国の基準値に振り回される人たち
あたしは、前々回のブログ、3月16日付の「連鎖し続ける放射能汚染」で、群馬県の赤城大沼のワカサギの出荷自粛が3年ぶりに解除されたというニュースを取り上げて、「本当に安全なのだろうか?」と疑問を呈した。だって、いくら国の定めた基準値を下回ったとは言え、今年に入ってから8回の測定のうち、6回が「90Bq/kg以上」、2回が「80Bq/kg以上」だったからだ。
群馬県は「1月からの8回の計測がすべて基準値以下だったため安全性が確認できた」として出荷自粛を解除したワケで、この説明に嘘はない。何しろ、国が「100Bq/kg以下は食べても安全」と言っているのだから、行政的には何も問題ない。ただ、いくら国が「安全」だと言っても、あたしとしては「99Bq/kg」や「100Bq/kg」の魚なんか食べたいとは思わないし、もしもあたしに小さな子どもがいたら、絶対に食べさせたくない。
これは、小さな子どもを持つお母さんなら、ほとんどの人が同じ考えだと思う‥‥なんてことを考えてたら、ナナナナナント!群馬県の「出荷自粛の解除」に対して、国が「待った!」を掛けたのだ!「1月からの8回の計測がすべて基準値以下だったため安全性が確認できた」という群馬県の判断に対して、水産庁は「解除は時期尚早」として見直しを指示、県は仕方なく国の指示に従い、解除からわずか1週間で、また「出荷自粛」の措置を取ることになった今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、魚が基準値を超えて「出荷停止」や「出荷自粛」になった場合、国は「1ヶ月以上の継続検査で安定して基準値を下回った場合に規制を解除できる」という規定を設けている。だから、1ヶ月どころか、2ヶ月以上も継続して基準値を下回ったから解除したという今回の群馬県の判断は、国の規定に則ったものだ。それなのに、国は「解除は時期尚早」として見直しを指示した‥‥ってなワケで、この意味不明な見解と指示について、水産庁は次のように説明した。
「個体差がある魚への規制解除を判断する際、国が明文化している『1ヶ月以上の継続検査で安定して基準値を下回った場合に規制を解除できる』という規定以外に『おおむね50Bq/kg以下での安定』を目安としている。赤城大沼のワカサギの82Bq/kgという最小値は『基準値以下ではあるが解除するには比較的高濃度』だと言わざるを得ない」
この説明だけを読むと、とても素晴らしい内容なんだけど、それはあくまでも、あたしみたいな「消費者側」の感想だ。ワカサギ漁で生活をしている漁師さんや、ワカサギ釣りの入漁料や道具の貸し出しなどで生活をしている湖畔の商店の人たち、ワカサギ釣りの人たちを相手に商売をしている食堂や売店などにしてみれば、「おいおい!」ってことになる。「基準値以下になっても規制を解除できないのなら、国の定めた基準値っていったい何なの?」ってことになる。事実、赤城大沼漁業協同組合の会長さんや、赤城山観光連盟の副会長さんなどから、「落胆」というよりも「憤怒」の声があがっている。そして、それらの声に対して、水産庁の担当部署である漁業調整課は、次のように言っている。
「解除の要件が厳しすぎるとの批判は多いが、行政による食品の安全確認への信頼を揺るがすわけにはいかない」
これも、あたしたち「消費者側」にとってはアリガタイザーな言葉なんだけど、ワカサギを生活の糧にしている人たちにとっては「ふざけんな!」ということになる。3.11までは、毎年、9月1日に解禁されてからのボート釣り、ドーム船での釣り、冬になって氷が張ってからの穴釣りと、3月末まで、赤城大沼の風物詩として、観光の柱として、多くの人たちの楽しみであり糧であったのに、それがあの原発事故でメチャクチャにされたのだ。そして、赤城大沼は高濃度に放射能汚染されてしまったため、当初は漁も釣りも禁止され、ようやく釣りが解禁されても「食べてはダメ」「持ち帰りはダメ」という状態が続いていて、3年もガマンして、やっとのことで8回連続で基準値を下回り、出荷自粛が解除されたと思ったとたん、まさかの国からの指示。
‥‥そんなワケで、前回のブログを読めば分かるように、あたしは、現時点での赤城大沼のワカサギを出荷することは問題だと思っている。百歩ゆずって、赤城大沼で釣りをした大人が、自分の釣ったワカサギを家に持ち帰り、大人だけで食べるぶんには「自己責任」の範疇だと思う。だけど、いくらその人の子どもや孫でも、小さな子どもに食べさせることには絶対に反対だ。漁師さんが赤城大沼のワカサギを大量に出荷して、それが幼稚園や小学校の給食に使われることにも、当然、大反対だ。だから、今回の国の判断、水産庁の指示は、あたしは「正しい」と思ってる。
