「過程」という「目的」
1月9日、日曜日の夜は、テレビで「釣りバカ日誌20 ファイナル」が放送されるので、あたしは、去年のうちから楽しみにしてた。ただ単に観たいだけなら、DVDを借りてきて観ればいいんだけど、あたしの場合は、どうしてもテレビで放送される「釣りバカ日誌」を観たかったので、ずっと楽しみにしてた。
テレビって、録画して観る以外は、テレビの放送時間に自分のほうを合わせなきゃなんない。インターネットやDVDみたいに、自分の観たいものを観たい時間に楽しむことができない。そして、今は、ほとんど何でもインターネットで観られるようになったから、テレビで観たい番組があったとしても、テレビの放送時間に自分のほうを合わせたり、わざわざ録画したりしないで、インターネットで観る人も増えてきた。
たとえば、あたしが毎週、楽しみに観てる深夜アニメの「テガミバチ REVERSE」にしても、つい、観逃したり録画を忘れたりしても、GyaOで数日遅れで最新話を無料配信してる。さらには、1話から最新話までをマトメて無料配信してるから、好きな時にマトメて観ることができる。もちろん、テレビのほうがインターネットよりも先に放送されるから、1日でも早く観たい人はテレビで観るだろうけど、そこまでこだわってなければ、「毎週何曜日の深夜何時何分から」なんていうメンドクサイヤ人な放送時間に縛られるよりも、自分の好きな時間にアクセスして、好きな回だけを観ることができるGyaOのほうが気楽に楽しむことができる。
だから、あたしは、多くの人たちとおんなじように、ニュース番組やバラエティー番組はテレビで観ることもあるけど、アニメや映画に関しては、インターネットの無料配信で楽しむことのほうが多くなった‥‥って言うと、最初に書いたことと矛盾しちゃうけど、あたしの場合、「男はつらいよ」と「釣りバカ日誌」に関してだけは、どうしてもテレビで放送されるのを観るのが好きな今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、前にもチョコっと書いたことがあるけど、あたしは昭和の人間なので、映画の「男はつらいよ」と「釣りバカ日誌」に対しては、お正月のイメージを持ってる。「男はつらいよ」は、年に2回、冬休みと夏休みに制作されてた時期もあるから、夏を舞台にした作品もたくさんあるし、「釣りバカ日誌」にしても、最初のころはお正月に公開されてたけど、途中からは夏休みの公開に切り替わった。それでも、あたしは、毎年お正月になると、母さんと2人で、必ずどこかのチャンネルで放送する「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」を観て、ゲラゲラ笑ったりホロホロ泣いたりしてきた。だから、今でも、この2つのシリーズには、特別の思いがある。
でも、この2つのシリーズには、大きな違いもある。ま、これは、あたしの個人的なことなんだけど、「男はつらいよ」が、あたしが生まれる前の昭和44年(1969年)からスタートしてるのに対して、「釣りバカ日誌」は、あたしが高校生になってからの昭和63年(1988年)にスタートしてるのだ。それも、当初の「釣りバカ日誌」は、「男はつらいよ」のオマケみたいな位置づけだった。昭和63年の冬休みに封切られた第1作の「釣りバカ日誌」にしても、「男はつらいよ」の第40作、「寅次郎サラダ記念日」との同時上映で、あくまでもメインの映画は「男はつらいよ」のほうだった。
で、このあたりの何作かは、お正月に母さんと渋谷の映画館へ観に行ったりもしたけど、「釣りバカ日誌」が単体で上映されるようになってからは、新作が封切られるたびに、その少し前に、テレビで宣伝がてらに前作を放送するっていう「お約束」が出来上がった。12月の終わりに10作目が封切られる時には、その少し前にテレビで9作目を放送するし、次の年の年末に11作目が封切られる時には、その少し前にテレビで10作目を放送する‥‥ってのが「お約束」になった。
だけど、何年かして、家庭用のDVDプレーヤーが普及してきて、封切られた映画をすぐにDVD化して「劇場とDVDとで二重に儲ける」ってシステムが確立されると、テレビでは、前作じゃなくて、2~3作ほど前の「釣りバカ日誌」が放送されるようになった。だって、前作を1年後にテレビで放送しちゃったら、その前作のDVDが売れなくなっちゃうからだ。
