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2012.09.27

温泉どうでしょう 第二夜(前編)

前回までの「第一夜」は、別府に到着した日の半日の出来事、それも「街の散策」なんていうプロローグ的な内容だったから、今回の「第二夜」からが、ホントの意味での「温泉どうでしょう」のスタートってことになる。で、まずは別府の温泉のことをザックリと説明しとくと、別府には「別府八湯」って呼ばれてる8つの温泉がある。駅前の「手湯」のとこにも、この「別府八湯」の小さな幕が飾ってあるけど、「別府温泉」「鉄輪(かんなわ)温泉」「明礬(みょうばん)温泉」「柴石(しばせき)温泉」「亀川温泉」「浜脇温泉」「堀田温泉」「観海寺(かんかいじ)温泉」が「別府八湯」だ。

だから、温泉マニアの人たちは、湯疲れにも負けず、湯あたりにも負けず、原発再稼働にも負けず、消費税増税にも負けず、オスプレイ配備にも負けず、安倍晋三の再選デキレースにも負けず、スタンプ帳を持って「別府八湯」をまわったりするんだけど、あたしには無理だし、ましてや母さんにそんなことはさせられない。だいたいからして、疲れを取るのが温泉のレーゾンデートルなのに、その温泉で疲れちゃったら本末転倒だ。だから、あたしは、この別府駅の近くで、「ここぞ!」と思った温泉にピンポイントで入ろうと思ってた。

それが、「第一夜」で下見をした「竹瓦(たけがわら)温泉」だ。「竹瓦温泉」は、別府駅から歩いていける距離なので、「別府八湯」で言えば最初の「別府温泉」になり、「駅前高等温泉」ともおんなじグループになる。だから、少しでも多くの種類の温泉に入りたい人は、少し離れた場所にある他の温泉にいったほうがいい。

だけど、あたしの場合は、どうしても「竹瓦温泉」に入りたい理由があった。それは、「竹瓦温泉」には、お湯じゃなくて砂に埋まって体を温める「砂湯」があるからだ。「砂風呂」と言えば、「水曜どうでしょう」の5回目の「サイコロの旅」で大泉洋とミスターが入り、「西日本横断ブログ旅」で早希ちゃんが入った鹿児島県の指宿(いぶすき)が有名だけど、ここ、別府でも、海岸の砂が温泉で温かくなってる場所がたくさんあって、かつては海沿いにたくさんの「砂湯」があったそうだ。

今でも何ヶ所か残ってるんだけど、あたしは、海岸の砂浜に埋まる「砂湯」じゃなくて、この歴史ある建物の「竹瓦温泉」の「砂湯」に母さんを入れてあげたかったし、あたしも入ってみたかった。ただ、いろいろと情報を集めてみると、「竹瓦温泉」は人気がありすぎて、連日、多くのお客がくるため、遅い時間になるとお湯が汚れてきたりするそうなので、行くなら「平日の早い時間」ていうのが温泉マニアの間では常識になってた。そこで、「温泉どうでしょう」の「第二夜」は、朝から「竹瓦温泉」の「砂湯」に浸かりに‥‥じゃなくて、埋まりにいくことになった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、「第一夜」で「竹瓦温泉」に下見に行った時に営業時間を調べてきたんだけど、普通の温泉が朝6時半からで、「砂湯」が朝8時からだった。料金は、普通の温泉が100円で、「砂湯」が1000円だ。それも、普通の温泉はどんなに長く入ってても100円だけど、「砂湯」は10分間で1000円なのだ。これを聞いただけでも、「砂湯」の効能はすごい効き目がありそうな感じだし、母さんに体験してもらえば、きっと寿命が延びて長生きしてくれるハズだ。

で、朝の8時ちょっと前、母さんとあたしは、別府駅前のバス停にいた。「竹瓦温泉」まで、歩いてくと20分くらい掛かるんだけど、バスに乗ると140円でアッと言う間に到着する。100円の温泉に入るのに140円払ってバスに乗るのは考えものだけど、1000円の「砂湯」なら140円のバス賃くらい屁のカッパだ。この辺があたしの金銭感覚の変なとこなんだけど、とにかく、母さんとあたしは、バスに乗って、8時すぎに「竹瓦温泉」に到着した。


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中に入り、右手の受付のおばさんに、「おはようございます。砂湯に入りたいんですけど」って言うと、笑顔で「お2人ですね?」って言って、2人ぶんの2000円を払うと、浴衣を2着と小さな切符みたいな「砂かけ券」を渡してくれた。そして、「呼ばれるまでイスに掛けてお待ちください」って言われたんだけど、あまりにもレトロな待合所&休憩所が素敵すぎるので、母さんとあたしはウロウロと見学してた。

「竹瓦温泉」は、入口を入って右手の手前が男湯、右手の奥が女湯で、左手が「砂湯」になってた。真ん中の柱にはレトロな柱時計が掛かってて、左手の奥には小上がりがあって、畳の上で休憩できるようになってた。


