えないイヤ~な気分になった。分からない人のために説明しとくと、この時点で、1番手をハミルトン(マクラーレン)、2番手をライコネン(フェラーリ)、3番手をマッサ(フェラーリ)が走ってて、ここまでのドライバーズポイントは、ハミルトンが84でトップ、マッサが79で2位、ライコネンは63で4位だった。そして、コンストラクターズポイントは、フェラーリが142でトップ、マクラーレンが135で2位だった。
つまり、コンストラクターズポイントとしては、ライコネンとマッサが2位と3位で入賞するなら、どっちが前でも後でも、フェラーリは2位の8ポイントと3位の6ポイントの合計14ポイントが入るから、ハミルトンが優勝して10ポイントを獲得しても、今までの差をさらに広げて、最終戦のブラジルGPへとナダレ込むことができる。だけど、ドライバーズポイントとしては、このままハミルトンをチャンプにさせるワケに行かないフェラーリとしては、ポイントで2位につけてるマッサをライコネンの前に行かせて、少しでもハミルトンとの差が広がらないようにしたいワケだ。
ハミルトンは、この中国GPの優勝で10ポイントを獲得して、トータルで94ポイントになった。で、マッサが3位だと、79+6=85ポイントってワケで、その差は9ポイント。こうなると、最終戦のブラジルGPで、マッサが優勝したとしても、ハミルトンが8位以下にならないとマッサの逆転はない。だけど、ライコネンがマッサに2番手を譲れば、マッサは、79+8=87ポイントってワケで、ハミルトンとの差は7ポイントだから、最終戦のブラジルGPで、マッサが優勝してハミルトンが6位以下とか、マッサが2位でハミルトンが7位以下とかでも、マッサが逆転してチャンプになるってスンポ―な今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、理屈の上では、こうした「チーム内での順位の入れ替え」は、ひとつのチームプレイとして理解できる。完全なる個人競技じゃない限り、どんなスポーツだって、チームの中で作戦を立てて、その作戦に沿って各プレイヤーが動くのは普通だろう。一番分かりやすい例で言えば、野球のスクイズだ。それも、3塁にランナーがいて、バントによって得点が入るならまだマシだけど、1塁ランナーを2塁へ進めるための「送りバント」なんて、あまりにも情けない。だけど、チームの優勝が懸かった大事な場面から、4番バッターにだって送りバントをさせるのが野球ってもんだ。
たとえば、この4番バッターが、今シーズンのホームラン王争いをしてて、ライバルチームの4番バッターに、1本差で負けてたとする。そして、この試合が、今シーズン最後の試合だったとする。そしたら、ホントなら、自分のすべての打席でホームランを狙いたいだろう。そして、プロの選手なら、ホームラン王になったかどうかで、来シーズンの年俸だって違って来るだろう。それでも、監督が送りバントのサインを出したら、黙ってそれに従うのがチームスポーツってもんだ。
そして、送りバントをする4番バッターを見ても、ファンはそれほどイヤ~な気分にはならないだろう。それは、こうしたプレイがルールで認められてるってことと、目的が明確だからだ。中には、「打たせてやれよ!」とか、「自分のチームの4番を信用してないのか!」とかって怒鳴る酔っぱらいもいるかもしれないけど、チームの優勝が懸かった1戦なら、ほとんどのファンは納得するハズだ。
‥‥そんなワケで、この「野球のスクイズ」とおんなじで目的は明確なのに、ライコネンが減速してマッサを先に行かせたのを見て、あたしがイヤ~な気分になったのは、F1の場合は、これがルール的にNGだからだ。詳しく言うと、かつてのF1は、こうしたチームオーダーが普通にマカリ通ってた。それこそ、「野球のスクイズ」とおんなじに、ひとつの作戦として、どのチームもやってた。
だけど、2002年のオーストリアGPで、ファイナルラップまでトップを独走してたフェラーリのバリチェロが、チェッカーを受ける直前に急激に減速して、後ろを走ってたシューマッハ兄に優勝を譲ったのだ。これが、あまりにもワザトラすぎちゃった上に、その後の表彰台では、シューマッハ兄がバリチェロに1位の場所を譲ったのだ。話だけ聞けば、ナニゲに「いいはなしーさー」みたいだけど、ここまでずっと、チームオーダーで、シューマッハ兄のサポート役に徹して来たバリチェロにとっては、これは精一杯の反抗だったんだと思う。
いくらルール上は問題がないとは言え、ハッキリ言ってスポーツマンシップには逆行しちゃう行為なんだから、普通なら、3周くらい手前のコーナーか何かで、さりげなくシューマッハ兄に前を譲るのがスマートなやり方だ。それなのに、わざわざチェッカーの寸前までトップを独走して、そこでアカラサマに減速してシューマッハ兄に前を譲るってのは、フェラーリチームのやり方にも、シューマッハ兄にもムカついてた、バリチェロの反抗心のタマモノだろう。
‥‥そんなワケで、このレースをさかのぼること11年、1991年のニポンGPでも、似たようなことがあった。このシーズンの終盤は、マクラーレン・ホンダのセナと、ウィリアムズのスーパーマリオ‥‥じゃなくて、スタン・ハンセン‥‥じゃなくて、マンセルが、チャンプ争いをしてた。で、このニポンGPへとナダレ込んだんだけど、マクラーレン・ホンダのベルガーとセナがフロントローを独占して、ウィリアムズのマンセルは3番グリッドだったから、マクラーレン・ホンダは、セナにマンセルをブロックさせて、その間にベルガーにできるだけ前に行かせるって作戦をとった。
