温泉どうでしょう 第五夜(後編)
最終日だ最終日だって言って来たけど、母さんとあたしは、この日もホテルに泊まるワケで、帰るのは明日だ。そして、最悪の場合は、帰りに小倉から新幹線を使えば、別府からは3時間ちょっとで帰れる。つまり、もしもどこか見たい場所、行きたい場所があれば、明日の朝、ホテルを出てから半日ほど観光して、それから帰るってこともできるワケだ。だから、最終日のこの日は、「せっかく別府に来たんだから、最終日のこの日もどこかに行かなきゃもったいない!」って気持ちはぜんぜんなくて、「母さんと2人でいろんなお店を覗きながらぶらぶらと歩く」っていう「何もしない贅沢」を満喫できた。
東京にいた時は、玄関を出て30秒でコンビニだったし、1分で駅ビルだったし、1分30秒で玉川高島屋だったから、日常生活で必要なものは、お金さえあればいつでも何でも手に入った。でも、今のお家は、周りにお店なんて1軒もない。一番近いコンビニが原チャリで10分以上も掛かる。家の数も街灯の数も少ないから、日が暮れれば辺りは真っ暗になる。何より、歩いてる人をメッタに見かけない。
そんなとこで暮らしてるから、お店がいっぱいあって、人がいっぱい歩いてて、夜でも明るい別府に来てることが、嬉しくて楽しくて仕方がない。何も買わなくても、母さんと2人でお店を覗きながらのんびり歩いてるだけで、とっても幸せな気分になってくる。それに、別府の街って、あたしが子どものころの下北沢みたいな感じで、何度か書いたけど、初めて来たのに懐かしさを感じる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、これでホントに最終回になっちゃったワケだけど、スーパーを覗いてみた母さんとあたしは、そのまま先へ進み、お店の少ないほうの道をお散歩して、グルッと回ってお店の多いほうの歩道に戻ってきた。大分県の名物の1つに鶏肉の天ぷらの「とり天」があるし、別府よりも小倉寄りの中津の名物は「鶏の唐揚げ」だし、お隣りの宮崎県の名物は「鶏南蛮」だし、この辺の人は鶏肉が好きみたいで、焼き鳥屋さんもいっぱいある。
あたしは、基本的にお肉は食べないことにしてるし、母さんはもともとお肉よりもお魚のほうが好きだから、今は2人ともお肉をまったく食べない生活をしてるけど、これだけ美味しそうな焼き鳥屋さんが並んでると、意志が弱いあたしは、別府に引っ越して来たら「鶏肉だけはOK」ってことに変更しちゃいそうな予感がした(笑)
そんなこんなで、この日はお天気が良くてちょっと暑かったので、アーケード街に入る角のお店の「かき氷」の貼り紙に目がとまった。「かき氷」はどれも300円で、表通りから見ると売店なんだけど、角を曲がると喫茶店になってて、売店で買って歩きながら食べることもできるし、喫茶店で食べることもできるみたいだ。
母さんとあたしは、雰囲気のいい喫茶店の丸いテーブル席に座り、母さんは氷レモン、あたしは氷イチゴを注文した。外で買うと、たぶん使い捨ての容器なんだろうけど、お店に入って注文したので、懐かしいガラスの器で運ばれてきた。かき氷なんて、ずっとコンビニのカップのやつしか食べてなかったから、こうしてガラスの器のかき氷を見るだけで、子どものころを思い出して懐かしくなる。これが「別府スタイル」なのか、それとも、このお店だけのサービスなのか、氷レモンにも氷イチゴにも練乳が掛かってた。
かき氷でひと息ついた母さんとあたしは、アーケード街をぶらぶらと歩いてたら、面白そうなお店を見つけた。古いオートバイと古い子ども用のサイクリング自転車が停めてあって、ショーウインドウの中には昔のブリキのおもちゃとかが飾ってある。オートバイの荷台には、何故だか昔のかき氷器が積んであった。ここまで説明を聞けば、誰もがレトロなおもちゃとかを扱ってるお店だと思うだろう。
だけど、「一風舎」と書かれた看板には、「ろばた 創作 dining」って書かれてた。この時は、まだ開いてなかったんだけど、あとから調べてみたら、別府で初めてハイボールを作る専門のディスペンサーを導入したお店で、豊後水道で水揚げされるお魚を使った創作料理や天ぷらが美味しい飲み屋さんだった。1人2000円~3000円ほどで楽しめるそうなのでリーズナブルだ。今回は飲みに行けなかったけど、次に別府に来た時は、絶対に飲みに行ってみようと思った。別府の街には、こんなふうに「一度は行ってみたい」って思えるお店が数えきれないほどある。
