3年後の参院選に向けて
今回の参院選は「低い投票率」と「自民党の圧勝」という大方の予想通りの結果だった。選挙区と比例代表を合わせた121の改選議席のうち、自民党が65議席と圧勝し、公明党が11議席、民主党が17議席、日本維新の会が8議席、みんなの党が8議席、共産党が8議席、社民党が1議席、沖縄社会大衆党が1議席、無所属が2議席で、生活の党、新党大地、みどりの風、緑の党、幸福実現党は0議席だった。
で、今回の参院選の総括的なことは、あたしよりも遥かにオツムのいい人たちがドヤ顔で書きまくってるので、今さらあたしが書いても意味がない。そこで、あたしは、他の人たちとは視点を変えて、比例代表だけにスポットを当てて書いてくことにした。
まず、ものすごく根本的なことから書き始めるけど、参議院議員の任期は6年間で、議席数は242だ。そして、このうちの半分の121人が、今回、任期満了になり、選挙が行なわれた。残りの121人は、3年前の選挙で当選した人たちなので、今回は「高見の見物なう」ってワケで、3年後に選挙を迎える今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、衆院選でも参院選でも「選挙区」と「比例区」があるワケだけど、衆院選の「比例区」が北海道ブロックとか東北ブロックとか北関東ブロックとかって全国を11のブロックに分けて行なうのに対して、参院選の「比例区」はブロックに分けずに全国をマトメて行なう。だから、厳密に言うと、参院選の場合は「比例区」じゃなくて「比例」とか「比例代表」とかって呼ぶ。
で、3年ごとに改選する参院の121議席は、選挙区が73議席、比例代表が48議席に分けられるんだけど、選挙区は単純明快なシステムだ。今回の東京の場合なら、5議席のところに20人が立候補したけど、得票数の多い順に上から5人が当選てワケで、ものすごく分かりやすい。だけど、比例代表のほうは、イマイチ分かりにくい。
たとえば、緑の党から比例代表で立候補した三宅洋平氏は、17万6000票で落選したけど、自民党から比例代表で立候補した「ワタミグループ」の元会長の渡邊美樹氏は、10万4000票で当選した。衆院選の比例区でブロックが違うなら分かるけど、参院選の比例代表は全国統一なのに、これは一体どういうことなのか?‥‥ってなワケで、まずは、比例代表での各党の大マカな得票数と獲得した議席数を一覧にしてみる。
自民党 1846万票 18議席
公明党 757万票 7議席
民主党 713万票 7議席
日本維新の会 636万票 6議席
日本共産党 515万票 5議席
みんなの党 476万票 4議席
社民党 126万票 1議席
生活の党 94万票 0議席
新党大地 52万票 0議席
緑の党 46万票 0議席
みどりの風 43万票 0議席
幸福実現党 19万票 0議席
この一覧だけを見れば、1800万票台の自民党が18議席、700万票台の公明党と民主党が7議席、600万票台の日本維新の会が6議席、500万票台の日本共産党が5議席、400万票台のみんなの党が4議席、100万票台の社民党が1議席と、それぞれの得票数に沿った議席数を獲得してて、何も問題はないように見える‥‥ってなワケで、まずは、比例代表制での当落がどんなふうに決まるのか、ザックリと説明しようと思う。
比例代表制は、議会制民主主義国が導入してる代表的な選挙制度なんだけど、それぞれの政党の得票数に対する議席数の割り振り方、ようするに当落の決め方に関しては、「ヘア・ニーマイヤー式」だの「ハーゲンバッハ・ビショフ式」だの「サン・ラグ式」だの「ジェファーソン式」だの「クオータ式」だの「縄文式」だの「弥生式」だの「公文式」だの、他にもいろいろある。もちろん、最後の3つは冗談だけど、日本が採用してるのは「ドント式」ってやつだ。
これは、「ボ・ガンボス」のどんとさんが考案したもの‥‥じゃなくて、ベルギーの数学者のヴィクトル・ドント氏が考案したもので、それぞれの政党の得票数を「1、2、3‥‥」という整数で順番に割り算していき、その数の大きい順に議席数を振り分けてく方式だ。分かりやすく例を挙げて説明するけど、A党が3000票、B党が1600票だったとする。そして、この得票数を、1で割った場合、2で割った場合、3で割った場合‥‥ってのを書き出してみる。
1で割ると、A党は3000、B党は1600
2で割ると、A党は1500、B党は800
3で割ると、A党は1000、B党は533
4で割ると、A党は750、B党は400
5で割ると、A党は600、B党は320
こうして、数字の多い順に議席を振り分けてく。たとえば、議席数が「3」だとしたら、A党の3000と1500、B党の1600が上位3つだから、A党は2議席、B党は1議席を獲得する。もともとの得票数が3000票と1600票なんだから、A党が2議席でB党が1議席という振り分けは、この得票数に沿った結果ってことになる。
でも、議席数が「4」だった場合には、A党が3議席でB党が1議席になっちゃうから、B党にしてみたら、A党の半分以上の得票数なのに議席数は4分の1ってワケで、ちょっと納得できない結果になっちゃう。だけど、議席数が「5」なら、A党が3議席でB党が2議席になるから、今度はB党が少し得をすることになる。つまりは、どっちもどっちってワケだ。そこで、今度はB党の投票数を、A党の半分よりちょっと少ない1400票にして見てみよう。
1で割ると、A党は3000、B党は1400
2で割ると、A党は1500、B党は700
3で割ると、A党は1000、B党は466
4で割ると、A党は750、B党は350
5で割ると、A党は600、B党は280