チャンプ争いをしてたって言っても、セナはマンセルに大きなポイント差をつけてたから、マンセルがチャンプになるためには、このレースで優勝するしかなかった。だから、マクラーレン・ホンダとしては、たとえセナが抜かれても、その遥か先にベルガーがいるって形を作ろうとしたワケだ。だけど、10周目の1コーナーで、セナを抜こうとしたマンセルがコースアウトしちゃって、そのままリタイア。これで、マンセルの逆転は消えて、セナのチャンプが確定しちゃった。これが、鈴鹿の恐いとこでもあり、楽しいとこでもある。海へ向かって下ってくみたいなホームストレートの先に、魔の1コーナーがあって、その先は、アクセルワークだけでグイグイと上ってくS字ってワケだ。
で、スーパーマリオの場合は、1人がリタイアしてもあと2人いるけど、マンセルは1人しかいなかったから、気の毒だけど、これでジ・エンドってワケで、あとは、マクラーレン・ホンダの独壇場になった。セナは、このまま2位でフィニッシュすればワールドチャンプは確定だし、ベルガーは初優勝だ。マクラーレン・ホンダにとって、こんなにワンダホーなことはない。
だけど、ここで、想定してなかったことが起こっちゃった。トップを独走してたベルガーのエンジンが、ジョジョに奇妙に調子が悪くなっちゃったのだ。それで、セナは、そのままベルガーを抜いて、トップに立った。だけど、マクラーレン・ホンダでは、事前に、「オープニングラップで1コーナーを取ったドライバーを優勝させる」っていう決めごとをしてた。セナは、優勝でも2位でもいいワケで、ベルガーはポールを獲得したんだから優勝したい。だけど、何から何までチームオーダーはできないから、こうした決めごとをしといたってワケだ。
オープニングラップで1コーナーを取ったのは、ポールのベルガーだったから、チームとしては、事前の約束の通りに、ベルガーを優勝させなきゃって思った。それで、マクラーレン・ホンダのオーナーのロン・デニスは、セナに対して、何度もインカムで「ベルガーに前を譲れ!」って指示を出した。だけど、セナは、いっこうに譲る気配がない。そして、セナは、最後の最後までトップを走り、最終ラップの最終コーナーで、急激にスローダウンして、ベルガーに前を譲ったのだ。
‥‥そんなワケで、1991年のニポンGPでのセナも、2002年のオーストリアGPでのバリチェロも、最終的にはチームオーダーに従ったワケだけど、最後の最後までチームの指示を無視するかのようにトップを独走し、誰が見てもアカラサマな譲り方をしたってことは、「記録こそ2位だけど、真の優勝者はこの俺だ!」ってことを世界中のF1ファンに見せつけたかったんだと思う。そして、いくら何でも、こんなことが連発しちゃったら、「優勝」ってものの価値も低下しちゃうし、スポーツとしての公平性も失われちゃうから、2002年のオーストリアGPでのバリチェロの譲り方をキッカケとして、翌2003年からは、こうしたチームオーダーは、すべて禁止になったのだ。
それなのに、今回のライコネンとマッサの順位の入れ替えを見れば分かるように、未だにチームオーダーは平然と行われてる。ようするに、セナやバリチェロのような「あまりにもアカラサマなやり方」だけがなくなっただけで、誰が見てもチームオーダー以外のナニモノでもないような順位の入れ替えは、普通に行われてる。たとえば、あるチームのAとBのマシンの順位を入れ替えたい時に、Aのマシンがピットに入ったら、必要以上の燃料を積んで時間を遅らせて、その間にBのマシンを先に行かせたりすることもある。
だけど、こうしたピットでの時間の調整は、高い技術が必要だし、確実性が低いし、シロート目には分かりにくい。だから、こういうのならまだいいんだけど、今回のライコネンとマッサは、あまりにも酷すぎる。そして、こんなにも見え見えのチームオーダーに対して、「暗黙の了解」として見て見ぬフリをしてるF1業界にも情けなくなって来る。これじゃあ、大相撲の八百長と何も変わらない。八百長で横綱になった北の湖や貴乃花は、「八百長なんかない!」とか「八百長と無気力相撲は違う!」とかノタマッてるけど、F1のチームオーダーで言えば、セナやバリチェロがやったアカラサマな順位の入れ替えが「八百長」で、今回のライコネンみたいな順位の入れ替えが「無気力相撲」ってワケで、「何らかの意図を持って故意に勝ち負けを操作する」ってことには変わりない。
‥‥そんなワケで、大相撲だって、所詮はプロレスみたいなもんだって割り切って観れば、いくら八百長をしてたって何とも思わないし、逆に、「この勝負は間違いなく八百長だな」なんて、予想して楽しむこともできるだろう。だけど、F1の場合は、やっぱりスポーツなんだから、ルールでチームオーダーを禁止した以上、今回のフェラーリみたいなケースは、キチンと罰するべきだと思う。そして、今回のフェラーリみたいなケースを見て見ぬフリをするんなら、元通りにチームオーダーを解禁すべきだろう。そうしなかったら、F1の世界にも、そのうち、モンゴルの八百長ドライバーがデビューしちゃうと思う今日この頃なのだ。
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