えぇ~世の中は猫も杓子もゴールデンウィークとかでしてぇ、今朝がた「みのり園」さんの美味しい新茶を啜りながら我が家のアナログテレビを観ておりましたところ、東西南北どこへ行くのも高速道路は地獄のような大渋滞、東名高速なんざぁ80キロもの長蛇の列でしてぇ、東京から御殿場までが巨大な駐車場と化しておりました。こんな有様じゃあ「東名」なんてぇのは名前だけでしてぇ、いったい何時になったら目的地に到着するのか皆目見当もつかない不透明な道路でございますねぇ。ちなみにETCなど付けていないあたくしの友人は、東名高速を使わずに無料の国道246号線をスイスイと走って行きましたところ、2時間もかからずに箱根に到着したと言っておりました。
東京から沼津まで6時間かかっても料金が1000円になったほうがありがたいのか、料金は今まで通りに3000円でも、今までのように1時間ほどで到着したほうがありがたいのか、まぁモノの考え方は十人十色と申しますから、どちらがありがたいかは人それぞれでしょうが、どちらにしましても、老子先生が「千里の道も一歩から」とおっしゃいましたように、一歩一歩の積み重ねが目的地へと続いて行くのでございます。この「落語」にしましても、もともとは「小噺」ってぇ短い駄洒落でございました。それが一歩一歩を積み重ね、ジョジョに奇妙に長くなって行き、いつの間にやら「落語」の原型が出来上がったのでございます。「小噺」ってぇのは、皆さんお馴染みの「隣りの空地に西松建設が事務所を建てたんだってねぇ」「へい!二階建てでやんす!」ってなものでございます。そして、落語の元はと言えば、この「小噺」の他に、もう1つ、「地口(ぢぐち)」ってぇものがございます今日この頃、皆さん、いかがお過ごしでこざいますか?
‥‥そんなワケでしてぇ、ご隠居さんが縁台で日向ぼっこをしておりやすと、そこに長屋の八五郎がひょっこりとやってまいりやした。
八五郎 「ご隠居、何ですか? その地口ってぇのは?」
ご隠居 「まぁ駄洒落のようなもんだな」
八五郎 「するってぇと、布団がふっ飛んだ~!‥‥みたいなもんでやんすか?」
ご隠居 「うう~ん、それは単なる駄洒落だろう。地口ってぇのはな、たとえば『恐れ入谷の鬼子母神』とか、『その手は桑名の焼き蛤』とか、こういった言葉遊びのことを言うんだよ」
八五郎 「はは~ん、なるへそ! それじゃあご隠居、『驚き桃の木さんしょの木』なんてぇのも地口なんですかい?」
ご隠居 「おおっ! 八っつぁんにしちゃあ珍しく大正解だぁ!」
八五郎 「おっと、ご隠居、八っつぁんにしちゃあってのは余計でやんすよ」
ご隠居 「そうだったな。ははははは、悪い悪い」
八五郎 「ところでご隠居、その後ろに掛けてある立派な絵の男は、いったい誰なんですか?」
ご隠居 「なにぃ?」
八五郎 「ほら、ご隠居の後ろの立派な絵ですよ。でっかい椎茸をひっくり返したような笠をかぶった男と、その男に頭を下げて何かを手渡してる女の絵ですよ」
ご隠居 「ああ、これはな、太田道灌の絵だ」
八五郎 「へぇ~、あっしは知ってやすよ。西松建設の空地に積んであるやつでしょう」
ご隠居 「馬鹿野郎! 『おおきなどかん』じゃなくて『おおたどうかん』だよ! お前さんは太田道灌公も知らんのか?」
八五郎 「う~ん、ひと月ほど前に、どこかで会ったような会わなかったような‥‥」
ご隠居 「八っつぁん、太田道灌公ってのはなぁ、室町時代の武将なんだから、八っつぁんが会えるわけがないんだよ」
八五郎 「ほほう、そうでやんすか」
ご隠居 「江戸城を築城なさった立派なお方なんだよ」
八五郎 「そりゃあすごい! それで、その絵の道灌さまは何をなさってるんですか?」
