未来の北極星
冬なのに夏の星の話でモウシワケナイザーなんだけど、星に興味のない人でも「北斗七星」は知ってると思う。そう、「北斗の拳」のケンシロウの胸の傷とおんなじ7つの星だ。ニポンでは「柄杓(ひしゃく)の形」って言われてるので、この「斗」って字が使われてる。ニポン酒とかの一升瓶は1.8リットルだけど、これを10分の1の180ccにすると「1合(ごう)」になるし、一升瓶を10本集めて18リットルにすると「1斗」になる。だから、例の四角い石油缶のことを「一斗缶」て呼ぶワケだ。
そして、18リットルの「一斗缶」が10個集まって180リットルになると、今度は「1石(こく)」って単位になる。よく、昔の将軍とかが「二万五千石」なんて言ってたりするけど、これは、その将軍の領地で、それだけの量のお米が生産されるって意味だ。だけど、これは、あくまでも領地の面積を表わす使われ方なので、おんなじ「一万石」でも、土地が肥沃で気候も良くて、実際に1万石のお米が採れる領地もあれば、「一万石」とは名ばかりの荒れた領地もあった‥‥って、スタートそうそうダッフンしちゃって涙(なだ)そうそうだけど、こんなふうに、液体やお米を計る単位として、「合」「升」「斗」「石」ってのがあって、この中の「斗」が「柄杓」を表わす言葉としても使われてる。
だから、「北斗七星」ってのは、直訳すれば、「北の柄杓型の七つの星」って意味になる。ま、これは星なんだから見た目の意味でも問題ないけど、「北斗の拳」の意味が「北の柄杓の拳」てのは、なんだかヤタラと弱そうに感じちゃう。さらに言えば、「北斗七星」ってのは、星座じゃなくて、「おおぐま座」の一部分、腰からシッポにかけての7つの星なのだ。だから、ケンシロウの胸に刻まれてる傷は、「柄杓」であるとともに、「熊さんのお尻」ってことになる。もちろん、あの傷は、ケンシロウが自分の意思で彫ったタトゥーとかじゃないので仕方ないけど、胸に「熊さんのお尻」だなんて、ちょっとケンシロウのイメージが変わっちゃうと思う今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、多くの人は小学校で習い、大人になるまでに忘れちゃったと思うけど、北斗七星を柄杓に見立てて、水を汲む部分の先端の2つの星、あれを親指と人差し指で測り、そのまま5つぶん伸ばしてくと、そこにあるのが現在の北極星、「こぐま座」のポラリスだ。英語だと「ポーラースター」なんて呼ばれてるけど、北極星は動かないから、この星を中心にして、「おおぐま座」と「こぐま座」は仲良くクルクルと回ってる。ニポンは北半球にあるから、この様子は1年を通じて観ることができる。
でも、「おおぐま座」と「こぐま座」が熊さんの親子なら微笑ましい光景なんだけど、ここで、毎度オナジミのエロ大王、ゼウスが登場しちゃうんだよね。今まで何度も書いてきたけど、他人の奥さんから恋人から、果ては美少年にまで、カタッパシから手を出しちゃうゼウスは、この時も、女神アルテミスに仕えてた妖精カリストを気に入っちゃって、ソッコーでセックスしちゃった。そして、例によって例のごとく子供ができちゃって、妖精カリストは男の子を産んだ。その子はアルカスって名づけられたんだけど、それがゼウスの奥さんのヘラにバレちゃったのだ。やっぱり、ヘラブナ釣りの針はカエシがないから、バレやすいってことだ(笑)
で、脳天から湯気を立ててカンカンに怒ったヘラは、浮気した自分のダンナのゼウスじゃなくて、浮気相手の妖精カリストのことを逆恨みしちゃう。そして、ヘラは、妖精カリストのことを魔法で熊に変えちゃったのだ。大きな熊に変えられちゃった妖精カリストは、もう息子を抱くこともできなくなり、里にいることもできなくなり、1人で森の中へと消えていった。そして、毎日毎晩、愛する息子のアルカスを思って、悲しみの中、静かに暮らしてた。
それから十数年の月日が流れ、猟師に育てられたアルカスは、立派な青年へと成長した。そして、ある日のこと、アルカスが森を歩いていると、大きな熊と出くわした。まさに「森のくまさん」の歌詞の通りの展開だ。アルカスは腰を抜かすほど驚いたけど、それは、変わり果てた姿の自分の母だったのだ。一方、妖精カリストのほうは、立派な青年に成長してたとは言え、愛する自分の息子を見間違えるワケがない。ひと目でアルカスだと分かり、自分が熊の姿になっていることも忘れ、走り寄って抱きしめようとした。
だけど、アルカスにしてみたら、突然、大きな熊が襲い掛かってきたってことになる。それで、反射的に手に持ってた槍を投げつけちゃった。アルカスの投げた槍は、まるでロンギヌスの槍が第15使徒アラエルを貫いた時のように、大きな熊の体を、いや、自分の母である妖精カリストの体を貫いた。その瞬間、槍を投げたアルカスも、天からの稲妻に切り裂かれて死んでしまい、倒れていた熊の体の上に倒れ込んだ。2人の体は、十数年の時を経て、ようやく触れ合うことができたのだ。
折り重なるように死んでいた2人の姿を見たゼウスは、この親子のことを気の毒に思い、2人を天高くのぼせらて、「おおぐま座」と「こぐま座」にした‥‥って、おいおいおいおいおーーーーーい!ゼウス!「この親子を気の毒に思った」って、テメエが浮気した相手とテメエの子だろが!つーか、テメエのセイで妖精カリストは熊にされて、親子は離れ離れにされた上に、こんな悲しい運命を辿ったんじゃないか!さらに言わせてもらえば、どうせ星座にするんなら、息子のアルカスを小熊にして揃えるんじゃなくて、妖精カリストのほうを元の姿に戻して揃えてやれよ!
