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2009.03.07

深夜に炸裂した藤岡ワールド

あたしのお仕事は、普通の人とは逆で、土日の週末が一番忙しい。だから、深夜にパソコンで内職もしてるんだけど、内職するのは「平日の深夜」って決めてて、特別な場合を除いて、週末の深夜だけは内職をしないようにしてる。これは、昼間の本職で疲れてることもあるし、週末の深夜くらいは、本を読んだり音楽を聴いたり録画しといたテレビを観たりって、ゆっくりと自分の時間を過ごしたいからだ。

で、平日の深夜に内職をすることが多いあたしだけど、そんな時、あたしは、たいていラジオかテレビを垂れ流してる。下ネタ気分の夜は、TOKYO FMの「やまだひさしのラジアンリミテッド」を流して、ケラケラ笑いながら内職してるし、マジメな気分の夜は、テレビでNHKを流してる。「やまだひさしのラジアンリミテッド」は、月曜日から木曜日までやってるので、あたしが内職をする「平日の深夜」は、ラジオをつければいつでも下ネタを聴けるワケで、やまちゃんの流れるような下ネタトークは、あたしの期待を裏切らない。

だけど、テレビでNHKを流す場合は、深夜枠の番組は日替わりだから、何が流れるか分からない。もちろん、ちゃんと番組表を見れば分かることなんだけど、何か観たい番組があってテレビをつけるワケじゃなくて、あくまでも「内職のBGM」として流すだけだから、何も考えずにスイッチを入れる。それで、その日の曜日や時間帯によって、「ためしてガッテン」をやってたり「食彩浪漫」をやってたり「ダーウィンが来た!」をやってたり「その時歴史が動いた」をやってたりするワケで、もちろん、どれも再放送なんだけど、通常放送を観てないあたしにとっては、どんな番組をやってるのか知らないままつける深夜のNHKは、「何が出るか分からない玉手箱」みたいで、なかなか楽しかったりする今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、あたしは、平日の深夜にテレビでNHKを流すことが週に1~2回くらいあるんだけど、目はパソコンの画面を見てるから、ほとんど音声を聴いてるだけだ。だからって、別に死に物狂いで内職をしてるワケじゃなくて、コーヒーやお茶を飲みながら、タバコを一服しながら、その日のペースでムリのないようにやってるから、通常はテレビの音声を聴いてるだけだけど、面白そうな雰囲気とか興味をひく展開になったら、キーボードを打つ手をとめて、テレビの画面を観る。

でも、正直な話、「ためしてガッテン」なんかの場合には、何かの検証の実験のたびにチョコチョコとテレビを観ちゃって、なかなか内職がはかどらなかったりもするし、「ダーウィンが来た!」や「その時歴史が動いた」に至っては、完全にテレビオンリーになっちゃったりもする。だから、テレビをつけてみて、「ダーウィンが来た!」や「その時歴史が動いた」をやってた時には、後ろ髪を引かれつつテレビを消して、ラジオに切り替える場合も多い。そうしないと、内職のために睡眠時間を削ってるんじゃなくて、ただ単にテレビを観るために夜更かししてるだけになっちゃうからだ。

で、今週の水曜日の深夜、正確に言えば日付は木曜日になってるワケだけど、この日は、大好きな「ミチコとハッチン」が、深夜2時から2本立てだった。特に19話と20話だから、未知なるエンディングへ向けて走り出しそうな展開っぽくて、すごくワクワクドキドキしてた。それで、あたしは、ものすごく楽しみにしてて、それまでにこの日のぶんの内職を片づけちゃおうと思って、深夜0時に「きっこのブログ」の更新を終えてから、すぐに内職を開始した。だけど、ふだん3時間くらいかかる量を2時間弱で片づけるのはムリな話で、「ミチコとハッチン」が始まる時間ギリギリになっても、まだ1割くらい残ってた。

それで、あたしは、残りは「ミチコとハッチン」を観終わってからやることにして、大急ぎでお酒を用意して、テレビの前で臨戦態勢に入った。19話と20話は、完全にあたしの期待以上で、もう、言葉にならないほどサイコーだった。あんまり詳しく書くつもりはないけど、ミチコを助けるためにハッチンはミチコの元を離れ、そのハッチンを助けるためにミチコはハッチンを追うって展開になった。そして、ミチコが警官から奪ったタイプ1のパトカーで検問に突っ込む瞬間に、「行くぜ、ハッチン!」って言ったとこで、あたしの胸は締めつけられるほどジーンとして、涙が止まらなくなった。

