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2009.06.29

天気屋

えぇ~、つい先日、東北地方が梅雨入りしたと思いましたら、もう沖縄は梅雨明けしたそうでしてぇ、いやはや、本当にニポンは縦に長い国でございますねぇ。それにしましても、人間てぇものは、ワガママと言いますか、無い物ねだりと言いますか、梅雨入りして雨の日が続きますと「毎日毎日こう雨ばかりだと鬱陶しくていけねえや」なんてぇことを言い出します。それなのに、雨が降らない空梅雨だったりしますと「これじゃあダムの水が干上がって水不足になっちまう」と、やっぱり文句を言い出します。結局、雨が降ったら降ったで文句を言い、降らなかったら降らなかったで文句を言うのが人間てぇ生き物でございます。

まあ、どんなに人間の科学が進歩しましても、お天気を自由自在にコントロールするなんてぇことは不可能でして、所詮、人間などは、この地球で暮らす生き物の中の一種類にしか過ぎないのでございます。台風や地震など、大自然の力の前には、あたしたち人間なんざ無力なのでございます。空から雨が降って来れば、あたしたち人間は、傘をさすしかないのでございます。

今から40年ほど前には、「2001年宇宙の旅」なんてぇ映画が公開されましたから、当時の人たちは、きっと「40年後の2000年になったら人類は宇宙旅行くらいしているだろう」なんてぇことを想像していたんでしょうねぇ。でも実際には、もう2009年になったと言うのに、宇宙旅行どころか、日帰りの温泉旅行にも滅多には行けやしません。ええ、もちろんこれはあたしの話ですがねぇ。

それでも、年に一度くらいは母親を温泉にでも連れて行って、たまには親孝行の真似ごとでもしたいので、毎月コツコツとお金を貯めて、ようやく一泊で近場の温泉に行ける日がやって来ると、こいつが生憎、朝からの雨‥‥なんてぇことになったりもします。まあ、それでも、久しぶりの親子水入らずの旅行は楽しいものですが、水入らずなのに湯には入る‥‥なんてぇ小ネタも織り込みつつ、せっかくの旅行で、初夏の新緑や秋の紅葉など、四季折々の美しい風景を雨で十分には母親に見せられなかったことを残念に思ったりもする今日この頃、皆さん、いかがお過ごしでございますか?


‥‥そんなワケでしてぇ、いくら人間が大自然の前では無力と言いましても、毎日毎日ずっと雨ばかり続きますと、やはり、お天道様が恋しくなりますし、逆に、梅雨時に雨が降らなければ、あたしたち人間は困ってしまいます。この時期に雨が降らなければ、秋の作物の収穫量にも影響を及ぼしてしまい、ふだんでさえ高くてなかなか手が出ない野菜が、二倍、三倍の値段になり、それこそ手も足も出なくなってしまいます。でも、現実の世界とは違いまして、「何でもあり」の落語で世界では、こんな時、「待ってました!」とばかりに、都合のいい商売が現われるものでございます。


ご隠居 「いやあ、今年の梅雨はさっぱりと雨が降らないねえ」

八五郎 「へい、ご隠居。もう皐月(さつき)も終わりだってえのに、まだ一度も雨が降ってませんね」

ご隠居 「それにこの暑さじゃ、お百姓さんたちは苦労してるだろう」

八五郎 「このぶんじゃ、ダイコンだのニンジンだのキャベツだのハクサイだのって、あっしの好物がみんな値上がりしちまいまさあ」

ご隠居 「うんうん、そんなことになったら困ってしまうねえ」


‥‥なんてぇ話をしていますと、ご隠居の屋敷の外から、何やら物売りの声が聞こえて来ました。


物売り 「あ~め~、あ~め~、あめはいらんかね~」


ご隠居 「おい八っつぁん、何だい、あの声は?」

八五郎 「さて、何でしょうね? あ~め~って言ってるようですから、きっと、この辺りの子供相手に飴玉でも売ってるんでしょう」


物売り 「か~ぜ~、か~ぜ~、かぜはいらんかね~」


ご隠居 「おいおい、今度は違うことを言っているようだよ?」

八五郎 「は~ぜ~って言ってるようですから、きっと、この辺りの奥さん相手に江戸前で釣ったハゼでも売ってるんでしょう」


物売り 「くもり~、くもり~、くもりはいらんかね~」


ご隠居 「今度は何だい?」

八五郎 「たもり~たもり~って言ってるようですから、きっと、そろそろ、いったんコマーシャルなんでしょう」

ご隠居 「馬鹿を言うんじゃないよ、八っつぁん。とにかく、気になって仕方がないから、あの物売りをちょっと呼んで来ておくれ」

八五郎 「へい、ご隠居」


‥‥ってなワケでしてぇ、おかしな呼び声で流していた物売りは、八五郎に連れられて、ご隠居のいる縁側へとやってまいりました。その物売りは、意外にも、年のころは十五、六の少年で、物売りらしからぬ白い装束を身にまとい、背中には大きな桑折(こおり)を背負っていたのでございます。


