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2010.10.19

戦友の恋

あんまり知られてないと思うけど、今年、2010年は「国民読書年」だ。これは、今から2年前の2008年6月の国会で、「文字・活字文化振興法の制定・施行5周年にあたる2010年を国民読書年に制定しましょう」ってことで、衆参両院の全会一致で採択されたものだ。ようするに「たくさん本を読んで文字や活字の文化を振興しましょう」ってことなんだけど、2008年6月と言えば、自民党のフクダちゃんが総理大臣の時だ。そして、この決議が採択された3ヶ月後に、フクダちゃんが逆ギレして政権を丸投げしちゃって、そのアトガマになったのが、皆さんご存知の通り、「文字・活字文化振興法」とは正反対の、中学生レベルの漢字の読み書きもできないフロッピー麻生だってんだからシャレにならない(笑)

ま、そんなことよりも、わずか2年前の話なのに、フクダちゃん→フロッピー麻生→ハトポッポ→空缶ちゃんと、もう4人も総理大臣が代わってるってことのほうが重大だ。「みんなで本を読みましょう」なんて決議なら、誰が総理大臣の時に決まったって構わないけど、たとえば、これが「徴兵制度」とかだったらどうだろう? 2年前のフクダちゃんの時に、もしも「2年後の2010年から徴兵制度を導入する」って決議が採択されてたとして、今年から徴兵制が施行されたトタンに大問題が起こったとしたら、現在の総理大臣の空缶ちゃんは「それは政権交代する前に決まったことですし、4人も前の総理大臣の時に決まったことですから、私は関係ありません。文句があるならフクダさんに言ってください」とか言い出しそうだ。

現在の総理大臣の空缶ちゃんにしても、こないだの尖閣諸島の問題で野党から攻撃されたら、「5年後、10年後に、ああ、あの時の判断は正しかったんだ、と分かるはずです」だなんてノンキなことをノタマッてたけど、菅内閣なんて来年の3月までしか持たなそうだし、「5年後、10年後」なんて言ったら、どこの政党が政権与党になってるかも分からない。だいたいからして、来年のことも分からないような不安定な政権が続いてる状況で、「5年後、10年後」の話をするほど無責任なことはないと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、今日は政治のことを書く気はないので、クルリンパと頭に戻っちゃうけど、今年、2010年は「国民読書年」だ。その上、今は毎年恒例の「読書の秋」だから、「国民読書年×読書の秋=とにかくいっぱい本を読もう」ってことになる。だけど、あたしは、好きな作家の本を楽しみながら少しずつ読むのが好きだから、いっぱいは読めない。よく、「毎日1冊読んでます」とか「年間300冊は読んでます」とか、読んでる本の数を自慢する人がいるけど、あたしから見ると「なんだかな~」って感じだ。だって、そんな読み方をしても、ちっとも楽しくなさそうだからだ。まるで「1冊読んだらいくら」っていう内職で本を読んでるみたいだし、まるで自分にハクをつけるために本を読んでるみたいだし、こんな読み方をする人に読まれる本がカワイソウだと思う。

あたしは、好きな作家の本を読み始めると、最初は夢中で読んでるんだけど、3分の1くらい読んだとこで、だんだんページの残りが減るのがもったいなくなってくる。そして、半分を過ぎると、その気持ちが強くなって、まだまだ本を読む時間があっても、「今日はここまでにしとこう」って思って、キリのいいとこまで読んだら栞をして、楽しみを次の日にまわす。そして、毎日、少しずつ、その作家の世界観を味わいながら楽しむ。だけど、いったんは栞をして本を閉じて、ラジオを聴いたりネットをしたりと別のことを始めても、どうしても続きが読みたくなって、「あと10ページだけ」って決めて、また読み始めたりしちゃうことも多い。

こんな感じだから、あたしは、平均的な長さの小説なら、だいたい5日から1週間くらいかけて読む。あまりにも面白すぎて、あまりにも夢中になりすぎて、ガツガツと読んじゃうこともあるけど、それでも最低3日はかける。たとえば、何らかの理由で、明日までに読まなきゃならないとか、そうした特別な事情がある時は別だけど、普通に図書館で借りてきた本の場合は、2週間も借りていられるから、最初は楽しみながら時間をかけて少しずつ読んで、すごく面白かったら、返す前に、もう一度、今度は1日か2日で読む。そして、2回目に読む時は、1回目とは別の視点で、あんまり感情移入しないように気をつけて、客観的に読むようにしてる。そうすると、1回目に読んだ時には気づかなかったモノが見えてくる場合があるからだ。

‥‥そんなワケで、今年は「国民読書年」だし、今は「読書の秋」だから、あたしが最近読んで一番面白かった本を紹介する。去年の12月に発行されたので、もう新刊とは呼べないけど、大島真寿美さんの小説「戦友の恋」だ。あたしは、常に「読みたい本ベスト10」みたいなのが頭の中にあって、この「戦友の恋」もずっと頭の中のリストに入ってたんだけど、もっと優先して読みたい本があったり、図書館で借りようと思った時にちょうど貸し出し中だったりで、延ばし延ばしになってた。それで、最初は「読みたい本ベスト10」の5番目くらいだったのが、その上の本を読み終えたことによって少しずつ順位が上がってきて、とうとう1位になっちゃったので、先週、ようやく図書館で借りてきて読んだ。

