ザ・コレクション・ヴィンタートゥール
今日は、母さんとデートする約束をしてて、母さんもあたしも見たくて見たくてたまらなかった「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」を世田谷美術館に見に行くことにしてた。とにかく、ゴッホ、モネ、ルノワール、ピカソ、ルソー、クレー、ジャコメッティを始めとしたソーソーたる顔ぶれの作品、90点すべてが、ニポン初公開なのだ。本来は、スイスまで行かなきゃ見ることができない名作の数々が、家の近所の世田谷美術館で見られるんだから、こんなチャンスはない。いつもなら「高いなあ」って感じる1300円の入館料も、今回ばかりは安すぎるくらいだ。
だけど、もう1ヶ月以上もお仕事をしてない上に、病院代が掛かり続けてるあたしとしては、食費ですらギリギリまで切り詰めて生活してるんだから、自分の楽しみのためなんかに無駄遣いはできない。でも、久しぶりの母さんとのデートだから、タマにはゼイタクに楽しみたい。それで、あたしは、朝イチでパチンコ屋さんへ行って、少し稼いで来ることにした。母さんと約束してるのはお昼だから、打てる時間は2時間しかないけど、美術館の入館料とお昼ご飯代を2人ぶんだから、5000円もあれば十分だ。ゴージャスに最高級のうなぎを食べるとしても、7000円くらいあれば足りるから、確変を1回引けばOKってワケだ。
で、朝イチでパチンコ屋さんへ行って、海物語の沖縄のシマを見て回ったら、今まで一度も負けたことがない相性バッチリの台がイイ感じだったので、まずはその台で打ち始めた。そしたら、最初の1000円が無くなる前の17回転目に、沖縄の民族衣装を着たマリンちゃん、サム、ワリンちゃんが登場して踊りだして、全回転リーチになって、ジュゴンで当たった!沖縄は数え切れないほど打ってるけど、全回転は2回目だ。結局、4連チャンして、時短でノーマルを引き戻すも昇格しなかったから、次の時短を回して終わりにした。5箱だけど出玉が少なくて6750玉くらいだったから、端数はタバコ用にカードに貯めて、6000玉だけを交換して、21000円になった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、1000円の投資で21000円なので、ピッタリ20000円稼ぐことのできたあたしは、パチンコよりも激アツな気温の中、フラフラと歩いて自宅へ帰った。そして、まだ時間はタップリとあったから、シャワーを浴びて、左手で必死にお化粧して、出かける支度をした。アクティブな母さんは、きっと「自転車で行こう!」って言うと思ったので、あたしは先手を打って電話して、「今、エアコンがよく効く涼しい日産マーチを借りてるから、車で迎えに行くからね」って伝えた。母さんは、電動アシスト付きの自転車だからいいけど、あたしのフェラーリF2004(ママチャリ)じゃ、世田谷美術館までの長い急坂を上れない。それに、こんなに暑いんだから、平坦な道でも自転車なんて漕いでられない。
せっかく、ゴッホやモネやルノワールの名作を見に行くのに、到着したら汗べっちょりなんて最悪だ。だから、駐車場代が掛かっても、今日は車にしようと思った。そしたら、母さんも、意外とすんなりと「オッケー!じゃあ待ってるね!」なんて返事してたから、きっと、この暑さに閉口してたんだと思う。ちなみに、あたしの借りてる日産マーチは、いつもお世話になってる自動車工場がお盆休みなので、その間、タダで貸してもらってる。工場長が、あたしが片手しか使えないのを心配して、パンダを預かってくれて、代わりにオートマのマーチを貸してくれた。
で、あたしは、エアコンの効く涼しいマーチで母さんを迎えに行き、自転車だと30分以上はかかる上に汗だくになる道のりをわずか数分で、涼しく爽やかに世田谷美術館へ到着した。母さんは、10時ころに朝ご飯を食べたって言うし、あたしもそんなにお腹は空いてなかったので、お昼ご飯は後回しにして、先に「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」を見ることにした。駐車場に車を停めてドアを開けると、モワ~ッという熱気とセミの大合唱が出迎えてくれた。世田谷美術館は、広大で緑豊かな「砧(きぬた)公園」の一角に併設されてるから、周りは森みたいな感じなのだ。
