« エンジェルを決めるのはキミだ! | トップページ | きっこさんのつぶやき »

2011.02.02

ディラックの海より帰還した女

あたしは、去年の夏ころから体調が悪くなって、いろんな検査を続けてきた。細かいことを言うと、もともとの持病だった婦人科の病気と、新たに発症したっぽい内科の病気があるので、病院は2ヶ所‥‥って言うか、右手の治療もいれると3ヶ所なんだけど、検査に関して言えば、ほとんどが婦人科と内科だ。それで、ここ半年くらいの間に、何度となく、血液検査だの、レントゲンだの、心電図だの、エコー検査だの、胃カメラだのって、いろんな検査を続けてきた。

 

「レントゲンなんて検査のうちに入らないよ」なんて言う人もいるかもしれないけど、一瞬で終わる骨折か何かのレントゲンとは違って、あたしの場合は、前日から断食させられた上に下剤まで飲まされて、それからマックシェイクの失敗作みたいな激マズの造影剤を飲まされて、上島竜兵みたいに回転するとこにハリツケにされて、そのまま逆さ吊りみたいな状態にされてのレントゲンだから、完全に罰ゲーム感覚だった。

 

その上、逆さまにされた時に、安いラブホの部屋着みたいなのの裾がぜんぶまくれて、あたしの下半身は丸出しになった。何とかしたくても、両手が固定されてるから直すことができない。結局、撮影が終わるまで、あたしは下半身を丸出しのまま放置された。あたしの下半身だけのヘアヌードは、隣りの部屋からガラス越しにこっちを見てるレントゲン技師の若い男性の先生と2人の看護婦さんに、10分近くも眺められることとなった。そして、ようやく拷問のようなレントゲン撮影が終わり、看護婦さんが部屋に入ってきて回転ベッドの固定具を外しながら、ポツリと言った。

 

 

「あの~下着は履いてて良かったんですよ」

 

 

おいおいおいおいおーーーーい! さっきお前が「着てるものをぜんぶ脱いでから、これを着てくださいね」って言って、この安いラブホの部屋着みたいなのを手渡しただろが!‥‥って言葉がノドまで出掛かった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?

 

 

‥‥そんなワケで、あたしが何よりも恐怖を感じてたのが、やっぱり胃カメラだった。だって、ふだん歯磨きをしてる時に、間違えて歯ブラシがちょっと奥まで行き過ぎただけでも「オエ~!」ってなっちゃうのに、太いコードのついたカメラを胃まで飲み込むなんて、想像しただけでも「絶対に無理」なことウケアイだからだ。だけど、お医者さまに言われた検査をひとつずつクリアしてかなかったら、あたしの体調不良の原因が分からないんだから、どんなに怖い検査でも、死ぬ気でチャレンジするしかない。

 

前に、あたしは、「楽しい予定があると、その日がくるまでワクワクして過ごすことができる」ってことを書いたけど、当然のことながら、胃カメラはまったくの逆だった。カレンダーにつけられた1週間後の胃カメラの日のマークを見るたびに、もう、嫌で嫌で嫌で嫌でたまらなかった。事前に渡されてた説明書には、「前日の夜8時以降は何も食べないように」とか「水、お茶、紅茶は飲んでもいい」とかっていう注意書きの他に、「どうしても辛い場合は麻酔で眠っている間に検査をすることもできますのでお申し出ください」とかって書かれてて、これだけが、恐怖の海で溺れてるあたしに投げられた唯一の藁(わら)だった。

 

胃カメラの日までの1週間、あたしは、「胃カメラ自体の怖さ」だけじゃなくて、「胃カメラによって大変な病気が見つかる」っていう恐怖にもさいなまれてたから、ずっと気分がドンヨリしてた上に、日野日出志の「蔵六の奇病」をホーフツとさせるような悪夢まで見ちゃったほどだ。そして、いよいよ当日がやってきたワケだけど、あたしは、説明書の通りに前日の夜から何も食べてなかったから、胃カメラをやる前から気持ちが悪くなりかけてた。それで、こんな状態だと絶対に「オエ~!」ってなっちゃうっな‥‥って思いつつ、内視鏡室の隣りの準備室へと連れてかれた。

 

最初、血圧を測られたんだけど、あたしは、これから始まる未知の恐怖にビビリまくってたから、いつもは低血圧のあたしが、ものすごい高血圧になってた(笑)‥‥ってのも折り込みつつ、あたしは、看護婦さんに渡された液体を飲まされて、そのあと、ゼリー状のものも飲まされた。これがノドの感覚を鈍くするための麻酔薬みたいなもので、ゴクンと飲み込まずに、できるだけノドのとこに留めとくようにって言われた。それで、あたしは、必死にノドのとこで留めといたんだけど、苦い上に溶けたプラスチックみたいな違和感のある味だから、胃カメラの前に「オエ~!」ってなりそうになった。

