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2013.11.12

子離れの時代

最近の子どもの名前って、俗に「キラキラネーム」と呼ばれてる難読でアニメやゲームのキャラクターみたいな名前も多くなってきたけど、やっぱりそうした名前は1割程度で、大半の子どもは、まあまあ普通の名前だ。たとえば、去年2012年度のランキングだと、男の子が「蓮」「颯太」「大翔」「大和」「翔太」「湊」、女の子が「結衣」「陽菜」「結菜」「結愛」「心春」「心愛」なんてのが上位に並んでる。読み方はいろいろで、同じ漢字でも別の読み方をするものも多いそうだ。それにしても、「心春」とか「心愛」とかって何て読むんだろう?「心愛」って、まさか「ここあ」って読むのかな?

ま、読み方はともかくとして、どんな漢字が好まれてるかってことだけで言えば、男の子は「大」とか「太」とかが多く使われてて、女の子は「結」とか「菜」とか「心」とか「愛」とかが多く使われてる。これは去年だけじゃなくて、2000年くらいから続いて傾向だ。ちなみに、2000年から2012年までの男女のベスト3を挙げてみると、次のようになる。


【2000年】
男の子 「翔」「翔太」「大輝」
女の子 「さくら・優花(同率1位)」「美咲・菜月(同率3位)」

【2001年】
男の子 「大輝」「翔」「海斗」
女の子 「さくら」「未来」「七海」

【2002年】
男の子 「駿」「拓海・翔(同率2位)」
女の子 「美咲・葵(同率1位)」「七海」

【2003年】
男の子 「大輝」「翔」「大翔・翔太(同率3位)」
女の子 「陽菜」「七海」「さくら」

【2004年】
男の子 「蓮」「颯太」「翔太・拓海(同率3位)」
女の子 「さくら・美咲(同率1位)」「凛」

【2005年】
男の子 「翔・大翔(同率1位)」「拓海」
女の子 「陽菜」「さくら」「美咲」

【2006年】
男の子 「陸」「大翔」「大輝・蓮(同率3位)」
女の子 「陽菜」「美羽」「美咲」

【2007年】
男の子 「大翔」「蓮」「大輝」
女の子 「葵」「さくら・優奈(同率2位)」

【2008年】
男の子 「大翔」「悠斗・蓮(同率2位)」
女の子 「陽菜」「結衣」「葵」

【2009年】
男の子 「大翔」「翔」「瑛太・大和(同率3位)」
女の子 「陽菜」「美羽・美咲(同率2位)」

【2010年】
男の子 「大翔」「悠真」「翔」
女の子 「さくら」「陽菜・結愛・莉子(同率2位)」

【2011年】
男の子 「大翔・蓮(同率1位)」「颯太」
女の子 「陽菜・結愛(同率1位)」「結衣」

【2012年】
男の子 「蓮」「颯太」「大翔」
女の子 「結衣」「陽菜」「結菜」


これを見れば分かるように、ここ10年以上、とにかく男の子の名前は「翔」の字が人気で、「翔」「大翔」「翔太」のどれかは必ずトップ3にランクインしてる。2000年は「翔」と「翔太」が1位と2位だし、2005年は「翔」と「大翔」が同率1位だし、2009年は「大翔」と「翔」が1位と2位だし、特に「大翔」に関しては2007年から2011年まで5年連続で1位を独走してる。つまり、このあたりの年代に生まれた子どもが小学校にあがると、クラスに何人かは「大翔くん」がいることになる今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?


‥‥そんなワケで、男の子には申し訳ないけど、今日のブログはタイトルを見れば分かるように、女の子の名前から「子」が消えたことについて書こうと思ってる。それは、死んだおばあちゃんも、母さんも、あたしも子が付く名前だからだ。あたしは1972年生まれだけど、あたしの年代って、小学校、中学校、高校と、クラスの女の子の名前は、「陽子」とか「純子」とか「優子」とか「智子」とか「綾子」とか、半数くらいは「子」の付く名前だった。その他の女の子たちは、「恵美」とか「恵」とか「美穂」とか「真由美」とか「美香」とか「由香」とか「香織」とか、今どきの女の子の名前と比べると、極めてオーソドックスな名前が大半だった。

そして、あたしの母さんの年代になると、女の子の9割近くが子の付く名前だったそうだ。クラスの女の子が20人だとすると、17人くらいは「幸子」とか「和子」とか「洋子」とか「節子」とか「恵子」とか「悦子」とか「京子」とか「弘子」とか「信子」とかで、残りの3人が「良江」とか「明美」とか「ゆかり」とかだったそうだ。母さんの名前は、子の付く名前の中でも「よくある名前」だったので、クラスに3人も同じ名前の子がいて、母さんは自分の名前が嫌いだったワケじゃないけど、まるで女優さんのような「ゆかり」とかの名前にも憧れたそうだ。

