一杯のきつねそば
あたしは、基本的に自炊なんだけど、これには複数の理由がある。汚染米だの産地偽装だので外食産業や市販の加工食品を信用してないってのも理由の1つだし、あたしはお肉を食べないから、どこかのお店に入っても選べるメニューが限られちゃうってのも理由の1つだ。だけど、何よりの理由は、やっぱり節約のためで、外食と自炊とじゃ出費に雲泥の差がある。たとえば、1ヶ月すべて外食や買って来たお弁当とかで過ごしたとすると、1食の平均を500円としても、1ヶ月で4万5000円も掛かっちゃう。タマに1000円とか2000円とかの高級なものを食べたら、軽く5万円を超えちゃうだろう。たった1人の食費が月に5万円だなんて、想像しただけで気が遠くなるような金額だ。
あたしの場合、1ヶ月の食費は「1万円まで」って決めてるから、その差は歴然だ。1ヶ月が1万円だと、1日あたり330円てことになるけど、あたしは、あんまり細かく計算するのもメンドクサイから、フランク・ザッパに考えて「1食100円」を目安にしてる。「1食100円」なんて聞くと、ロクなもんを食べてないように思われちゃうかもしれないけど、タモリ風に言えば、そんなこたーない。「ご飯、ワカメのお味噌汁、メザシ4匹、キャベツの浅漬け、東京タクアン2切れ」って、これでも合計で7~80円程度だ。あたしの場合は、このメニューの「メザシ4匹」の代わりに「ミニ納豆1パック」ってパターンもあるんだけど、メザシは12匹で100円だから、4匹なら33円、ミニ納豆は3パックで90円だから、1パックなら30円てワケで、ようするに、メインのおかずを約30円に設定してるってワケだ。そうすると、ご飯1杯が約30円だから、メインのおかずと合わせても60円で、お味噌汁とかお新香とかを添えても、1食が7~80円で済む。
で、これが朝ご飯なんだけど、お昼はおにぎりを2個作ってくだけだから、もっも安上がりで、約50円だ。だから、「1食100円」て言いつつも、1日あたり330円の予算から引き算してくと、晩ご飯には200円も使えることになっちゃう。たった7~80円の予算でも、栄養満点でバランスのいい食事をしてるあたしなんだから、その3倍にあたる200円なんていう豪快な予算があれば、洋食だろうが中華だろうがベトナム料理だろうがポルトガル料理だろうが、作れないもんなんかない。ま、ポルトガル料理は、作れない‥‥って言うか、見たこともないんだけど、そこらの温泉旅館の晩ご飯くらいのものなら楽勝な今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、自分でスーパーとかにお買い物に行く人なら知ってると思うけど、お刺身って、すでにお刺身になってパックに入ってるのは劇的に高いけど、お刺身用のお魚を買って来て自分で作れば劇的に安くなる。たとえば、お刺身用の中型のアジなら、高い時でも150円、安い時なら100円以下だ。お刺身用のイカも、1パイ100円から150円程度だし、お刺身用のイワシなんて、10匹くらいで100円だ。こうしたものを買って来れば、ものすごく豪華で美味しい晩ご飯が、わずか200円以下の予算で作れちゃう。
アジの場合なら、3枚におろしてタタキにするのが基本だけど、少し身の残ってる中骨は、素焼きにしてからお鍋で煮て「潮汁」にしちゃう。そうすると、骨の間の身が、おつゆの中にホロホロと落ちて、塩味だけでも美味しくなる。それから、イカの場合なら、本体はお刺身やイカソーメンにするけど、ゲソはフライパンで軽く炒めて、火を止めてから仕上げにワタを和えて、お醤油と一味唐辛子で味つけすれば、お酒のお供にも嬉しい「ゲソのワタ和え」って、マンマじゃん(笑)
