「ヤシマ作戦」と「ウエシマ作戦」
シゲル 「目標内部に、高エネルギー反応!」
ミサト 「なんですって!?」
シゲル 「円周部を加速!収束していきます!」
リツコ 「まさかっ!」
‥‥ってなワケで、「新世紀エヴァンゲリオン」の第六話「決戦、第3新東京市」に登場した第5使徒ラミエルは、ジャイアンツのラミレスよりも手ごわくて、一定の距離内に入ってきた外敵を荷粒子砲で攻撃して排除する上に、強力なATフィールドも展開してて、ミサトいわく「攻守ともにほぼパーペキ、まさに空中要塞ね」ってほどの強敵だった。そして、エヴァンゲリオンによる接近戦が無理だってことになり、離れた場所からポジトロンライフルで攻撃することになったんだけど、通常のポジトロンライフルじゃ歯が立たない。そこで、ミサトが立てた作戦は、戦自研(戦略自衛隊研究所)からプロトタイプのポジトロンライフルを借りてきて、それで使徒を撃ち抜くってものだった。
マコト 「しかし、ATフィールドをも貫くエネルギー算出量は、最低1億8000万キロワット、それだけの大電力をどこから集めてくるんですか?」
ミサト 「決まってるじゃない、日本中よ!」
‥‥ってなワケで、テレビの臨時ニュースなどでニポン全国に「本日午後11時30分より明日未明にかけて全国で大規模な停電があります。皆様のご協力をよろしくお願いいたします」っていう広報が繰り返された。シンジは初号機でプロトタイプのポジトロンライフルを構え、時間になるとニポン中の電気が次々と消えていった。そして、全国から集められた電力が太いコードでライフルへと供給された。
ミサト 「シンジ君、日本中のエネルギー、あなたに預けるわ。頑張ってね!」
シンジ 「はいっ!」
‥‥って感じの今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、1発目はミスっちゃうけど、レイの零号機が盾でかばってくれてる間に2発目の電力を供給して、何とか使徒を殲滅することに成功する。これが有名な「ヤシマ作戦」だ。パチンコだと、シンジが1発目をミスして、レイもやられちゃったとこにアスカが弐号機で助けにきて勝利!‥‥っていうワンダホーな演出もあるんだけど、テレビアニメだとアスカが登場するのは第八話「アスカ、来日」で、この第六話「決戦、第3新東京市」の時点では登場してない。だから、パチンコの演出は、実際には時系列的にアリエナイザーな、パチンコファンだけが楽しめるスペシャルバージョンなのだ。ま、パチンコのエヴァンゲリオンには、4号機に乗ったカヲル君とシンジの初号機が戦うリーチとか、他にもいっぱいスペシャルバージョンの映像が満載なんだけど、この「ヤシマ作戦」の場合は、どんな結果になるか分かっちゃうセグのランプを手で隠して楽しむのがお約束だ。
で、この「ヤシマ作戦」てのは、「平家物語」とかでもオナジミの「屋島の戦い」からのネーミングなんだけど、「ヤシマ作戦」の話題が出るたびに、重箱の隅をつつくのが好きな人たちは、得意満面になって「東日本と西日本では電力の周波数が違うんだから日本中の電力を集めて使うことはできない」って言う。そして、「おんなじ周波数に変換すればいいじゃん」て言うと、さらにドヤ顔になって「日本には周波数の変換変電所は3ヶ所しかなくて、容量は100万キロワットしかないから何千万キロワットも同時に変換することはできない」って言う。そこで、あたしは、ポジトロンライフルならぬマシンガンのような早口で一気にまくし立てる。