でも、それは、さっきも書いたように、あくまでも「消費者側」の視点での話で、赤城大沼のワカサギを生活の糧や人生の楽しみにしている人たちにとっては、正反対の視点になる。第一、「100Bq/kg以下なら安全」と決めたのは国なのに、その国が「100Bq/kg以下でもダメ」だなんて、これほど筋の通らない話はない‥‥ってことになる。今回の水産庁の「おおむね50Bq/kg以下での安定」という目安についても、群馬県の担当者は「規制の解除に『50Bq/kg以下での安定』などという目安があったとは今までに一度も聞いたことがなかった。国からは事前に何の説明もなかった」と言っている。
赤城大沼の漁業関係者からは、「いったい、いつになったら出荷自粛が解除できるのか?」という声もあがっているけど、今回の水産庁の指針を前提にするのなら、大マカな計算ができる。前回のブログにも書いたけど、今回の赤城大沼のワカサギの数値は「セシウム134が22Bq/kg、セシウム137が60.3Bq/kg、合計82.3Bq/kg」なので、セシウム134の半減期が約2年、セシウム137の半減期が約30年として概算すると、今から2年後にはセシウム134が10Bq/kg、セシウム137はほとんど変わらずに合計70Bq/kg、4年後にはセシウム134が5Bq/kg、セシウム137は多少は減少して合計60Bq/kg‥‥という感じで推移すると思うので、「おおむね50Bq/kg以下での安定」という状態になるのは、早くて6~8年後、遅ければセシウム134がほとんど検出されなくなる10年後以降ということになる。
でも、これは、今のまま、除染などの対策を何もせずに、自然の成り行きに任せておいた場合の概算だ。これも前回のブログに書いたけど、赤城大沼のワカサギの寿命は2年なので、沼自体の放射性物質を除染して食物連鎖による汚染を断ち切れば、何年も待たなくても翌年のワカサギから元に戻るハズだ。まずは、池の底の泥をいろいろな地点でサンプリングして、汚染度を計測して、濃度の高いエリアから優先してマイクロポンプ浚渫船で底の泥を吸い上げて行く。汚染の温床である底の泥さえ排除すれば、植物性プランクトンは汚染されなくなり、それを食べる動物性プランクトンも汚染されなくなり、それを食べるワカサギの稚魚も汚染されなくなる。
もしも、赤城大沼の漁業関係者の人がこのブログを読んでいたら、ぜひ前向きに検討してみてほしい。今回の原発事故で汚染されてしまった数多くの沼や湖や川のサキガケとして、マイクロポンプ浚渫船による除染に成功して、短期間で元の状態を取り戻したという前例を作ってほしい。
‥‥そんなワケで、話をクルリンパと戻すけど、あたしは、何よりも問題なのは「基準値」じゃなくて「実際に流通している食品の汚染度」なんだと思ってる。原発事故以前は、食品の基準値は今と同じ「100Bq/kg」だったけど、実際に全国に流通してた農水産物の大半は「0Bq/kg」だったワケで、誰も放射能汚染の心配などせずに、産地など気にせずに、安心して国産の農水産物を食べてたハズだ。でも今は、被災3県だけでなく、群馬、山形、茨城、栃木、千葉、埼玉、東京、神奈川、静岡、山梨、長野など、広範囲の産地の農水産物から放射性セシウムが検出され続けていて、それが基準値以下なら普通に出荷され、全国に流通してる。
あたしは、分かる範囲でチェキし続けて来たけど、たとえば、今月3月に入ってから東日本の各農協が出荷した農産物を見ると、静岡県のシイタケが37Bq/kg、群馬県のシイタケが31Bq/kg、山形県のシイタケが24Bq/kg、他にも、群馬県のナメコ、栃木県のレンコン、茨城県のレンコンやサニーレタスやサツマイモなどから放射性セシウムが検出されている。今月はワリと低めだけど、過去には50Bq/kgを超えるものも散見されていた。そして、これらの農作物は、すべて「100Bq/kg以下」なので、そのまま出荷されて全国のスーパーなどの店頭に並んだり、外食店などで使用されている。
こうした現状を踏まえた上で、「100Bq/kg」という基準値を定めたのが国なら、その基準値以下のワカサギの出荷に「待った!」を掛けたのも国っていう今回の件を見ると、いったいぜんたい国は何を持って「安全」と言っているのか、理解できなくなって来る。国の定めた通り、「100Bq/kg以下」の食品は絶対に「安全」で、どんなに長期間、どんなに大量に食べ続けても、絶対に「安全」なのだろうか?ご飯もパンも麺類も、肉も魚も野菜も、朝昼晩と口にするすべての食材が「100Bq/kg」だったとしても、それを1年365日ずっと食べ続けても、絶対に「安全」なのだろうか?すべての食材が「100Bq/kg」の食事を小さな子どもに食べさせ続けても、絶対に「安全」なのだろうか?