‥‥そんなワケで、毎度のことだけど、「ギリシャ神話」のゼウスほどデタラメなオッサンはいないワケで、こんなのが神々の中の神、全知全能の神だってんだからアッチョンブリケだ。ま、ゼウスのデタラメは今に始まったワケじゃないけど、この辺で話をクルリンパと戻して、「こぐま座」のポラリスだ。「こぐま座」は、「おおぐま座」を小さくしたみたいな形なので、「おおぐま座」の北斗七星に対して、小北斗七星とも呼ばれてるんだけど、このポラリスは、小北斗七星の水を汲む柄杓の先端、こぐまのシッポの先に当たる。そして、これが、現在の北極星なのだ。
いろんな星や星座は、季節によって見えるものもあれば、1年を通して見られるものもある。だけど、どれも夜空をグルグルと回ってるから、季節によっても、時間帯によっても、見える方角や位置が変わる。でも、21世紀を生きてる皆さんは、こんなこと言わなくて知ってるように、グルグルと回ってるのは、星座じゃなくて地球のほうだ。電車の窓から景色を見てるのとおんなじで、電車に乗ってる自分には、次々と景色が変わってくように見えるけど、動いてるのは自分のほうなのだ。
だけど、いろんな星や星座が夜空をグルグルと回ってるのに、北極星だけは動かない。どんな季節でも、北極星は北の空のおんなじ場所にある。だから、昔から、果てしない海原を船で航海する人たちも、果てしない砂漠や荒野をラクダや馬で旅する人たちも、みんな北極星を北の目印にしてたのだ。で、地球がグルグルと回ってるのに、どうして北極星が動かないのかって言えば、もちろん、地球の回転に合わせて北極星が猛スピードでブンブンと回ってるワケじゃない。地球は、北極点から南極点までを貫く軸を中心にしてコマみたいに回ってて、この軸を北極点からずーーーーーーっと伸ばした先にあるのが北極星だから、どんなに地球が回っても、北極星の位置は変わらないってワケだ。
でも、これは、あたしたちにとっての話であって、うーんと昔の人たちや、うーんと未来の人たちの場合には、話は違ってくる。最初に「こぐま座」のポラリスのことを「現在の北極星」って書いたけど、この表現からも分かるように、北極星ってのは、長い年月の中で変わってくのだ。たまに北極星のことを星の名前だと思ってる人がいるけど、それは間違いで、北極星ってのは、地球の自転軸の北の延長線上にある星のことを指す言葉だ。だから、今、北の空にある「こぐま座」のポラリスは、あくまでも「現在の北極星」ってことになる。
だけど、地球の自転軸をまっすぐに伸ばした空の1点に、そんなに都合よく星があるワケない。いや、天体望遠鏡を覗けば星は無数にあるんだけど、仮にも北を示す北極星なんだから、最低でも肉眼で見えなきゃ意味がないし、さらに言えば、他の星よりも目立つほど輝いててほしい。で、現在は「こぐま座」のポラリスが北極星と呼ばれてるんだけど、これにしても、厳密に言えば、完璧に北極星の位置にあるワケじゃない。本来の「あるべき位置」から、ビミョ~に0.8度ほどズレた位置にある。だから、ホントは動かないハズの北極星なのに、長い時間、ずっと観測してると、ちっちゃな円を描いて回ってるのだ。
ま、それでも、「あの星のあるほうが北だよ」なんて感じのフラング・ザッパな捉え方なら全然問題ない。そして、この北極星になった星は、少なくとも1000年くらいは動かないから、あたしたち人類の寿命から見れば、1人の人間が生まれた時から死ぬまで、北極星は変わらないってことになる。でも、もっと長い目で見た場合には、やっぱり他の星にバトンタッチしちゃう。これは、ちょっと難しい言葉で「歳差運動」って言うんだけど、地球の自転軸が約2万6000年の周期で少しずつズレてることによって起こる現象だ。ここ、あとでテストに出すから、よく覚えとくようにね(笑)
そして、現在の北極星である「こぐま座」のポラリスは、ずっと昔は、まだ北極星とは呼べない位置にあった。そして、今よりも大きな円で回ってたのだ。だけど、それが、気の遠くなるような年月をかけて、ジョジョに奇妙に北極星の「あるべき位置」へ近づいて行き、今は0.8度ほどズレた位置にあるってワケだ。だから、あたしたちが生きてるうちは無理だけど、これから何百年後には、ほとんど動かないピンポイントの位置になり、それから先は、また長い年月をかけて離れてくってワケだ。
