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2009.05.19

美しく素敵な昔の言葉

今どき、「ビーフステーキ」のことを「ビフテキ」なんて言う人はほとんどいないと思うし、略して言うとしても「ステーキ」って言うと思う。だけど、ひと昔前までは、「ビフテキ」って言う人が多かったし、この「ビフテキ」って言葉を「ゼイタクな料理」の代名詞みたいに使ってた時代があった。「三丁目の夕日」の時代、昭和の高度成長期だ。このころは、きっと、ダンナさんがボーナスをもらうと、奥さんや子供に向かって「ビフテキでも食いに行くか!」なんて言って、子供も「わーい!わーい!」なんて喜んでたんだと思う。

で、こんな時代を知らないあたしでも、一応は昭和中期過ぎの生まれだから、「ビーフステーキ」のことを「ビフテキ」って略して呼ぶことは知ってるし、実際に自分でも子供のころは「ビフテキ」って言葉を使ってた記憶がある。今、これを読んでる皆さんも、たぶん99%以上の人が、「ビフテキ」って言葉を知ってると思う。サスガに、今どきの若い女の子が、カレシに向かって「ビフテキ食べた~い」なんて言うことはないだろうけど、それでも、「ビフテキ」が「ビーフステーキ」の略だってことは知ってると思う。

だけど、これほど人口に膾炙(かいしゃ)してる「ビフテキ」とは違って、ほとんどの現代人が「はぁ?」って聞き返しちゃうのが、「ビステキ」って言葉だ。カタカナの「フ」と「ス」って似てるから、まるで「ビフテキ」って言葉を打ち間違えちゃったみたいに見えるだろうけど、このままで正しくて、平仮名で書けば「びすてき」だ。そして、実は、これも「ビーフステーキ」の略なのだ。今から100年ほど前の明治から大正にかけては、「ビーフステーキ」のことを「ビステキ」って略してた今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、ほとんどの人が聞いたことないと思う「ビステキ」って言葉だけど、ムリヤリに漢字を当てはめると、「美・素敵」ってワケで、まるで、山口百恵の「美・サイレント」をホーフツとさせるほど、美しくて素敵な言葉になるワケだ。だけど、もともとが「ビーフステーキ」なんだから、漢字にしても意味がない‥‥つーか、もともとが「ビーフステーキ」なんだから、普通に考えたら、「キムラタクヤ」を「キムタク」に略す方式で、「ビーフステーキ」は「ビーステ」にすべきだろう。とにかく、この「ビステキ」にしても、人口に膾炙してる「ビフテキ」にしても、「ビーフステーキ」の略語としては、文字のピックアップがアバウトすぎる。

ま、そんなことは置いといて、あたしが初めて「ビステキ」って言葉を知ったのは、高校生の時だった。図書館で借りて来た夏目漱石の全集を順番に読んでたら、漱石が大学時代にイギリスへ留学した時のことをニポンにいる友人へ向けた手紙や日記の形で記してある「倫敦(ロンドン)消息」っていう短編があって、その冒頭あたりに出て来たのだ。そして、それが、まったく前後の脈絡のない使われ方だったから、何のことだか分からなかった。

たとえば、「吾輩は半ポンドもある大きなビステキをナイフで切り分け、その血の滴るような肉片をフォークで口へと運んだのだった」なんてふうに書いてあれば、この「ビステキ」が「ビフテキ」のことだって誰にでも分かるだろう。だから、あとは、当時は「ビフテキ」のことを「ビステキ」って呼んでたのか、それとも「フ」を「ス」に間違えた校正ミスなのか、その点を調べるだけで済む。だけど、この短編には、こんなふうに書かれてるのだ。


「僕のようなものがかかる問題を考えるのは全く天気のせいやビステキのせいではない天の然らしむるところだね」


そして、ここから先には、二度と「ビステキ」は登場しないし、そのヒントになるような記述も登場しない。だから、あたしは、この「ビステキ」ってのが、いったいぜんたい何のことなのか、まったく分からなかった。それで、あたしは、当時の担任の先生のとこに聞きに行った。担任の先生は英語の先生だったけど、仮にも語学の先生なんだし、この「ビステキ」はカタカナだから外来語っぽいし、きっと知ってると思ったのだ。

でも、先生は知らなかった。「ビフテキの印刷ミスだと思うけど、念のために国語の先生に聞いてみるよ」って言って、答えは「保留」の状態で、あたしは帰された。で、2日後の英語の授業のあとに、先生があたしを呼んで、「これはビフテキのことで、漱石の時代にはビステキって呼んでたそうだ。私も勉強になったよ」って、国語の先生から聞いた答えを教えてくれたのだ。

‥‥そんなワケで、あたしの場合は、初めて知ったのが「文字」だったし、それが活字で印刷された本だったから、「フ」を「ス」に間違えた校正ミスっていう選択肢が生まれちゃったワケで、もしも、誰かから「言葉」として聞いたのなら、この選択肢は生まれなかった。だけど、その場合には、その人が「ビフテキ」のことを「ビステキ」って間違えて覚えてるっていう、まるでフロッピー麻生みたいな恥ずかしい選択肢が生まれちゃってた。そして、たぶん、こんなふうになってただろう。


