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2012.10.03

温泉どうでしょう 第四夜(中編)

2階のホールで「八丁原発電所」の学習ビデオを観終わり、担当のお姉さんから模型のパネルで掘削の手順などを解説してもらい、地熱発電の概要が分かったあたしたちは、お姉さんの案内で、入ってきた時とは反対側のドアから外に出た。この「八丁原発電所」は標高1100mの場所に造られてるので、お天気の良かったこの日は、別府の街は27~8度くらいあって汗ばむ陽気だったけど、ここは22~3度で外は気持ち良かった。お姉さんのあとに続いて一列でゾロゾロと階段を下りると、すぐ左手に大きな「変圧器」があった。


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でも、発電の順序からすると、この「変圧器」ってのは一番最後の過程なので、とりあえず、説明は後回しにして先へ進んだ。


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巨大な「タービン建屋」のある角を左に曲がると、まるでアニメかSFの世界みたいな野外施設がドーンと現われた。


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この「八丁原発電所」には、昭和52年に完成した1号機と平成2年に完成した2号機があって、とっちも出力は5万5000KWなんだけど、この見学では、主に新しい2号機のほうを見せながら説明してくれた。


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離れた場所に掘られた「蒸気井(じょうきせい)」は、浅いもので地下700m、深いもので地下3000m、この「八丁原発電所」の「蒸気井」は、まっすぐ地下に掘られてるんじゃなくて、途中でカーブしてるそうで、こうした「蒸気井」を掘るには高い技術が必要なんだそうだ。写真だと分かりずらいけど、中央の背の低い木の向こうに白い湯気が立ち上ってるところが、何ヶ所かある「蒸気井」のうちの1つだ。


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「蒸気井」から噴き出し続けてるのは、蒸気と温水の混じったもので、専門用語では「ニ相流体(にそうりゅうたい)」って呼ばれてる。ここでは、1時間に890トンもの蒸気が噴き出し続けてて、それが、「ニ相流体輸送管」ていう太いパイプで、1号機と2号機に運ばれてくる。運ばれてきた「ニ相流体」は、「気水分離器(きすいぶんりき)」によって蒸気と温水とに分けられる。写真の大きな縦長のタンクが、2号機の「気水分離器」だ。

「気水分離器」で分けられた蒸気はタービンを回すために「タービン建屋」へ送られ、温水は「還元井(かんげんせん)」から地下へ戻される‥‥っていうのが、一般的な地熱発電だ。何で温水を地下に戻すのかっていうと、汲み上げてばかりじゃ地盤沈下が起きたり地下水が枯渇しちゃう恐れがあるからだ。地熱発電に必要なのは「蒸気」だけなので、使わないものは元に戻し、できる限り自然にダメージを与えないように配慮してるってワケだ。


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でも、この「八丁原発電所」では、本来は不必要な熱水も無駄にはしない。「気水分離器」で分けられた蒸気は、一般的な地熱発電と同様にタービンを回すために「タービン建屋」へ送られるんだけど、温水のほうは、まずは太いパイプで「フラッシャー」っていう巨大なタンクへ送られる。


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この写真は2号機の「フラッシャー」で、この中は気圧を変えられるようになってる。理科が苦手なあたしはパッとイメージできないんだけど、密閉した容器の中に温水を入れてから気圧を下げると、大量の蒸気が発生するそうだ。ここでは、「気水分離器」から流れ続けてくる温水を「フラッシャー」の中で気圧を下げて大量の蒸気を発生させて、それを「タービン建屋」へと送り続けてる。つまり、本来はそのまま地下に戻しちゃう温水を、ここでは再利用して、蒸気を発生させてから地下へ戻してるってスンポーだ。


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この、温水の有効利用をはかるシステムは「ダブルフラッシュシステム」と呼ばれてて、ここ「八丁原発電所」では、このシステムを採用したことによって、出力を約20%も増加させることに成功した。これは世界的にもワンダホーな技術で、日本国内だけじゃなく、海外からも専門家が視察にきてるそうだ。

ちなみに、おんなじ地熱発電でも、掘った穴から蒸気だけしか出てこなければ、その蒸気でタービンを回すだけの「ドライスチームシステム」になるので、設備の構造は大幅に単純になり、最初の設備投資も安価で済む。また、ここみたく蒸気と温水が出てきた場合は、蒸気だけを使って温水を地下に戻しちゃうのが「シングルフラッシュシステム」で、この「ダブルフラッシュシステム」よりも設備は単純、設備投資も安価で済む。でも、この「ダブルフラッシュシステム」を導入すれば、出力が20%も増加するんだから、すぐに元が取れちゃう。何でかって言えば、燃料費がタダだからだ。

