テキにカツには胸やけ覚悟
18日の日記、「美しく素敵な昔の言葉」で、あたしは、「ビフテキ」は「ビーフステーキ」を略した呼び名だ‥‥って書いたんだけど、そしたら、何人かの人から、ツッコミのメールをいただいた。
お名前:TH
コメント:こんにちは、いつも楽しく読ませていただいています。ところで、ビフテキですが、語源はフランス語ではないでしょうか?「ビフテキはビーフステーキ(beef steak)の略語ではなく、語源はフランス語(bifteck)である。」このように言われています。「ビステキ」はおそらくビーフステーキの省略形なんでしょうね。ではでは失礼いたします。
お名前:関陽子
コメント:きっこ様こんにちは。5年来の愛読者です。ずいぶん前に一度メールをお送りしたことがあります。今回は、「ビフテキ」という言葉に反応して、これを書いています。私はカナダのモントリオールに住んでいますが、ここのフランス語では、ステーキ用の牛肉を "Bifteck"と呼んでいます。また、スペルは違いますが、Le Biftheque (ル・ビフテーク)というステーキハウスもあります。ついでに書くと、日本で「肩ロース」とかいうときの「ロース」は、おそらく“Roast"からきているのでしょうね。「バビキュウ」のようなレトロなカタカナ表記は、私もツボです。笑えるものも、「こっちのほうが元の発音には近いよなあ」と感心させるものも、いろいろありますよね。「ビジテリアン」とか。今後も、鋭く、深く、幅広く、素敵な日記を楽しみにしています。http://canadays08.jugem.jp/
THさん、陽子さん始め、同様のメールをくださった皆さん、どうもありがとうございました♪‥‥ってワケで、陽子さんは、NHKラジオ第一放送「ラジオ深夜便」の「ワールド・ネットワーク」のコーナーで、カナダの情報を届けてくれてる人なので、お名前はイニシャルにしないで、そのまま書かせていただいた。
で、あたしは、この「Bifteck」っていう、例のナンミョー系の2人組歌手(解散済み)に限りなく似てる名前に恐怖を感じつつも、メル友の石川喬司先生が、東大の文学部の仏文学科を卒業してることを思い出したので、ちょっと聞いてみることにした今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、結論から先に言っちゃうと、「ビフテキ」は「ビーフステーキ」を略した呼び名だ‥‥っていう、あたしの書いた内容は間違いだった。THさんが指摘してるように、英語では「ビーフステーキ」だけど、フランス語では「ビフテーク」なワケで、ニポンでの「ビフテキ」って呼び名は、フランス語の「ビフテーク」がそのままニポン語になったものだった。だから、教えてくださった皆さんに感謝するとともに、あたしの書いた間違いを信じちゃった皆さんには、ごめんなさい!
で、陽子さんからのメールで、あたしが気になったのは、「Le Biftheque」っていうステーキハウスの名前だ。「Bifteck」を「Biftheque」って書いてるのは、タバコの「クール」が、「Cool」じゃなくて「Kool」になってることとか、「サニクリーン」の「クリーン」が、「Clean」じゃなくて「Kleen」になってることとかとおんなじ理由っぽい。だから、この点はいいんだけど、あたしが気になったのは、冠詞の「Le」だ。
英語の場合は、どんな名詞に対しても、それが固有のものだってことを強調する場合には、みんなマトメて「The」をつければ済む。だけど、フランス語の場合は、イタリア語やドイツ語やスペイン語みたいに、すべての名詞が男性名詞と女性名詞に分かれてる。そして、男性名詞には「Le(ル)」をつけて、女性名詞には「La(ラ)」をつける。たとえば、アン・ルイスの「ラ・セゾン」て歌の場合は、英語の「シーズン」にあたる「季節」って意味の「セゾン」が女性名詞だから、頭に「ラ」がついてるワケだ。