‥‥そんなワケで、あたしは、楽しいことが好きなのは当たり前だけど、その、楽しいことがある日までをワクワクしながら過ごすことも大好きだ。たとえば、小学生の時の遠足や社会科見学、運動会や学芸会なんかは、そのこと自体も楽しいけど、1ヶ月くらい前からの準備や練習、下調べなんかもワクワクして楽しかった。遠足の自由時間に何をするか、班でワイワイと決めたり、「遠足のしおり」を作ったりするのが、とっても楽しかった。楽しいことって時間が過ぎるのが速いから、カンジンの遠足や運動会は、アッと言う間に終わっちゃう。だから、時には、遠足や運動会よりも、それまでの準備期間のほうが楽しかったりもした。
そして、あたしは、大人になってからも、この感覚が続いてる。母さんとどこかへ行こうと計画を立てたら、行き先が温泉でも、美術館でも、スーパー銭湯でも、公園でも、計画を立ててる過程が楽しいし、その日がくるまでが楽しい。もちろん、当日が一番楽しいんだけど、それにしたって、前日までにワクワクした気持ちがどんどん大きくなってきての本番‥‥っていう流れがあるからこそ、より楽しめるってもんだ。あたしが競馬を楽しんでるのも、競馬のレース自体はたった1~2分で終わっちゃうけど、1週間も前からアレコレと予想する過程が楽しいからだ。そして、あたしが、「男はつらいよ」と「釣りバカ日誌」をテレビで観るようにしてるのも、放送日がくるまでのワクワク感を楽しみたいからだ。
今は、過去に封切られた映画で観たい作品があれば、DVDを借りてきて観ることができるし、インターネットで無料配信されてる作品も数多い。あたしは、いつも、GyaOを利用してるけど、クリスマスが近づけばクリスマスにピッタリの映画、お正月にはお正月向けの映画ってふうに、通常の配信とは別に、特別の配信もしてるから、いつでも好きな映画を楽しむことができる。その上、ビデオやDVDになってない昔の作品を配信してることもあるから、いつもチェキするようにしてる。
DVDを借りてきたり、インターネットにアクセスすれば、観たい映画をその場で観ることができる。そして、映画の途中でお酒やおつまみを作りにキッチンへ行く時も、おトイレに行く時も、ポーズボタンを押せば済む。用事を済ませてテレビの前やパソコンの前に戻ってきたら、止めといたとこから続きを観ることができる。ひと昔前には考えられなかった便利さだ。
だから、あたしは、便利なインターネット配信を大いに利用してるんだけど、「男はつらいよ」と「釣りバカ日誌」に関してだけは、放送日までのワクワク感を楽しみたいから、できるだけテレビで観るようにしてきた。そして、この2つのシリーズは、何度観た作品であっても、お酒とおつまみを用意して、ホンワカした気分で楽しむのがあたしのスタイルだから、放送日が近づいてくると、準備期間のワクワク感もアップする。特に「釣りバカ日誌」の場合は、その作品のロケ地に関係したおつまみを用意すると、映画を観ながら旅行気分も味わえる。だから、あたしは、放送日が近づくと、スーパーへ欽ちゃん走りすることになる。
‥‥そんなワケで、今回の「釣りバカ日誌20 ファイナル」は、北海道が舞台なので、あたしは、何か北海道チックなおつまみはないか、スーパーへ行ってみた。もちろん、スーパーに行けば、カニとかホタテとか北海道チックなものはたくさんあるに決まってるけど、今回の予算は100円なので、カニやホタテが買えるワケはない。だけど、イザとなれば、ジャガイモだけ買ってきても、冷蔵庫にイカの塩辛があるから、皮ごと茹でたジャガイモにバッテンの切り込みを入れて、そこにバターとイカの塩辛を乗せてトースターで焼くっていうワザもある。ジャガイモにイカの塩辛にバターだから、産地がどこでも雰囲気は北海道だ(笑)
だけど、天はあたしを見放さなかった。三本杉のとこのサミットに行って、お魚のコーナーを見に行ったら、ナナナナナント! あたしの大好物のホッケのひらきが、1枚100円で並んでたのだ! それも、いつもの100円のホッケよりも大きくて、全長が25cmもある上に、何よりもあたしのハートをワシ掴みしたのが、乱暴な字で書かれた「北海道産」の札だった。北海道産のホッケのひらきをおつまみにしてお酒を飲みながら、北海道が舞台の「釣りバカ日誌」を観るなんて、これほどの贅沢は他にない。それで、あたしは、重なってた下の段のホッケもぜんぶチェキして、一番大きくて身の厚いやつをビニールに入れた。