美術館までの木陰の道は少し涼しかったけど、木陰を出たら、もう倒れそうなほどの暑さで、今回の展覧会の目玉になってるゴッホの「郵便配達人 ジョセフ・ルーラン」のポスターや看板を眺めながら美術館の入り口に到着したら、熱中症対策なのか、単なるサービスなのか、無料で冷たいお水が飲めるように、2つのタンクと紙コップが用意されてた。展覧会を見に来た人たちは、ほとんど全員がお水を飲んでて、母さんとあたしも、もちろんご馳走になった。とっても美味しかった。
中へ入ると、エアコンが効いてて、生き返った。あたしは一般だから1300円、母さんは65歳以上だから1100円、合計2400円払ってチケットを買い、そのまま先へと進んだ。あたし1人で来たり、母さん1人で来たりもするけど、母さんと一緒に来るのは、4年前に木版画家の吹田文明展を見に来て以来だ。やっぱり、母さんと一緒が何よりも嬉しい。
‥‥そんなワケで、今回の「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」ってのは、「スイス発、知られざるヨーロピアン・モダンの殿堂」っていうサブタイトルがついてるんだけど、スイスのチューリッヒにヴィンタートゥールっていう小さな都市があって、そこの「ヴィンタートゥール美術館」のコレクションを公開するっていう展覧会だ。この美術館には、ヨーロッパ近現代美術の優れたコレクションがマウンテンなんだけど、これまで、数点だけを他へ貸し出すってことはあっても、すべてのコレクションをマトメて貸し出すのは今回が初めてなのだ。
だから、今回、展示されてる、ゴッホ、モネ、ルノワール、ピカソ、ルソー、クレー、ジャコメッティ、ルドン、コロー、ドラクロワ、ピサロ、ドガ、ゴーギャン、ホードラー、ドニ、ユトリロ、ヴァロットン、カンディンスキー、ブラックなどなど、あまりにもワンダホーな大芸術家たちの作品、90点は、すべてがニポン初公開なのだ‥‥って、これは最初にも書いたけど、とにかく、母さんもあたしもワクワクのドキドキだった。そして、最初の展示室、「フランス近代1/ドラクロワから印象派まで」に足を踏み入れると、「おおっ!」、あたしは、最初の1枚目の作品からぶっ飛んだ!写真でしか見たこのがない、ドラクロワの「グレーハウンド犬を伴うアルジェの女」の本物だ!‥‥つーか、こんなにちっちゃかったの? もっと大きな絵かと思ってたのに、週刊誌をひとまわり大きくしたくらいのサイズだった。
だけど、ビックル一気飲みだったのは、どの絵にも柵やロープがなくて、それこそ、絵の5cmのとこまで顔を近づけて見ることができたのだ。ちょっと進むと、今度は、モネの「乗り上げた船、フェカンの干潮」、そして、シスレーの大作、「朝日を浴びるモレ教会」がドドーンと! あたしは、ロープが張られてないことをいいことに、絵の30cmくらいのとこまで顔を近づけて、油絵の具の立体感、ブラシやペンティングナイフによって造形されたカンバス上の陰影をシッカリと瞼に刻みつけた。
まだ、最初の展示室の最初の1列を見ただけなのに、あたしは、もうコーフンの絶頂だった。母さんも、遠くから眺めたり、絵に近づいたりして、1枚の絵にタップリと時間をかけて鑑賞してる。夏休みなので、それなりにお客さんは多かったけど、それでも十分に余裕があったので、気に入った作品のとこでずっと立ち止まってても、後ろからせっつかれることもなく、ゆっくりと鑑賞できた。