それで、あたしは、石川喬司先生に、「ビフテークは男性名詞なんですか?」って聞いてみた。そしたら、石川先生は、もう大学を卒業して半世紀も経つ上に、大学時代のフランス語の成績は必ずしも良くはなかった‥‥ってことを前提にして、わざわざ辞書で確認してくださった上で、こう教えてくださった。
「私の手元にある唯一のフランス語辞書『小学館ポケット仏和・和仏辞典』(他は別棟の膨大な堆積の下)によると、bifteckは「男」です。同じページに出ているbijou(宝石、装身具、珠玉の作品)も男性形ですが、bijouterie(宝石店、宝石類、アクセサリー)は「女」です。フランス語の名詞の性別はまったく気ままで、いちいち原語をチェックしなれければなりません。同じページにあるbillard(ビリヤード)が男で、bille(ビリヤードの球)が女というのも、bigoudi(美容のカールクリップ)が男、bide(ビデ)が男、biere(ビール)が女などともに感覚が混乱してしまいます。」
う~ん、「ビリヤード」に関して言えば、ビリヤードの「キュー」と「球」が男性名詞で、球を入れる穴の「ポケット」が女性名詞ってのなら、下ネタ的に覚えられるけど、「球」が女性名詞ってのは、どうも納得できない。つーか、「宝石」が男性名詞なのに、「宝石店」が女性名詞ってのは、あまりにも分かりずらい。この方式で行けば、「魚」は男性名詞なのに「魚屋」は女性名詞、「野菜」は男性名詞なのに「八百屋」は女性名詞‥‥なんて感じのパターンも多々ある気がする。
てことは、「肉」は男性名詞なのに「肉屋」は女性名詞、「ビーフステーキ」は男性名詞なのに「ステーキハウス」は女性名詞ってパターンもアリエールなんだけど、石川先生によれば、「bifteck」は男性名詞で、陽子さんによれば、ステーキハウスの「Le Biftheque」も男性名詞だ。だから、ビフテキに関してだけは、「宝石店」みたいな紛らわしいことはないみたいだ。
‥‥そんなワケで、ひと昔前にニポンで使われてた「ビフテキ」って言葉は、英語の「ビーフステーキ」を略した言葉だったワケじゃなくて、フランス語の「ビフテーク」が語源だったワケだ。そして、フランス語の「ビフテーク」は男性名詞なんだから、ワイルドに、野獣のように、手づかみで、ムシャムシャと食べなきゃならない‥‥ってことはないと思うけど、とにかく、あんまり「安くて大きいビフテキ」ばかり求めてると、今度は、新型の牛インフルエンザが発生しちゃうかもしれないから、肉食人種の皆さんは、ほどほどにしといたほうがいいと思う。
今回の豚インフルエンザにしたって、発生源の場所はメキシコの養豚場だけど、そこを経営してたのはアメリカ最大手の豚肉企業なんだし、その9割以上を輸入してたのがニポンの大企業なんだから、今回の豚インフルエンザ騒動の原因を作ったのは、ニポンとアメリカってことになる。それも、企業の利潤だけを追求したコイズミ改革によって、限りなく安い豚肉を求めたニポンと、それに応えようとしたアメリカとが手を結び、糞尿垂れ流しの劣悪な環境で大量の豚を生産し続けたことによってウイルスが進化しちゃったんだから、煎じ詰めれば、ニポンの消費者が豚インフルエンザを生み出したってことになる‥‥って、このまま行くと話が大きくダッフンしちゃうから、ここらで、またメールを紹介しようと思う。
お名前:IY
コメント:いつも興味深く拝読しています。私は、昭和5年大阪生まれの老骨ですが、子供のころは確か、テキと言っていた記憶があります。ビーフステーキのステーキがなまってテキとなったと思います。ビステキは、ビーフステーキのフの音が脱落したものと思われます。したがいまして、ビステキは、誤りではなく、ビフテキとは別系統の略語かと存じます。
お名前:HH