‥‥そんなワケで、現在の北極星である「こぐま座」のポラリスも、いつかは北極星じゃなくなるワケで、次はどうなるのかって言えば、悲しいけど、「北極星に該当する星がない期間」ってことになる。そして、今から2000年以上も先の4100年ころになると、「ケフェウス座」のエライって星が北極星になるから、もしも2000年後も人類が滅びてなくて、この「きっこの日記」がデータベース化されて残ってて、北半球の誰かがこのページを読んだら、北極星に向かって「あんたはエライ!」って褒めてやってほしい。
そして、エライの次は、5900年ころに、おんなじ「ケフェウス座」の別の星、アルフィルクが北極星になり、その次は、7600年ころに、これまたおんなじ「ケフェウス座」の別の星、アルデラミンが北極星になる。つまり、足かけ4000年近くかけて、「ケフェウス座」の3つの星が北極星の役割をバトンタッチしてくのだ。あたしたちが観ることは絶対にできないし、その前に、人類自体が滅亡してる可能性も大きいけど、とにかく、何千年もの未来に起こる夜空の壮大なバトンタッチを想像すると、ちっちゃなことで悩んでることがバカバカしくなってくる。
だけど、星や星座に興味のない人たちにとって、この「ケフェウス座」ってのはマイナーだろう。今、初めて名前を聞いた人もいるんじゃないかと思う。あたしは、天体観測も「ギリシャ神話」も大好きだから、「ケフェウス座」のケフェウスってのはエチオピアの王様で、その奥さんがカシオペアで、娘がアンドロメダで‥‥って、すぐに出てきちゃうし、ここでまたまたエロ大王のゼウスが登場しちゃうんだけど、そんなにダッフンしてらんないから、ゼウスには引っ込んでもらう(笑)
で、「ケフェウス座」を知らなかった人でも、「はくちょう座」なら知ってると思うし、「はくちょう座」のデネブも聞いたことがあると思う。「はくちょう座」のデネブは、「こと座」のベガ、「わし座」のアルタイルとで「夏の大三角」になる星だ。ちなみに、「こと座」のベガってのは「織姫ちゃん」のこと、「わし座」のアルタイルは「彦星くん」のことなので、「夏の大三角」は、「織姫ちゃんと彦星くんの間にデネブ夫人がチョッカイを出した三角関係」って覚えるといい(笑)
そして、「ケフェウス座」の3つの星のバトンタッチが終わり、また気の遠くなるほどの「北極星に該当する星がない期間」が過ぎた10200年ころになると、この「はくちょう座」のデネブが北極星になるのだ。それから、11600年ころに、「はくちょう座」の翼の真ん中のδ(デルタ)星が北極星になる。デネブは尾の先の星なので、1400年をかけて、北極星が白鳥の尾から翼へと移動するってワケだ。そして、それから2000年後の13700年ころには、「こと座」のベガ、つまり「織姫ちゃん」が北極星になる。
今は、夏の風物詩になってる「七夕伝説」の「織姫ちゃん」が、約1万2000年先の未来では、1年中ずっと北の空に輝くようになるのだ。これって、想像しただけで楽しくなるし、1万2000年ていう宇宙的な時間がナニゲに身近に感じられてくる。そう言えば、あたしの大好きな加納朋子さんのデビュー作、「ななつのこ」の中にも、「一万二千年後のヴェガ」っていうお話があって、デパートの屋上のプラネタリウムで、約1万2000年後には「こと座」のベガが北極星になる‥‥っていう説明を聞くクダリが登場する。
‥‥そんなワケで、未来の北極星が別の星に変わるなら、過去の北極星も別の星だったワケで、現在の「こぐま座」のポラリスの前は、今から約3100年前の紀元前1100年ころ、おんなじ「こぐま座」のコカブが北極星だった。現在のポラリスは、こぐまのシッポの先、小さな柄杓で言えば柄の先端だけど、このコカブは反対側の水を汲む部分の角っちょの星だ。だから、今から3000年くらい前の中国に歴史が始まったころの人たちは、おんなじ「こぐま座」でも、現在のポラリスとは別の星のコカブを北極星として見てたってワケだ。
そして、さらに遡ること2000年弱、紀元前2800年ころは、「りゅう座」のトゥバンが北極星だったんだけど、この辺になると、また星座に興味のない人たちには耳馴染みのない星だと思うので、時計の針をシューマッハで巻き戻して、紀元前1万1500年ころまで一気に遡ると、北の夜空に輝いてるのは、ナナナナナント! 「こと座」のベガ、そう、「織姫ちゃん」なのだ!
