カブのぬか漬け
お漬け物の切り方って、それぞれの家庭によって多少は違うけど、基本的にはほとんど変わらないと思う。たとえば、タクアンの場合なら、たいていの家庭は半月型に切ってると思う。すごくタマに、輪切りにしてる豪快な家庭もあるけど、あたしの知る限り、10軒のうち9軒は半月型だと思う。輪切りにするのは、つぼ漬けとかの細いタクアンの場合だけで、普通の直径のタクアンは、まず、タテ半分に切って、それから7~8mmくらいの厚さに切って半月型にする。
だけど、そんなタクアンでも、例外の切り方をする時がある。それは、お寿司の「タクアン巻き」を作る時だ。焼き海苔の上に酢飯を乗せて、細く切ったタクアンを並べて、白ゴマをパラパラと振って、「巻きす」でクルリと巻く。ちなみに、あたしの場合は、1cm角くらいに切ったタクアンを1本だけ入れるよりも、もっと細く、5mm角くらいに切ったタクアンを何本も入れるほうが好きだ。それから、タクアン巻きの場合は、カンピョウ巻きの時におんなじに、ワサビは入れない。
で、こうした特例を除けば、お漬け物の切り方って、そのお漬け物やお野菜の種類によって、だいだい決まってる。ぬか漬けなら、キュウリはナナメに切るし、ナスはタテ半分にしてからナナメに切るし、ダイコンはイチョウ型に切るし、カブはタテ半分にしてから半月型に切る。居酒屋さんとかで、お漬け物の盛り合わせを注文しても、それぞれのお漬け物がそれぞれの切り方で盛り合わせになってる。だから、見た目にも鮮やかだし、食べやすいし、それぞれの味や歯応えが楽しめる。どのお漬け物も、おんなじ大きさでおんなじ形に切り揃えられてたら、美味しさは半減しちゃうと思う。
やっぱり、お漬け物の美味しさって、味だけじゃなくて、歯応えによる部分が大きい。だから、それぞれのお漬け物に合った切り方をしないと、この歯応えが台無しになっちゃうのだ。たとえば、東京で一番美味しいって言われてる「東京タクアン」が手に入ったとしても、それを2cmくらいの厚さに切ったら、本来の美味しさを楽しむことはできないと思う。やっぱり、タクアンの厚さは、7~8mmがベストで、百歩ゆずっても1cmまでだと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、あたしは、お味噌汁とお漬け物さえあれば美味しくご飯が食べられるんだけど、それだって、それぞれのお漬け物に合ったベストの切り方をしてればの話だ。2cmもの厚さにブツ切りにされちゃった下品なタクアンだの、冷やし中華の上に乗ってるみたいに細切りにされちゃったキュウリの浅漬けだのを出されても、美味しくご飯をいただくことはできない。やっぱり、お漬け物は、母さん、おばあちゃん、ひいおばあちゃん、ひいひいおばあちゃん‥‥って、遥か昔からの流れで伝承されて来た基本的な切り方をしてないと美味しくない。ちなみに、「ひいひいおばあちゃん」てのは、別に「カラムーチョ」の袋に描いてあるおばあちゃんのことじゃない(笑)
で、たぶん、こんな流れで伝えられて来たであろう「きっこ家」のお漬け物の切り方の中で、リトル変わってるものがある。それは、ぬか漬けのカブの切り方だ。普通に食べる時は、さっき書いたみたいに、タテ半分にしてから半月型に切るんだけど、漬かりすぎちゃった時には、これをさらに細く切る。正確に言うと、この場合は、半月型に切る時よりも、厚みも薄くする。だいたい5mmから7mmくらいだ。ようするに、5mmから7mm角の千切りみたいにする。そして、葉っぱの部分はミジン切りにする。そして、これを混ぜ合わせて、オカカをタップリかけて、お醤油を垂らして、全体をよく混ぜる。
これを炊き立てのご飯の上に乗せて食べると、もう、何とも言えないほど美味しいのだ。あたしは、小学校の1年生の時に、これを始めて食べたんだけど、あまりにも美味しくて、これぼっかり食べてた記憶がある。母さんとしては、漬かりすぎちゃったぬか漬けを美味しく食べるための工夫ってワケで、おばあちゃんから教わった方式だった。キュウリの場合なら、浅漬けや中漬けなら1cm幅のナナメに切るけど、古漬けになっちゃったら、5mm幅の輪切りにする。他のお野菜の場合も、古漬けになっちゃったら、味も濃いし酸っぱくなるから、いつもより薄く、細かく切る。で、カブの場合には、千切りにして、ミジン切りにした葉っぱの部分と混ぜて、酸っぱさを緩和させるためにオカカをかけてたのだ。