で、おばあちゃんの年代まで遡ると、今度は逆に、子の付く名前は少なくなる。おばあちゃんは大正時代の生まれで、おばあちゃんの時代から子の付く名前が増え始めたそうだ。おばあちゃんは、子の付く名前の流行し始めくらいだったので、子どもの時のクラスの女の子は、まだまだ「ハナ」とか「ハル」とか「ヨシ」とか「きよ」とか「ふみ」とか「ちよ」とか、カタカナ2文字やひらがな2文字の名前の女の子がたくさんいたそうだ。だから、漢字表記の上に子が付く名前だったおばあちゃんは、当時としてはハイカラな自分の名前が大好きだったそうだ。

だから、時代が変わっても、おばあちゃんは母さんに子が付く名前をつけたそうだし、母さんはあたしに子が付く名前を付けてくれたそうだ。残念ながら、あたしに子どもはいないから、この伝統は三代限りで終わっちゃうけど、もしもあたしが子どもを産むことができて、その子が女の子だったらどんな名前を付けるか、今までに何度考えたか分からないほど考えた。これは、「もしも宝くじで3億円当たったら何に使う?」ってことを妄想するのと同じくらい無意味なことなんだけど、それでも、今でも時々は考えちゃう。


‥‥そんなワケで、あたしの妄想にお付き合いさせて申し訳ないけど、もしもあたしが女の子を産んだとしたら、当然、子が付く名前をつける。これは、おばあちゃんの代から続いて来た我が家の伝統を絶やしたくないって理由だけじゃなくて、あたし自身が子が付く名前が大好きだからだ。だけど、これも、時代とともに変化してきた。

あたしが中学生のころは、あたしの周りには子が付く名前の女の子がいっぱいいたし、下級生を見ても同じだったし、新しく生まれた女の子たちの名前ランキングをテレビや雑誌で見ても、「愛子」とか「麻衣子」とか「桃子」とか、子の付く名前はけっこういた。だから、自分が大人になって女の子を産んだとしたら、子の付く名前ならどんな名前でもおかしくないって思ってて、選択肢もいろいろあった。「けいこ」なら「恵子」よりも「景子」って字がいいな。「綾子」も可愛いな。「玲子」もステキだな‥‥っていろいろ妄想できた。

だけど、あたしが高校から専門学校に進んだころには、新しく生まれた女の子の名前から子の字が消え始めた。1990年ころのことだけど、当時の女の子の名前のランキングを調べてみると、「愛」「彩」「愛美」「千尋」「麻衣」「舞」「美穂」「瞳」「綾香」「沙織」なんて名前が並んでて、子の付く名前はトップ10には見当たらない。でも、トップ100位までの中には、「桃子」「翔子」「智子」「祥子」「優子」「愛子」「綾子」などなど、まだ子の付く名前が散見される。つまり、子の付かない名前に押され気味だけど、まだ絶滅したワケじゃないってことだ。

でも、これらの子が付く名前を見てみると、おばあちゃんの年代、母さんの年代、あたしの年代とは、明らかに違いがあることが分かる。子が付く名前で、おばあちゃんの年代に多かったのは「正子」「文子」「久子」「静子」「千代子」など、母さんの年代に多かったのは「和子」「幸子」「洋子」「節子」「由美子」など、あたしの年代に多かったのは「陽子」「智子」「裕子」「純子」「恵子」など、同じ子が付く名前でも、時代によって流行があることが分かる。

ちなみに、母さんの年代で一番多かったのが「和子」なんだけど、これには大きな理由がある。おばあちゃんの大正時代には、ずっと「正子」や「文子」や「久子」が1位なんだけど、1926年に大正が終わって昭和に代わると、翌年の1927年には、1926年に1位だった「久子」が3位に後退して、1位が「和子」、2位が「昭子」になる。そう、どちらも新しい年号である「昭和」から取った名前だ。つまり、おばあちゃんの年代に人気があった「正子」も、「大正」から取った名前だったのだ。

そして、この1位の「和子」は、ここから13年間も1位を独走し、何度か2位に落ちることがあっても、また1位に返り咲き、結局1953年までの27年間、トップ3を動かないほどの大人気となった。だから、母さんの年代でも1位の人気だったのだ。でも、新しく昭和がスタートしてから数年くらいならともかく、27年間もトップ3にランクインしてたってことは、これは「昭和」の「和」って意味だけじゃなく、戦争をはさんでることから「平和」を願っての命名だとも考えられる。その証拠に、「昭子」のほうはどんどん順位が下がって行った。


‥‥そんなワケで、おばあちゃんの年代に人気があった「正子」や「静子」など、母さんの年代に人気があった「和子」や「節子」などは、とってもポピュラーな名前で普通すぎるほど普通だけど、今年生まれた女の子にこれらの名前をつけるのはどうだろうか?‥‥って考えると、物心ついてから自分の名前を「古臭くて嫌い!」って思いそうだし、クラスで浮いちゃう気がする。今、これらの名前で生活してる大人たちは、周りにも同じフレーバーの名前の女性がたくさんいるから何とも思ってないだろうけど、周りが「結衣」や「陽菜」や「結菜」や「結愛」みたいな名前の子ばかりで、子が付く名前だってだけでも浮き気味な時代に、「正子」や「和子」じゃ絶対に「おばあちゃんみたいな名前だね」なんて言われちゃう。