‥‥そんなワケで、あまりにもワンダホーだった19話から20話にかけての展開のオカゲで、あたしの感情は昂ぶりすぎちゃって、とても内職に戻れない。だけど、あと少しだけ、どうしても片づけてからじゃないと寝るワケに行かなかったから、あたしは、チャンネルをNHKに替えて、気分も変えて内職を始めることにした。そしたら、NHKは、ちょうど「食彩浪漫」の再放送が始まったとこだった。「ダーウィンが来た!」や「その時歴史が動いた」だと内職の妨げになっちゃうけど、「食彩浪漫」なら内職のBGMとして最適だから、あたしは、サクッと気持ちを切り替えて、内職をスタートした。

「食彩浪漫」は、毎回ゲストを迎えて、そのゲストの「食」に関する思い出だのコダワリだのを聞いたり、実際に手料理を作ってもらうって番組だから、ヨホドのことがない限り音声を聴いてるだけで十分だし、内職の進み具合もバツグンだ。だから、昔からのあたしのフェイバリット番組でありながら、最近は児島玲子ちゃんの出番が少ないので、だんだんあたしの中でのランキングが下がって来てる「釣りロマンを求めて」(テレビ東京)と、今、春馬ゆかりちゃんが別のお仕事で5月まで沖縄の小浜島に行ってるから、しばらく別の旅人しか観られなくなっちゃって寂しい「秘湯ロマン」(テレビ朝日)と並んで、「ニポン三大ロマン番組」として、あたしの心のコインロッカーに収納したいと思う。

で、そんなこんなの「食彩浪漫」なんだけど、この日は、とても内職なんてやってられないほどの大事件が勃発しちゃったのだ。この日のゲストは、初代仮面ライダーの藤岡弘さんで‥‥って、もうこれだけで多くの人は「はは~ん」って想像できた思うけど、次から次へと大爆笑の展開がメジロ押しで、あたしはぜんぜん内職ができなかった。とにかく、どんな番組で何をやろうとも、すべてあたしの笑いのツボのど真ん中を直撃して来る強敵の藤岡弘さんだから、画面に登場した瞬間に「ヤバイ!」って思ったんだけど、この日の爆発力は計り知れないものがあった。

ちなみに、あんまり知られてないことなんだけど、藤岡弘さんて、正しくは「藤岡弘、」って書く。「弘」のあとに「、」がついてて、ここまで含めてが芸名なのだ。だから、こうした文章で正しく表記する場合は、「藤岡弘、さんは~」って書かなきゃなんない。だけど、それだと読みにくいと思うから、ここから先は「藤岡さん」て書いてこうと思う。

‥‥そんなワケで、民放のバラエティーとかなら、藤岡さんに、あえてマジメなことをやらせて、それをMCとか共演のお笑い芸人とかが藤岡さんに気づかれないようにいじる‥‥ってのがパターンになってる。たとえば、藤岡さんとお笑い芸人とで山に行ったとすると、すごく大きな木を見つけた藤岡さんが、その木の前に仁王立ちして、静かに目を閉じて、深呼吸してから、つぶやくような声で「お前は樹齢何年だ?」とか話しかけたりするから、後ろで見てるお笑い芸人たちが、その様子を面白おかしくいじる‥‥って流れだ。

だから、こうした番組に藤岡さんが出る場合には、最初から「笑いのネタ」として藤岡さんをブッキングしてることも分かってるし、最初から藤岡さんの役まわりも分かってるし、最初から全体の流れも見えてるから、面白いことは面白いけど、まあ、台本通りの面白さの域を超えることは、まずない。だけど、今回の「食彩浪漫」は、お笑い番組でもないし、「笑いのネタ」として藤岡さんをブッキングしたワケでもない。そして、藤岡さんに対するのも、ゲストをいじるのが巧いMCでもなけりゃお笑い芸人でもない。NHKのマジメな女子アナの中でも、特にマジメな小林千恵ちゃんだ。