夕方、去年の残りのダイコンを10cmほど細めの千切りにして、塩もみしてからしばらく放置しておいて、水が出たら水を切り、解凍しといたカニカマを加えてマヨネーズで和えて、冷蔵庫に入れた。これで、食べる間際に、からしを混ぜると、ナニゲに北海道チックな「カニカマとダイコンのサラダ、からしマヨ味」ってワケだ。こんなことでも、単なる食事の支度とは違って、夜9時からの「釣りバカ日誌」に向けての準備だから、とっても楽しくてワクワクした。
夜7時、お風呂を沸かして、登別カルルスを入れて温まった。これにしても、普段のお風呂とは違って、北海道気分を盛り上げとくための準備だから、いつもよりワクワクして楽しかった。そして、8時過ぎからは、リビングのテーブルの上を片づけて、電気ポットをセットして、焼酎、お水、グラス、梅干しを並べた。これで、動かずにして温かいお湯割りが何杯でも飲める。そして、8時半を回ったころ、ヤカンにお湯を沸かして、湯たんぽを用意して、毛布の中にセットした。これで、温かい毛布にくるまることができる。
8時40分、ホッケを焼き始めた。あたしは、ガスコンロの真ん中の魚焼きグリルで焼くのが嫌いで、普通の網で焼かないと気がすまないから、ものすごく寒かったけど、換気扇を回して網で焼いた。最初は皮のほうを遠火でジックリと焼き、身のほうも表面がパリッとするまで遠火で焼く。これが、ホッケのひらきの焼き方のポイントだ。ホッケのひらきは、皮も美味しいから、皮を焦がしたら台無しになっちゃう。そして、何よりも美味しいのが、身のほうをパリッとするまで焼くとできる「骨の上の薄い身」だ。上手に焼くと、骨の上の薄い身が北京ダックの皮みたいになるから、それを骨からテレレレレ~って剥がして食べると、もう、たまんない。
で、あたしは、完璧に焼けたホッケをお皿に乗せて、全体に軽くお醤油をかけてから、お皿の端っこにマヨネーズを出した。チョコっとお醤油をつけたホッケの身に、マヨネーズをつけて食べるのがサイコーなんだよね‥‥ってワケで、すべての準備ができたのが、9時5分前。あたしの計画通りだった。テレビをつけると、「このあと釣りバカ日誌ファイナルです!」っていう告知が流れた。あたしは、さっそく、焼酎お湯割り梅干し入りを作って、ひと足先に飲み始めた。室温は5度もなくて、吐く息は真っ白だけど、湯たんぽを抱いて毛布にくるまってるし、熱いお湯割りを飲んでるから、ぜんぜん寒くない。そして、待ちに待った「釣りバカ日誌20 ファイナル」が始まった。
‥‥そんなワケで、前にも説明したけど、映画「釣りバカ日誌」は、6作目の次に「釣りバカ日誌スペシャル」、10作目の次に「花のお江戸の釣りバカ日誌」っていう番外編が作られてて、この2作を除外して通し番号がつけられてる。だから、「釣りバカ日誌イレブン」が、11作目じゃなくて13作目だなんていうおかしなことになっちゃってるんだけど、こんな流れがあるから、今回の「釣りバカ日誌20 ファイナル」も、「20」と言いつつも22作目なのだ‥‥って、ま、そんなことはともかくとして、高校生の時からずっと観てきた「釣りバカ日誌」が、とうとうファイナルを迎えたワケだ。
ハッキリ言って、ここ数作は、ハマちゃんの釣りバカぶりが描ききれてなかったり、中途半端な人情話が空回りしてたり、ボビー・オロゴンとかが登場してテレビのバラエティー番組みたいになっちゃったりで、イマイチ、満足できる出来じゃない「釣りバカ日誌」が続いてた。そして、その根底にあるのが、スーさんの老化と、ハマちゃんの病気だった。スーさん役の三國連太郎さんは、第1作がスタートした昭和63年の時点で65歳で、現在87歳、1月20日のお誕生日で米寿を迎える。だから、今回のファイナルも、三國連太郎さんの年齢を考えてのことだろうし、ストーリーも「スーさんの引退」を踏まえた内容になってる。
だから、スーさんに関しては仕方ないんだけど、問題なのはハマちゃんのほうだった。ハマちゃん役の西田敏行さんは、2003年に心筋梗塞で倒れて、無事に復帰を果たしたけど、復帰後のハマちゃんは元気がなくなった。もちろん、西田さんのお体を気遣っての演出なんだろうし、無理して、また倒れたりでもしたら大変だから、当然のことだ。あたしは「釣りバカ日誌」のハマちゃんをやってる西田さんが大好きだから、絶対に無理はしてほしくないと思ってた。
だけど、以前と比べて格段におとなしくなった演出を見るにつけ、西田さんのお体のこととか、年齢のこととか、いろんなことを考えるようになってきて、昔みたいにゲラゲラ笑いながら楽しむことができなくなってきた。過酷な釣り船でのシーンも激減したし、ボビー・オロゴンとかのクセのあるタレントを起用して、スーさんとハマちゃんの負担を振り分けたりって、そうしたことばかりが気に掛かるようになってきた。そんなこんなもあって、ここ数年の「釣りバカ日誌」は、心の底から楽しめない流れになってた。