「それは現実のニポンの話だろ?現実世界の地球では2000年にセカンドインパクトが起こらなかったんだから、その時点で、すでに現実のニポンとエヴァの世界のニポンとは『別の世界』だってことがハッキリしてんじゃん。エヴァは架空のアニメの話なんだから、ニポン全国の電力の周波数が統一されてるって設定かもしれないし、東と西とで周波数が違ってたとしても変換変電所がいっぱいあるって設定かもしれないじゃん。つーか、そんなとこにツッコミを入れるくらいなら、ミサトが乗ってるアルピーヌ・ルノーA310が左ハンドルだったり右ハンドルだったりすることに多くの人たちがツッコミを入れたら、制作サイドが素直に描き間違いを認めずに『ミサトは電動機駆動の右ハンドルに改造したものとオリジナルの左ハンドルの2台を所有してる』なんていう小学生も脱力しちゃうような苦しいイイワケを炸裂させたことにこそツッコミを入れろよ。ホントに最初から『2台を所有してる』って設定なら、視聴者からツッコミを入れられないようにボディーカラーを別々にしとくのが普通だろ?2台ともおんなじブルーのボディーカラーなのに、ハンドルだけが違うからみんながツッコミを入れたんじゃん。たとえば、ミサトがブルーって色にコダワリがある、って言うような背景でもあれば『2台ともブルー』って設定も理解できるけど、全編を観てもそんな描写はひとつもないし、髪の色はムラサキだし、ミサトがブルーって色に特別な思い入れなんかないことは明白だ。さらに言えば、ガソリン車を電動機駆動に改造するのは分かるけど、それをわざわざ右ハンドルに改造する意図がまったく分からない。右ハンドルしか運転できないんならともかく、ミサトはオリジナルの左ハンドルも所有してるんだから、わざわざ大変な思いをしてまで右ハンドルに改造する意味がない。つーか、ミサトの車のことなんかどうでもいいけど、まずは根本的な問題として『エヴァンゲリオンなんて今の人間の科学で作れるワケがない』って部分にツッコミを入れろよ。エヴァや使徒の存在を肯定した上で電力の周波数なんかにツッコミを入れるなんて、単なる幼稚な揚げ足取りじゃん。エヴァンゲリオンの世界観をすべて肯定した上で電力の周波数だけにツッコミを入れるなんて、『ドラゴンボール』で悟空が空を飛ぶことも巨大な猿に変身することも手のひらから『かめはめ波』を出すこともすべて認めた上で、仙豆をひとつぶ食べただけで体力が回復することだけを『非科学的だ』って言ってんのと一緒じゃん」
これで、たいていのヘリクツ君は静かになる‥‥ってなワケで、今回の震災では、とにかく電力が不足してるってことで、東ニポンでは「計画停電」が始まった。そして、停電区域じゃない人たちも自発的に節電しようって空気になったんだけど、「節約」とか「節電」とかってのは暗くて貧乏くさいイメージがある。あたしは、ふだんから節約生活を続けてるから何とも思わないんだけど、中には「節約」とか「節電」とかを「カッコ悪い」って思ってる人もいるそうだ。
そんな時に、ツイッターで流れてきたのが、この「ヤシマ作戦」だった。みんなで節電することを「ヤシマ作戦」て名づけただけで、節電することに連帯感が生まれて、ナニゲに「カッコイイこと」に感じられるようになった。こういうことをすると、すぐに「不謹慎だ!」って言う人もいるけど、あたしは、そうは思わない。それは、あたし自身が、日々の節約生活を楽しんできたからだ。食べたいものをガマンして、欲しいものもガマンして、ギリギリのお金で生活することは苦しいけど、「嫌だ」とか「つらい」とか思ってたら続けられない。だから、あたしは、お散歩がてらに多摩川の土手に行って、俳句を詠みながらヨモギやノビルやツクシを摘んで、楽しみながらタダの食材をGET MY LOVE!したりしてきた。他にも、楽しみながら、いろんな工夫をしてきた。