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右手の男湯と女湯の間には、かつて温泉を掘った時の道具や写真などが展示されてて、実際の温泉としてだけじゃなく、博物館的な意味合いでも貴重な施設だってことが分かった。


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左手の「砂湯」は、右が「女湯」、左が「男湯」で、「駅前高等温泉」とおんなじに、半地下に下りたとこに造られてた。


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「砂湯」の入り口の前には、注意書きのパネルがあった。「お酒を飲んでる人」や「高血圧の人」、女性は「生理中の人」や「妊娠中の人」はNGだって書いてあった。この注意書きを見ただけでも「砂湯」の底知れぬパワーがヒシヒシと伝わってきて、母さんとあたしはその場に仁王立ちしたまま武者震いをした(嘘)


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注意書きの隣りには、「砂湯」の入り方の手順を書いたパネルもあった。


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‥‥そんなワケで、5分ほどすると、中から「砂かけおばさん」が声を掛けてくれたので、あたしは「子泣きじじい」はいないのかと辺りを見回してみたんだけど、ここは鳥取県の米子じゃないので、どこにも見当たらなかった。ワクワクしながら中へ入っていくと、脱衣所には大きめのコインロッカーがあって、何段か下りたとこに「あがり湯」の湯船があって、その横の壁にはシャワーがあった。「砂かけおばさん」が、「浴衣に着替えて、タオルと券だけ持って中に入ってください」って指示してくれたので、母さんとあたしは急いで着替えたんだけど、これ、浴衣じゃないじゃん!

受付でも「浴衣」って言われて渡されて、ここでも「浴衣」って言われたけど、たたんであった「浴衣」を広げてみたら、これはどう見ても「裾の長い甚平」だった。ま、そんなこたーどうでもいいんだけど、とにかく、中に入ってビックル一気飲みしちゃったのは、女湯と男湯が広い室内に並んでて、何の壁も柵もなかったのだ!

まあ、裸で入るワケじゃないので、大騒ぎするようなことでもないんだけど、のれんも「女湯」「男湯」って分かれてたし、脱衣所も別々だったので、てっきり中も分かれてると思ったら、ひとつの空間だったから驚いちゃった。ようするに、15メートル四方くらいの砂場が左右に2つ並んでて、向かって右が女湯、左が男湯ってワケで、2人の「砂かけおばさん」が、女湯と男湯の両方を受け持ってるってワケだ。


‥‥そんなワケで、女湯のほうには、2人ぶんの寝る場所が浅く掘ってあって、頭の位置に木のマクラが置いてあった。母さんとあたしは、タオルとコインロッカーの鍵を渡された小さなカゴに入れてから、指示通りに、その場所に仰向けに寝た。砂は濡れてて、すでに背中が温かい。この日は、あたしたちが「一番風呂」だったみたいで、2人の「砂かけおばさん」が、鍬(くわ)みたいなやつで足のほうからザクザクと砂を掛けてくれた。

さすがは、この道ウン十年のプロ、慣れた鍬さばきで砂を掛けてくれて、母さんとあたしはジョジョに奇妙に砂に埋まってく。最後に首の下の左右に砂を押し込んで、砂でマクラを作り、最初の木のマクラを抜き取った。濡れた砂は意外と堅くて、ちゃんとマクラの役目を果たしてる。首の後ろが温まって、すごく気持ちがいい。

だけど、生まれて初めて「砂湯」を体験した感想としては、ハッキリ言わせてもらうけど、何よりも一番に言いたいことは、「砂が重い!」ってことだ。たしかに、全身がポカポカと温まって気持ちがいいし、お湯の温泉とはまったく違う独特の感覚は絶対に体験したほうがいいと思うけど、あたしは、濡れた砂がこんなに重いとは思わなかった。足とかは、砂の重さがマッサージ効果にもなってて、すごく気持ちいいんだけど、問題なのはお腹と胸だ。正直、砂が重たくて息をするのも苦しいくらいだった。

首を横に向けられないから、声だけで母さんに様子を聞くと、母さんはノンキな声で「気持ちいいねえ~」って答えたから、特に苦しくはないみたいだった。「砂が重くて苦しいのって、あたしだけなのかな?」なんて思ってると、しばらくして男湯の脱衣所のほうから男性の声が聞こえてきて、会話の感じや「砂かけおばさん」とのやりとりの感じから、たぶん2人組だと思うんだけど、ガラガラと戸を開けて中に入ってきた。あたしは思いっきり気になったんだけど、首が動かせないから見ることができない。


‥‥そんなワケで、最初は「たった10分間」て思ってたのに、実際に砂に埋められてみると、この10分間は果てしなく長い。その上、自力じゃ脱出できないかもしれないと思うと、検査でMRIに入った時とおんなじ「閉所恐怖症」の雰囲気になってきて、だんだん恐くなってきた。