で、シスレーの「朝日を浴びるモレ教会」の次は、これまた凄い! ドガのブロンズ像、「立っている馬」だ。サスガに、これは、透明なケースの中に展示してあったけど、ただ単に立ってるだけのように見える馬なのに、近づいてよく見ると、首や脚の筋肉の張り方や、少し上に上げてる尻尾とかが、出走前のサラブレッドの緊張を表現してる。高さが30cmほどの小さめのブロンズ像なのに、もの凄い迫力だ。あたしは、一瞬、「石川喬司先生にプレゼントしたら喜ぶだろうな」って思ってから、ハッ!とした。だって、この「立っている馬」の値段は知らないけど、ドガのブロンズ像と言えば、去年、有名な「踊り子」が、17億円で落札されてるからだ。だから、そこまではしないにしろ、あたしが一生かかっても、トーテー買えるワケがないことは火を見るより明らかだ。
‥‥そんなワケで、90点もある作品をひとつひとつこんな調子で書いてくワケにも行かないので、ザクザクと進んでくけど、この最初の展示室は、反対の面が「フランス近代2/印象派以後の時代」の展示で、ここの目玉は、ポスターにもなってるゴッホの「郵便配達人 ジョセフ・ルーラン」だ。サスガに目玉だから、ちょっと特別な感じに展示されてたけど、それでも、他の作品とおんなじて柵もロープもないから、絵のギリギリまで顔を近づけて、絵の具の立体感を瞼に焼きつけることができた。
ちなみに、この絵のモデルになったジョセフ・ルーランて人は、ゴッホがアルルで暮らしてた時にすごくお世話になった人で、ぜんぶで6作も描かれてる。今回、展示されてる作品は、バックが黄色一色で、胸から上を描いた肖像画だけど、アメリカのボストン美術館にある「郵便配達人 ジョセフ・ルーラン」はイスに座ってる全身が描かれた作品だし、オランダのクレラーミュラー国立美術館にある「郵便配達人 ジョセフ・ルーラン」はバックが花柄になってる変わった作品だ。以前、「ムンク展」を見に行った時には、代表作の「叫び」が、微妙にレイアウトや色が違うものから、ペンだけで描かれたモノクロのものまで、何枚も展示されて驚いたけど、ゴッホの場合も、この「郵便配達人 ジョセフ・ルーラン」しかり、「ひまわり」しかり、おんなじテーマで何作も描かれてるんだね。
で、ゴーギャンやルドンの絵画、ロダンやマイヨールの彫刻など、これでもか!これでもか!の名作に溜め息を連発しながら次の展示室に進むと、3つめのエリア、「ドイツとスイスの近代絵画」に入る。ぜんぶで8つもあるエリアの、まだ3つめってとこがシビレちゃうけど、ここでの最初の作品が、マックス・リーバーマンの「カシーネの競馬」だった。手前に茶色のサラブレッドが2頭、奥に芦毛が1頭、ちょうど障害を飛び越えてるとこなので、障害レースだってことは一目瞭然なんだけど、面白いのはジョッキーのスタイルだ。足にはブーツを履いてるけど、頭にかぶってるのがハンチングなので、ナニゲに「ちい散歩」のノリだった(笑)
そして、コリントやホードラー、ジャコメッティやリギーニなどの大作を鑑賞して行くと、4つめのエリア、「ナビ派から20世紀へ」に入る。ちなみに、「ナビ派」ってのは、「俺たちは天使だ」でアジサンドを食べてた人が、後に他人の家を褒めまくるタイコモチへと成長する派閥ってワケじゃなくて、後期印象派のゴーギャンを師事したポール・セリュジエと、象徴主義のルドンを敬愛してたモーリス・ドニが中心になって、1888年にパリで結成されたグループだ。ヘブライ語で「予言」を意味する「ナビ」を名乗ることで、自分たちの先駆性をアピールした。
あたしは、ドニやボナールの本物を見るのも初めてだったけど、一番印象的だったのは、ヴュイヤールの「室内、夜の効果」っていう作品だった。タンスのある部屋に黒ずくめの女性がいる絵なんだけど、タイトルの通リ、独特の陰影がホラーっぽくて、なんとも言えない不思議な印象を受けた。他にも、マルケ、ユトリロ、ヴラマンクと、この時代の作品は、どこか日本人の感覚にも通じる表現や色づかいが多くて、初めて見るのに懐かしいような気持ちになった。
‥‥そんなワケで、次は「ヴァロットンとスイスの具象絵画」、その次は「20世紀1/表現主義的傾向」、その次は「20世紀2/キュビスムから抽象へ」、その次は「20世紀3/素朴派から新たなリアリズムへ」と続くんだけど、ぜんぶ説明してると長くなりすぎちゃうので、さらにザクザクと行くけど、ボルジョーの「キャバレーの中、二人の老人、眠る人」も素晴らしかったし、ヤウレンスキーの「ルネサンス風の頭部」も素晴らしかったし、ピカソの「海岸の男と女」も素晴らしかったし、ローランスの「目覚め」も素晴らしかったし、ルソーの「赤ん坊のお祝い」も素晴らしかったし、他にも、どれもこれもが素晴らしくて書ききれないほどだ。