こうなって来ると、台本に書かれてる計算ずくのお笑いなんかじゃなくて、何が起こるか分からないテポドン級のお笑いが炸裂しちゃうハズだ。それで、あたしは、とりあえず内職の手をとめて、画面に観入ってた。そしたら、藤岡さんは、子供のころにおばあちゃんが食べさせてくれた美味しいお野菜の話を始めたんだけど、子供のころの思い出を話してるんだから、あの感情を込めすぎた話し方だけじゃなくて、当然、遠い目をしてるワケだ。もう、この遠い目をしながらの思い出話だけで、すでにスタジオは「藤岡ワールド」が全開で、この先の展開が期待に満ちあふれて来た。

そしたら、まったく出し惜しみをしない藤岡さんは、何の前ぶれもなく、すぐにアクセル全開になっちゃったのだ。テーブルの上に、丸ごとのニンジンやダイコンが並べてあったんだけど、おもむろにニンジンを手に取ると、それをバキッと2つに折って、タッパーのお味噌をつけて、そのままポリポリと食べて、しばらく目をつぶって十分に味わってから、「いや~~野菜は~~やっぱり~~これだよね~~」って言ってくれた。もちろん、これは、単なる序章に過ぎない。最大の見せ場は、このあとだ。

ニンジンを食べ終わった藤岡さんは、今度は自分の腕ほどもある大きなダイコンを手に取ったかと思ったら、そのダイコンもバキッと2つに折り、その片方にお味噌をつけたと思ったら、目を丸くしてるアナウンサーの小林千恵ちゃんに、「はい、どうぞ!」って言って手渡したのだ! それでも、NHKのアナウンサーとして場数を踏んで来た千恵ちゃんは、笑顔をたやさぬまま、渡された生のダイコンに躊躇なくかじりつき、「美味しいですね~!」って感動してる演技をした。その顔は、もう完全に「藤岡ワールド」の住人の顔になってた。女子アナは女子アナでも、サスガ、NHKの女子アナは、ぬるま湯で育てられてる民放の女子アナとは、攻撃力も防御力もレベルが違う。

‥‥そんなワケで、このあと藤岡さんは、おばあちゃんの思い出だっていうお野菜タップリの雑炊を作ったんだけど、誰もが想像する通りに、すべてのお野菜を豪快にブツ切りにして、大きなお鍋に豪快に投げ込んで、お味噌も豪快に入れて、すべての具材が4センチ角くらいもある豪快なお味噌汁を作った。とにかく、「豪快」の他に形容詞が思いつかないほどの豪快さで、さらには、「雑炊」と言いながらも、大きなお椀によそったお味噌汁に、あとから炊いた雑穀米をぶち込むっていうアバウトさも発揮してくれて、何とも言えない思い出の一品が完成した。そして、藤岡さんは、千恵ちゃんとその雑炊を食べながら、いろんな話をしたんだけど、ここはまあまあ普通に流れてった。だから、雑炊を食べ終わったら番組も終わりで、あたしは内職を始めようって思ってた。

それなのに、嗚呼それなのに、それなのに‥‥って、久しぶりに五七五の俳句調で嘆いちゃうけど、やっぱり天下無敵の藤岡さんだから、最後の最後に、とっておきのリーサルウエポンを炸裂させてくれたのだ。雑炊を食べ終わると、藤岡さんは、「コーヒーをいれましょう」って言って、遠い目をしてアフリカの思い出を話しながら、アフリカのコーヒー豆を取り出した。そして、この豆でコーヒーをいれると思いきや、豆をそのまま千恵ちゃんに渡して、当たり前のことのように、こう言ったのだ。


「食べてみてください」


だけど、普通ならタジタジしちゃうこの流れに対しても、シッカリと台本通りのリハをやってた上に、すでに「藤岡ワールド」の住人として住民登録まで済ませちゃってる感じの千恵ちゃんは、笑顔でコーヒー豆をつまみ、そのままガリガリと食べちゃった。そして、ちょっと厳しい顔をしつつも笑顔をキープして、精一杯の感想を述べてた。そして、その様子を見た藤岡さんは、もう千恵ちゃんが自分の戦友になったと確信したのか、小型のコーヒーミルに豆を入れて、ゴリゴリと挽き始めた。もちろん、いつものように目をつぶり、ハンドルを1回転させるたびに「美味しくな~れ」「美味しくな~れ」ってつぶやきながら、精神を集中させてハンドルを回し続けた。