他にも、イカを丸焼きにして、輪切りにして、ショウガ醤油で食べるのも美味しいし、2ハイ買って来た時には、1パイをお刺身で食べて、もう1パイは塩辛にするもの楽しい。あたしの場合は、お刺身にしたほうのイカのワタも塩辛用にしちゃう。こうすると、ワタがダブルになるから、手作りの塩辛がさらにコクが出て美味しくなる‥‥って、ま、こんな話はいいんだけど、とにかく、夕方にスーパーに行けば、こうしたお刺身用のお魚だけじゃなくて、アジのヒラキやサバのミリン干しを始めとした干物もいっぱい並んでて、ほとんど1枚100円だ。そして、サンマとかなら、安い時は1匹50円とかで買える。
だから、こうしたお魚をメインのおかずにすれば、ご飯とお味噌汁の他に、ほうれん草のゴマ和えとか、ダイコンのサラダとか、何か1品を添えたって、1人ぶんが150円程度で作れちゃう。男の人とかで、あたしみたくご飯が1杯じゃ足りないって人でも、ご飯は1杯30円程度なんだから、ご飯を3杯食べても、自炊なら200円ほどで済む。ちなみに、この「ご飯は1杯30円程度」ってのは、「あきたこまち」とかのブランド米の場合の話であって、あたしがいつも買ってる標準米の古々米とかなら、1杯あたり12円ほどだ。だから、あたしの実際の食費は、1ヶ月で1万円どころか、もっと少なく済んでる。ただ、今日の日記を参考にする人もいるかもしれないので、一般的なお米の値段で書いてるってワケだ。
‥‥そんなワケで、こんな感じの食生活をしてるあたしだから、タマに外食すると、ものすごいゼイタクをした気分になる。で、ようやく本題に入るんだけど、今日のお昼、あたしは、すごく久しぶりに、大好きな「ゆで太郎」できつねそばを食べた。「ゆで太郎」は、数ある立ち食いそば屋さんの中で、あたしが一番好きなチェーン店で、あたしが愛用してるのは、新橋に2ヶ所あるお店の駅に近いほうと、渋谷の宮益坂のお店だ。
「ゆで太郎」のイイトコは、目の前に茹でてあるおそばがいっぱいあっても、「茹で立てでお願いします」って注文すると、2~3分待つだけで、あたしのためだけにわざわざ新しいおそばを茹でてくれるのだ。もちろん、値段は変わらない。おそばの基本は「三立て」って言って、「挽き立て、打ち立て、茹で立て」が美味しい。だけど、忙しいサラリーマンを相手にした立ち食いそば屋さんで、そば粉を挽いたり打ったりするとこから作ってるワケには行かないから、せめて「茹で立て」だけでも味わってもらおうと思ってのサービスってワケで、これが「ゆで太郎」っていう店名の由来になってる。だから、1~2分を争うほど急いでる人は仕方ないけど、ちょっとでも時間のある人は、みんな「茹で立て」を注文する。
で、今日のあたしは、朝、ものすごくバタバタしてて、朝ご飯を食べてる時間がなくて、大急ぎでお昼のおにぎりだけを作ってお家を出た。だけど、途中でお腹が空いちゃって、車の運転をしながら、そのおにぎりを食べちゃったのだ。それで、そのまま銀座に行って、1本目のお仕事を済ませたんだけど、朝の10時くらいに小型のおにぎりを2個食べただけだったから、午後3時ころにお仕事が終わった時には、またお腹が空いてきちゃった。それで、次のお仕事が浜松町だったから、途中で新橋の「ゆで太郎」に寄ったってワケなのだ。
でも、あたしは、「ゆで太郎」が大好きなワリには、今までに何十回も行ってるのに、「もりそば」と「かけそば」と「きつねそば」しか食べたことがない。基本、おそばは「せいろ」だと思ってるので、いつもは「もりそば」を注文するんだけど、ものすごくお腹が空いてる時と、寒い季節には、お腹がいっぱいになる上に体が温まる「かけそば」を注文して、お金に余裕があってゼイタクしたい時には「きつねそば」を注文する。ちなみに、「もりそば」と「かけそば」は260円で、「きつねそば」は330円だ。そう、「きつねそば」は、あたしの1日ぶんの食費とおんなじ値段なのだ。