‥‥そんなワケで、母さんとあたしは、アーケード街の途中を折れて、知らない路地を歩いたりしつつ、
何となく勘だけでホテルの方向へ戻っていった。
晩ごはんの時間までホテルのお部屋でのんびりしようと、コーヒーかお茶でも買おうかと、また駅前の道に出てきたら、駅にちょうどブルーの「ソニック号」が到着してた。
最後の夜なので、あたしはちょっと豪華なものでも食べようかと思ってたんだけど、母さんに「何が食べたい?」って聞いたら、母さんてば「最後にもう一度、だんご汁が食べたいわ」って言うので、この日は、またまたまたまた「豊後茶屋」へ行き、580円の「だんご汁」を食べた。何時間か前に、このお店でお昼を食べたってのに、母さんは、ホントにここの「だんご汁」が気に入ったみたいだ(笑) 母さんは「美味しいねえ」「美味しいねえ」って何度も言いながら、ニコニコしながら食べてた。それから、一度ホテルに戻ってから、最後にもう一度、「駅前高等温泉」に入りにいった。
あたし的には、どこかに飲みに行きたかったんだけど、母さんが「ホテルでゆっくりしたい」って言うので、最後の夜に地味すぎるけど、あたしは、コンビニで「のどごし生」の500を2本買って、ホテルのお部屋でお風呂上りの喉をうるおした。今、「駅前高等温泉」に入ってきたとこなのに、1時間くらいすると母さんは「最後にホテルの温泉にも入っておきたい」って言ってパッパと支度を始めたので、あたしは「のどごし生」を買い足しに出た。外に出ると、ホテルの上に「ほぼ満月」が上ってた。そう言えば、あと数日で「中秋の名月」だ。
あたしたちが別府にいた6日間、正確には、この5日目の夜までは、お天気にとっても恵まれた。テレビやネットのニュースでは、東京のほうは豪雨とかで、どこかの電車が土砂崩れに突っ込んでたくさんのケガ人が出たって報じてたので驚いたほどだ。
‥‥そんなワケで、翌日の朝、目が覚めると、何やら変な雰囲気で、カーテンを開けるとものすごい雨! ゆうべはきれいな「ほぼ満月」が上ってたのに、寝てる間に土砂降りになってたのだ。ゆうべは、「明日はホテルをチェックアウトしてから時間がタップリあるから、ゆっくりお土産でも見ようね」なんて言ってたのに、これじゃあどうしようもない。駅は目の前だけど、それでもびしょ濡れになっちゃう‥‥なんて思ってたら、こっちからは何も言ってないのに、ホテルの受付の女性が「傘はお持ちですか?」って聞いてくれたので、持ってないと答えると、駅まで送ってくれると言う。
母さんとあたしに傘を貸してくれて、奥から別の女性を呼んでくれて、その人と3人で駅まで行き、その人が母さんとあたしの借りた傘を持ちかえる‥‥っていう、あまりにも親切すぎるホテルだった。最後の最後に土砂降りになっちゃったけど、最後の最後に別府の素晴らしさをまた1つ味わうことができた。
駅でホテルの女性にお礼を言って別れたあと、あたしは、とりあえず乗車券売り場に「ソニック号」の時間を調べにいった。そしたら、15分後くらいに来るのと、1時間ちょいあとに来るのがあったから、1時間ちょいあとの乗車券と特急券を2人ぶん買った。空いてるって言うので自由席にした。それから、母さんとゆっくりお土産を見て回った。
何度も通った「豊後茶屋」も入ってる駅ビル‥‥って言っても1階しかないからビルじゃないんだけど、ここには何軒もお土産屋さんが入ってるし、コンビニも、レストランも、パン屋さんも、化粧品屋さんも、マッサージ屋さんも、他にもいろんなお店が入ってる。大きなたこ焼きが6個で150円の「カリカリ博士」もある。ちなみに、「カリカリ博士」は、ネギが山盛りでマヨネーズもついてる200円の「ネギたこ焼き」が母さんとあたしのオススメだ。
で、時間もタップリあるし、何よりも雨に濡れずに見て回れるので、母さんとゆっくり見て回ってたら、ずっと忘れてた「温泉どうでしょう」ってタイトルの元の「水曜どうでしょう」のネタを発見しちゃった!
「大分県産 乾椎茸 どんこ」
肉厚のシイタケの「どんこ」は、大分県の名産の1つなので、街にも何軒ものお店がある。だから、この駅ビルにもあって当然なんだけど、この立派な文字を見たあたしは、一瞬、「どんこ」が「どさんこ」に見えちゃったのだ!
