浮気心の鎮静化
あたしの原チャリは、前のタイヤがツルツルで、完全にスリックタイヤになってた。別に、今のF1のレギュレーションに合わせたワケじゃないんだけど、何ヶ月か前に、前後のタイヤが限界になりかけてた時に、2本一緒に交換するお金がなかったから、より重要な駆動輪の後輪だけを新品に交換したからだ。で、そのまま乗り続けてたら、少しだけ残ってた前輪の溝が完全になくなった上に、タイヤの左半分だけがナナメに摩耗して来て、なんて言うか、ソロバンのコマみたいな形になっちゃった。
これは、頭脳は子供でもベッドでは大人、迷探偵キッコナンの推理なんだけど、タイヤの左半分が先に摩耗するのって、原チャリの宿命なんだと思う。原チャリって、ある程度以上の規模の道路を右折する時は、クソメンドクサイ「2段階右折」ってのをしなくちゃなんない。でも、左折の時は、どんな道路でも原チャリを倒してコーナリングできる。だから、タイヤの左半分が先に摩耗するんじゃないかってことだ。
ま、そんことは置いといて、とにかく、そのままの状態で乗り続けてたら、今から2ヶ月くらい前から、前輪の空気が抜けるようになった。あたしは、月に2回くらい原チャリにガソリンを入れるんだけど、ガソリンを入れたついでに、前輪に空気を入れると、それから3日か4日は普通に走れるんだけど、それからジョジョに奇妙に空気が抜け初めて、1週間くらいでペタンコになっちゃう。そうなると、コーナーで倒すと前輪がズルズルと滑り出しちゃうから、まるでサイドカーのコーナリングみたく、原チャリは真っ直ぐに立てたまま、あたしだけが体を大ゲサに左右に動かして、それで曲がんなきゃなんなくなる。
さらには、直進するのも厳しい状態になって来るから、ガソリンがなくなり始める10日目あたりからは、ほとんどウイリーで走ることになる。そして、何とかガソリンスタンドに辿り着いたら、ガソリンを入れて、前輪に空気も入れて、またイチからスタートする今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、タイヤがツルツルってことよりも困ってたのが、この空気が抜けちゃう状況なんだけど、これがもしもパンクだったら、あたしもすぐにタイヤを交換してたと思う。パンクだったら、いくら空気を入れても、その場でシューって抜けちゃうんだから、それがタイヤを交換するキッカケになってたと思う。でも、あたしの場合は、釘とかが刺さってパンクしてたワケじゃなくて、どっかから、ものすごくちょっとずつ、空気が抜けてたのだ。最初は「虫」かと思って、ガソリンスタンドで空気を入れたついでに、「虫」の部分にツバをつけて確認してみたんだけど、ぜんぜん漏れてなかった。だから、タイヤの横の細かいヒビワレとか、ものすごくミクロな穴とかから、分速1ピコグラムくらいの遅さで漏れてるんじゃないかって推測してた。
とにかく、空気さえ入れたら、それから何日かは普通に乗れるんだし、タイヤがペタンコになってからも、ウイリーすればどこまででも走れるんだから、あたしの得意ワザの「まだ何とかなる」「まだ何とかなる」の精神で、そのまま乗り続けて来たってワケだ。だけど、こないだガソリンを入れて空気を入れた時ににタイヤを見たら、極端に摩耗し始めてた左半分から、何かの「糸」みたいなのがたくさん出て来てて、そこを指で押すと、もうゴム風船くらいの厚みしかない感じだった。そして、サスガのあたしも、このまま乗ってたら事故るな‥‥って思ったので、今日、ついに前輪を交換した。
そしたら、これがまた、メッチャ走りやすくなって、何だかエンジンの調子まで良くなったみたいなフィーリングだし、何よりも、ウイリーがやりやすくなった。ウイリーって、フロントを持ち上げる前に、一度、フロントを沈めてその反動を使うんだけど、今まではタイヤがペタンコだったから、腕力を使って強引にウイリーしてた。だから、腰に負担が掛かって辛かったんだけど、前輪が新品になったら、ほとんど腕力を使わずに、タイヤの弾力とショックの反動とアクセルワークだけで簡単にフロントが上がるようになって、すごくラクチンになった。
車にしてもバイクにしても、調子が悪い時には愛着が薄くなるし、調子が良くなると愛着が復活する。それで、タイヤを交換して愛着が復活したあたしは、1ヶ月ぶりくらいに、原チャリを雑巾で拭いてあげた。それから、あんまり嬉しかったので、タイヤの写メも撮った(笑)‥‥って、タイヤの写メはどうでもいいんだけど、とにかく、原チャリに対する愛着が復活したことで、あたしは、ここんとこワラワラと湧き始めてた浮気心を鎮静化することに成功したのだった。
‥‥そんなワケで、数日前の午後、車で都内某所の裏道を走ってたら、「おおっ!」って声をあげちゃうほどステキなスクーターが停まってた。住宅街の中を抜ける一通の路地で、車が1台しか通れない幅の道だったんだけど、その道に面したアパートの1階部分が凹んでて、バイク置場になってたのだ。そのスクーターは、頭をこっちに向けて停まってて、あたしの車は左ハンドルだから、最初に、そのスクーターのフロント部分が目に入って来た。
そのスクーターは、水色と白のツートンで、ものすごくレトロなデザインだったんだけど、シートが破れてたり大きな傷があったりしたから、ホントにレトロな昔のスクーターなのか、昔のスクーター風に作られた最近のスクーターなのか、あたしには判断できなかった。でも、とにかく、フロント回りの感じが、水色っていう色のセイもあったんだけど、あたしの大好きな「ミチコとハッチン」のスクーターにソックリに見えたのだ。その上、大きさ的には原チャリっぽいから、あたしの免許でも乗ることができる。