そして、ドリッパーにペーパーと挽いた豆をセットして、注ぎ口が細くなってるケトルでお湯を少し注ぎ、最初に落ちた少しのコーヒーを捨てた。藤岡さん曰く、最初に落ちたぶんは「えぐみがあるから捨てる」そうだ。そして、ここからが、いよいよクライマックスだった。また目を閉じた藤岡さんは、今度はミケンにシワを寄せた険しい表情で、まるで何かの悪霊でも呼び出す儀式でもしてるかのように、まるでその悪霊が憑依してしまった霊媒師であるかのように、上半身を小刻みにケイレンさせながら、ドリッパーへお湯を垂らし続けたのだ。

この様子は、どんなに文才のある作家でも、絶対に文章だけで伝えることはできないと思う。あの場面を見た者だけが、その異様な光景が脳裡に焼きつき、眼前の空間が大きく歪むほどの非日常性を体験することができたのだ‥‥なんて、知ってる難しい言葉を羅列してがんばってみたけど、あれほどおかしい状況は、どんな言葉を使っても説明することはできない。とにかく、あたしは、最初の数秒間は目が点になり、それから「ププッ」と噴き出したあとは、もう、お腹が痛くて死にそうになるほど笑い転げて、あまりにも笑い過ぎて、そのうちゲホゲホしちゃって、ゲロを吐きそうになっちゃったよ。

だから、あたしが爆笑できる映像の第1位は、今まで何年間も「井上和香のスキップ」で、次点が「蛭子能収の思い出し笑い」だったんだけど、ついに、これらを超えてダントツの1位に輝く作品、「藤岡弘のドリップコーヒー」っていう名作が誕生しちゃったのだ。ただ、残念なことに、マサカ、こんなことになるとは思ってなかったから、録画してなかったんだよね。だから、これからはコマメにチェキしてて、もう一度、再放送をする時には、絶対に録画しようと思う。NHKって、何度も再放送してくれるから、根気強く待ってれば、いつか再放送してくれると思うんだよね。

で、この作品には、まだ続きがある。雨乞いの祈祷師のようにケトルを小刻みに振っていれたコーヒーを何に入れて飲んだのかっていうと、茶道で抹茶を飲むお茶碗なのだ。それも、藤岡さんは、お茶碗にコーヒーを注いでから、それを茶筅(ちゃせん)でシャカシャカと掻き混ぜ始めて、抹茶とおんなじに泡立てたのだ。そして、厳かな口調で「どうぞ」って言って、千恵ちゃんに差し出した。お茶碗を受け取った千恵ちゃんは、まるで裏千家のお茶会のように、両手でお茶碗を口の高さまで持ち上げて、静かに飲み乾した。

これで、お茶碗を回したり、飲み終わってから「結構なお点前で」って言ったりすれば完璧だったのに、サスガに、そこまでは暴走しなかった。だけど、これだけでも十分すぎるほど満腹だし、逆に言えば、お茶碗を回したり「結構なお点前で」なんて言ったりしたら、ここまでの「緊張感の中での極限の笑い」っていう様式美が崩れちゃって、そこらのバラエティー番組のような下世話なお笑いになっちゃう。だから、今回のお笑いを芸術の域にまで昇華してくれたのは、ヒトエに、最初から最後まで一度も噴き出さずに、一瞬も気を抜かずに、摩訶不思議な「藤岡ワールド」と最後まで真摯に対峙してくれた小林千恵ちゃんの大手柄だろう。

‥‥そんなワケで、あたしは、世の中で人気のあるお笑い芸人の芸を見ても、ほとんど笑えない上に、いったいどこが面白いのかも理解できない。前にも書いたけど、あたしは、エドはるみの「グゥ~!」って言うのが、いったい何が面白いのか理解できないし、どこで笑えばいいのかも分かんない。他にも、ほとんどのお笑い芸人の芸とかネタとかが、まったく笑えない。あたしが心から笑えるのは、テレビに出始めたころのタカアンドトシと、今だと、さまぁ~ずのトークくらいだ。だから、あたしは、普通の人とは笑いのツボがズレてると思うんだけど、今回の「藤岡弘のドリップコーヒー」を始め、すでに笑いの殿堂入りを果たしてる「井上和香のスキップ」や、笑いの定番メニューになってる「蛭子能収の思い出し笑い」のように、笑いを狙ってないとこでの笑いが定期的に訪れてくれるから、これからもお腹が痛くなるほど笑い続けて行けると思う今日この頃なのだ。


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