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2013.07.08

バックミラーの中の君が

「バックミラーの中の君が、どんどん遠ざかっていく」がいいかな?それとも「バックミラーの中の君が、どんどん小さくなっていく」のほうがいいかな?彼氏が彼女を車から降ろして、走り去るシーンの描写だ。

あたしは趣味で小説を書いてるんだけど、小説はたいてい一人称で書くから、作者であるあたしは誰にでもなれる。子どもにも、老人にも、場合によっては犬や猫にもなれる。もちろん男性にもなれるし、女性であっても自分とは別の人格の女性になれる。だから、誰かに読んでもらう目的じゃなくて、まったく別の人になりきって、まったく別の人生を楽しむために、趣味で小説を書いてる。

で、今は、今の自分と同年代のアラフォーの男性になりきって小説を書いてる。あたしは既婚のサラリーマンで、都内のウォーターフロントに自社ビルを持つ大手総合商社の海外営業部の部長で、部下の20代後半の女性と不倫関係にある。この日は、彼女から「結婚して寿退社する」と打ち明けられたため、最後のデートをして、彼女を車で送っていった。

小説は作文とは違うから、「彼女を車で家まで送りました。おわり。」ってワケには行かない。ちょっとオシャレな言い回しや表現で、その状況を伝えなくちゃならない。だからって、「上司と部下という不安定な恋愛形態の残像を吹き消すかのように、僕はアクセルを静かに踏み込んでいった」なんて書いたら村上春樹になっちゃうから、あたしは普通に「バックミラーの中の君が、どんどん遠ざかっていく」にしてみようかなって思ったのだ。

「バックミラーに映る相手が遠ざかっていく」「小さくなっていく」という言い回しは、すでにいろいろな小説や歌詞などで使い古されたものだ。だけど、実際には車を運転してる自分のほうが遠ざかっていくのに、立ち止まってる相手のほうを「遠ざかっていく」「小さくなっていく」と表現することによって、物理的な距離だけでなく精神的な距離までを感じさせることができるのこの言い回しは、ある意味、誰もが自由に使えるスタンダードでもある。

そして、彼女と別れたワケじゃなくて、まだ不倫関係が続いてるのなら、この日は普通に送っただけだから、この「どんどん」というオノマトペは似合わない。だけど、これは最後のデートで永遠の別れなんだから、主人公になりきってるあたしには、「彼女との過去を振り切りたい」という思いがある。恋人との別れは寂しいけれど、その反面、常に心の隅にあった「妻と子どもを裏切り続けている」という罪悪感からようやく解放されるという安堵の気持ちが、この「どんどん」には内蔵されてる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、アラフォーのサラリーマンになりきったあたしは、小説を書いてるPCのワードパッドをちょっとスクロールして戻して、それまでの文脈を読み直して、「バックミラーの中の君が、どんどん遠ざかっていく」がいいかな?それとも「バックミラーの中の君が、どんどん小さくなっていく」のほうがいいかな?‥‥って考えてたワケだ。「遠ざかっていく」なら、物理的に距離が遠くなっていく中に、精神的な距離も遠くなっていくという心理描写を内蔵させることができるし、「小さくなっていく」なら、物理的に距離が遠くなっていく中に、自分の心の中の彼女の存在が消えていくという心理描写を内蔵させることができる。

たとえば、あたしが、文章を書くことをナリワイにしてるプロの作家とかなら、こうした場面で悩むことが、苦しかったり辛かったりするかもしれない。これでお金を貰って生活してるワケだし、もしも小説家なら、こうした表現ひとつが作品の評価に関わってきて、売り上げにも影響するからだ。だけど、あたしは、自分の趣味で書いてるだけだから、文章を書く上で苦しかったり辛かったりしたことは一度もない。常に楽しんで書いてるし、もしも辛くなったら書くのをやめるだけだ。締め切りがあるワケでもないから、眠い目をこすりながら無理して徹夜で書く必要もない。眠くなったら書くのをやめて寝るだけだ。

だから、今回みたいな「どちらの表現にしようかな?」っていう悩みも、辛い選択じゃなくて楽しい選択だ。Aの場合ならこうなるな、Bの場合ならこうなるなって、脳内でいろいろと想像して楽しんでる。

アラフォーのサラリーマンになりきって文章を書いてるあたしは、自分の脳内に出来上がってる彼女の顔を思い浮かべて、これまで書いてきた彼女との楽しかった思い出の数々を思い出す。江ノ島へドライブした時のことや横浜の中華街へいった時のこと、残業して誰もいなくなった社内で下だけ脱いで関係している時に警備員が巡回してきて焦った時のこと、日曜日に子どもの運動会を妻と見にいった時に彼女の姿を見つけてしまった時のこと、社内のPCで暗号を使ってやりとりしたメールの数々、いつものラブホテルのこと、いろんなことを思い出しながら、そんな彼女が寿退社してしまうために別れることになり、最後の夜を過ごし、今、車から降ろしてアクセルを踏んでいる自分。