コメント:いつもきっこさんのブログ楽しみにしています。ビフテキについてですが、僕が高校生だった頃(今57歳です)、周囲はステーキのことをビフテキって言ってました。でも子供の頃(小学校低学年)はビフテキじゃなくて「テキ」って言ってたのを記憶しています。父親(大正6年生まれ)とその友人達、父親の母親、兄弟達などみんな「テキ」でした。「敵」はキの方にアクセントがありますが、「テキ」はテの方にアクセントがつきます。ちなみにマカロニは物心ついた頃から食べてますが(なぜか昔マカロニはスープの中に入れる形で食されました。すいとんのイメージが残っていたのでしょうか。よくストローにして遊んで叱られました)、スパゲッティーが給食に登場したのは小学校高学年の頃です。(付け合せのナポリタンは除いて) 登場時、メニューに「スパゲテ」なんて書いてあって、のけぞったのを覚えてます。
IYさん、HHさん、どうもありがとうございました♪‥‥ってワケで、最初に紹介したTHさんや陽子さんのメールと総合して考えても、IYさんの書かれてるように、「ビフテキ」と「ビステキ」とは「別系統」って見るのが妥当だと思う。「ビフテキ」がフランス語の「ビフテーク」を語源にしてるのに対して、「ビステキ」のほうは、IYさんの書かれてるように「ビーフステーキの略語」なんだと思う。
で、これはあたしは知らなかったけど、「テキ」って呼び方もあったんだね。これは、たぶん、「ビフテキ」か「ビステキ」かどっちかの略語だと思うけど、そうだとしたら、「トンカツ」のことを「カツ」って言うようなものなのかな?‥‥って、この「カツ」も、もともとは「カツレツ」って名前で、英語の「cutlet(カツレッツ)」から来た言葉だけど、これもフランス語の「コトレット」が語源だそうだ。ようするに、お肉にパン粉をつけて油で焼くお料理の名前で、ニポンの場合は、英語圏から入って来たから、「カツレツ」になってから「カツ」になったんだと思う。これが、もしもフランスから入って来てたら、きっと「コトレト」になってたハズで、「トンカツ」のことは「トンコト」って呼んでたかもしれない。
ま、そのニポンの「トンカツ」が原因で、豚インフルエンザが発生しちゃって、今や全世界に大迷惑をかけてるワケだけど、「ビフテキ」にしても「トンカツ」にしても、あたし的には「昭和のご馳走」ってイメージが強い。そう言えば、ひと昔前には、「敵に勝つ」って言葉にカケて、受験生に「ビフテキ」と「トンカツ」を食べさせたなんて話を聞いたこともあった。ま、栄養のある豪華なものを食べさせて、入学試験を突破してもらおうっていうお母さんの真心なんだろうけど、現実的には、「ビフテキ」と「トンカツ」を一度に食べるなんて、胸やけして気分が悪くなりそうだ。
もしも、あたしが受験生だったとしたら、こんなにクドイ組み合わせなんかじゃなくて、沖縄の「ゴーヤーチャンプルー」と韓国の「カクテキ」がいいな。これなら、栄養も満点だし、消化も良さそうだし、パワーも出そうだし、2つ合わせて「ゴーカク」間違いなしだし(笑)
‥‥そんなワケで、HHさんは、子供のころ、マカロニをストローにして叱られたそうだけど、あたしの場合は、子供のころ、チクワでおでんのお汁を飲んで口の中をヤケドしたことがある‥‥なんてことも打ち明けつつ、あたしたちが子供のころって、たいていの家庭では、食べ物をオモチャにすると叱られた。食べ物を残すことよりも叱られた。ようするに、あたしたちの食べ物は、すべて何らかの「命」から作られてるんだから、その「命」に対して感謝しろってことを教わって来たワケだ。だけど、そんな教えとはウラハラに、今のニポンは、世界最大の「食糧廃棄国」になっちゃった。ニポンでは、年間に約7000万トンの食べ物が消費されてるんだけど、このうちの3分の1以上にあたる約2500万トンは、まだ食べられる状態なのに、ぜんぶゴミとして捨てられてる。そして、この捨てられてるぶんだけで、全世界で餓死してる年間1500万人の人たちをすべて救うことができるのだ。ま、この辺のことは、去年の12月24日の日記、「食べ物を捨て続ける国」に詳しく書いてるけど、もうそろそろ、「大量輸入」「大量廃棄」っていう自民党が推し進めて来た「国家的自転車操業」を終わらせないと、あたしたち庶民の口には、「ビフテキ」どころか、おでんのお汁も入らなくなっちゃうと思う今日この頃なのだ。
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