で、とりあえず車の窓からケータイで写真を撮って、それから何て名前のスクーターなのか確認しようと思ったら、後ろから車が来ちゃったから、あたしは、仕方なく発信した。でも、発進した時にサイドミラーで見たら、白いナンバーだったから、原チャリだってことだけは確認できた。それで、その日の夜、ケータイで撮った写真をパソコンで拡大して、何とか名前を確認しようと思ったんだけど、そのスクーターの横にある名前っぽいエンブレムは、「J」で始まってることしか分からなかった。
あたしの見た感じだと、どう考えても国産ぽかったから、とにかく、あたしは、「J」で始まる国産の原チャリをカタッパシから調べてみることにした。それで、まずは、一番可能性が高そうなホンダから調べ始めた。こういう時って、インターネットの検索って便利だよね。そしたら、それがドンピシャで、あたしが見たスクーターは、ホンダの「Julio (ジュリオ)」って原チャリだったことが分かった。
でも、わずか10分で分かったのは良かったんだけど、実際に「ミチコとハッチン」のスクーターと見比べてみると、あまりにも違い過ぎた。ミチコのスクーターは、たぶん250ccくらいあるビッグスクーターだから、最初から原チャリとは大きさが違うんだけど、ミチコが大好きで原チャリの免許しか持ってないあたしとしては、「ミチコのスクーターをそのまま小さくしたような原チャリ」が欲しいのだ。
‥‥そんなワケで、ミチコの乗ってるスクーターって、実在するものじゃなくて、コヤマシゲトさんていうイラストレーターの人がデザインしたオリジナルなんだから、「ソックリな原チャリ」どころか、おんなじビッグスクーターでも手には入らない。だから、あくまでも、雰囲気の似てる原チャリをベースにして、カスタマイズするっきゃないってことになる。それで、あたしは、ホンダのジュリオを見た時に、ベースにする原チャリとして、「これだっ!」って思っちゃったのだ。
だけど、最初にも書いたように、あたしが見たジュリオが、たまたまミチコのスクーターとおんなじ水色だったから「おおっ!」って思っちゃったみたいで、よくよく見比べてみたら、まず、ヘッドライトがぜんぜん違った。ジュリオは、カウルとフェンダーが一体化してて、その真ん中からヘッドライトが生えてるんだけど、ミチコのスクーターは、ホンダのジョーカーみたく、ハンドルの真ん中についてる。それに、リアビューに関しては、それこそジョーカーのほうが遥かに似てる。さらに言えば、おんなじ原チャリでも、ジュリオよりもずっと大きいジョーカーのほうが、ミチコのスクーターに似た感じに仕上がると思う。
だから、全体的なことを言えば、ホンダのジョーカーをベースにして、ヘッドライトをダブルにしたり、ベスパみたくハンドルの両端にウインカーをつけたりしたほうが、雰囲気は似て来ると思う。ただ、ジョーカーの唯一のマイナス点は、カウルとフェンダーが分離してるとこなのだ。ミチコのスクーターは、ジュリオとおんなじにカウルとフェンダーが一体化で、前輪はタイヤだけが左右に動く。だけど、ジョーカーの場合は、フェンダーはタイヤの上についてて、タイヤと一緒に動いちゃうのだ。
でも、これは、ワリと簡単にカスタマイズできると思う。たとえば、ジュリオのカウルを探して来て、ヘッドライトの部分のデッパリをグラインダーで削り落して、裏からFRP板を貼ってパテ埋めして、ナニゴトもなかったかのように塗装する。で、ジョーカーのカウルとフェンダーを外して、代わりにジュリオのカウルをつけちゃう。それから、ジョーカーのシートを外して、昔のスーパーカブとかのシングルシートと、90ccのカブの荷台につけるタンデム用のシートをつければいいと思う。もちろん、ジョーカーのメットインの機能は必要だから、シートを丸ごと外すんじゃなくて、シートのクッションの部分だけを切り取って、ベースの部分は残しておく。そして、そこにカブのシートをつければ、タンデムシートごとパコッて開くから、ヘルメットも仕舞える。
‥‥そんなワケで、あたしは、数日前から、こんなことを考え始めてて、タダでもらえるジョーカーの廃車を探し始めてた。だけど、いくらベースの原チャリがタダで手に入ったとしても、自分じゃ何もできなくて、すべてバイク屋さん任せのあたしとしては、これだけカスタマイズするには、最低でも5万円くらいはお金が掛かるだろうって計算して、ウスウスと「現実的にはムリだな~」って思ってた。だけど、「フェラーリを買う」みたいな完璧にムリな妄想じゃなくて、こうした「ムリすればできるかも?」ってレベルの夢を持つことは、日々の生活に潤いを与えてくれる。特に、あたしみたいな、地図を見ただけで旅行した気分になれるタイプの人間にとっては、とっても大切なことなのだ。だけど、あまりにも思い込み過ぎると、ついホントに手を出しちゃいそうで危険だから、今回、原チャリのタイヤを交換したことによって、ポンコツのホンダのディオに愛着が復活して、変な浮気心が鎮静化してくれたことが、それはそれで良かったと思う今日この頃なのだ。
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