こんな自分の今の気持ちを表現するためには、「バックミラーの中の君」は「遠ざかっていく」と「小さくなっていく」のどちらがいいか。こんなことを妄想するのはホントに楽しいし、ある意味、「お金の掛からない現実逃避」とも言える。もともと、いろんなことを空想するのが大好きで、子どものころには『不思議の国のアリス』の世界がきっとどこかに実在すると信じてたほどのあたしだから、大人になってからも、多摩川の河川敷なんかをお散歩してる時とかには、突然、草むらからチョッキを着た白いウサギが飛び出してきて、細いチェーンのついた懐中時計を見て「大変だ!遅刻する!」って叫んで、反対側の草むらへと走り去っていくんじゃないかと期待してる。そして、もしもそんなことが起こったら、もちろんあたしはウサギのあとを追いかけていくつもりだ。


‥‥そんなワケで、子どものころから空想ばかりしてたあたしだけど、大人になってもおんなじことをしてるから、あたしの「空想」は「妄想」と呼ばれるようになった。これは、思春期のころには「ニキビ」と呼ばれてたものが、大人になると「フキデモノ」と呼ばれるようになることに似てる。そのモノやコト自体はおんなじなのに、「大人になったのに」「大人のくせに」っていう前置きがつくと、とたんに「ちょっと恥ずかしいこと」のジャンルに分類されちゃうのだ。

もちろん、頭の中で空想した物語を立派な作品に仕上げて、その作品で多くの人たちを感動させたり楽しませたりしてるプロの創作者たちは、それが小説でも音楽でも映画でも漫画でも素晴らしい才能の持ち主なワケで、その才能の元になってる想像力は「妄想」じゃなくて「空想」だから、「ちょっと恥ずかしいこと」ではない。「ちょっと恥ずかしいこと」ってのは、あくまでもあたしレベルの「しょーもない妄想」のことだ。

で、どうしてあたしの脳内で生み出される世界が「しょーもない妄想」なのかって言うと、それは、「バックミラーの中の君」がどうなったのかを知れば一目瞭然だ。あたしは、誰かに読んでもらうために小説を書いてるワケじゃないけど、あたしの脳内がどれほど「しょーもない妄想」で埋め尽くされてるのかを理解してもらうために、この妄想小説の「バックミラーの中の君」から先の部分だけを公開する。ちなみに、どちらを使おうか悩んだフレーズは、両方とも使うことにした。


バックミラーの中の君が、どんどん遠ざかっていく。俺の脳裏には、君との思い出が断片的に流れ、ストロボのように光っては消えていく。バックミラーの中の君が、どんどん小さくなっていく。俺は君との思い出を振り切るように、さらに深くアクセルを踏み込んだ。日産リーフは電気自動車なので排気音はなく、わずかなモーター音だけが‥‥わずかなモーター音だけが‥‥わずかなモーター音だけが‥‥‥‥あれ?おかしいな‥‥。
 モーター音が聞こえず、加速している感覚もないため、ふと右を見ると、外の景色は静止していた。左を見ると彼女のマンションの入り口がある。ここは彼女を降ろすために車を停めた場所だ。日産リーフはキーをひねってからボタンを押して初めて発進できるのだが、先週までガソリン車に乗っていた俺は、今週から乗り換えた電気自動車に慣れていなかった。ガソリン車の時の癖で、キーをひねっただけでボタンを押さずにアクセルを踏んでいたようだ。
 しかし、いくらエンジン音や排気音がしない電気自動車だといっても、停止している状態を走っていると勘違いするわけが‥‥‥‥そうだ!バックミラーの中の彼女の姿がどんどん遠ざかっていったから、どんどん小さくなっていったから、俺は車が動いていると思い込んだのだ!俺は狐につままれた思いでドアを開けて車を降り、後ろを振り向いた。すると数十メートル先に、こちらを向いたまま、後ろ向きに猛スピードで走り去っていく彼女の姿があった。
 そうか!遠ざかっていたのは彼女のほうだったのか!しかし何故?‥‥そう思った瞬間、俺は彼女に向かって手を振りながら大声をあげていた。
「おおーーーーい!」
 すると彼女も手を振り、後ろ向きに走りながら大きな声で返事をした。
「ごめんなさーーい!私のマンションは本当はそこじゃないのーー!あなたに本当の自宅を知られたくないから嘘をついてたのーー!それじゃあさようならーー!今までありがとうーー!」
 後ろ向きに走り続ける彼女の姿が視界から消えても、俺は呆然とその場に立ち尽くしていた。しかし、彼女のマンションだと信じていたそのマンションの住人と思われる中年の女性が、俺のことを怪訝な目つきでじろりと見ながらエントランスへと入っていったことをきっかけに、俺は車に乗り込んだ。
 付き合い始めたころ、ここまで車で送った俺が彼女の部屋でお茶を一杯飲ませてほしいと言った時、彼女は「私は部屋には男性を上げない主義なの」と言ったっけ。だから俺はそれ以来、二度と部屋に上げてくれとは言わなかったが、彼女を降ろして車を発進させてバックミラーを見ると、彼女はマンションに入らずにいつまでも俺を見送っていた。俺は、なんていい娘なんだろうと思っていたが、こんな理由があったとは‥‥。
 俺は車のキーをひねり、今度はボタンをしっかりと押して計器類にランプが点灯したことを確認してから、シフトレバーをドライブに入れて、静かにアクセルを踏み込んだ。夜とは思えないほど明るい都心の住宅街の街並みが、ゆっくりと後ろへと流れ始めた。