で、読み始めてみたら、これが期待以上に面白くて‥‥って、大島真寿美さんの小説なんだから面白いに決まってるけど、そうじゃなくて、前に読んだことのある小説の続き‥‥じゃなくて、スピンオフ‥‥でもなくて、別バージョン‥‥とも違うし、こう言うのって、何て呼んだらいいのかな? とにかく、この小説を初めて読んだ人も、もちろんとっても楽しめるけど、以前の小説、5年くらい前の「ほどける とける」を読んでると、さらに激しく楽しむことができるような作りになってるのだ。

大島真寿美さんの小説「ほどける とける」は、「大和湯」っていう銭湯の孫娘の美和ちゃんが主人公で、美和ちゃんの一人称で書かれてる。美和ちゃんは高校を中退して、いくつかのバイトをやったんだけど長続きせずに、今はおじいちゃんの経営する銭湯の受付をやってる。お酒を飲んだりするし、高校時代の同級生は大学に通ってるから、たぶん20歳とか21歳とかなんだと思う。お父さんとお母さんは別の仕事をしてて、生意気な弟がいる。で、「大和湯」の受付をやりながら、これからの自分の将来を漠然と不安に思ったりしてる。

その「大和湯」に、いつもやってくる佐紀さんていう女性がいるんだけど、あたしと同年代の30代後半で、あたしとおんなじ独身で、あたしとおんなじひとり暮らしで、あたしとおんなじ自由業で、少女マンガの原作者をやってる。そして、あることで美和ちゃんは佐紀さんと仲良くなり、佐紀さんを取り巻く人たちともいろんなことが起こるんだけど、もしかしたら、これから読む人もいるかもしれないので、内容については何も書かないことにする。

とにかく、銭湯の孫娘の美和ちゃんが主人公で、その子を中心としたモロモロのお話ってワケで、メインになってるのが年上の佐紀さんと構築してくヘンテコな友情だ。そして、こんなこと言ったら、大島真寿美さんにも、大島真寿美さんのファンの人たちにも激しく失礼なんだけど、まるで「きっこの日記」を読んでるようなウルトラ一人称の文体が、あまりにも楽しすぎるのだ。読点「、」だけで双方のセリフを区切り、句点「。」のないままズルズルと続いてく独特の文体が、とってもポップなリズム感を生み出してて、知らず知らずのうちに「主人公の脳内」という立ち位置に読み手を立たせ、文章には書かれてない微妙な心象までもが感じられてくる。

文体の面白さで引きつけるだけ引きつけておいて、各章の最後には、幼い子供が飽きたオモチャを投げ出すように、文章をポイッと放り投げる。人気作家の中には、「どうだ!俺の文章表現力は!」と言わんばかりに、凝りに凝った言い回しをクドクドと続けてる人もいるけど、大島真寿美さんの文章には、別れた恋人のことをいつまでもウジウジと考えてるような湿っぽさはミジンもない。必要最小限の言葉だけを丁寧に並べて、あとは読み手の感性に委ねるタイプのエンディングだから、潔くって気持ちがいいのに、何とも言えない余韻が残る。ある意味、俳句的な手法だ。

そして、今回、ようやく読むことができた「戦友の恋」は、「ほどける とける」に登場した少女マンガの原作者の佐紀さんが主人公だ。そして、まったく別のストーリーなんだけど、「ほどける とける」とおんなじ時間軸で書かれてるから、「ほどける とける」と数多くの接点がある。たとえば、この両方の小説には、舞台である「大和湯」の他に、もう1ヶ所、「リズ」っていうライブハウスが重要な場所になってるんだけど、佐紀さんと美和ちゃんが2人で一緒に「リズ」にライブを観に行くクダリがある。そのシーンは、「ほどける とける」では美和ちゃんの視点から、「戦友の恋」では佐紀さんの視点から描かれてる。他の出来事も、こんなふうに、それぞれの視点から描かれてる。

だから、どちらか一方の小説だけを読んでも、文句なしに面白いんだけど、両方を読むと、「ああ、あの時の佐紀さんはこんなふうに美和ちゃんのことを見てたのか!」っていう発見があって、ものすごく楽しくなる。そして、もちろん、他にも個性的な登場人物が何人もいるので、佐紀さんと美和ちゃんとAさんていう3人だったり、佐紀さんと美和ちゃんとBさんとCさんていう4人だったりで起こった出来事の場合には、「ほどける とける」での美和ちゃんからの視点と、「戦友の恋」での佐紀さんからの視点とが、もっと立体的になってきて、「なーるほど!」の連発になる。

‥‥そんなワケで、今回、大島真寿美さんの「戦友の恋」を読み始めたら、前に読んだことがある「ほどける とける」の人たちが次々と登場して、その「ほどける とける」で読んだ記憶のある出来事が別の角度から書かれてたもんだから、あたしは、なんか、すごく懐かしい人たちに再会したみたいな気持ちになった。大島真寿美さんの小説の魅力は、夢中になって読み進められる文体の楽しさと、卓越した心象描写力と、夏の縁側でラムネを飲んだあとみたいな爽やかな読後感だけど、今回は、それに、何とも言えない郷愁みたいな感覚まで味わうみとができた。あまりにも楽しくて、残りのページが減ってくのがもったいなくて、少しずつ大切に味わいながら読んだけど、それでも1週間は持たなくて、5日くらいで読み終えちゃった。だから、今度は、何年か前に読んだ「ほどける とける」を借りてきて、もう一度、読み直してみようと思ってる今日この頃なのだ。


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