ご隠居 「これはなぁ、道灌公が、秩父山地のふもとの越生(おごせ)に住む父上に会いに行った時のことなのだ」
八五郎 「ほほう」
ご隠居 「お供の家来を連れて山吹の咲き乱れる里をお歩きになっていたら‥‥」
八五郎 「なっていたら?」
ご隠居 「突然、にわか雨が降って来たのだ」
八五郎 「ほほう」
ご隠居 「急な雨に、雨具の用意もないし、父上の住む屋敷までは、まだ一里近くもある」
八五郎 「そりゃあてえへんだ!」
ご隠居 「それで、困った道灌公が辺りを見回すと、山吹の茂みの先に、一軒の崩れそうなあばら家があったのだ」
八五郎 「おおっ!」
ご隠居 「雨具を借りようと、道灌公がそのあばら家を訪ねてみると‥‥」
八五郎 「訪ねてみると?」
ご隠居 「年のころなら十五、六の賤女(しずのめ)が顔を出した」
八五郎 「えっ? 十五、六羽の雀が出て来たんでやんすか?」
ご隠居 「こら! 十五、六羽の雀じゃなくて、十五、六才くらいの身分の卑しい娘が出て来たんだよ!」
八五郎 「ほほう、それで?」
ご隠居 「その娘はな、貧乏でお武家さまにお貸しするような雨具など持っていなかったから、『お恥ずかしゅうございます』と言いながら、代わりに木の盆に乗せた一本の山吹の花を差し出したのさ」
八五郎 「山吹の花‥‥でやんすか?」
ご隠居 「ああ‥‥」
八五郎 「分からねえなぁ~、雨具の代わりに差し出すんなら、せめて蕗の葉っぱか蓮の葉っぱにでもすりゃあ、多少は傘の代わりになるってぇのに‥‥」
ご隠居 「うんうん、八っつぁんが分からないのも無理はない。娘がどうして雨具の代わりに山吹の花を差し出したのか、この時、道灌公もお分かりにならなかったんだよ」
八五郎 「はあ?」
ご隠居 「娘は道灌公に山吹の花を手渡すと、すぐにあばら家の中へ戻ってしまった。そして、今のお前さんと同じように目を丸くして首を傾げている道灌公に向って、後ろにいた家来がこう言ったのだ」
『殿、おそれながら申し上げます。あの娘は、殿にお貸しする雨具がないことを恥じて、その気持ちを伝えるために山吹の花を差し出したのでございます。これは、「七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだに無きぞ悲しき」という兼明親王(かねあきらしんのう)の古歌になぞらえたもので、この歌の「実のひとつだに」を「蓑(みの)ひとつだに」とかけているのでございます』
ご隠居 「この家来の言葉を聞いた道灌公は、娘の気配りに感心するとともに、『余はなんと歌道に暗いことか‥‥』とおっしゃって自分の無学を恥じたのだ」
八五郎 「カドウ? ご隠居、そのカドウってのは何のことです?」
ご隠居 「歌の道と書いて歌道だよ。この山吹の歌のような古くからある有名な和歌を勉強したり、自分でも和歌を詠んだりすることを歌道と言うのだよ」
八五郎 「ほほう、歌の道が歌道なら、水の道は水道でやんすな」
ご隠居 「くだらないことを言うんじゃないよ! 道灌公はな、このことがあってから昼も夜も和歌の勉学に励み、この時代を代表する歌人の1人にまでなったんだからね!」
八五郎 「でも、ご隠居、水の道の水道のほうも、水道メーター会社の『ニッコク』は談合事件で江戸幕府から1400万両もの損害賠償請求を受けて、社長の『みのもんた』は『みのもんた銭無きぞ悲しき』と詠ったそうじゃありませんか」
ご隠居 「それは知らなかった」
八五郎 「まあ、あっしも人の受け売りなんですがね」
ご隠居 「そりゃそうだろう」
八五郎 「ところで、ご隠居、さっきの和歌を頭から教えてくれませんか?」