日本の原発は、原子炉を冷やした海水を海へ大量に捨て続けてて、温水の有効利用どころか真逆の環境破壊に余念がないけど、地熱発電では技術者たちの意識も視点も原発とは根本的に違うようだ。電力を作り出す過程で生まれる「熱」を有効利用することを「コージェネレーション」ていうんだけど、日本の原発ではほとんど行なわれてなくて、原発の排水で水温の上昇した海にイケスを作って、食用魚を養殖してるのが関の山だ。


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で、今までに紹介した「気水分離器」や「フラッシャー」の反対側には、「冷却塔」が並んでた。「気水分離器」で分離された蒸気は「一次蒸気管」を通り、「フラッシャー」で発生した蒸気は「二次蒸気管」を通り、それぞれ「タービン建屋」へ送られてタービンを回して発電するんだけど、タービンを回した蒸気は温水に戻り、タービンの下にある「復水器」の中に溜まる。で、「復水器」に溜まった温水は、まだまだヤケドしちゃうほど熱いので、ポンプでこの「冷却塔」へ送り、上から雨のように降らせて空気で冷却してる。


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近づくと、滝みたいで、ものすごい迫力だった。


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そして、ここで冷却された水は、また、「タービン建屋」へと戻されて、今度はタービンを冷却するために使われてる。30トンもある巨大なタービンは、大量の蒸気によって1分間に3600回転もしてるので、高熱を発する。それをこの水で冷やしてるってワケで、自動車に喩えると、地下から噴き出してる蒸気が「ガソリン」で、タービンが「水冷式エンジン」で、この冷却塔が「ラジエター」ってことになる。


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2号機の奥には1号機が見えたんだけど、そっちは見学コースになってないので見に行くことはできなかった。


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構内には、見学者のためのパネルが立てられてて、2基の発電機のスペックも書かれてた。ここで、これまでに説明してきた地熱発電の全体が分かりやすいように、このパネルやパンフレットにも掲載されてた図解を紹介しとく。


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‥‥そんなワケで、ひと通り屋外施設の見学を終えたあたしたちは、いよいよ「タービン建屋」の中へと入ることになった。最初の「変圧器」の脇の細い階段を、またお姉さんのあとに続いて一列でゾロゾロと上っていき、お姉さんが鉄製の重たそうなドアを開けると、中は体育館のように広くて天井が高かった。空気はひんやりとしてて、右手の中央にドーンと横たわってる水色掛かった灰色の大きな機械が「タービン」だった。


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「タービン」は三菱製で、横には「三菱蒸気タービン」ていう立派なプレートがあった。


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この中には、重さ30トンもある回転翼みたいなものが入ってて、ホントはそれが「タービン」なんだけど、ここでは便宜上、この機械全体を「タービン」て呼んでた。


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で、ホントの「タービン」はと言えば、すぐ隣りにドドーンと置かれてた。これは、展示してあるんじゃなくて、万が一、現在のタービンにすぐには修復できないような故障が発生した場合に、パッと交換できるように準備してある「予備のタービン」だそうだ。


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お姉さんの説明を聞きながら、「タービン」の周りをグルリと回ると、反対側の壁には、いろんなスイッチ的なものが並んでた。


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「タービン」の裏側には、全面ガラス張りで中がすべて見える管制室があったんだけど、人は誰もいなかった。


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驚くことに、ここは「無人」だった。見学のために造られた見せかけだけの施設とかじゃなくて、今まで観てきた「気水分離器」も「フラッシャー」も「冷却塔」も、ぜんぶちゃんと稼動してて、目の前にある「タービン」を回して実際に発電してて、それを送電線で送ってるのに、この巨大なシステムを監視してる人や運転してる人が誰1人いない。受付にはお姉さんがいたワケだし、今も別のお姉さんに案内されて見学してるワケだし、他にも男性の職員とかも見かけたワケだけど、この巨大な地熱発電所そのものを管理してる専門の職員や技術者は、ここには1人もいなかったのだ。


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何で「無人」なのかと言うと、この「八丁原発電所」から2キロほど離れたとこに、ここよりも先に造られた規模の小さい地熱発電所、「大岳発電所」があるんだけど、そっちで2つの発電所の管理をまとめて行なってるからだ。「八丁原発電所」のデータはすべて「大岳発電所」へ送られて、そっちにいる専門のオペレーターたちが遠隔操作をして、24時間3交代制で運転や監視を行なってるのだ。お姉さんいわく、「地熱発電はもっとも安全な発電なので、こうして無人でも何も問題なく運転できるのです」とのことだった。


‥‥そんなワケで、ここまでの説明で、地熱発電の基本的なシステムや、この「八丁原発電所」が発電効率を良くするために導入してる「ダブルフラッシュシステム」について、オオマカなとこは分かってもらえたと思う。だけど、あたしよりも地熱発電所に食いついてた母さんのことなど、本線と関係ないことはぜんぶカットして書いてきたのに、施設の説明だけでこんなに長くなっちゃった。それで、今回の「第四夜」だけは、特別に「前編」「中編」「後編」てことにして、もう1回だけ続けさせてもらおうと思う今日この頃なのだ!


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