それで、今日は、ちょっと肌寒かったのと、外食自体がすごく久しぶりだったからちょっとゼイタクしたくて、思いきって「きつねそば」を注文しちゃった。正確に言えば、まず券売機で「きつねそば」の食券を買って、それをカウンターに置いて、「きつねそば、茹で立てでお願いします」ってノタマッちゃうワケだけど、あたしはリトル不安だった。それは、何年か前に、この新橋店で、今日とおんなじくらいの時間、つまり、お昼のカキイレ時が過ぎたころの時間に「きつねそば」を注文したら、「すいません!そば終わっちゃって、うどんならあるんすけど」って言われたことがあるからだ。
あたしは、おそば屋さんにおそばがないなんて、「なんたることか!」って思ったんだけど、「ゆで太郎」さんの名誉のために言っとくと、その日は、午後のおそばの配達のトラックがいつもの時間に来なくて、どうしようもなかったそうだ。それで、その日は仕方なく「きつねうどん」を食べたんだけど、おそばが大好きなあたしにとっては、ホントに悲しい出来事だった。
だから、今日もリトル不安だったんだけど、あたしが「きつねそば、茹で立てでお願いします」って言った瞬間に、おじさんは「あいよ!」って言ってくれてたから、あたしは「マリンプラセンタ28」の効果でFカップに近づきつつある胸をホッとなで下ろした。そして、久しぶりに食べた「ゆで太郎」の「きつねそば」は、シッカリとしたコシもあったし、ノド越しも良かったし、おつゆも最後まで飲み干しちゃうほど美味しかったし、体も心もポカポカになって、あたしは大満足だった。
‥‥そんなワケで、あたしは普通に「きつねそば」とか「きつねうどん」とかって書いて来たけど、これ、関西だと違うんだよね。中島らもさんの「西方冗土/カンサイ帝国の栄光と衰退」によると、関西では「そば」とか「うどん」とかをいちいち付けないで、単に「きつね」とか「たぬき」とかって言うそうだ。そして、「きつね」って言うと「きつねうどん」のことで、「たぬき」って言うと「きつねそば」のことになるらしい。で、「じゃあ、たぬきそばのことは何て言うの?」って誰もが疑問に思うだろうけど、関西では「たぬきそば」のことは「ハイカラそば」って言うそうだ。他にも、スパゲッティの「ナポリタン」のことを関西では「イタリアン」て言うそうで、何だか頭がコンガラがっちゃいそうだ。
でも、これがホントだったら、関西の人が東京に来たり、他の地方に行ったりした時にも困るよね。今までは「きつね」って言うだけで「きつねうどん」が出て来たのに、東京のおそば屋さんで「きつね」としか言わなかったら、絶対に「そばですか?うどんですか?」って聞かれちゃうもんね。それに、「きつねそば」を食べたい場合が、一番困ると思う。だって、「たぬき」って注文して、お店の人に「そばですか?うどんですか?」って聞かれて、そこで「おそば」って答えたら、天カスが乗った「たぬきそば」、つまり、関西で言うところの「ハイカラそば」が出てきちゃうからだ。
これ、ものすごくアリエールなパターンだと思う。だから、実際に、関西の人が別の地方のおそば屋さんに行って、これとおんなじ流れで、自分は「きつねそば」を注文したつもりなのに「たぬきそば」が出てきちゃって、「なんでやね~ん!」てことになった人が絶対にいると思う。
で、この本には、他にも主要な関西弁と標準語との対応表がついてるんだけど、この表を見ると、あたしが今まで思ってた意味とはぜんぜん違う意味が書いてある関西弁もいくつかあって、あらためてビックル一気飲みだった。たとえば、関西の人がよく使う「しんきくさい」って言葉、漢字だと「辛気臭い」って書くんだけど、あたしは勝手に「性格が暗い」とか「落ち込んでる」とかって意味だと思い込んでた。あたしのカン違いかもしれないけど、暗い顔をした人に対して、「なんや、しんきくさい顔をして」とかって使ってたように記憶してたからだ。だけど、この本によると、「しんきくさい」ってのは、「じれったい」って意味だそうだ。
