脳内しりとりの日々
あたしは、子供のころから、しりとりがヤタラと得意だった。特に、2人だけでやる1対1のしりとりが得意で、負けた記憶がない。もちろん、覚えてないだけで、何度かは負けたこともあるだろうけど、たいていは、相手が負けるか、しりとりが続いてるうちに休み時間が終わって、次の授業が始まっちゃうパターンだった。
しりとりのルールって、たぶん、全国共通で、最後が「ん」で終わる言葉を言ったら負けってことと、誰かが一度言った言葉は使えないってことだけしか明確な決まりはない。あとは、「歩く」とか「赤い」とかの動詞や形容詞はNGで、名詞じゃないとダメとか、「歩く猫」とか「赤いポスト」みたいにしてもダメとか、「ルビー」とかの最後が伸びる言葉の場合には、次の人が「び」から始めるか「い」から始めるか、こうした細かいルールはその場で決める。他にも、人の名前はダメだとか、有名人の名前ならいいけど一般人の名前はダメだとか、こうしたことは、しりとり中にそんな言葉が出てきた時点で、話し合ってルールを追加する。
ま、子供のしりとりなんて、普通は「リンゴ」「ゴリラ」「ラッパ」‥‥みたいなもんだけど、あたしが、2人だけでやる1対1のしりとりが得意だったのにはワケがある。それは、相手にどんな言葉を言わせるかってとこまで考えて、自分の言う言葉を選んでたからだ。3人以上でやるしりとりの場合は、あたしの言った言葉が、どんな言葉になってあたしのとこに戻ってくるのかが予測できない。だけど、2人の場合なら、あたしの言った言葉から相手がつなげた言葉が、そのままダイレクトにあたしに戻ってくる。だから、言葉がいっぱい余ってる序盤は難しいけど、しばらく続いて、思いつく言葉の数が減ってきたら、この技の出番になる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、あたしのしりとりの技だけど、たとえば、あたしが「す」から始まる言葉だった場合に、もしも「スタンプ」って言っちゃうと、相手は「プール」とか「プードル」とか言う確率が高い。そうなると、あたしは「る」になっちゃうので、絶対に「スタンプ」とは言わない。「る」は、しりとりで一番難しいので、できるだけ自分には戻ってこないように操作しといて、相手を追い詰める時に「る攻撃」を繰り出すためだ。で、「スタンプ」の代わりに「スイカ」って言えば、「か」で始まる言葉なんていっぱいあるから、相手はわざわざ「カール」なんて言葉を思いつく前に、短絡的に「カメ」とかって言う。これで、あたしはラクチンに続けられる。
だけど、思いがけずに「る」がくることもあるから、そんな時は、まず、相手も思いつきそうな「る」で始まる言葉、「ルビー」「ルーレット」「ルービックキューブ」「ルパン三世」「るり色」なんてのを言って、どんどん潰してく。こうしておけば、こっちからの「る攻撃」を開始した時に、相手が使える言葉が少なくなってるから、少ない回数で追い込めることができるのだ。そして、普通に思いつく「る」で始まる言葉がだいたい出尽くしたとこで、普通にしりとりを続けてると、偶然に「る」が来たりする。これが、「る攻撃」の開始の合図だ。
あたしに「る」が来たら、間髪いれずに「る返し」をする。風邪薬の「ルル」、決まりごとの「ルール」、美術館の「ルーブル」、これらの言葉で、「る」をそのままお返しする。なんで3つも用意してあるのかって言うと、あたしが「ルル」って言って、もしも相手から「ルール」って返されたら、さらに「ルーブル」を繰り出すためだ。
でも、たいていの相手は、こんな技は知らないから、ここで長考に入る。普通に思いつく「ルビー」「ルーレット」「ルービックキューブ」「ルパン三世」「るり色」なんてのはみんな出尽くしちゃってるから、しばらく考えた末に、何とか「ルアー」なんて言ったりする。そしたら、あたしは、「アール」とか「アンプル」とか「アンサンブル」とかで返す。そして、さらに長考した相手が「流浪」なんて言葉を絞り出したら、あたしは、すかさず「ウール」で返す。それでも相手が必死になって「ルックス」なんて返してきたら、これまた速攻で「スクール」とか「ストール」とか「スツール」で畳み掛けて、相手が最後の力を振り絞って「ルミネ」なんて返してきたら、「ネイル」でトドメを刺す。
‥‥そんなワケで、「る」から始まる言葉は少ないけど、「る」で終わる言葉はマウンテンだ。あいうえおの五十音順に行くと、角度の「アール」、うなぎの「イール」、羊毛の「ウール」、応援する「エール」、ボートを漕ぐ「オール」。「か行」なら、お菓子の「カール」、カクテルの「キール」‥‥あっ!「カクテル」もだ(笑)‥‥で、かっこいい「クール」、青汁の素の「ケール」、呼ぶの「コール」‥‥ってふうに、このパターンだけでもほとんどの五十音から始まる言葉をカバーできちゃう。
ま、「クール」とか「コール」とかは、英語の場合は動詞や形容詞でもナニゲに通用しちゃうって言うズルイ技だけど、そこまでツッコミを入れる相手の場合には、「クール」はタバコの銘柄だって言えばいいし、「コール」は「コールガール」にしちゃえばいい。念のために言っとくと、いくらあたしでも、サスガに小学校の低学年のころには、「イール」だの「クール」だの「コールガール」だのは知らなかった。これらは、中学校や高校になってから、あたしの「しりとりカード」に加えられてったものだ。とにかく、こっちからはいくらでも攻撃できるから、相手が力尽きるのは時間の問題だ。
