« 温泉どうでしょう 第四夜(中編) | トップページ | 温泉どうでしょう 第五夜(前編) »

2012.10.04

温泉どうでしょう 第四夜(後編)

前回の「中編」で、あたしは「この八丁原発電所には1号機と2号機があって、どっちも出力は5万5000KWだ」ってことを書いたけど、実は、ここの敷地内には、もう1つ、一番新しい「八丁原バイナリ―発電所」ってのがある。あたしは、ホントはこれを一番見たかったんだけど、残念ながら、まだ見学コースは設定されてなくて、一般には公開されてない。だから、今回は見ることはできなかった。

「バイナリ―発電」は、思いっきりフランク・ザッパに言うと、「ぬるめの蒸気でも発電できるシステム」だ。「ぬるめ」って言っても、マグマの近くから湧き上ってくるんだから触ったらヤケドしちゃうほど熱いんだけど、それでも、通常の地熱発電には温度的にイマイチな場合に、その「ぬるめの蒸気」で「沸点の低い媒体」を温めて、そこで発生した蒸気を使ってタービンを回すって方式だ。

通常の地熱発電には、だいたい150度以上の蒸気が必要で、ここ「八丁原発電所」の蒸気井からは、約160度の蒸気が噴き出してる。でも、長いことずっと利用してたら、中には、ジョジョに奇妙に蒸気の温度が下がってきた蒸気井もあって、低いものは130度くらいになっちゃった。そこで、「八丁原発電所」では、日本で初めて、この「バイナリ―発電」を導入してみることにした今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、自然エネルギーとか再生可能エネルギーとかエコエネルギーとかって呼ばれてるものには、今回、あたしが見学してきた地熱発電の他にも、太陽光発電、風力発電、小水力発電、バイオマス発電など、いろんな自然エネルギーがある。だけど、こうした自然エネルギーは、日本全体で見ると、総電力の3%ほどしかカバーしてなくて、97%は火力発電、原子力発電、水力発電に頼ってるのが現状だ。もうちょっと細かく言うと、日本の総電力の69%が火力発電、22%が原子力発電、6%が水力発電で、残りの3%ほどを、地熱発電だの風力発電だので補ってるワケだ。

だから、「原発さえなくなれは、あとはどうでもいい」っていう無責任な考え方じゃなくて、原発をなくすのは当然として、その後もできるだけ「火力の割合を減らしてく」ってことが重要になってくる。そして、そのためには、自然エネルギーの割合を増やしてかなきゃならない。

「97%は火力、原子力、水力で、自然エネルギーは全体の3%だけ」って聞くと、原発をなくす上に火力まで減らしてくのは至難の業、とても現実的には不可能な話‥‥って思うかもしれない。だけど、この数字は、あくまでも「日本全国の合計」なのだ。47都道府県別に集計した自然エネルギーの割合を見てみると、全国1位なのが大分県で、ナナナナナント!大分県で消費されてる総電力の31%もの量を、地熱発電を始めとした自然エネルギーで生産してるのだ!

ちなみに、全国2位が秋田県の26%、3位が富山県の23%、4位が岩手県の20%で、47都道府県の中で自然エネルギーの割合が2割を超えてるのは、この4県だけだ。一方、東京都や大阪府などの大都市は軒並み1%以下で、これらをぜんぶ足したものが、「自然エネルギーは全体の3%だけ」っていう数字なのだ。

で、自然エネルギーの割合の多い上位4県を見てみると、富山県以外の3県には、すべて複数の地熱発電所がある。大分県には5ヶ所もあるし、秋田県には3ヶ所、岩手県には2ヶ所ある。ちなみに、富山県は、地熱発電はまだ研究段階だけど、太陽光、風力、バイオマスに力を入れてる。それが、全国3位という結果を生んでるってワケだ。

そして、全国を47都道府県じゃなくて、さらに細かく市町村単位で分けてみると、この「八丁原発電所」がある大分県玖珠郡九重町は、自然エネルギーの割合が3000%を超える。つまり、九重町で生産してる自然エネルギーの電力総量が、九重町の電力使用量の30倍を超えてるってことだ。

これは、「柳津西山地熱発電所」がある福島県河沼郡柳津町もおんなじで、ここも3000%を超えてるし、他にも、風力発電が盛んな青森県下北郡東通村や、小水力発電に力を入れてる群馬県吾妻郡中之条町などは、1000%を超えてる。燃料を使わずに、環境に与える影響を最小限に抑えた自然エネルギーだけで、その土地に暮す人たちの必要とする電力の何倍もの電力を作り出してるのだ。

