お客の主張、お店の主張
「まずいものを食べると幸せを感じる」なんていう特殊な感覚を持ってる人じゃない限り、一般的には、誰でも美味しいものを食べたいだろうし、できれば安いほうがいいと思ってるハズだ。味はもちろんのこと、サービスだっていいほうがいいし、お店だって広くてキレイなほうがいい。だけど、初めての土地へ行く場合、どのお店に入ったらいいのか分からない。特に、何かの名物を食べに行く場合、おんなじ料理を出すお店が何軒も並んでるから、それこそ、どのお店に入ったらいいか迷っちゃう。
ひと昔前なら、ガイドブックを利用するとこだけど、今はインターネットがある。一番有名なのは「食べログ」だと思うけど、現在、全国のお店が65万軒以上も取り上げられてて、277万件以上ものクチコミが書き込まれてる。だから、どこかに旅行して、その土地の名物を食べたいと思ったら、前もって「どのお店の評判がいいか」ってことを簡単に調べることができる。
もちろん、こうした下調べを何もせず、ぶらりと出かけてって、気の向いたお店に入り、そこで味も値段もサービスも雰囲気も大満足できたら言うことなしなんだろうけど、そうそうラッキーなことって起こらない。下調べを何もせずに出かけてみたら、その土地で一番美味しいって評判のお店が定休日だったり、サービス期間が昨日で終わってたりって、ちょっとダッフンしちゃうことのほうが多いのが世の常だ。ま、これは、あたしだけのことかも知れないけど、あたしの場合、展覧会とかにせっかく行ってみたら休館日だった‥‥なんてことがよくあったから、今は、必ず下調べをするようになった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、あたしは、7月に四国の松山に行った時も、8月に九州の小倉に行った時も、母さんと一緒だったから、節約しつつも美味しいものを母さんに食べさせたくて、この「食べログ」のお世話になった。前もって、母さんと一緒に「食べログ」を見て、どこに行こうか相談するのって、遠足の準備みたいで楽しかった。だけど、こうしたクチコミサイトを見て楽しんでいられるのは、あたしみたいな「お客さん」の側の話であって、お店をやってる側にしてみたら、常に戦々恐々としてるだろう。だって、「高くてまずかった」だの「サービスが悪かった」だの「二度と行きたくない」だのって書き込まれちゃったら、それだけで新しいお客さんを逃がしちゃうからだ。
で、今から1ヶ月ほど前の8月5日のこと、この「食べログ」に、次のクチコミが書き込まれた。すでに140件以上も書き込みをしてる50代の男性によるもので、東京は神田錦町の担々麺の専門店、「辣椒漢(らしょうはん)」についての感想だ。
「担々麺専門店とのことで、汁なしの正宗担々麺と汁ありの日式担々麺2種が基本」(点数:2.0)
この店のある本郷通りの美土代町交差点辺りは、元々の「神田」(古神田)に当たる地域である。かんだ山(駿河台)と神田橋の間であることからして、その証明になる。(江戸の大火で集団移転したのが今の神田駅周辺) 今では、すっかりビル街になってしまって、面影は残っていないが。
閑話休題。担々麺の専門店とのこととて、正宗担々麺(汁なし)と日式担々麺(汁あり)の2種類が基本。汁なしの方を食す。100円プラスして、酒粕漬けの味付玉子も。会計950円。食べる前に、よく混ぜるとのことだが、なんとしても辛い。唐辛子ではなく、中国山椒のしびれるような辛さ。おそらくピーナッツも大量に入っているようなのだが、いかんせん、辛さが先にたって、その風味を味わうところには至らなかった。汁ありだと、また別の評価になったのかもしれないので、暫定評価として欲しい。
店内は、カウンター席のみ。オレンジ色の壁は、なんだかカレー屋っぽい印象を受ける。(気のせい?) トイレは、ビル地下1階に店専用のがあるが、一度、ビルの外に出てから入りなおすことになるので、いささか不便かな。
http://r.tabelog.com/tokyo/A1310/A131002/13045967/dtlrvwlst/3078905/
ちゃんと読めば、 これが冷やかしや嫌がらせじゃなくて、極めてマジメな感想だってことが分かると思う。この男性の他店の感想もいくつか読ませていただいたけど、どれもキチンと書かれてて、読む人が参考になるように、いろいろと配慮して書かれてた。だけど、これを読んでブチ切れちゃったのが、このお店の店主だった。このお店の店主は、8月31日付の自分のブログで、このクチコミを書いた男性に対して、まるで「サイボーグ・クロちゃん」のガトリング砲のような一斉掃射を炸裂させた。
「品悪くてすみません!」
常連のお客様、こんにちは!