今年2月27日、福島県のいわき沖での試験操業で水揚げされたユメカサゴから、国の基準値を超える「110Bq/kg」の放射性セシウムが検出されたため、水揚げされた13.2kgがすべて出荷停止にされた。ユメカサゴという正式名は聞き慣れないと思うけど、ノドグロと言い変えれば知ってる人は知ってる高級魚だ。で、このノドグロは「110Bq/kg」で出荷停止になり、一方、赤城大沼のワカサギは、1月からの8回の計測が「82~100Bq/kg」だったので出荷自粛を解除‥‥っていう判断の違いが、あたしには理解できない。
もちろん、ここには「100Bq/kg」という国が定めた基準値があるワケだけど、あたしの感覚で言えば、「100Bq/kg」のワカサギが絶対に「安全」だと言うのなら「110Bq/kg」のノドグロだって「安全」だと思うし、「110Bq/kg」のノドグロが「危険」だと言うのなら「100Bq/kg」のワカサギだって「危険」だと思う。でも、あたしはシロートだから、どちらの考え方が正しいのか判断できないので、安全策を取って「後者」の判断をして来た。
そしたら今回、水産庁が「おおむね50Bq/kg以下での安定」という新しい見解を示して、基準値以下であっても「82Bq/kg」のワカサギの出荷を自粛させたのだ。これは、福島県の漁協が実施している「50Bq/kg」という独自の基準値にも合致している。つまり、国は、表向きは「100Bq/kg以下なら安全ですよ」と言いつつも、実際には「50~100Bq/kgは基準値以下でも安全とは言い切れない」という認識を持っていたワケだ。
‥‥そんなワケで、原発事故後の2011年12月、明治の粉ミルク「明治ステップ」から放射性セシウムが検出された時、世の中は大騒ぎになり、明治は粉ミルク40万缶を回収することになった。でも、あの時の数値は、最大で「30.8Bq/kg」だった。この数値は、今の「100Bq/kg」という基準値でも「問題なし」だし、当時の粉ミルクの「200Bq/kg」という暫定基準値で見れば、今以上に「問題なし」だった。
当時、国立医薬品食品衛生研究所の松田りえ子食品部長が「粉ミルクは赤ちゃんに飲ませる時には7倍に薄めるから安全」と発言して波紋を呼んだけど、お茶だって「飲む状態」にまで薄めてから計測してるんだから、安全か安全じゃないかは別として、「飲む状態」や「食べる状態」にしてから計測するという方法には一定の説得力がある。で、「30.8Bq/kg」の粉ミルクを7倍に薄めて「飲む状態」にすると「4.4Bq/kg」になり、今、全国に流通している37Bq/kgのシイタケや赤城大沼の82Bq/kgのワカサギよりは遥かにマシになる。
赤ちゃんに「4.4Bq/kg」の粉ミルクを飲ませることは大問題なのに、3歳の幼児に37Bq/kgのシイタケや82Bq/kgのワカサギを食べさせることは「問題なし」なのだろうか?もしも、あなたに小さな子どもがいたら、37Bq/kgのシイタケや82Bq/kgのワカサギを「国の定めた基準値以下だから問題なし」として給食の食材に使っている幼稚園や小学校に、あなたは自分の子どもを通わせるだろうか?少なくとも、あたしは通わせない。
‥‥そんなワケで、日本人は「喉元すぎれば熱さ忘るる」って人が多いのか、この3年で、食品の放射能汚染に対する警戒心が大幅に薄れたように感じる。福島第一原発の事故は収束のメドも立たず、今も大量の放射性物質と高濃度汚染水が大気中と海へ放出し続けているのに、自分の食べているものだけは「安全」だと思い込んでる人が多い。厚生労働省の発表、各自治体の発表、市民測定所の公開データなどをコマメにチェキしてると、全国に流通している様々な農水産物から放射性セシウムが検出されていることが分かるのに、自分の食べているものだけは「0Bq/kg」だと信じている人が多い。これは、国が定めた「100Bq/kg」という基準値による錯覚に騙されているだけなのだ。たとえ基準値が「500Bq/kg」でも、実際に全国に流通している国産の農水産物の大半が「0Bq/kg」なら「安全」だし、逆に基準値が「100Bq/kg」と厳しくなっても、全国に流通している農水産物の何割かが「20~100Bq/kg」であれば「安全」とは言い切れない。そして、今の日本は、残念ながら「後者」なのだ。問題なのは「基準値」ではなく「実際の汚染度」だということに、もっと多くの人が、そろそろ気づくべきだと思った今日この頃なのだ。
| 固定リンク