それで、あたしは、「終わり良ければすべて良し」で、今回の「釣りバカ日誌20 ファイナル」さえ良ければ、すべて良しの気持ちで観始めた。そしたら、何の裏ワザも使わない正攻法の作品で、「これぞ釣りバカ日誌」っていう王道で勝負してくれたもんだから、あたしは、今までの全作品の思い出が走馬灯のように蘇ってきて、途中で何度もウルウルしちゃった上に、エンディングでは号泣しちゃった。予想してた何杯も素晴らしいファイナルで、映画でこんなに感動したのは久しぶりだった。
感情を抑えめにした松坂慶子さんとスーさんやハマちゃんのやり取りなんて、小津安二郎監督の作品をホーフツとさせるほどの味わいで、古き良き昭和の映画を感じさせてくれた。そして、そんな味わいを深めてくれたのが、ホッケのひらきと焼酎のお湯割りだった。「本当の映画ファンは劇場で観る」とか「劇場へ足を運ぶ人が減ったからナンタラカンタラ」って言う人も多いけど、あたしは、「男はつらいよ」と「釣りバカ日誌」だけは、テレビの放送を待って、自宅でお酒を飲みながら観るのが、どんなに素晴らしい劇場で観るよりも楽しめるんだから仕方ない。
‥‥そんなワケで、新幹線が開通して、それまでは普通の列車で5時間も6時間も掛かってた距離が、わずか2時間かそこらで行けるようになると、いろんな面で便利になる。仕事でその目的地へ行ってた人は、今までは一泊じゃないと行けなかったのが、新幹線のオカゲで日帰りで行けるようになる。観光やレジャーの人たちも、往復の時間が大幅に短縮できたぶん、たっぷりと遊べるようになるし、今までは3連休じゃないと行けなかったような場所に、週末の2日だけで行けるようになる。世の中は「タイム・イズ・マネー」、お金で時間を買う時代なんだから、1時間でも早く目的地に到着したほうが、限られた時間を有効に使うことができる。
だけど、これって、ホントに真実なんだろうか? 旅行って、目的地に到着してからがすべてなんだろうか? あたしは、そうは思わない。あたしは、目的地までの道中も、旅行の楽しみだと思ってる。電車を乗り継いで、お目当ての駅弁を食べて、車窓を流れる景色を肴にちょっと地酒でも飲んだりして、そんな中で、少しずつ目的地に近づいてくワクワク感を味わうのも、旅行の楽しみのひとつだと思ってる。だから、時間に追われて生きてる気の毒な人たちのために、次から次へと新幹線やリニアモーターカーを走らせるのもいいけど、従来の鉄道もちゃんと残しておいて、利用者に選択させてほしいと思ってる。
借りてくればその場で観られるDVDの映画、乗れば短時間で目的地に到着する新幹線、電子レンジでアッと言う間に出来上がる料理、送信をクリックするだけで相手に届くメール、世の中の「便利」の多くは、「過程」を排除して「目的」を引き寄せたものばかりだけど、「目的」に到達するまでの「過程」にも楽しさや必要性を感じてるあたしから見ると、やっばり、なんだかな~って感じがする。子供のころから大好きで、ずっと大切にしてきた「目的までのワクワク感」が、「便利」と引き換えにゴミ箱へポイポイと捨てられてくみたいで、何だか寂しい気持ちになってくる。
‥‥そんなワケで、去年の暮れに買ってきた「テレビブロス」を見て、年明けの1月9日に「釣りバカ日誌20 ファイナル」が放送されることを知ったあたしは、それから2週間以上もワクワクできたし、映画自体もタップリと楽しむことができた。たとえば、DVDを借りてきて観たとしても、楽しめたことは楽しめたと思うけど、放送日がくるまでのワクワク感は得られなかった。そう考えると、「目的」だけを最優先して、その「過程」を排除することが、人間にとっての最善だとは思えなくなってくる。もちろん、医療や福祉を始めとして、できるだけ早く「目的」に到達したほうがいい分野もあるけど、せめて自分の楽しみの分野に関しては、「目的」だけを追わずに、「過程」を楽しむ心を失わないでほしいと思う。だって、煎じ詰めちゃえば、生まれてきた人間の「目的」は「寿命を迎えて死ぬこと」であって、そこに到達するまでの人生なんて、すべてが「過程」なんだから‥‥なんて思った今日この頃なのだ。
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