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2010.01.28

井戸の茶碗

えぇ~、何年も前のことなんでございますが、銀座のとあるデパートで、化粧直しのために、ウォータークローゼット、略して「W・C」に行きましたところ、中には誰もおらず、ふと見ると、洗面台の上に誰かのお財布が置いてありました。パンパンに膨らんでいる二つ折りのグッチのお財布で、お財布だけでも5万円以上はする高級品でございます。この膨らみ具合ですと、数十万円という大金が入っているかもしれません。

それで、あたくしは、すぐにおトイレの外を見回したのでございますが、持ち主らしき人は見当たりません。仕方なく、とりあえず自分の化粧直しを済ませてから、そのデパートの人に届けようかと思ったのですが、ここであたくしは、ふと考えました。デパートのおトイレの中で拾ったとは言え、高額なものなんだから、やはり交番に届けるべきなんじゃなかろうかと‥‥ってぇのは表向きの理由でして、本心はと言えば、ちゃんと交番に届けておかないと、中に大金が入っていた場合に、1割の謝礼がもらえなくなるんじゃないかと心配したのでございます。

これが、小市民の小市民たるユエンでしてぇ、そんな小市民の判断で、あたくしは、そのお財布を持ったままデパートを出て、最寄の交番へ届けたのでございます。交番のお巡りさんは、慣れた様子で書類を取り出して、あたくしに名前や住所を記入するようにと申しました。そして、あたくしの目の前でお財布をひらき、中のものを並べ始めたのでございますが、出て来るのは大量のレシートやスタンプカードばかりでして、現金は3000円しか入っておりませんでした。

3000円の1割は300円てぇワケでして、あたくしは、300円のために小1時間もムダにしたのでございます。それどころか、後日、落とし主が見つかったと連絡があったのですが、300円のために出掛けて行くこともできないので、結局、謝礼は受け取りませんでした。こんなことなら、最初に見つけた時に、お財布の中を見ておけば良かったと思ったのですが、まあ、昔から言われておりますように、「正直者は馬鹿を見る」ってぇことでございますなぁ‥‥なんてことを思いました今日この頃、皆さん、いかがお過ごしでございますか?


‥‥そんなワケでしてぇ、いくら「正直者は馬鹿を見る」と言われましても、人様を騙したりタバカッたりするよりは、正直に生きて馬鹿を見たほうが気持ちのいいもんでしてぇ、こうした人間は昔からいたのでございます。さて、屑屋(くずや)の鳩兵衛(はとべえ)さんてぇ人も、それはそれは正直な人でして、「正直鳩兵衛」なんてぇアダ名がついているほどの正直者でした。屑屋さんてぇのは、ようするに「廃品回収業」の走りみたいなもんでしてぇ、今は見かけなくなりましたが、昭和の30年代ころまでは、たいていの町に屑屋さんがおりまして、「くずや~お払い」と言いながらリヤカーを引いて町内を回っおりました。そして、各家庭で不要になった廃品のたぐいを安く買い取っていたんですねぇ。

まあ、鳩兵衛さんの場合は江戸時代ですので、リヤカーなんて便利なものはなく、代わりに大きなカゴを背負って、海辺の貧しい村から立派なお屋敷が並ぶ城下町まで、とても広い範囲を1人で回っておりました。この日もいつものように朝早くから、まずは海辺の貧しい村から出発して、「くずや~お払い~くずや~お払い~」と声を出して歩いておりますってぇと、1軒の崩れそうなあばら家から、粗末な着物を着た娘が顔を出しました。


娘 「屑屋さん!屑屋さん!」

鳩兵衛 「へい!」

娘 「すみませんが、ちょっとこちらへ」

鳩兵衛 「へい!」

娘 「父上、屑屋さんを呼んでまいりました」

進之助 「おお、ご苦労であったな。屑屋さんか、こちらへお入り。実はな、お前さんに買ってもらいたいものがあるのじゃ」

鳩兵衛 「へい、ありがとうございます!」

進之助 「わしはな、今はこんな身なりをしておるが、稲峰進之助と申して、以前は貧乏武士であった。しかし、この海辺の村の民たちの心に触れたことがきっかけとなり、今はこの村の長(おさ)をつとめておる」