 

でも、この苦いゼリーだけが、今のあたしにとっての蜘蛛(くも)の糸なのだ。あ、芥川龍之介ね。だから、あたしは、マジで死ぬ気でガマンした。そしたら、ジョジョに奇妙に舌が痺れてきて、口の中の感覚がなくなってきた。そこに看護婦さんがやってきて、お水をくれたのでウガイをしてから、いよいよ内視鏡室へ通された。いろんな機械が並んでる中、壁側のベッドに横向きに寝るように言われたので、その通りにした。看護婦さんは、「今、先生がきますから、しばらくお待ちください」って言って、部屋から出てった。あたしは、マウスピースみたいなのをくわえさせられたまま、ひんやりとした硬いベッドで、目をつぶり、口の中の苦味に耐えながら、お医者さまがくるのを待った。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

看護婦さんの声で、ハッと気がつく。あれ?あたし寝ちゃったのかな?ヤバイ、ヤバイ。これから胃カメラなんだから、しっかりしなきゃ‥‥って思ったら、看護婦さんが意外なセリフを言った。

 

 

「意識がハッキリするまで、休んでいてくださいね」

 

 

え?どういうこと?‥‥ってワケで、あたしは、「あの~」って聞いてみた。そしたら、胃カメラはとっくに終わったんだって! マジですか~? あたしは、口から何かを入れられた記憶もなければ、それ以前に、お医者さまの顔を見た記憶もない。お医者さまがくるのを待ってるうちに、ついウトウトしちゃって、数分間だけ寝ちゃったって感覚だ。それなのに、もうすべてが終わってたなんて!

 

‥‥そんなワケで、あたしの胃カメラ初体験は、カンジンの胃カメラの部分の記憶がまったくない。まるでキツネにつままれたみたいな状況で、説明書に書いてあった「どうしても辛い場合は麻酔で眠っている間に検査をすることもできますのでお申し出ください」ってのとおんなじふうなことになっちゃった。だけど、意識がハッキリしてから診察室に行ったら、あたしの胃の中の写真が何枚も並んでて、お医者さまが丁寧に説明してくださった。あたしの胃の中はキレイなピンクで、「何も問題はありません。極めて健康的な胃です」ってことだった。ああ、あたしの胃ぶくろ万歳!胃カメラ万歳!

 

だけど、「五臓六腑」って言葉があるように、胃は、たくさんある臓器の中のひとつなんだし、現にこんなに体調が悪いのは事実なんだから、胃が健康なら、他に悪い部分があるハズだ‥‥ってワケで、あたしは、その後、お腹に冷たいゼリーみたいなのを塗られてエコー検査をしたり、ヌーブラが外れながら心電図をとったり、いろんな検査を続けてきた。そして、とうとう、さらなる未知の世界、MRI検査へと突入することになった。

 

MRIってのは、「Magnetic Resonance Imaging system」の頭文字で、ニポン語で言うと「磁気共鳴画像装置」って言うそうだ。よくテレビとかで見るけど、仰向けに寝たままの状態で、トンネルみたいな中に入ってって、人間の体を輪切りにした画像を撮る装置だ。これは、その名の通り、磁気を使って撮影するから、被曝の危険がない上に、CT(Computed Tomography)で撮影できない部分まで撮影することができる。

 

安全な上に、痛くないし気持ち悪くもない。これなら、ぜんぜん怖くない。怖いのは料金だけだ。それで、病院の受付で聞いてみたら、検査する箇所によって若干の違いはあるけど、通常は3万円前後で、あたしは3割負担の国保だから約1万円くらいだってことが分かった。1万円なら、パチンコで確変を引いて1セット、2箱出せばOKだ。今回も、神田うののダンナのホールに助けてもらえばいい‥‥ってなワケで、あたしは、MRI検査の予約をお願いした。

 

‥‥そんなワケで、胃カメラと違って、MRI検査は、とっても楽しみだった。テレビでしか見たことがないけど、「動く歩道」みたいなベッドに寝かされて、自動的にトンネルの中へ入ってくなんて、なんだか遊園地のアトラクションみたいだからだ。それに、自分の体の輪切りの画像が見られるってことにも、あたしは興味津々天津丼だった。だから、カレンダーにつけられた1週間後のMRIの日のマークを見るたびに、もう、ドキドキワクワクしてた。もちろん、これで大変な病気が発見されたら怖いけど、そのための検査なんだから、痛い思いをせずに病気が発見されるなら、それに越したことはない。