それから、「ずぼら」ってのも、あたしは言葉の感じから、何となく「大ザッパ」とか「ザックバラン」て意味だと思い込んでたんだけど、この本によると、「怠け」のことだそうだ。つまり、「ずぼらなやつ」ってのは、「怠け者」って意味なのだ。他にも、「いらう」が「さわる」、「いちびる」が「ふざける」、「ほたえる」が「ふざけてじゃれる」など、今まで耳にしたことはあっても、正確な意味が分からなかった言葉が、ずいぶん解明された。中島らもさんは関西出身の人だから、まず間違いはないと思う。
‥‥そんなワケで、関東と関西って言うか、東京と大阪のおそばやうどんの違いについては、こうした呼び名だけじゃなくて、よく指摘されるのが、おつゆの色の違いだ。大阪の人が、初めて東京の温かいおそばやうどんを見ると、おつゆの色が濃くて驚くそうだ。実際、大阪のうどんのおつゆは、東京のおそばやうどんを食べて来たあたしから見ると、ものすごく色が薄くて、ぜんぜん違って見える。だけど、大阪のうどんのおつゆは、ダシも効いてるし、味もシッカリしてて、すごく美味しい。
まあ、東京と大阪のおつゆの色の違いについては、いろんな理由があるんだろうけど、一番大きな理由は、使ってるお醤油の違いだと思う。東京は色の濃い濃口醤油で、大阪は色の薄い薄口醤油を使ってるから、おんなじ味の濃さにしようと思ったら、東京のほうが色が濃くなっちゃう。それに、これだけじゃなくて、やっぱり食文化の違いも大きいと思う。大阪の人たちは食通が多いから、ダシに力を入れてるんだと思う。そして、いいダシを活かすためには、必然的にお醤油は控え目になるし、塩分が少なくても深みのあるおつゆになるんだと思う。
それに比べて、東京の場合は、もちろんダシにもコダワリはあるだろうけど、どっちかって言うと、お醤油やお塩の味そのものが好きな人が多いから、ダシよりもお醤油が勝ってるようなおつゆのほうが好まれる。特に、東京の場合は、おそばって言えば「せいろ」だから、おつゆは「つけつゆ」になる。それも、オシャレにおそばの先にちょっとだけつけてズズッと音を立ててすするのが東京スタイルだから、おつゆは濃くて辛くなきゃならない。だから、その延長線上にある温かいおつゆに入ったおそばやうどんも、お醤油の味が主張してるものが好まれるんだと思う。
大阪の人は、よく、「東京のうどんのつゆは醤油を飲んでるみたいだ」とかって言うけど、確かに、大阪の「ダシがメインのおつゆ」を飲んで来た人にすれば、東京の「お醤油がメインのおつゆ」は厳しいかもしんない。だけど、これが食文化ってもので、どっちが美味しいとか、どっちが上か下かだなんて比べるものじゃない。それぞれの土地にそれぞれの味があって、それぞれの味にはちゃんとした背景があるんだから、自分の味覚に合わないって理由だけで、他の土地の味を否定することはできない。たとえば、寒い国や暑い国には辛い食べ物が多いけど、これだって理由があってのことなんだから、四季のある国に住んでるあたしたちの味覚に合わないからって、「辛いぞ!」なんて文句は言えない。
‥‥そんなワケで、東京生まれで東京育ちのあたしとしては、やっぱりおそばは東京のおそばが一番美味しいと思ってるし、やっぱり「もりそば」が一番好きだ。だけど、おんなじお金でお腹いっぱいになろうと思ったら、おつゆのある「かけそば」を注文しちゃう。「かけそば」なら、おつゆまで飲むとお腹がいっぱいになるけど、「もりそば」だと1枚じゃリトル物足りないからだ。だけど、そんな時にアリガタイザーなのが、「ゆで太郎」の「おおもり」だ。「ゆで太郎」では、どんなおそばも100円増しでおそばの量を増やしてまれるんだけど、「もりそば」を大盛りにしたのが「大きいもりそば」で「おおもり」だなんて、あまりにもワンダホーだ。さらに、「ゆで太郎」には、700グラムものおそばがマウンテンになってる「特もり」ってのがあって、これは540円だ。あたしには絶対にムリそうな前人未到のチョモランマなんだけど、いつかは必ず踏破したいと思ってる。何故なら、そこにおそばがあるからだ!‥‥なんて言ってみた今日この頃なのだ(笑)
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