紀元前1万1500年、今から1万3500年前は、「織姫ちゃん」が北極星だったのだ。そして、今から1万2000年後に、また「織姫ちゃん」が北極星の位置に戻ってくるのだ‥‥ってワケで、1万3500年+1万2000年=2万5500年てことになり、これが、ちょっと前に「あとでテストに出す」って言っといた「歳差運動」、ようするに、「地球の自転軸が約2万6000年の周期で少しずつズレてる」ってことなのだ。
ハレー彗星みたいに、75年ちょいの周期なら、病気や事故などで死なない限り、たいていの人は、一生に一度は見るチャンスが訪れるし、ものすごくラッキーなタイミングで生まれて、平均寿命よりも少し長生きできれば、一生に二度見られる人もいるだろう。でも、サスガに、2万6000年の周期ともなると、おいそれとは見ることができない。デーモン小暮閣下でも難しいと思う。それも、あたしたちの場合、「織姫ちゃん」が北極星だったのは1万3500年前で、次に「織姫ちゃん」が北極星になるのが1万2000年後なんだから、ちょうど真ん中あたりに生まれちゃったってワケだ。
たとえば、今から1万3400年前に生まれてたり、今から1万1900年後に生まれたとすれば、「惜しい!」って言うことができるし、北の夜空を見上げれば、ビミョ~に北極星の位置からズレてる「織姫ちゃん」を見ることができたのだ。でも、ちょうど真ん中あたりに生まれちゃったんだから、あたしの競馬の予想とおんなじで、「カスリもしてない!」ってことになる。ま、それでも、「北極星に該当する星がない期間」に生まれちゃって、一生、北極星を見ることなく人生を終えた人たちと比べたら、たとえ「こぐま座」のシッポの先のポラリスだって、北極星として見られるあたしたちは、ものすごくラッキーなのだ。
だって、あたしたちとおんなじ今の時期に生まれたとしても、それが南半球の国だったとしたら、南極星は見られなかったからだ。北半球で見られる北極星は、今は「こぐま座」のポラリスが担ってくれてるけど、南半球はと言えば、今は残念ながら「南極星に該当する星がない期間」だからだ。もちろん、南極星の「あるべき位置」にも星はある。現在は、「はちぶんぎ座」のσ(シグマ)星があるので、この星を南極星だとする人たちもいるけど、天体望遠鏡を覗かなきゃ見えないような星を南極星とするのは無理がありすぎる。やっぱり、肉眼でハッキリと見えなきゃダメだ。
‥‥そんなワケで、次に南極星が見られるのは?‥‥って言うと、今から約1万2000年後、「りゅうこつ座」のカノープスが南極星になる。カノープスは、もともと「南極老人星」って呼ばれてる星だから、将来的には、名実ともに南極星になれるってワケだ。だから、今から1万2000年後に生まれる人たちは、北半球に生まれれば北極星として「こと座」のベガを見ることができるし、南半球に生まれれば南極星として「りゅうこつ座」のカノープスを見ることができるのだ。だけど、そのためには、あたしたち人類が生き残ってなきゃならない。1万2000年後の地球で、自然に囲まれて豊かな暮らしをしてるあたしたちの子孫が、澄み渡った大気の果てに煌々と輝く北極星や南極星を見上げてるか、それとも、人類が滅びたあとの地球で、放射能に汚染された奇形の植物や昆虫だけが夜空を見上げてるのかは、あたしたちのこれからの生き方に懸かってる。そして、ひとつだけハッキリしてることは、半減期が数万年なんていう高レベルの放射性廃棄物を地層処分すれば、それは、未来への「悪魔のタイムカプセル」になるってことだ。何しろ、1万2000年後に「織姫ちゃん」が北極星になっても、まだ、あたしたちの時代に埋めた地中の放射性物質は、地球上のすべての生物を絶滅させるのに十分な量が残留してるんだから‥‥なんてことを夜空のオリオン座を見上げながら心配してみた今日この頃なのだ。
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