これとおんなじで、単なる「節電」も、それに「ヤシマ作戦」て名づけて、名前も顔も知らないネット上の人たちとみんなで一緒に始めれば、何だか楽しくなってくる。楽しければ長続きするし、何よりも精神衛生上もマイナスにならない。受験勉強から会社の残業まで、イヤなことをイヤイヤやっててもなかなかハカドラナイけど、どんなことでも楽しみながらやれば効率も良くなる。あたしは、これがすべての基本だと思ってる。そして、あたしとおんなじ感性の人が多かったみたいで、この「ヤシマ作戦」はどんどん広がってった。最終的にはどこまで広がったのか分からないけど、新聞やテレビでも取り上げられるほどになった。
‥‥そんなワケで、まだ、あたしが東京にいた16日のこと、いつものスーパーに行ったら、パンもインスタントラーメンもみんな買い占められてて、どの棚もカラッポになってた。それで、あたしは、ちょっと遠いスーパーに行ったんだけど、そこもカラッポで、結局、5軒目のスーパーで、カラッポの棚のハシッコにマルタイの棒ラーメンを見つけて、残ってた5つをぜんぶカゴに入れた。この時は、まだ東京にいるつもりだったから、少しでも食料が欲しかったからだ。
だけど、あたしが残ってた棒ラーメンをぜんぶカゴに入れた瞬間、後ろで「ああっ」って声がした。振り向くと、おばあちゃんが残念そうな顔をしてた。それで、どうしたのか聞いてみると、そのおばあちゃんも非常用の食料を探して、商店やスーパーを回ってたって言うから、あたしは、カゴに入れた5つの棒ラーメンのうち、3つをおばあちゃんに譲った。そして、お家に帰ってきてから、このことをツイッターでつぶやいた。
「きっこさんのつぶやき」
5軒目のスーパーで、ようやくマルタイの棒ラーメンを5つ発見。1袋2食入りで125円は高いけど、他に何もないから5つカゴに入れたら、あたしの後ろにいたおばあちゃんが「ああっ」って言った。仕方ないからおばあちゃんに3つ譲った。
3:09 PM Mar 16th webから
念のために言っとくけど、これは決して「あたしってイイ人でしょ?」っていうアピールじゃなくて、「都内のスーパーで買い占めが横行してる」ってことが報道されてたから、その現状報告の意味でつぶやいたものだ。だけど、このつぶやきをしたら、すぐにこんなコメントが届いた。
「おおっ!ウエシマ作戦ですね!」
あたしは、この意味が分からなくて、その場で「ウエシマ作戦」を検索して調べてみた。そしたら、クルリンパでオナジミのダチョウ倶楽部の上島竜兵さんのことだった。何か嫌なことをさせられそうになった竜兵さんが渋り、リーダーの肥後さんとジモンさんが「それなら俺が」と手をあげ、とたんにそのことが美味しく思えた竜兵さんが「俺がやるよ」と手をあげると、肥後さんとジモンさんが「どうぞ、どうぞ」っていうお約束のギャグだ。つまり、自分だけが買い占めをせずに、他の人にも商品を譲ろうってことで、これを誰かが「ヤシマ作戦」になぞらえて「ウエシマ作戦」て名づけたのだ。あたしは、「ウエシマ作戦」のことは知らずに、おばあちゃんが気の毒だったから普通に譲っただけだったけど、結果として「ウエシマ作戦」を実行してたってワケだ。
で、こういうことって、すぐに第3弾、第4弾を考え出す人がいるみたいで、「ヤシマ作戦」と「ウエシマ作戦」に続いて、「踊る大捜査線」の「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きているんだ!」ってセリフから、現場を応援する「アオシマ作戦」、原爆の大被害から復興した広島のように東日本の被災地の復興を応援する「ヒロシマ作戦」、風評被害に苦しむ福島県を応援する「フクシマ作戦」、監督時代の長嶋茂雄のように「メークミラクル」を起こそうという「ナガシマ作戦」、サッカーの日本代表のゴールキーパー、川島永嗣選手にちなんだ「ゴールを守る=命を守る」っていう「カワシマ作戦」など、次々と新しい作戦が発動された。