たまにはバトルしますね!
品悪くてすみません!
今回は言わして頂きます!
食べログで8月5日にアップした人、敵意むき出しだね!
なんで内が星2つなんだよ!普段何食ってんの?あなたそんなにご立派な人なの?何を根拠に言ってんの?ちゃんと四川省まで食いに行った?内に来るお客様の中には、半年で担々麺の有名店30件食べてから来て内が一番とおっしゃっている人もいるというのに根拠を書け根拠を、薄っぺら過ぎるんだよ!こっちも本気でやってんだ、半端な情報流すな!
辛さが全面に出てるような事が書いてあったねー、内のは普通の辛さだっつーの!今度来たら他の店のように砂糖一杯入れてやるよ!まあ来なくてもいいけどね!ちなみに砂糖を入れるのは日本流、覚えておけ!
店内がカレーみたいだって、お前本当にセンスがないね!やっぱり薄い!もっと遊べ!内の色は寒山寺のような中国のお寺やベトナムの恵安をモチーフにしてんの!何がカレーだよ、担々麺も似たような色だろうが!普通のお客様はいい色だと誉めているのに珍しいねあなた!
大体文句ありゃ、直接言えよ!この度胸のねえ小人が!
本当、今の世の中腐ってるよ!日本人の美徳は一体どこに行ったんだよ!進歩発展もいいけど、もっと大事なことがあるだろうに!もっと時間を大切にしろよ!
常連の皆様、御気分を大変害してしまいました、本当に申し訳ございません!
今度も常連のお客様を大事に致すよう努力します!もちろん御新規のお客様もね!
http://lashowhan.exblog.jp/14462803/
あたしには、この店主が、何でこんなに怒ってるんだか分からない。たとえば、ライバル店の評判を落とすために、お客に成りすましたヤカラが、あることないこと書き込んだってんなら、このくらいブチ切れても理解できる。だけど、この感想は、そういう嫌がらせなんかとは違う。それどころか、ある意味、お店にとっての重要なヒントを与えてくれてる。それは、中国の山椒の辛さが苦手なお客のための新メニューの開発だ。
もちろん、山椒の辛さはお店の「売り」のひとつなんだろうけど、山椒の辛さを抑えたマイルドなメニューを開発すれば、今までは辛さが苦手で食べに来られなかった人たちも、それこそ「食べログ」のクチコミを見て、きっと足を運ぶようになると思う。味には定評のある人気店なんだから、マイルドでも十分に魅力のある新メニューを作れると思う。それなのに、ここまでケチョンケチョンに言っちゃあ、ミもフタもない。そして、この店主の怒りを知った男性は、「食べログ」の自分の自己紹介欄に、こんなことを書いた。
「自己紹介」
最近、以前に書いた某店のレビューについて、アクセス数や支持票が異様に増え、どうしたものかと不思議に思っていましたが、店主のブログでとりあげられ、「敵意むき出しの文章」と批判された様子。
私としては、そんなつもりはなく、単に感想を述べたつもりなので、正直、戸惑っています。なにぶん、チキン・ハートなもので。
ですから、「暫定評価」と書きましたが、再訪は諦めました。(追い出されそうなので) 今さら訂正、削除するのも潔くないので、そのままにしておきます。
それにしても、そんなに★2つが気に入らなかったのかなあ? 私の基準点は、★2つなんですけど。
http://u.tabelog.com/000465967/
‥‥そんなワケで、この一連の流れを見て、どう思うか、どう感じるかは人それぞれだろうけど、あたしは、とっても切ない気持ちになった。「3.11」以来、多くの人たちがピリピリしてるみたいで、何だか、すごく危険な空気を感じる。ツイッターでも「いかに相手を不愉快にさせるか」ってことを競ってるみたいな人たちも増殖してきて、広い範囲にギスギスした空気が漂ってるように感じた。まあ、あたしの場合は、西日本に疎開してるから精神的にはずいぶん救われてるけど、もしも東京で、この「食べログ」のやりとりを見てたら、今の何倍も落ち込んだ気分になってたと思う。結局、東電が起こした史上最悪の人災は、空や海や大地だけじゃなく、人の心まで汚染し始めてるんじゃないかと思った今日この頃なのだ‥‥。
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