‥‥そんなワケで、これがラストシーンなんだけど、アラフォーのサラリーマンになりきって「バックミラーの中の君」が「どんどん遠ざかっていく」のと「どんどん小さくなっていく」のと、どちらがいいか考えてたあたしは、母さんから何か用事を頼まれたのか、電話が掛かってきたのか、喉が渇いて冷蔵庫に麦茶を取りにいったのか、おトイレに立ったのか、何をしたのかは忘れちゃったけど、とにかく、一度、我に返った。「アラフォーのサラリーマン」から「きっこ」に戻ったってワケだ。それで、用事を済ませてから続きを始めたんだけど、まだちゃんと「アラフォーのサラリーマン」になりきらないうちから考え始めちゃったから、きっこの「妄想」、あたしの「しょーもない妄想」がジワジワと滲み出てきちゃった。

頭の中で順番に「バックミラーの中の君が、どんどん遠ざかっていく」‥‥「バックミラーの中の君が、どんどん小さくなっていく」‥‥「バックミラーの中の君が、どんどん遠ざかっていく」‥‥「バックミラーの中の君が、どんどん小さくなっていく」‥‥って繰り返してるうちに、あたしは、ふと、「車は停まってて彼女のほうが後ろ向きに走って遠ざかってったら爆笑だよな?」なんて思いついちゃったのだ。一度、変なことを思いついちゃうと、あたしの脳みそのどこかにある「変なことスイッチ」がオンになっちゃうから、簡単には元に戻せなくなる。

あたしの「しょーもない妄想」はどんどん膨らんでいき、後戻りできないとこまでいっちゃって、これまで何ヶ月もかけて楽しみながら書いてきた何十万文字にも及ぶ恋愛小説のラストシーンが、こんなギャグみたいなオチになっちゃったのだ。でも、これは、仕事でも何でもなく、完全に自分の趣味で書いてる小説だから許されるワケだし、ちゃんとした作品に仕上げようと思ったら、しばらくしてからアラフォーのサラリーマンになりきって、このラストシーンだけを書き直せばいいワケだ。だからこそ、こんな「おふざけ」もオッケーなんだけど、なんだかんだ言いつつ、あたしは、意外とこのオチも気に入ってる。

この小説のラストシーンとしては「しょーもない妄想」だけど、短編の映像作品やアニメとかにしたら面白いと思う。かっこいいスポーツカーに乗ったイケメンが可愛い彼女をマンションの前まで送る。キスをして彼女を車から降ろし、片手をあげて車を発進させる。ルームミラーには小さくなっていく彼女の姿。でも、何かおかしいと感じたイケメンが左右をキョロキョロして、車が動いていなかったことに気づく。慌てて車から降りて後ろを見ると、笑顔のまま猛スピードで後ろ向きに走っていく彼女。驚いて口をポカーンと開けているイケメン。その時、ちょうどイケメンが立っていた場所がマンホールのフタの上で、もの凄い勢いで大量の水が噴き上がり、イケメンはマンホールのフタに乗ったまま空高く飛んでいく‥‥って、こんなことを考え始めると、あたしの「しょーもない妄想」はホントに止まらなくなる。


‥‥そんなワケで、今、あたしの脳内では、マンホールのフタに乗ったまま大気圏外まで飛んでいって凍ってしまったイケメンが、自力で地球へ戻ることができなくなり、永遠に宇宙空間を彷徨っている。そして、死にたいと思っても死ねないので、そのうちイケメンは考えるのをやめた‥‥ってことになってる。そして、この先は、ジョジョに奇妙に話が進んでいき、イケメンは自分とおんなじように宇宙空間を彷徨っていた鉱物のようなものと出会う。そう、カーズだ。カーズはイケメンの体を取り込み、究極を超えた完全生物になって地球へ戻ろうと考えるのだけど、イケメンにとってカーズはその名の通り、単なる「車」だ。逆にイケメンのほうがカーズにまたがり、地球を目指してアクセルを踏み込むと‥‥ってなワケで、サスガにここまで読んでもらえれば、あたしの脳内で生み出される世界が「しょーもない妄想」だってことが分かってもらえたと思う今日この頃なのだ(笑)


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