「大分県産 どさんこ」
まるで、最初の日に見つけた「大分でつくっています!サッポロビール」ってポスターをホーフツとさせるほどの「対北海道」のフレーバーがマンマンだ!‥‥って、ずいぶん無理があるけど、あまりにも「水曜どうでしょう」から離れちゃったので、最後に無理を承知で織り込ませてもらった(笑)
‥‥そんなワケで、母さんとあたしは、お世話になってる農家のご夫婦や大家さんへのお土産に「カボスを使ったお菓子」と「どんこの佃煮」を、自分たち用に「別府の温泉の素」を選んだ。10分前になったので改札を通ってホームに行くと、あんなにきれいだった山々が、雨で曇ってぜんぜん見えない。
で、何よりもアセッたのが、時間になってやってきた「ソニック号」が、来た時とはぜんぜん違う電車だったのだ。来た時に乗ったのはブルーで角ばった感じの電車だったし、前の日に駅に停まってるのを見たのもブルーの電車だったのに、「○番ホームに博多行ソニック〇○号がまいりま~す」ってアナウンスとともにやってきたのは、白くて流線形にとんがってる電車だったのだ。だけど、ケータイはバッグの中だったので、写メは撮れなかった。
シートは豪華な革張りだけど、微妙に汚れて傷んでて、天井や窓枠にもそれなりの劣化が見られたから、古い車両っぽかった。でも、乗り心地はすごく快適で、それより何より、発車して30分もしないうちに、窓の外に青空が広がって、のどかな田園風景が流れてきた。あれほど降ってた雨が、突然、やむとは思えないので、「ソニック号」が大分県の中の「雨の降ってるエリア」から「晴れてるエリア」へと移動したんだと思う。
‥‥そんなワケで、「ソニック号」は1時間20分ほどで小倉に到着し、小倉もお天気が良かったので、母さんとあたしは、小倉でも少しぶらぶらした。大きいコインロッカーに荷物を入れてから、駅の周辺のお店を見て回ったり、駅ビルの中を見て回ったりして、駅ビルの中のおそばやさんとかカレー屋さんとかいろんなお店が入ってる食堂でおそばを食べたり、「辛子明太子」の形の悪いのや千切れてるのがパックになってる安いやつを買ったり、少し予算が余ったので、品のいいブティックで母さんが気に入ったという帽子を買ってプレゼントしたりしてから、在来線に乗ってのんびりと帰ってきた。
‥‥そんなワケで、母さんとの夢のような6日間はアッと言う間に過ぎちゃったけど、母さんはあたし以上に別府を好きになったみたいで、帰ってきたその日に、早くもお土産の温泉の素をお風呂に入れて、気持ち良さそうに浸かってた。これは、「地獄めぐり」で最初に見た美しい水色の「海地獄」から採った温泉成分が入ってるので、色が「海地獄」とおんなじってだけじゃなくて、ちゃんと温泉の効能もあるみたいだ。その上、風呂釜が傷むような成分は抜いてあるので、沸かし返しても問題ない。「海地獄」の売店でも売ってるし、駅のお土産屋さんでも売ってた。これはお土産用だから5袋入って515円だったけど、ボトルに入ったお徳用もあった。
このパッケージは、一見、「えんまの湯」って書いてあるように見えるけど、よく見ると「えんま」のあとに「ん」の字があるので、「円満の湯」ってワケで、仲の悪い夫婦だって、別府の温泉に浸かれば「円満」になれるってワケだ。だから、もともと仲良しの母さんとあたしは、今回の別府旅行で、何度も温泉に入り、もっともっと仲良しになれた。
母さんがお風呂に入ってしばらくすると、お風呂場から変な歌が聞こえて来た。ふだんはお風呂で歌を歌うことなんてない母さんなのに、どうしたのかと思ってお風呂場の前まで行ってみたら、母さんは楽しそうな声で自作のヘンテコな歌を歌ってた。
「わ~たしは~ベッピン~♪ あ~なたは~プリティ~♪ ベッピンと~プリティ~で~別府~の湯~~♪」
あたしは、思わず噴き出しちゃった!(笑) そして、世界中の誰よりも一番大切な母さんに、ずっと長生きしてもらいたいから、必ず、また一緒に別府へ行こうと思った今日この頃なのだ♪
【完】
「温泉どうでしょう」を最後まで読んでくだった皆さんに、あたしからのお土産があります。「温泉どうでしょう」の「番外編」として近日中にアップしますので、どうぞお楽しみに♪
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