きっこ 「おじいさんは、どんな食べ物が好きなんですか?」

権兵衛 「わしはな~、この年でもまだ歯が丈夫じゃから、ビステキが大好物なんじゃよ」

きっこ 「えっ?」

権兵衛 「ビステキじゃよ、ビステキ」

きっこ 「えっ? ビフテキ‥‥ですよね?」

権兵衛 「何じゃそれは? わしが好きなのはビステキじゃ」

きっこ 「そのビステキって、いったいどんな食べ物なんですか?」

権兵衛 「あんたはビステキを知らんのか? これくらいの厚さに切った牛肉を鉄板で焼いて、まだ中か生のうちにナイフとフォークで切って食べる西洋料理のことじゃよ」

きっこ 「おじいさん、それなら、ビステキじゃなくてビフテキって言うんですよ」

権兵衛 「何を言っとるか! この料理の名前は、わしが子供のころからビステキじゃよ!」

きっこ 「それはおじいさんのカン違いですよ。正式な名前がビーフステーキで、これを略してビフテキって言うんですよ」

権兵衛 「そんなハズはないわい!わしはずっとビステキと言って来たし、わしの友人も、皆、ビステキと言っておる!」

きっこ 「それは‥‥それは‥‥きっと、おじいさんの聞き間違いですよ」

権兵衛 「何じゃ! するとあんたは、わしの耳が遠いと言うのか! 何て失敬なオナゴじゃ!」

きっこ 「ご、ごめんなさい! 決してそんなつもりじゃ‥‥」


‥‥って言いつつも、あたしは、まだ自分のほうが正しくて、おじいさんのカン違いだと思い込んでる。そして、おじいさんを怒らせちゃっただけでなく、お家に帰ってから念のために調べてみて、昔は「ビステキ」って呼んでたことを知り、ものすごく自己嫌悪に陥って、キッコゲリオン初号機は完全に沈黙しちゃうってワケだ。そして、今日の「きっこの日記」を読んだ人は、もしも、これから、どこかで、明治の終わりか昭和の初めくらいに生まれたおじいちゃんかおばあちゃんが「ビステキ」って言葉を使っても、あたしの例みたいに「間違い」って決めつけて対応しちゃう失敗から回避されたってワケだ。これは、相手に対して失礼なだけじゃなく、自分自身も恥をかくことになるんだから、ものすごく低い確率だけど、いつかこんな状況になった時に、「あ~、きっこの日記を読んでて良かった!」って思って欲しい(笑)

‥‥そんなワケで、話はクルリンパと変わるけど、皆さんは、あたしの笑いのツボの1つ、「バビキュウ」を覚えてるだろうか? 去年の1月27日の日記、「笑う女」に書いた話だから、それ以降から「きっこの日記」を読み始めた人は知らないだろうけど、古本屋さんで昭和30年ころのアウトドアの本をパラパラと見てたら、その中に、キャンプの時の野外料理として、「バーベキュー」のことが「バビキュウ」って紹介されてて、あたしは、この言葉がおかしくておかしくて噴き出しちゃって、シーンとした古本屋さんの中で、1人でいつまでも大笑いしちゃったって話だ。

で、ふと思ったんだけど、キャンプに行くのは、20代、30代、40代の人たちが中心だろうから、昭和30年ころにこの年代だった人たちってことは、明治の終わりから昭和の初めくらいに生まれた人たちってことで、つまり、「ビーフステーキ」のことを「ビステキ」って呼んでたか、呼ぶことを知ってた最後の人たちってことになる。だから、もしかすると、さっきの仮想会話に登場してもらった権兵衛おじいちゃんは、「ビーフステーキ」のことを「ビステキ」って言うだけじゃなくて、「バーベキュー」のことも「バビキュウ」って言う可能性もあるワケだ。

去年の「笑う女」の中で、あたしは、今の50代以上の人たちが、「ロレックス」のことを「ローレックス」って言ったり、「カルティエ」のことを「カルチェ」って言ったりするって指摘した。もちろん、これは、その言い方が間違ってるって指摘してるんじゃなくて、「昔はこんな言い方をしてた」って紹介しただけだ。他にも、「フェラーリ」のことを「フェラリー」って言うオジサンもいるけど、これにしたって、決して間違えてるんじゃなくて、昭和30年代の自動車雑誌には、ちゃんと「フェラリー」って書いてあったのだ。ようするに、こうした外来語や略語の場合には、その人がどの年代にその言葉を覚えたのかによって言い方が違うワケで、自分の使ってる現在の言い方と違うからって、一概に「間違いだ」って決めつけたりしないほうがいいってワケだ。

‥‥そんなワケで、イェ~イ、シャバダバダ~シャバダバダディ~、イェ~イ、俺が昔、夕焼けだったころ、弟は小焼けだった~~父さんは胸やけで~~母さんは霜やけだった~~わっかるかなぁ~? わかんねぇだろうなぁ~?‥‥ってノリで、イェ~イ、シャバダバダ~シャバダバダディ~、イェ~イ、ビフテキが昔、ビステキだったころ、バーベキューはバビキュウだった~~ロレックスはローレックスで~~カルティエはカルチェだった~~わっかるかなぁ~? わかんねぇだろうなぁ~?‥‥ってワケで、松鶴家きっこが美しく素敵にマトメてみた今日この頃なのだ♪(笑)


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