 

そして、検査の日が近づいてきたので、ツイッターに「MRI検査をする」ってことをつぶやいたら、たくさんの人たちが、「とにかく音がうるさい」ってことを教えてくれた。あの機械の中は、ピーピーガーガーとやかましいらしい。だけど、皆さん口をそろえて「うるさい」「やかましい」って言ってるだけで、誰1人として「痛い」とか「苦しい」とかってことは言ってなかったから、あたしの安心しきった気持ちは何も変わらなかった。「痛い」のや「苦しい」のは嫌だけど、音がうるさいのなんて、ぜんぜん苦にならない。特に、あたしの場合は、ふだんからパチンコ屋さんに通って鼓膜を鍛えてるから、騒音には耐性がある。

 

そんなこんなで、あたしは、胃カメラの時とは正反対に、恐怖心はいっさいなく、どっちかって言うと、ワクワクしながらMRI検査の日を迎えた。予約した時間に窓口に行くと、ほとんど俟たずに中へ通されて、簡単な問診と説明のあと、ロッカー室へ案内された。そして、担当の女性から、「金具のついたブラなどはすべて外すこと」「ピアスや指輪などもすべて外すこと」っていう説明を受けた。ようするに、電子レンジとおんなじで、金属を身につけてるとバチバチッてなっちゃうワケだ。だから、心臓にペースメーカーをつけてる人や、動脈瘤を金属クリップで留めてる人、骨折した場所を金属のプレートで留めてる人なんかは、この検査をすることができない。

 

ちなみに、あたしの場合は、体の中に金属はないけど、ボディーピアスを外してくるのを忘れてたから、慌てておトイレに行って外した。このまま検査を受けてたら、大変な場所をヤケドしちゃうとこだった(笑)‥‥ってなワケで、ようやく準備が整ったあたしがロッカー室から出ると、担当の女性にこんなことを聞かれた。

 

 

「あの~、アートメイクやタトゥーはありますか?」

 

 

どんなことなのかって言うと、アートメイクやタトゥーの染料の中には、金属を含有してる種類のものもあるので、場合によっては、ヤケドをしちゃうこともあるそうだ。詳しく言うと、初期のMRIの機器は、強い磁気を使ってたので、すごく危険だったそうだ。でも、最新型の機器は、何分の1かの弱い磁気で検査ができるようになったので、こうした危険は減少されたそうだ。ただ、事故があったらマズイので、念のために質問してるらしい。

 

あたしは、眉だけアートメイクを入れてて、あと、下半身に1ヶ所タトゥーがあるけど、金属を含有してる染料が皮膚ガンのリスクを持ってるって話を聞いてたので、それぞれやってもらう時に、ちゃんと確認してた。だから、ノープラモデルだった。何も気にせずに、海外の安いお店とかでテキトーに施術してたら、眉が燃え上がってたとこだった(笑)

 

‥‥そんなワケで、準備OKになったあたしは、いよいよ検査室に入った。ものものしい扉から中に入ると、ナニゲにSF映画の宇宙船の中みたいで、なんだか現実のことじゃないみたいな気がしてくる。技師のお兄さんから、「時間は15分から20分くらい掛かる」、「機械の中に入るといろんな音がしてやかましいけど、それは故障とかじゃないから心配しなくていい」って説明を受けてから、機械に寝かされた。そして、「体が動かないように固定するけど、どうしても苦しくなったら、これを押してください」って言って、ナースコールみたいなのを右手に握らされた。

 

あたしは、「えっ?苦しくなるの?」って思いつつ、言われた通りに「きをつけ」の姿勢をすると、ピアノの旋律が流れてるヘッドフォンをかぶせられてから、透明のカバーみたいなのを顔にかぶせられたんだけど、この時点で、あたしのワクワクは、恐怖に変わりつつあった。だって、身動きができないように、体を固定されたからだ。体を固定されて、誰かに外してもらわない限り、自分の力じゃ動くことができない状態ってのは、やっぱり怖い。ここにいる人たちが、実は地球人に成りすましてる宇宙人だったりしたら‥‥って思うと、ものすごく怖くなる。

 

だけど、そんなあたしの不安をヨソに、あたしの体は、恐怖のトンネルの中へと、頭からズンズンと入ってった。そして、MRIの中にスッポリと入ったあたしは、「えっ?」って思った。今まで、テレビとかで見てたMRI検査の映像は、どれも「機器に入ってくとこ」か「機器から出てくるとこ」だったから、あたしはテッキリ、この機械がトンネル状になってて、この中をゆっくりと通過してく間に、体を輪切りにした画像を何枚も撮るのかと思ってたのだ。つまり、あたしは、自分のほうがゆっくりと動き続けてると思ってたのだ。