ご隠居 「ところで、お前さんは何を商っているんだい?」

天気屋 「はい、旦那様。わたしは天気屋の良純(よしずみ)と申します」

ご隠居 「天気屋? 天気屋って言うと、その時の気分で怒ったり喜んだりする自分勝手な‥‥」

天気屋 「それは、お天気屋です。わたしは天気屋、お客の注文で、雨を降らせたり風を吹かせたりするのが商売でございます」

ご隠居 「ええっ! お前さんはそんなことができるのかい!」

天気屋 「はい。でもまだ修行中の見習いなもので、お代をいただかずに、こうして回らせていただいているのです」

ご隠居 「なにぃ? 代金はいらないのかい?」

天気屋 「はい。わたしの父上は、雨を降らせて五両、風を吹かせて五両、雪を降らせて十両と、お代をいただいているのですが、私は見習いですから、お代はいただきません」

ご隠居 「おお、それは良いことを聞いた。それなら、さっそく、雨を降らせてもらえないかね。梅雨だってのにちっとも雨が降らないから、困っていたところなんだ」

天気屋 「はい、分かりました。そのかわり、もしも失敗しても叱らないでくだいね」

ご隠居 「もちろんだよ。とにかく、ザーッとひと雨降ってくれれば、この暑さも少しは楽になるだろうからね」

天気屋 「かしこまりました」


‥‥そんなワケでしてぇ、物売りはそう言うと、背中の桑折を下ろし、中から不思議な形の壺を取り出しました。その壺には「雨」という文字が書かれており、その周りには、空から降る雨を喜んでいるカエルたちの絵が描かれていました。どうやら、雨を降らせるには雨の壺、風を吹かせるには風の壺と、それぞれの壺があるようです。天気屋の少年は、その雨と書かれた壺を大切そうに地面に置き、両手を壺にかざし、何やら呪文のような言葉を唱え始めたのでございます。


八五郎 「ご隠居、本当に雨なんか降るんですかね?」

ご隠居 「彼のお父上は、五両もの代金をいただいて商いをしているんだ。そのお父上のもとで修業をしているのだから、きっと降るだろう」

八五郎 「でも、今日は雲ひとつない青空で、お天道様もあんなに張り切ってジリジリと照らしてるんですよ?」

ご隠居 「まあ、黙って見ていなさい」

八五郎 「へい」


そして、天気屋の少年が、しばらく呪文を唱えていると、驚いたことに、壺の口から黒い煙のようものが立ち昇り始めたのです。ポカーンと口を開けて見ているご隠居と八五郎をよそに、その黒い煙はどんどん空へ広がって行き、そのうち、ポトリ、ポトリと、空から冷たいものが降って来たのでございます。


ご隠居 「おおっ! 本当に雨が降って来たぞ!」

八五郎 「こりゃあたまげた! まさか本当に雨が降って来るなんて!‥‥って、あれ?」

ご隠居 「どうしたんだい? 八っつぁん」

八五郎 「ご隠居、よく見てくださいよ。この雨粒、やたらと大きくて黒いですよ!」

ご隠居 「なんじゃこりゃ~!‥‥って、これが松田優作の『ブラックレイン』なのか?」

八五郎 「いえいえ、地面に落ちた雨粒がピチピチと動いてますよ!」

ご隠居 「なにぃ?」

八五郎 「これは、雨じゃなくてオタマジャクシですよ!」

ご隠居 「ええっ?‥‥おい、天気屋!これはいったいどういうことだ?」

天気屋 「ああ‥‥旦那様!申し訳ございません!またやってしまいました!」

ご隠居 「何なんだ、これは?」

天気屋 「実は、この壺の中には雨の素が入っておりまして、それを呪文で空へと立ち昇らせて、そして雨を降らせるのです」

ご隠居 「ふむふむ‥‥」

天気屋 「でも、まだ見習いのわたしは、その呪文のさじ加減がうまく行かずに、壺に描かれたカエルの絵まで空へと立ち昇らせてしまったのです」

ご隠居 「それが卵を産み、オタマジャクシになって降って来たと‥‥」

天気屋 「はい、そうでございます」

ご隠居 「とにかく、こんなに庭中がオタマジャクシだらけになってしまっては、たまったもんじゃない!すぐに何とかならないのか?」

天気屋 「それなら、雪を降らせて庭を真っ白にしましょう」

ご隠居 「大丈夫なのか?」

天気屋 「はい!雪は雨よりも得意なんです!」

ご隠居 「よし、それなら雪を降らせてもらおうじゃないか」


‥‥そんなワケでしてぇ、天気屋は、今度は桑折から真っ白な壺を取り出しました。その壺には、「北の国から」という文字が書かれており、その周りには美しい一面の雪景色が描かれておりました。天気屋は、その壺に両手をかざすと、今度は、「ルールルル‥‥ルールルル‥‥」と呪文を唱え始めまたのでございます。