鳩兵衛 「そうなんですか」

進之助 「この村は貧しい。しかし、美しい海がある。だから、村の民たちの心も美しい」

鳩兵衛 「へい」

進之助 「だがな、ここのところ時化(しけ)で不漁が続いており、村の民たちは米も買えずに困っておるのじゃ」

鳩兵衛 「へい」

進之助 「それでな、お前さんにこの仏像を買ってもらいたいのじゃ」


進之助さんは、高さが一尺ほどの木彫りの仏像を取り出したんでございますが、それを見てギョギョッとしたのが「さかなクン」‥‥じゃなくて、鳩兵衛さんでございました。


鳩兵衛 「旦那様、それは骨董じゃありませんか!わたしは骨董には目が利きませんので、前にもえらい損したことがあるんです。申し訳ありませんが、骨董だけはご勘弁を‥‥」

進之助 「いやいや、これは我が家に先祖代々伝わる由緒正しき仏像だから、少なくとも二百文以上の価値はわしが保証する」

鳩兵衛 「そう言われましても‥‥」

進之助 「そこを何とか!」

鳩兵衛 「やめてくださいまし!頭をお上げください!」

進之助 「これは、村の民たちの願いなのじゃ!民意なのじゃ!何とか頼む!」

鳩兵衛 「わ、わかりました!そこまでおっしゃるのなら、二百文で買わせていただきます!」

進之助 「おお、そうか!かたじけない!これで村の民たちに米を配ってやることができる!」


こんな流れがありましてぇ、屑屋の鳩兵衛さんは、その仏像を買い取ることになり、代金の二百文を支払って、進之助さんの家をあとにしたのでございます。そして、その仏像を背中のカゴに入れたまま、城下町を抜けて、「くずや~お払い~くずや~お払い~」と歩いておりますってぇと、今度は、先ほどとは正反対の立派なお屋敷から声が掛かりました。鳩兵衛さんが、声を掛けられた門番に着いて屋敷の中へ入って行くと、溶けたアイスキャンディーのような顔をしたお侍が待っておりました。


平左衛門 「おい、屑屋!」

鳩兵衛 「へい!」

平左衛門 「そこの隅に屑が積んであるから、それを持って行ってくれ」

鳩兵衛 「へい!ありがとうございます!」


そして、鳩兵衛さんが屑の重さを秤(はかり)で量っていると、その様子を見ていた主人が、突然、大きな声を出しました。


平左衛門 「おい、屑屋!そのカゴに入っているものは何だ!」

鳩兵衛 「へい、これは仏像でございます」

平左衛門 「それは分かっておる!わしが聞いておるのは、何故お前が、こんな高価な仏像を持っているのかということじゃ!」

鳩兵衛 「へい、これは、今朝がた、海辺の村長(むらおさ)様に頼まれまして、二百文で買い取ったのでございます」

平左衛門 「なにぃ?二百文だと?これはどう見ても倍の四百文の価値はあるぞ!」

鳩兵衛 「そうなんですか?」

平左衛門 「わしを誰だと思っておる!わしは江戸幕府の老中、平野平左衛門だぞ!わしの目に狂いはない!」


老中と言えば、今の内閣官房長官のようなものですから、鳩兵衛さんは驚きました。そして、驚いている鳩兵衛さんをよそに、平左衛門さんは、その仏像を手に取り、上から下まで舐めるように見たのでございます。


平左衛門 「ずいぶん汚れているが、見れば見るほど良い仏像じゃ。おい、屑屋!これは、わしが買い取ろう」

鳩兵衛 「へい、それなら二百文で結構です」

平左衛門 「なにぃ?お前が二百文で買って来たものをわしが二百文で買っては、お前の儲けがないではないか?」

鳩兵衛 「いえいえ、わたしは儲けなどいりません。損さえしなければ構いません」

平左衛門 「何という正直者じゃ。だが、それではわしの立場がないではないか。よし、それではこうしよう。わしは、この仏像に四百文の価値があると見た。しかし、お前はこれを二百文で買って来た。だから、その間をとって三百文でわしが買い取るというのはどうじゃ?」

鳩兵衛 「そ、そんなにいただくことはできません!」

平左衛門 「何を申しておる。わしは四百文の仏像を三百文で買うのだから百文ほど得をする。お前も二百文で買って来た仏像が三百文で売れるのだから百文ほど得をする。これほど良い案はないではないか」