このように、自然エネルギーによる発電だけで、その土地の電力需要量を供給量が上回っている自治体は、全国に76市町村もある。日本中の市町村がすべて独立国になったとしたら、この76市町村だけが「原発が廃止になり化石燃料が枯渇したあとも生き残れる自治体」ってワケだ。


‥‥そんなワケで、「第四夜」の「前編」にも書いたけど、日本には18ヶ所の地熱発電所があって、その内わけは、北海道に1ヶ所、東北に7ヶ所、東京(八丈島)に1ヶ所で、あとの9ヶ所はすべて九州にある。で、この分布を見ると、東北や九州は温泉が多いから地熱発電所の数が多いのは分かるんだけど、それなら、北海道にも北陸にも関東にも中部にも関西にも温泉は日本中にあるじゃん!‥‥て思う人も多いだろう。

言っちゃえば、東京の真ん中の新宿区や港区にだって、ちゃんと地下から湧いてる温泉はある。もちろん、東京の真ん中に地熱発電所を造ることは無理だとしても、周りに何もない北海道の山奥なら‥‥て思う人も多いだろう。だけど、これが日本に地熱発電所がなかなか造られない原因の1つになってるんだけど、日本で地熱発電所を造るのに適した場所のほとんどが、国立公園や国定公園になってるのだ。

燃料費はタダだし、環境に与える影響もほとんどないし、いいことづくめみたいに思える地熱発電だけど、日本国内で地熱発電所の立地に適してる場所の8割が国立公園か国定公園の中なので、なかなか許可が下りない。これは、政治による法改正で簡単に変更することができるんだけど、日本政府は半世紀も「原発ありき」で突き進んできたから、原発以外の発電のための法改正なんて興味ゼロで、未だに40年前の法律で規制されたままなのだ。

そして、残りの2割の場所は、どこも温泉地なので、「地熱発電所なんか造られて大量に温泉を使われたらお湯が枯渇しちゃうんじゃないか?」っていう不安から、それぞれの自治体がなかなか首を縦に振らない。大分県の場合は、数々の温泉に大量のお湯が湧き続けてて、湧き続けてるお湯のうち9割を海に捨ててる状態なので、少しでも有効利用したいっていう気持ちがあって、それが地熱発電所の建設へとつながったんだけど、実際、湯量の少ない温泉地などでは、ヘタに地熱発電などに手を出したら死活問題に発展してしまうケースもあるかもしれない。

そして、もう1つは、建設費の高さだ。蒸気井を1本掘るのに平均で5億円も掛かる上に、温泉とおんなじで100%成功するとは限らない。5億円掛けて井戸を掘っても、何も出て来ない場合もある。「八丁原発電所」の2号機は、総工事費が230億円も掛かってる。でも、「八丁原発電所」は成功したので、現在は7円/KWhの発電コストを実現してる。


‥‥そんなワケで、地熱発電に関する日本企業の技術は非常に高くて、世界の地熱発電所の7割が日本企業、「三菱重工」「東芝」「富士電機」によるプラントだ。つまり、日本は、世界的に認められるだけの地熱発電の技術を持ち、よその国には地熱発電のプラントを売り込んで稼いでるのに、その素晴らしい技術が、カンジンの自分の国ではほとんど生かされてない‥‥ってワケだ。

で、ようやくマクラの部分にクルリンパと戻るけど、温度の下がった蒸気を有効利用するために、「八丁原発電所」は、イスラエルの「オーマット社」のバイナリ―発電の設備を輸入した。日本企業が素晴らしい地熱発電の技術を持ってるのにも関わらず、原発以外には目もくれない政府によって自然エネルギーはナイガシロにされてきたため、こうしてイザという時には実績のある海外企業に頼るしかない‥‥ってなワケで、「八丁原バイナリ―発電所」は、平成15年に工事に着工し、平成18年に試験運転を開始し、平成20年から営業運転が開始され、今も2000KWを出力してる。

どうしてバイナリ―発電が一般的な地熱発電よりも低い温度の蒸気で発電できるのかって言うと、ペンタン、アンモニア、フロンなどの「水よりも沸点の低い媒体」を利用するからだ。「八丁原バイナリ―発電所」では、沸点が36度のペンタンを使ってる。水は100度にならないと水蒸気にならないけど、ペンタンは36度で水蒸気になるから、水よりもずっと低い温度でタービンを回すことができる。つまり、地下から噴き出す「150度以下」の蒸気や温水で「ペンタンの入った容器」を温めて、そこで発生したペンタンの蒸気でタービンを回して発電し、冷えたペンタンは元に戻り、冷えた温水は地下へ戻される‥‥っていうシステムだ。