ご隠居 「おいおい、天気屋。そんな呪文など唱えて、今度は雪のかわりにキタキツネでも降って来るんじゃないだろうな?」

天気屋 「いや、さすがにそんな失敗はいたしません」


そうは言ったものの、まだまだ修行中の良純は、ここで失敗したら一大事だと、ついつい呪文に力が入り過ぎてしまいました。本人は気づいていませんでしたが、いつもの何倍もの力で呪文を唱えてしまったのでございます。しばらくすると、壺の口から白い煙のようなものが立ち昇ったのですが、先ほどの雨の時の煙のようには空に広がらず、まるで白い大蛇のように、ひと筋のまま北の空へと流れて行ってしまいました。もちろん、雪など降っては来ません。


ご隠居 「おい、天気屋!いったいどうしたのだ!」

天気屋 「ううう‥‥どうやら、また失敗してしまったようです‥‥」

ご隠居 「なにぃ?」

天気屋 「雪の素がうまく空に広がらずに、あちらの北の空へと消えて行ってしまいました‥‥」


ご隠居と八五郎は、天気屋が指さした北の空を見上げました。すると、白い煙が消えて行った辺りに、何やら小さく光る星のようなものが見えました。そして、その光は、だんだんこちらへ近づいて来るように見えたのでございます。


ご隠居 「天気屋!何かこちらへ飛んで来るぞ?」

天気屋 「ええっ?」


その時です。天気屋と同じ白装束を着て、背中に大きな桑折を背負った男が飛び込んで来たのです。


天気屋 「父上!」

ご隠居 「えっ?」

慎太郎 「ご主人、わたしはこの良純の父、慎太郎と申す者です!今、良純が使った雪の術は、呪文に力を入れ過ぎてしまったようで、雪の素が北の国を通り越して、もっと北の国まで流れて行ってしまいました!それが、今、テポドンという危険な飛翔体となって、この屋敷に向かって飛んで来ているのです!」

ご隠居 「な、な、な、なにぃ~!」

慎太郎 「このままでは、この屋敷だけでなく、この町内がすべて火の海になってしまいます!」

ご隠居 「ど、ど、ど、どうしたらいいのだ!?」

慎太郎 「助かる唯一の方法は、このわたしの最大の奥義である『核の傘』を使い、町内をスッポリと守るしかありません!」

ご隠居 「助かるなら何でもいい!早くその奥義とやらをやってくれ!」

慎太郎 「しかし、この奥義は、我が一族に伝わる秘薬を使うため、代金が三十両かかってしまうのです!」

ご隠居 「さ、三十両だと!?」

八五郎 「ご隠居!大変です!テポドンとやらが、もうあんなに大きくなって来ました!」

慎太郎 「ご主人!もう時間がありません!」

ご隠居 「分かった!分かった!三十両払うから助けてくれ!」

慎太郎 「かしこまりました!」


天気屋の父は、そう言うと、大きな桑折から変わった模様の壺を取り出しました。その壺は、赤と白の十三本の横縞と、五十個の星が描かれていました。そして、天気屋と同じように、両手をかざして呪文を唱え始めたのでございます。すると、壺の口から、今度は灰色の煙が立ち昇り、瞬く間に空へ広がって行きました。その瞬間、空に眩しい光が広がり、この屋敷に向かって飛んで来ていたテポドンは、跡形もなく消えてしまいました。そして、命が助かってホッと胸を撫で下ろしたご隠居から三十両を受け取ると、慎太郎と良純の天気屋の親子は、一礼して帰って行ったのでございます。


慎太郎 「また、うまく行ったな」

良純 「はい、父上」

慎太郎 「今の町民どもは、長いこと戦のない時代を過ごして来て平和ボケしているから、こうして北の国から危険な飛翔体が飛んで来ると嘘をついて危機感を煽らないと、出すものも出さないのだ」

良純 「その通りです、父上」

慎太郎 「それにしても、お前の幻術もずいぶん上達したな。本当に飛翔体が飛んで来たように見えたぞ」

良純 「ありがとうございます!」


一方、屋敷では、老後のためにコツコツと貯めて来た虎の子の三十両をすべて失ってしまったご隠居が、まさか騙し取られてしまったとは知らずに、八五郎に向かって講釈を垂れていました。


ご隠居 「八っつぁんや、あたしは全財産を失ってしまったが、命が助かったんだから安いものだ。それに、これで町内の人たちを皆、助けることができたのだから、これほど嬉しいことはないよ」

八五郎 「でも、ご隠居、一文無しになっちまって、これからどうやって暮らして行くんですかい?」

ご隠居 「まあ、晴れの日に雨を降らせようだなんて、自然の流れに逆らったことなどを望んだのが間違いだったようだ。晴れの日は畑でも耕して、雨の日は本でも読んで、自然を受け入れて暮らして行けば、きっと何とかなるだろう」

八五郎 「晴耕雨読‥‥って奴ですね?」

ご隠居 「おやおや、八っつぁんにしちゃあ、ずいぶんと賢いことを知っているもんだねえ。それこそ、雨でも降るんじゃないのかい?」


‥‥そんなワケでしてぇ、このあと、本当に雨が降って来たのかどうかは分かりませんが、自然の摂理に逆らったりすると、ペテン師の親子に騙されてしまうというお噺でございました。おアトがよろしいようで‥‥テケテンテンテンテン‥‥なんて感じの今日この頃でございます♪


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