鳩兵衛 「でも旦那様、この仏像は、海辺の村の村長が、村の民たちを助けるために、民たちの気持ち、民意だと言ってわたしに売った大切な品なのです。そのようなもので儲けるなんて、わたしにはとてもできません」

平左衛門 「何が民意じゃ!そんなものは斟酌(しんしゃく)しなければならない理由はない!」

鳩兵衛 「でも、村の民たちが選んだ村長の言葉は、そのまま民の言葉でもあるのですよ」

平左衛門 「貴様!誰に向かって意見しておるのじゃ!」

鳩兵衛 「も、申し訳ございません!」

平左衛門 「ほれ、ここに三百文置くから、お前はこれを持ってとっとと立ち去れ!」

鳩兵衛 「へ、へい!」


鳩兵衛さんは、逃げるようにして平左衛門さんの屋敷をあとにしたのですが、さてさて困ってしまいました。実は、この鳩兵衛さんという屑屋さんは、本当は大変な大金持ちのドラ息子でして、毎月、母上様から千五百両もの大金をもらっていたのです。平左衛門さんの屋敷よりも立派な屋敷に住み、本来なら左ウチワで暮らして行けるほどの資産を持っていたのですが、何ぶんにも苦労したことが一度もないボンボンでして、それを心配した母上様が、社会勉強の一環として屑屋をやらせていたのです。

鳩兵衛さんは、毎朝、立派な屋敷の中で屑屋のボロボロの衣装に着替え、正体が分からないように顔を汚して、町人に見られないように裏口からこっそりと外へ出て、そして日が暮れるまで「くずや~お払い」と言いながら町を回っていたのでございます。そして、この修行をする上で、母上様からひとつだけ約束させられていたのが、「たとえ一文たりとも儲けてはいけない」ということでした。


鳩兵衛 「まいったな‥‥、一文どころか百文も儲けが出てしまうなんて、こんなことが母上に知れたら、毎月の千五百両がもらえなくなってしまう‥‥」


こんなことを考えながら、重い足取りでトボトボと歩いていた鳩兵衛さんの頭の上に、百文の‥‥じゃなくて、100ワットの電球がピカッと光ったのでございます。


鳩兵衛 「そうだ!今から村長の進之助様のところへ戻って、仏像が高く売れたことを伝えて、この百文を差し上げよう!これなら、きっと進之助様も喜んでくださると思うし、わたしは儲けがなくなるのだから、母上から叱られることもなくなる!」


そして、鳩兵衛さんは、足早に海辺の村へ向かったのでございました。


鳩兵衛 「ごめんください!ごめんください!」

進之助 「どなたかな?」

鳩兵衛 「あっ、進之助様!今朝がた仏像を買い取らせていただいた屑屋でございます」

進之助 「おお、今朝がたは世話になったな。どうかなさったか?」

鳩兵衛 「実は、あれからあの仏像が、平左衛門様というお武家様に三百文で売れましたので、儲けの百文をお届けにまいりました」

進之助 「何を言っておる?わしはお前に二百文で売ったのだから、それ以上の値段で売れたのならば、それはお前の取りぶんではないか」

鳩兵衛 「いえいえ、あの仏像は、進之助様が村の民たちのことをお思いになって手放された大切な品でございます。ですから、この百文も村の民たちのためにお使いになるのが道理でございます」

進之助 「お前は本当に正直者じゃな。だが、わしも元は武士。武士が一度二百文で売ったのだから、それ以上は、びた一文たりとも受け取る気はないぞ!」

鳩兵衛 「そんなことおっしゃらずに、どうか、この百文をお納めくださいませ!」

進之助 「いや、受け取らん!」

鳩兵衛 「そこを何とか!」

進之助 「駄目じゃ!絶対に受け取らん!」

鳩兵衛 「この通りですから!」

進之助 「受け取らんと言ったら受け取らん!」

鳩兵衛 「わたしを助けると思って!」

進之助 「わしが百文を受け取ると、どうしてお前が助かるのだ?」

鳩兵衛 「進之助様がこの百文を受け取ってくだされば、わたしには千五百両が‥‥じゃなかった、とにかく、村の民たちのために、どうか受け取ってくださいませ!」

進之助 「そうか、そこまで言うのならば、村の民たちのために、その百文を受け取ろうではないか。これで、また少しずつだが、皆に米を配ってやることができる」

鳩兵衛 「ありがとうございます!ありがとうございます!」


‥‥そんなワケでしてぇ、屑屋というのは世をしのぶ仮の姿、実際は大金持ちのボンボンの鳩兵衛さんにしてみれば、百文なんてハシタ金には興味などございませんが、このハシタ金のせいで千五百両のお小遣いがもらえなくなったら大変でございます。それで、鳩兵衛さんは、必死になって、何とかこのハシタ金を進之助さんに押しつけることに成功したワケでございますが、すべて丸く収まったと安心した鳩兵衛さんが、翌日、気分を一新して屑屋の修行を始めたころ、鳩兵衛さんから三百文で仏像を買った平左衛門さんのほうは、大変なことになっていたのでございます。