 

でも、実際には、細長い穴の中にスッポリと入ったまま、あたしの体は微動だにしない。それも、そこそこ広くて余裕があるスペースとかじゃなくて、口紅にキャップをするように、万年筆にキャップをするように、刀を鞘(さや)収めるように、人間の体にピッタリの細長い穴なのだ。いや、あたしより遥かに体の大きな人もいるワケだから、実際には、ソートー余裕があるんだと思う。だけど、全身を「きをつけ」の姿勢のまま固定されてる上に、頭もヘッドフォンやカバーみたいなので圧迫されてるから、あたしとしては、あたしの体がギリギリで入れる穴の中に、無理やりに押し込まれてるみたいな感覚なのだ。

 

 

ピーピー‥‥ピーピー‥‥ゴゴゴゴゴゴ‥‥ドゴンドゴン‥‥ピーピー‥‥ピーピー‥‥ガガガガガ‥‥

 

 

ウワサの通り、いろんな音が聞こえてきて、ヘッドフォンから流れてるピアノの音なんかほとんど意味をなさない。大きな音がしてる間は、ピアノの音なんか掻き消されちゃう。だけど、あたしは、こんな音のことなんか、どうでもよかった。そんなことよりも、検査が始まってからジョジョに奇妙に大きくなってきた不安感、ここから出られなくなったらどうしようっていう恐怖感、そっちのほうが問題だった。あたしは、病的ってほどじゃないけど、閉所恐怖症っぽいとこがある。閉所恐怖症って言うか、狭いとこに閉じ込められることが怖いのだ。

 

よく、鍾乳洞とかを探検する映像で、すごく奥の岩と岩の間の狭いとこに体を押し込んで進んでくシーンとかを見てると、ゾッとすることがある。もしも、ここに体が挟まったまま動けなくなったら‥‥そんな状態の時に地震が起こったら‥‥足元の水嵩が増してきたら‥‥って思って、とてつもなく怖くなってくる。あたしは、狭い場所に閉じ込められること、そして、呼吸ができなくなることが怖いのだ。そして、今、自分が置かれてる状況が、まさに、狭い場所に閉じ込められたまま、身動きひとつ取れない状態なワケで、そんなことアリエナイザーなのに、「このまま機械が故障して何時間も閉じ込められたままになったらどうしよう?」とかって考え始めちゃった。

 

だから、物理的には、痛くもないし苦しくもないし気持ち悪くもならないMRI検査なのに、あたしみたいに閉所恐怖症っぽい感覚の人にとっては、もはや拷問みたいなもんだった。どれくらいの時間が経過してるのか、あとどれくらいで終わるのか分からない恐怖で、あたしの時間の感覚は完全に麻痺しちゃって、1時間くらい苦しんでたような気がする。途中で何度も叫び声をあげたくなったし、右手のボタンを押そうと思った。だけど、それをガマンできたのは、「もしも、やり直しになって、2倍の2万円になったら払えなくなる」っていう金銭的な恐怖のほうが大きかったからだ。こんなことを言うと、たいしたことじゃないように思われるけど、あたし的には、決して大ゲサじゃなくて、正直、発狂寸前だった。精神的な苦痛のレベルとしては、胃カメラを1としたら、MRIは100を超える。

 

‥‥そんなワケで、MRIってのは、一度に1ヶ所しか検査することができないそうだ。だから、あたしの場合、今回の検査で悪い部分が見つからなければ、今度は検査する場所を変えて再チャレンジしなきゃならない可能性もある。そして、それでも見つからなければ、3回目、4回目、5回目‥‥ってことになるワケで、想像しただけで恐ろしくなってくる。最初は、エヴァンゲリオンみたいで楽しそうだな~って思ってたMRIなのに、実際に体験してみたら、そんなに甘いもんじゃないってことが分かった。そして、MRIですらこんなに怖いんだから、エントリープラグに乗り込んでLCL溶液に満たされるだけでも死ぬほど怖いだろうし、その上、レリエルに飲み込まれてディラックの海に閉じ込められたら、あたしなんて完全に発狂しちゃうだろうな‥‥って思った今日この頃なのだ。

 

 

★ 今日も最後まで読んでくれてありがとう!
★ よかったら応援のクリックをポチッとお願いしま~す♪
  ↓


 

|

« エンジェルを決めるのはキミだ! | トップページ | きっこさんのつぶやき »