そして、あたしは、相手も「る攻撃」の技を身につけてた場合に備えて、「ら攻撃」「り攻撃」「れ攻撃」「ろ攻撃」の技も体得してる。だから、2人しりとりなら、ほぼ無敵なのだ。で、小学校の時よりも遥かに多くの言葉を知った中学校や高校になってからは、あたしのしりとりの技にもグッと磨きが掛かってきたんだけど、相手だってそれなりに知ってる言葉の数が多くなってきてたから、「何でもアリ」のルールでやっちゃうと、なかなか勝負がつかなくなった。それで、考え出したのが、少し高度なしりとりだ。
高度なしりとりには、「4音の言葉だけ」とか「5音の言葉だけ」とかってふうに、音数を決めてやるものと、「食べ物の名前だけ」とか「動物の名前だけ」とかってふうに、ジャンルを決めてやるものがあって、一番高度なのは「5音の食べ物の名前だけ」っていう合体ルールだ。だけど、この合体ルールで、あたしと互角に渡り合える人はいなかったから、いつもは「5音の言葉だけ」とか「食べ物の名前だけ」とかで遊んでた。
きっこ 「オムライス」
ヨーコ 「スイカ」
きっこ 「カキフライ」
ヨーコ 「イ‥‥イ‥‥イタ飯!」
きっこ 「イタ飯は食べ物の名前じゃないじゃん!」
ヨーコ 「なんで?食べ物じゃん!」
きっこ 「違うよ!イタ飯ってのは中華料理とかフランス料理って言うのと一緒だから食べ物そのものの名前とは違うよ」
ヨーコ 「そうか‥‥じゃあ、イカリング!」
きっこ 「グ‥‥グ‥‥グミ!」
ヨーコ 「おおっ!サスガだね!ミはミートソース!」
きっこ 「スープスパゲッティ」
ヨーコ 「ティ?イ?」
きっこ 「どっちでもいいよ」
ヨーコ 「じゃあ、ティラミス!」
きっこ 「酢昆布」
ヨーコ 「きっこはグミとか酢昆布とか駄菓子が多いね(笑) 酢なら酢ダコもあったのに」
きっこ 「酢ダコはコで終わるからヨーコに有利じゃん。酢昆布にしてブで終わらせたほうが困るでしょ?(笑)」
ヨーコ 「そこまで考えてんのかよ!まいったね(笑) え~と、ブ‥‥ブ‥‥ブ‥‥ブリ大根!‥‥じゃなくてぇ~~~そうだ!ブリの照り焼き!」
きっこ 「ま、いいか。じゃあ、切干大根じゃなくてぇ~~~キスの天ぷら!(笑)」
ヨーコ 「ラーメン!‥‥ライス!」
きっこ 「ギリギリセーフでいいや(笑) でもまたス?じゃあ今度は酢ダコ」
ヨーコ 「コは、コは、コーンフレーク」
きっこ 「正しくはポテトチップスとおんなじでコーンフレークスだけど、そうするとまたスになっちゃうからそのままでいいや(笑) クは、クジラの竜田揚げ」
ヨーコ 「ゲかよ!ゲ‥‥ゲ‥‥ゲゲゲのゲ~~♪ ゲはゲソ焼き!」
きっこ 「まあいいか。キはキーマカレー」
ヨーコ 「レーズン‥‥パン‥‥じゃなくて、バター!レーズンバター!」
きっこ 「レーズンでンがついて、焦ってパンを付け足したのにンがついて、それでレーズンバター?」
ヨーコ 「堅いこと言わないでよ~~」
きっこ 「バターだけに?」
ヨーコ 「のわっ!」
高校時代のあたしは、多摩川の土手に座って、こんなことをしてたんだから、ホントに時間を無駄にしてたワケだけど、何よりも楽しかったのが、授業中の「絵しりとり」だった。ルーズリーフの紙を1枚取って、横向きにして、左上の端っこに何かの絵を描く。たとえば、猫の絵を描いて、その絵から右に矢印を書く。そして、小さく折って目立たなくして、後ろの席の子にソッと手渡す。すると、その子は、あたしの描いた絵を見て、それが何なのかを判断して、しりとりで絵を描く。だから、あたしの描いた絵が猫だと判断されれば、「ねこ」の「こ」から始まる絵を描くんだけど、他の動物だと判断されたら、おかしなことになってっちゃう。
後ろの席の子は右隣りの子に回して、その子は前の席の子に回して、それで、あたしに戻ってくる。そして、先生に見つからないように、この4人でグルグルと紙を回して、絵のほうも紙の中心に向かって渦巻き状に描かれてって、授業が終わって休み時間になると、4人で答え合わせをする。たいていは、「え~~!なんでこれがプードルなのよ?どう見ても盆栽じゃない!きゃはははは~!」ってことになるから、この答え合わせが楽しいのだ。
‥‥そんなワケで、社会人になってからは、誰かとしりとりをすることなんてメッタになくなったけど、それでも、あたしは、1人でしりとりをしてる。車の運転中とか、お風呂に浸かってる時とか、病院で治療器に掛かってる間とか、「今日は7音の言葉」とかって難しいルールにして、頭の中で、1人で黙々としりとりをしてる。「フィアットパンダ」「ダンスパーティー」「ティンパンアレイ」「泉谷しげる」「ルクセンブルク」「苦情窓口」「ちんちん電車」「シャッターチャンス」「スクール水着」「業務連絡」「クック船長」「運搬会社」「シャンパンファイト」「トーテムポール」「留守番電話」「ワンダーランド」「ドーナツショップ」「プラネタリウム」「無色透明」「イーピン単騎」「きっこの日記」ってワケで、おアトもよろしく決まっちゃった今日この頃なのだ(笑)
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