当時は流行の名前でも、時代が変わればイメージも変わる。それじゃあ、今の時代、子が付く名前でも受け入れられるのはどんな名前なのか?‥‥ってことで、最新の今年のデータを調べてみると、女の子の名前のランキングでトップ100までに入ってる子が付く名前は6つだけ、上位から順に「莉子」「桃子」「菜々子」「理子」「愛子」「桜子」だった。「莉子」は「りこ」だけど、「理子」の「理」は「あや」とも読むので「りこ」だけじゃなくて「あやこ」と読ませるケースもあるようだ。

他の「桃子」や「菜々子」や「愛子」や「桜子」は昔からある名前で、あたしの同年代でも珍しい名前じゃない。だけど、あたしの年代では「陽子」「智子」「裕子」「純子」「恵子」などが子の付く名前のトップ5だったので、「桃子」や「菜々子」などは「おしゃれで羨ましい名前」って感じだった。ちなみに、あたしの名前も、読みはオーソドックスだけど漢字がちょっとおしゃれなので、学生時代には羨ましがられたこともあった。


‥‥そんなワケで、子が付く名前がトップ100の中に6つしか生き残ってない今の時代には、「おしゃれで可愛い」ってだけじゃなくて「古臭くない」って点も加味して考えなきゃならないワケだけど、最近あたしが「おおっ!」って思ったのは、文化放送の女子アナの吉田涙子さんの名前だ。「るいこ」という名前はそんなに珍しくないし、「類子」とか「瑠衣子」とか、いろんな漢字の「るいこ」があるけど、「涙」という漢字を使った「るいこ」には初めて出会った。

男の子の名前でも女の子の名前でも、普通はマイナスのイメージを持つ漢字は使わない。最近の「キラキラネーム」の中には、「卑弥呼」の「卑」を使ってるケースもあるみたいだけど、そうした特殊な例を除けば、普通は使わない。そして、あたしの感覚だと、「涙」にはマイナスのイメージが強い。だから、初めてこの名前を見た時には、涙子さんには申し訳ないけど芸名だと思った。文化放送では「野村邦丸」さんのように、局アナでも芸名を使ってる人がいるからだ。

でも、ある日の放送で、涙子さんが自分の名前の命名理由を説明してくれた。涙子さんが生まれた時に、感動して涙を流したお父さまが付けてくれた名前だそうで、お父さまは涙子さんに「涙は悲しい時に流すだけじゃない。嬉しい時、感動した時にも流すものだ。お前には嬉しい涙、感動の涙をたくさん流す女性に成長してほしい」と説明してくださったそうだ。あたしはこの話を聞いて、思わず目がウルウルしちゃって、気づくと感動の涙が頬をつたってた。なんて素敵なお父さまなんだろう。なんて素敵な名前なんだろう。


‥‥そんなワケで、前にも書いたかもしれないけど、あたしの大好きな名前のひとつに「魚子」がある。「さかなこ」でも「うおこ」でも「ぎょこ」でもなく、これで「ななこ」と読む。「魚子」というのは、細かい魚の卵が並んだような模様のことで、織物だと「魚子織り」なんてのもあるし、江戸切子のグラスでも「魚子模様」のものがある。でも、あたしにとっては、大好きで大好きで抱きしめたいほど大好きな架空の少女、角田光代さんの『対岸の彼女』に登場する女子高生の「魚子」のことだ。

この名前も、「魚子」の意味を知らない人が見たら「ギョッ!」とするかもしれないけど、意味を知っていればとっても素敵な名前だ。『対岸の彼女』の中では、ずっと「ナナコ」というカタカナ表記で書かれてて、「魚子」という漢字表記が分かるのは、ナナコが主人公の葵に自分の名前を説明する出会いのワンシーンだけだ。だけど、あたしは「魚子」という漢字表記が大好きなので、この小説を読み返すたびに「ナナコ」を「魚子」に脳内変換しながら読んでる。

『対岸の彼女』の中では、魚子の親は登場しないし、魚子は家族から愛情を受けていない環境だから、魚子の親がどんな思いでこの名前を付けたのかは分からない。でも、こんなに素敵な名前なんだから、魚子が生まれた時には、お父さんもお母さんもやっぱり溺れるほどの愛情を持っていたんだと思う。だからこそ、小説に描かれてる魚子が、悲しくて切なくて抱きしめたくなっちゃうんだけど‥‥。


‥‥そんなワケで、自分の好きなアニメのキャラの名前を子どもに付けるような親もいれば、「涙子」や「魚子」のような素敵な名前を付けてくれる親もいる。子どもに名前を付けるのって、あたしは、生まれてきた子どもに与える親の最初の愛情だと思ってるから、「親の趣味」よりも、「流行」よりも、「画数」よりも、何よりも「愛情」を優先して名前を決めるべきだと思ってる。だから、世の中の女の子の名前から子が消えていく「子離れの時代」になっても、あたしが子が付く名前にこだわってるのは、おばあちゃんの代から続いてきた大きな愛情を、母さんから受け取った溢れるほどの愛情を、自分の子どもにも伝えたいと思ってるからだ。もちろん、実現できない妄想の中での話だけど‥‥って感じの今日この頃なのだ。


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