お気に入りの仏像を手に入れた平左衛門さんは、さっそく、下男にタライとお湯を用意させ、汚れていた仏像を丁寧に洗い始めました。すると、仏像の底の部分に何重にも貼ってあった和紙が剥がれ、ぽっかりと黒い穴が見えて来ました。不思議に思った平左衛門さんが、その穴を覗こうとすると、そこから黒い煙のようなものが立ち上り、平左衛門さんの目の前に、恐ろしい悪魔が現われたのでございます。白い肌、金色の髪、青い瞳、大きなワシ鼻、尖った耳、大きく裂けた口から覗く二本の鋭い牙、そして、先が矢印のようになったムチのような尻尾と、コウモリのような翼、どう見ても、メイド・イン・ニポンではなさそうでございます。そして、その悪魔は、腰を抜かしている平左衛門さんの前に仁王立ちして、ニヤリと笑いました。


サタン 「我が名はサタン!遥か西の彼方の大国より来たりし悪の王じゃ!この仏像の中に封じられていたのだが、貴様が封印を解いてくれたのか?」

平左衛門 「は、は、はい!」

サタン 「俺様の仕事は人間を殺すことじゃ。封印を解いてくれた礼に、貴様の望む相手を誰でも好きなだけ殺してやるぞ!」

平左衛門 「い、いえ!殺して欲しい相手などおりません!」

サタン 「何を言っておるか!この世のすべての生き物の中で、同族同士で殺し合いをしているのは、貴様ら人間だけではないか!」

平左衛門 「そ、そんなこと言われましても‥‥」

サタン 「まあいい。とにかく、俺様は急に封印が解かれたので慌ててしまい、人間を殺すための鎌を仏像の中に置いて来てしまった。今から取りに行って来るから、俺様が戻って来るまでに、殺して欲しい相手の名前を何人でもよいから考えておけ!」


そう言うと、サタンは、また黒い煙になり、スーッと仏像の穴の中へ消えて行きました。尻餅をついたまま、しばらくポカーンと口を開けていた平左衛門さんは、ハッと我に返り、その仏像を手に取ると、急いでタライのお湯に浮かんでいた和紙の切れ端を寄せ集め、仏像の穴をペタペタと塞いだのでございます。すると、ちょうどその時、表から聞き覚えのある声が近づいて来たのです。


鳩兵衛 「くずや~お払い~くずや~お払い~」

平左衛門 「おい!屑屋!」

鳩兵衛 「ああ、昨日の旦那様ですか」

平左衛門 「お前は、何というものをわしに売りつけたのじゃ!」

鳩兵衛 「へい?」

平左衛門 「この仏像の中にはな、恐ろしい西洋の悪魔が封印されておったんじゃ!」

鳩兵衛 「えっ?」

平左衛門 「わしは、仏像は買ったが、西洋の悪魔など買った覚えはない!」


頭から湯気を立てながらサタンのことを説明した平左衛門さんは、その仏像を鳩兵衛さんの背中のカゴへ放り込んでしまったのでございます。


平左衛門 「こんな恐ろしいものは返すぞ!」

鳩兵衛 「旦那様、それは困ります!中に恐ろしい悪魔が入っている仏像など、もう誰にも売ることはできませんし、かと言って、わたしが持っているのも嫌ですし‥‥」

平左衛門 「それならば、元の持ち主の進之助殿に返せばよいではないか!」

鳩兵衛 「でも、進之助様は、とても真面目なお方でして、昨日、百文を受け取っていただくだけでも、とても苦労したのです。この仏像をお返しするとなると、進之助様はわたしに二百文を返そうとするでしょうが、その二百文は村の民たちに米を買ってしまって残っていないと思います。あの真面目な進之助様が、お金を返さずに仏像だけを受け取るとは思えません」