それで、あまりにも美味しくて大感動しちゃったあたしは、母さんにこればっかりオネダリしてたんだけど、古漬けのカブなんてすぐになくなっちゃう。それで、ぬか漬けの樽には、もう浅漬けのカブしかなくて、仕方なく母さんは、いつもは半月型に切る浅漬けのカブで、これを作ってくれた。そしたら、これが、さらに美味しかったのだ。まだ子供だったあたしは、ホントは古漬けが苦手だった。やっぱり子供だから、酸っぱくない浅漬けのほうが好きだった。それでも、このカブの千切りだけは、オカカの効果で酸っぱさが緩和されてて、当時のあたしはすごく美味しく感じたのだ。だから、この方式を最初から美味しい浅漬けのカブで作れば、そりゃあ美味しいに決まってる。そして、この時から、カブのぬか漬けだけは、浅漬けだろうと中漬けだろうと古漬けだろうと、すべてこの方式で食べるのが「きっこ家」の暗黙のルールになったのだ。
だけど、それから長い年月が経ち、今はもう、ぬか床のない生活を送ってるから、このカブのぬか漬けも、ずいぶん食べてない。タマに、スーパーで市販のぬか漬けを買うこともあるけど、我が家の味は二度と味わうことはできない‥‥なんて思ってたんだけど、オトトイ、スーパーで見かけたカブのぬか漬けが、ものすごく美味しそうだった。カブが2個で250円もしたから、普段なら絶対に買わないんだけど、何だかこの時は、あの懐かしい味が蘇って来るような気がして、思いきって買ってみることにした。
それで、あたしは、このカブを1個、千切りにして、葉っぱの部分をミジン切りにして、よく混ぜてから、大人になってからのプラスアルファとしての一味唐辛子をパラパラとかけて、それからオカカをタップリとかけた。そして、お醤油を垂らして混ぜ合わせて、炊き立てのご飯の上に乗せて頬張った。そしたら、我が家のぬか漬けとほとんどおんなじ味で、とっても懐かしくて、涙が出るほど美味しかった。
‥‥そんなワケで、あたしは、もう1個のカブを母さんに食べてもらうことにした。ゆうべは、母さんと一緒に晩ご飯を食べる約束をしてて、アマダイの味噌漬けを用意してたのだ。それで、あたしは、アマダイの味噌漬けを焼いて、母さんの好きなナメコのお味噌汁を作って、あとは作っておいたイカとダイコンの煮物を温めて、それで晩ご飯にしようと思ってた。だから、これに、懐かしいカブのぬか漬けの千切りを添えれば、手術前の最後の晩ご飯としては完璧になる。母さんは、今日から病院で、手術の前日は何も食べられないから、手術前の最後の晩ご飯は、ウナギとかお寿司とかを考えてた。でも、母さんに何が食べたいか聞いたら、「焼き魚とお味噌汁」って言うから、あたしは、高島屋に行って、一番高級なアマダイの味噌漬けを買って来てたのだ。
アマダイの味噌漬けは、白味噌の中に柚子が入ってて、ものすごく美味しかったし、母さんもとっても喜んでくれたけど、それよりも喜んでくれたのが、何を隠そう、カブのぬか漬けだった。前日に、あたしが「おおっ!」って思ったように、母さんも「おおっ!」って思ったみたいで、ご飯に乗せてパクパク食べてた。市販のぬか漬けとは言え、やっぱり「きっこ家」に伝承されて来た由緒正しき方式で食べると、ソコハカとない奥行きが醸し出されて、「たかがぬか漬け、されどぬか漬け」ってワケだ。
母さんは、「きみこは、これ、大好きだったよね」って言って、あたしがこればっかり欲しがったことを話してくれた。そして、古漬けがなくなっちゃって、浅漬けのカブも千切りにするようになったってことも話してくれた。そう、さっき書いた小学校の1年生の時の話は、あたしもある程度は覚えてたんだけど、「あたしが古漬けのカブを食べ尽くしちゃって、浅漬けのカブまで千切りにするようになった」ってことは、ゆうべ、母さんから聞いた話なのだ。そして、母さんの話を聞いて、「そう言えば、最初に食べた時も驚くほど美味しかったけど、あとから食べたほうがもっと美味しかったな~」ってことをウッスラと思い出して、それが「浅漬けだったからなのか!」って分かったってワケだ。
‥‥そんなワケで、いつも「きっこの日記」を読みに来てくださる皆さん、母さんの手術の成功をお祈りするメールをくださった皆さん、ホントにありがとうございます。たくさんの人たちが応援してくれてて、あたしは、すごく心強いし、とっても感謝してます。ホントなら、手術の詳しい日程とかも書きたいとこなんだけど、どうやって調べたのか、母さんが通院してた病院の実名が書いてある脅迫メールとかを送って来る人がいるので、詳しいことは書くことができません。そして、明日から数日間、日記を更新することができないかも知れません。でも、必ず、笑顔の報告をします。なんたってあたしは「きっこ家」に脈々と伝わる「カブのぬか漬け神拳」の伝承者なんだから! あたたたたたたたたーーーー!‥‥って感じの今日この頃なのだ(笑)
| 固定リンク