「どうしても辛くなったら言ってくださいね」って言われてたから、イザとなれば途中で「もう出ま~す!」って言えば済む話なんだけど、「1000円も払ったのに途中で出るのはもったいない」っていうあたし的な金銭感覚がここでも炸裂しちゃって、「重い&恐い」と「もったいない」とのハザマで揺れ動く乙女心‥‥なんてことも言ってみたりして(笑)

そして、「そろそろ限界かな?」って気持ちと、「そろそろ10分たつかな?」って気持ちとか葛藤を始めたころ、母さんがボソッと言った。


「あのさあ‥‥」

「なあに?母さん」

「こうして砂に埋まってるとさ」

「うん」

「なんか、海ガメの気持ちが分かるような気がしてきたよ」


あたしは、一瞬、母さんが何を言ってるのか分からなかったんだけど、海ガメの産卵のシーンが頭に浮かび、その海ガメの顔が母さんの顔に変わったとたんに、ププッと噴き出しちゃった。一度噴き出すと、完全に笑いのスイッチがオンになっちゃって、あたしは笑いが止まらなくなる。だけど、ここで問題なのが、お腹の上の重たい砂だ。

笑うとお腹の上の砂が動き、重さが倍増する。熱いお風呂でもジッとしてれば入ってられるけど、誰かがお湯を掻き混ぜたりしてお湯が動くと、熱さが倍増して耐えられなくなる。アレとおんなじ理屈で、今まではひたすらジッとしてたから砂の重さにもギリギリで耐えられてたのに、笑いが止まらなくなってお腹が上下に動き出したら、砂の重さが倍増した。マジで息ができないくらい苦しいのに、だけども笑いは止まらない。母さん、何で「海ガメ」なんて言うんだよ~!


‥‥そんなワケで、泣きながら笑ってるあたしのとこに「砂かけおばさん」がきて、「時間になりましたよ」って声を掛けてくれた。そして、「最初はヒザを立てて」「次に両手を上げて」「胸とお腹の上の砂を両手で払って」「ゆっくりと体を立てて」‥‥ってふうに、砂からの出方を指示してくれて、その通りにしたら、あれほど重たかった砂なのに、驚くほど簡単に脱出することができた。

無事に脱出した砂まみれの母さんとあたしは、さっきの脱衣所の専用カゴに砂まみれの浴衣を脱いで入れて、シャワーで全身の砂を流した。それから、あがり湯を汲んで体を流して、ようやくホッとした。なんか、全身に巻きついてた昆布をすべて断ち切ったような解放感と、とてつもない大仕事を成し遂げたような達成感とが入り混じり、素直に「やっぱ温泉はお湯のほうがいいな」って思えた。だけど、母さんは、「なんだか全身の疲れが取れて、肩や腰がラクになったよ。ありがとうね」って言ってくれたので、あたしはとっても嬉しかった。

ちなみに、あとから受付のおばさんに聞いて知ったんだけど、この「竹瓦温泉」の「砂湯」は、海岸の「砂湯」みたいに天然じゃなくて、敷きつめた砂に温泉のお湯をタップリと掛けて、それが染み込んだとこでお客さんを呼んで寝かせて砂を掛けるそうだ。だから、天然のよりも水分を含んでるみたいで、そのせいで重かったのかもしれない。

あと、ここの普通の温泉は、男湯と女湯とで泉質が違うそうだ。男湯は「炭酸水素塩化物泉」で、リウマチ、神経痛、胃腸病などに効果があり、女湯は「鉄・炭酸水素塩泉」で、神経痛、婦人病、貧血などに効果があるそうだ。これが100円で入れるんだから、もう、言うことはないほどワンダホーな温泉天国だ。


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‥‥そんなワケで、日本全国には数えきれないほどの温泉があって、お湯の色も成分も様々だから、温泉の種類っていっぱいあるように思えるけど、実際には、大きく分けると11種類しかないそうだ。これは、日本だけの話じゃなくて、世界中で温泉は11種類しかないそうだ。温泉の中には、効能がほとんど期待できない薄い温泉もあれば、人工的に成分を加えたりブレンドしたりした「人工泉」てのもあるから、そういうのまで入れると種類が多くなっちゃうけど、人間が手を加えてない温泉、地球上で自然に湧いてる温泉でちゃんと効能があるのは、すべて、この11種類のうちのどれかってことになる。そして、この11種類のうち、「放射能泉」以外の10種類の温泉があるのが、ここ、別府なんだそうだ。あたし的には、「放射能泉」はあんまり入りたくないから、それ以外がぜんぶそろってる別府は、あまりにもパーフェクトな「湯の街」であり、「温泉どうでしょう」の舞台としても最適だと思う今日この頃、「第二夜」は、砂まみれの海ガメのように後編へと続く♪(笑)


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