こうしても、議席数が「3」の場合も「4」の場合も前回の例と変わらないけど、「5」の場合がぜんぜん違ってくる。この一覧から数字の多い上位5つを抜き出すと、A党が4議席でB党が1議席になっちゃう。ようするに、B党の得票数が1600票と1400票、わずか200票の違いで、A党は3議席から4議席へ増え、B党は2議席から1議席へと減ってしまうのだ。これが日本の選挙の比例代表に導入されてる「ドント式」なんだけど、ここに、B党よりも小さいC党が参入してきたとする。C党の得票数は700票だ。
1で割ると、A党は3000、B党は1600、C党は700
2で割ると、A党は1500、B党は800、C党は350
3で割ると、A党は1000、B党は533、C党は233
4で割ると、A党は750、B党は400、C党は175
5で割ると、A党は600、B党は320、C党は140
議席数が「3」の場合は、A党が2議席、B党が1議席で、C党は議席を獲得できない。議席数が「4」の場合は、A党が3議席、B党が1議席で、C党は議席を獲得できない。議席数が「5」の場合は、A党が4議席、B党が2議席、C党は議席を獲得できない。議席数が「6」の場合は、A党が4議席、B党が2議席で、C党はやっぱり議席を獲得できない。でも、与党であるA党に対して、野党のB党とC党が選挙協力して、合体して「D党」になったとしたらどうなるだろう。
1で割ると、A党は3000、D党は2300
2で割ると、A党は1500、D党は1150
3で割ると、A党は1000、D党は766
4で割ると、A党は750、D党は575
5で割ると、A党は600、D党は460
こうすると、議席数が「5」までは同じだけど、「6」の場合には、A党が3議席になり、D党も3議席になる。B党とC党の野党がバラバラに戦ってた時は、与党のA党が4議席、野党は2議席だったけど、B党とC党が協力して戦ったら、同じ得票数なのに与党のA党と並ぶ議席数を獲得することができたのだ。
‥‥そんなワケで、ここで最初に挙げた今回の比例代表の結果をもう一度見てみると、あることに気づくと思う。
自民党 1846万票 18議席
公明党 757万票 7議席
民主党 713万票 7議席
日本維新の会 636万票 6議席
日本共産党 515万票 5議席
みんなの党 476万票 4議席
社民党 126万票 1議席
生活の党 94万票 0議席
新党大地 52万票 0議席
緑の党 46万票 0議席
みどりの風 43万票 0議席
幸福実現党 19万票 0議席
そう、生活の党から下位の0議席の政党だ。社民党は126万票で何とか1議席だけは獲得できたけど、94万票の生活の党から下位は、すべて議席を獲得できなかった。比例代表の投票用紙に「生活の党」と書いた人たち、生活の党の比例候補者の名前を書いた人たち、94万人もの思いが、まったく生かされなかったのだ。「新党大地」と書いた人たちも、「緑の党」と書いた人たちも、「みどりの風」と書いた人たちも、何十万人という人たちが「この党なら原発をなくしてくれる」「この候補者なら原発をゼロにしてくれる」と信じて投票したのに、政治にまったく反映されない「死に票」になってしまったのだ。
原発推進の幸福実現党以外は、生活の党も新党大地も緑の党もみどりの風も「脱原発」だし、他の政策もほとんど同じなんだから、もしも、この5党が手を組んでいたら、どうなっていただろうか?‥‥ってなワケで、それぞれの政党の得票数を、それぞれの政党の獲得議席数まで「1、2、3‥‥」ていう整数で割り算してくと、当落を分けた最低ラインの数字が分かる。以下、ザックリと並べてみる。
自民党 1846 923 615 461 369 307 263 230 205 184 167 153 142 131 123 115 108 102
公明党 757 378 252 189 151 126 108
民主党 713 356 237 178 142 118 101
日本維新の会 636 318 212 159 127 106
日本共産党 515 257 171 128 103
みんなの党 476 238 158 119
社民党 126
そして、もしも、社民党、生活の党、新党大地、緑の党、みどりの風の5党が手を組んでいたら、得票数の合計は「361万票」になるから、「361 180 120」となっていた。つまり、この「脱原発連合軍」が3議席を獲得して、この一覧の中で最も低い数字の2議席、自民党の102と民主党の101がそれぞれ落選してたのだ。自民党の最下位の102ってのは、そう、「ワタミグループ」の元会長の渡邊美樹氏だ。そして、「脱原発連合軍」の落選した候補者の中では、最多の17万6000票を集めた緑の党の三宅洋平氏と、もう1人が当選してたことになる。こうしていれば、今回、「死に票」になってしまった多くの有権者の思いが、無駄にならなかったのだ。
‥‥そんなワケで、一見、公平で公正なように見える「ドント式」だけど、この例からも分かるように、大きな政党には有利になり、小さな政党には不利になる面もある。特に、今のように与党の自民党の勢力が絶大で、それに対抗できる野党が見当たらないような状況では、なおさら「ドント式」は野党には不利になる。日本共産党が他の野党と手を組むことは現実的にはアリエナイザーだけど、イデオロギー的なことは抜きにして、とりあえず「脱原発」を掲げてる野党がすべて手を組んでいたとしたら、今回の得票数のままで、自民党の議席数を半分近くも減らすことができたのだ。国民の7割以上が「原発ゼロ」を望んでいるのに、何の反省もなく原発を推進する厚顔無恥な自民党などを圧勝させてしまったのは、野党が国民の声の受け皿になりえていなかったからだ。野党が1つにまとまらずに票を分散させてしまったからだ。だから、本気で「脱原発」を目指している野党は、3年後の参院選に向けて、この辺のこともシッカリと考えてほしいと思う今日この頃なのだ。
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