でも、実際に広まったのは「ヤシマ作戦」と「ウエシマ作戦」だけで、他のは単なる語呂合わせ的な側面が強かった。「ヤシマ作戦」の「節電」や「ウエシマ作戦」の「譲り合い」みたいに目的と具体性が明確なら参加しやすいけど、「アオシマ作戦」みたいに「現場を応援しよう」って言われても、「カワシマ作戦」のように「命を守る」って言われても、実際には何をすればいいの分からない。とりあえず、わずかなお金を義援金として送っても、それがどの作戦に当てはまるのかが分からない。
だけど、これらの第3弾、第4弾、第5弾‥‥ってのも、無駄だったワケじゃないと思う。あとから生まれたこうしたネタが、最初の「ヤシマ作戦」や「ウエシマ作戦」を後押しする形になって、面白がって参加する人がさらに増えたんだと思う。ようするに、これらの作戦はそれぞれが独立したものじゃなくて、みんなマトメて「節電」や「譲り合い」などのムードを高める結果になったんだと思う。
‥‥そんなワケで、あたしは、こうした行動に「ヤシマ作戦」とか「ウエシマ作戦」とかって名前をつけて、楽しみながら協力することは素晴らしいことだと思ってる。中には「不謹慎だ!」って言ってる人もいるけど、あたしから見たら「バッカじゃないの?」って感じだ。震災時の協力って、お通夜みたいにしなきゃいけないの? 周りの人たちはみんな「いつも通り」の生活をしてるのに、被災地じゃない地域の人たちまでが、被災地とおんなじようにしなきゃいけないの?‥‥って思う。
あたしは、京都、奈良、神戸、三ノ宮、姫路、岡山、広島‥‥って移動してきて、今はもっと西に疎開してるけど、どの街の人たちもみんな普通に生活してた。高校生くらいの年齢の女の子たちは電車の中で大声で笑い合い、夜の繁華街ではたくさんの人が酔っ払ってドンチャン騒ぎをしてた。若いカップルは駅前の噴水のとこでキスしてたし、ネットカフェではエロ動画に見入ってる人がいたし、飲み屋やカラオケボックスは満員だったし、キャバクラはギンギラにネオンをつけてピンクのハッピを着たお兄さんたちが派手に呼び込みをしてた。みんな、東ニポンのことなんか関係なく、普通に生活してた。
もちろん、西ニポンの人たちの中にも、被災地のことを思っていろいろと行動してる人たちもいるけど、朝から晩まで被災地のために動いてる人なんてメッタにいない。みんな、自分の仕事をして、自分の生活をしてる中で、ほんの少しの時間、被災地のために自分のできることをしてるだけだろう。昼間、被災地へ送る荷物を発送した人が、夜はキャバクラや風俗へ行ってるかもしれない。ようするに、多くの人たちは「いつも通りの生活」をしてるのだ。果たして、これが「不謹慎」なんだろうか?
‥‥そんなワケで、口をひらけば「不謹慎だ!」とか「自粛しろ!」とか言ってる人がいるけど、あたしは、これほどトンチンカンなことはないと思う。震災直後の深夜にテレビ東京がアニメを放送したら批判が相次いだとか、東京ディズニーランドが再開したら批判が相次いだとか、挙句の果てには「今年は花見を自粛しろ!」とか言い出したバカまで出てきたから呆れ返る。だって、「自粛」ってのは自分の意志で行なうものであって、他人から強制されて行なうものじゃないからだ。テレビでアニメを放送することが不謹慎だと思う人は、自分が見なきゃいいだけの話だし、東京ディズニーランドが不謹慎だと思う人は、自分が行かなきゃいいだけの話だろう。「不謹慎だ!」「不謹慎だ!」って騒いでるだけの人よりも、そんな声なんか無視して「ヤシマ作戦」や「ウエシマ作戦」を楽しみながら実行してる人たちのほうが、あたしは、よっぽど世の中の役に立ってると思ってる今日この頃なのだ。
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