特に、ピカソの「海岸の男と女」とルソーの「赤ん坊のお祝い」は、昔から写真で何度も見て来た大好きな作品だったから、本物を見ることができて、ただ感動したっていうだけじゃなくて、ずっと会いたかった人にやっと会えたような気持ちになれた。母さんもルソーが大好きだから、本物の「赤ん坊のお祝い」に大感激して、ずっとずっと見てた。結局、母さんとあたしは、2時間半くらい楽しんでたんだけど、それでも、後半は、疲れて来たので早めに回った。だって、ぜんぶで90点もの作品があるんだから、ひとつの作品を1分間ずつ見たって90分も掛かる。気に入った作品のとこで足を止めて、5分も10分の鑑賞してたら、軽く半日は掛かっちゃう量だ。
だから、これから見に行く人にアドバイスしとくけど、入場したら、まずは最後までザーッと見てく。どんなに好きな作品があっても、どんなに興味を引かれた作品があっても、決して長居はしないで、どんどん進んでく。そして、最後まで行ったら、また最初のとこに戻って来て、今度は、好きな作品、興味を引かれた作品だけをジックリと鑑賞してく。この方式にすれば、時間を有効に使えるし、見落としもなくなる。
で、あまりにも感動しちゃったあたしは、いつもはガマンするんだけど、どうしても図録が欲しくなっちゃって、今回はパチンコで稼いだお金があったので、2200円の図録を買った。これで、あとからも、母さんと一緒に楽しむことができる。それから、母さんが一番気に入ってたルソーの「赤ん坊のお祝い」のポストカードと、その絵の赤ちゃんの顔の「金太郎飴」のセットが400円だったから、母さんに買ってあげた。
駐車場は、最初の2時間までが500円で、そのあと30分ごとに100円なんだけど、あたしは2時間半を超えちゃったので、700円かかった。図録を買ったり、駐車場代を払ったりで、ずいぶんお金を使っちゃったけど、パチンコで稼いだぶんがあったから、まだまだ余裕の優ちゃんだ。それで、あたしは、母さんに何が食べたいか聞いてみたら「何でもいいよ」って言うので、久しぶりに、近くの回転寿司に行くことにした。2人とも、お腹がパンパンになるまで食べたのに、母さんもあたしも好きなのは安いネタばかりなので、3000円でお釣りが来た。
毎日、節約生活を続けてるあたしは、いくらパチンコで稼いだお金とは言え、たくさんお金を使っちゃった今日は、ホントなら後ろ髪を引かれるような気分になるとこだ。だけど、ぜんぜんそんな気分にならなかったのは、一生、見ることができなかったかもしれない素晴らしい作品の数々を間近で鑑賞できたからで、本物の芸術には、お金には換算できない価値があるってことを実感できた1日だった。
‥‥そんなワケで、世田谷美術館の「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール」は、10月11日まで開催してるから、まだまだ時間はタップリある。そして、8月いっぱいは、通常は600円の小中学生が、夏休みってことで特別に無料になってる。だから、小中学生の子供がいるお父さんやお母さんは、このチャンスに、ぜひ見に行ってほしいと思う。何しろ、今回の展示を逃しちゃったら、スイスまで行かないと見られないコレクションだからだ。本物のゴッホ、本物のモネ、本物のルノワール、本物のピカソ、本物のルソー‥‥あまりにも感動的で衝撃的なラインナップだ。絵のことがまったく分からない人でも、入り口で音声ガイダンスのヘッドフォンを借りれば、ひとつひとつの作品の説明を聴きながら鑑賞してくこともできる。詳しくは、こちらの「世田谷美術館」のサイトを見て確認してほしいと思う今日この頃なのだ。
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