ご隠居 「どうしてだい?」
八五郎 「実は、あっしのところにも、雨が降るたびに雨具を借りに来る奴がいるんでさあ」
ご隠居 「ふむふむ」
八五郎 「だけども、雨が降るたびに傘だ合羽だと借りてくばかりで、いっこうに返しに来ないんですよ」
ご隠居 「そりゃあ、だらしのないお人だねぇ」
八五郎 「ええ、それでね、そいつがこの次に雨具を借りに来たら、さっきの娘の歌で追い返してやろうと思ったんでやんすよ」
ご隠居 「そうか、そうか、そりゃあ学会‥‥じゃなくて、がっかりするだろう」
八五郎 「へい、だから、ご隠居、さっきの歌を紙に書いてくれませんかね?」
ご隠居 「ああ、いいだろう。七重八重‥‥花は咲けども山吹の‥‥実のひとつだに‥‥無きぞ悲しき‥‥っと、ほら」
八五郎 「ご隠居、ありがとうございやす!」
‥‥そんなワケでしてぇ、八五郎が長屋に帰って来ますってぇと、まるで申し合わせたように、にわか雨がザザーッと降ってまいりました。そして、それから半時もしますと、表からいつもの声が聞こえてまいりました。
熊五郎 「お~い、八っつぁん! いるかい?」
八五郎 「おっ!さっそく来やがったな!道灌め!」
熊五郎 「なんだい?ドウカンてのは?」
八五郎 「いやいや別にな‥‥。ところで、ずいぶん降られちまったようだが、今日は何の用だい?」
熊五郎 「実はな、八っつぁん‥‥」
八五郎 「皆まで言うな!傘だろ?な?な?傘だろ?」
熊五郎 「いやいや、傘は持ってるよ、この天気だからな」
八五郎 「なにぃ? この野郎、ずいぶんと用心のいい道灌だな、てめえは!それじゃあいったい何を借りに来やがったんだ?」
熊五郎 「実はな、今日はちょっと急に入り用になっちまって、お前さんに金子(きんす)を借りに来たんだよ」
八五郎 「なんだとぉ?金子だとぉ?」
熊五郎 「ああ、すまないが五十文ほど都合しちゃくれねえか?」
八五郎 「馬鹿野郎!どこの世界に金子を貸せだなんていう道灌がいるもんかい!道灌は傘だろ?傘ぁ借りに来い!」
熊五郎 「いやいや、傘は持ってんだよ。借りたいのは五十文なんだよ」
八五郎 「そんな道灌はお呼びじゃねえよ!」
熊五郎 「おいおい八っつぁん、訳の分からないこと言ってないで、五十文貸しておくれよ」
八五郎 「そうか、そこまで言うんなら、傘を貸してくれって言え!そしたら五十文貸してやろうじゃねえか!」
熊五郎 「何だかよく分からないけど、それなら言ってやるよ。八っつぁん、傘を貸してくれ」
八五郎 「おっと!とうとう来やがったな、道灌め!覚悟しろよ!ほら、この歌を読みやがれ!」
熊五郎 「なんだい、この紙は?」
八五郎 「いいから、早く読んでみやがれってんだ!」
熊五郎 「なになに‥‥ななじゅう、はちじゅう‥‥」
八五郎 「馬鹿野郎!それは『ななえやえ』って読むんだよ!」
熊五郎 「ななえやえ‥‥ふしゅう、はんざつ、みぞうゆう‥‥」
八五郎 「なに出鱈目に読んでやがるんでい!」
熊五郎 「俺は漢字は苦手なんだよ‥‥」
八五郎 「そうか、やっぱり道灌は歌道が暗いな!あっはっは~!」
熊五郎 「なんだって?」
八五郎 「てめえの歌道は使いもんにならねえって言ったんだよ!」
熊五郎 「八っつぁん、よく知ってるなぁ。その通りだよ。カードが使えなくなったから金子を借りに来たんだよ」
‥‥そんなワケでしてぇ、何事もご利用は計画的にというお噺でございました。おアトがよろしいようで‥‥テケテンテンテンテン‥‥なんて感じの今日この頃でございます♪
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