ちなみに、「バイナリ―」ってのは「2進数」のことで、「0」と「1」の羅列ですべてを表わすコンピューターのデータやファイルのことを「バイナリ―データ」とか「バイナリ―ファイル」とか呼んだりするけど、この地熱発電の場合は、「水」だけじゃなくて「水ともう1つの媒体」という「2つの流体」で発電を行なうことから「バイナリ―発電」と名づけられてる。

150度以上の蒸気が必要な通常の地熱発電だと、立地に適した場所も限られるけど、80度以上の蒸気で運転できるバイナリ―発電なら、立地に適した場所が全国に山ほどある。たとえば、今までは「せっかく湯量が豊富で国立公園からも外れてるのに、湯温が90度しかないから地熱発電は無理」って言われてた場所でも、バイナリ―発電なら問題ない。経済産業省の試算では、「日本全国にバイナリ―発電が普及した場合、原発8基ぶんの電力を半永久的にまかなえる」とされてる。


‥‥そんなワケで、ずいぶん堅苦しいことばかり書いてきちゃったけど、ここまでに書いたことが、今回、あたしが勉強したことだ。実際に「八丁原発電所」を見学して、美しい山々に囲まれた中で地熱発電システムが電力を生み出してる光景を見たら、「これこそが人類の科学力だ!」って気持ちがした。自分たちの現在の生活のために、後世の人たちに負の遺産を押し付ける原発なんて、事故が起こったら誰にも収束できない原発なんて、どう考えても「人間が手を出してはいけない悪魔の技術」だと思った。大地からの贈り物である蒸気を使って、人間の暮らしに必要な電力を作り出す。こうして、美しい自然と共存する発電こそが、あたしは、本当の「技術」だと思った。


Bp219


施設の見学が終わると、案内のお姉さんが正面の山を指さして、「夏の初めには、あのあたりの山々はすべてミヤマキリシマが咲き乱れてピンクに染まるんですよ。本当に美しいですから、今度はミヤマキリシマの時期にも来てくださいね」って言って微笑んだ。母さんとあたしは、静かに深呼吸をした。


Bp240


案内のお姉さんと受付のお姉さんにお礼を言い、「八丁原発電所」をあとにしたあたしは、「ちょっとお茶でも飲みたいね」っていう母さんの提案で、「やまなみハイウェイ」の分岐点のとこにあった可愛らしい洋風のお店、「CHEZ Tani(シェ・タニ)」に寄ってみた。


Bp257


駐車場に車を停めてお店に入ると、レストランだと思ってたら洋菓子のお店だった。


Bp251


ケーキと飲み物のセットが700円だったので、違うケーキを頼んでお互いに味見しようかとも思ったんだけど、このお店は「山樵(やましょう)」っていうバームクーヘンが名物だと言うので、母さんもあたしもケーキはバームクーヘンにして、母さんはアメリカン、あたしはエスプレッソを頼んだ。そしたら、高級そうなお店なのにも関わらず、飲み物はファミレスみたいに自分で入れてくるシステムだったので意外だった。


Bp252


お天気が良かったので、テラスの席でバームクーヘンとコーヒーを楽しんだ。黒糖を練りこんであるバームクーヘンは、しっとりしてて甘さもほど良くてとっても美味しかった。母さんは、地熱発電所の見学がそうとう楽しかったみたいで、地熱発電の話でしばらく盛り上がった。


Bp256


少し高台になってたので、「寝釈迦」の姿に見えるっていう山々の稜線が遠くにぼんやりと見えたんだけど、あたしのケータイで撮ったらほとんど分からなくなった。


Bp253


お店の前の広いお庭には、「アルプスの少女ハイジ」に出てきそうな可愛らしい小屋があった。何の小屋なのか、お店の人に聞いてみたら、「前はあの小屋でソフトクリームを売っていたのですが、今は使っていないのです」とのことだった。


Bp254


‥‥そんなワケで、「八丁原発電所」へのドライブは、まだまだ夏の名残りの景色が広がってたけど、ところどころに紅葉が見られて、秋の訪れも感じられた。あたしのワガママで付き合わせちゃったけど、母さんも楽しんでくれたみたいで、ホテルに帰ってから行った温泉の湯船でも、そのあとに行った居酒屋さんでも、母さんの話題は地熱発電のことばかりで、ヘタしたらあたしよりも母さんのほうが地熱発電に詳しくなっちゃったかもしれない‥‥なんて思った今日この頃なのだ♪(笑)


いよいよ次回は最終日の「第五夜」です!お楽しみに♪


★ 今日も最後まで読んでくれてありがとう!
★ よかったら応援のクリックをポチッとお願いしま~す♪
  ↓



|

« 温泉どうでしょう 第四夜(中編) | トップページ | 温泉どうでしょう 第五夜(前編) »