平左衛門 「しかし、この仏像の中にいる西洋の悪魔は、人殺しが仕事だと言っておった。こんなに危険なものをこの城下町に置いておいたら、多くの町民が犠牲になってしまうだろう。やはり、こんなに危険なものは、海辺の村に押しつけるしかない」

鳩兵衛 「旦那様、それは酷すぎます!」

平左衛門 「それなら、こうしよう。ここにわしの金が百両あるから、これを一緒に持って行ってくれ」

鳩兵衛 「えっ?」

平左衛門 「進之助殿は、仏像の中に悪魔が封印されていたことを知らなかったから、お前に二百文で売ったのだろう。そこで、わしが仏像を洗っていたら、底の和紙が剥がれて、中からこの百両が出て来たことにするのじゃ。そして、わしが、三百文で買った仏像に百両が入っていたなんて、こんなものはとても受け取れません、お返ししますと伝えるのじゃ」

鳩兵衛 「それじゃあ、嫌なものを押しつける代わりに、大金を渡して誤魔化すということではありませんか!村の民たちのことは、どうでもよいのですか!」

平左衛門 「こんな時に村の民のことなど構っていられるか!とにかく、他に方法がないのだから、この仏像と百両を持って海辺の村へ行き、何とか進之助殿を説得してくれ!頼んだぞ!」


そう言うと、平左衛門さんは、さっさと屋敷の中へ引っ込んでしまいました。そして、またまた無理難題を押しつけられてしまい、困り果てた鳩兵衛さんは、仕方なく海辺の村へと向かったのでございます。


鳩兵衛 「ごめんください!ごめんください!」

進之助 「どなたかな?」

鳩兵衛 「あっ、進之助様!わたしです。屑屋の鳩兵衛でございます」

進之助 「またお前か。今度は何だ?」

鳩兵衛 「実はですね、平左衛門さんが仏像を洗ったところ、底の和紙が剥がれて、中から百両が出て来たのです」

進之助 「な、なにぃ!」

鳩兵衛 「それでですね、平左衛門さんは、自分は三百文しか払っていないのに、こんな大金は受け取れないから、仏像と一緒に進之助様にお返しして来いと‥‥」

進之助 「お前は本当に正直者じゃな。だが、わしも元は武士。武士が一度二百文で売り、そのあとに百文ももらったのだから、これ以上は、びた一文たりとも受け取る気はないぞ!」

鳩兵衛 「それ見ろ。言った通リになりやがった‥‥」

進之助 「何か言ったか!」

鳩兵衛 「い、いえ、何も!それよりも、どうか、この百両をお納めくださいませ!」

進之助 「いや、受け取らん!」

鳩兵衛 「そこを何とか!」

進之助 「駄目じゃ!絶対に受け取らん!」

鳩兵衛 「この通りですから!」

進之助 「受け取らんと言ったら受け取らん!」

鳩兵衛 「わたしを助けると思って!」

進之助 「わしが百両と仏像を受け取ると、どうしてお前が助かるのだ?」

鳩兵衛 「進之助様がこの百両と仏像を受け取ってくだされば、わたしどもの住んでいる城下町は安全になり‥‥じゃなかった、とにかく、村の民たちのために、どうか受け取ってくださいませ!」

進之助 「また、村の民たちのために‥‥か」

鳩兵衛 「へい、百両もあれば、村の民たちに腹いっぱい米を食べさせてやれるでしょう!」

進之助 「お前、わしの目が節穴だと思っておるのか?」

鳩兵衛 「えっ?」

進之助 「その百両を受け取ったら、米だけでなく、米軍という西洋の悪魔まで、わしらの村に押しつけるつもりだろう?そんな理不尽なことが通るとでも思っておるのか!民意の重さを知れ!」


‥‥そんなワケでしてぇ、すべてを見透かされていた鳩兵衛さんは、まるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、その場にへたり込んでしまいました。そして、鳩兵衛さんは、西洋の悪魔の入った仏像を背中のカゴに入れたまま、平左衛門さんの屋敷へ戻るワケにもいかず、この海辺の村にとどまるワケにもいかず、何のアテもないまま、ウロウロとさまよい続けたのでございます。たぶん五月ころまで‥‥ってなワケでしてぇ、おアトがよろしいようで‥‥テケテンテンテンテン‥‥なんて感じの今日この頃でございます♪


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