コア・キャッチャーと天下りの受け皿
一昨日の3月11日、東京で行なわれた政府主催の「東日本大震災三周年追悼式」で、安倍晋三首相は「今なお、多くの方々が不自由な生活を送られています。原発事故のためにいまだ故郷に戻れない方々も数多くおられます」と言った。福島第一原発では、東京電力の広瀬直己社長が「東電の社員は、故郷を離れて生活されている被災者のご苦労を決して忘れずに福島の復興に取り組んでいかないといけない」と言った。
だけど、この人たちが実際にやっていることと言えば、何よりも最優先して取り組んでるのが、「被災地の復興」でも「被災者の帰還」でも「原発事故の収束」でもなく、「柏崎刈羽原発の再稼動」だ。今年1月、東電は「今年7月の柏崎刈羽原発の再稼動」を盛り込んだ再建計画書を政府に提出し、安倍政権はソッコーで認可した。つまり、「柏崎刈羽原発の再稼動なくして東電の再建はありえない」というトンデモ計画に、政府がお墨付きを与えたワケだ。
一昨日の3月11日、東電の広瀬社長は、福島第一原発で社員たちに向かって放射能汚染で大迷惑をかけてる被災者たちに対する気持ちを語り、14時46分には黙祷を捧げたけど、その前日の3月10日には、柏崎刈羽原発の再稼動に向けて、断層を調査するためのボーリング調査を始めてた。これは、2月に終了した断層調査に不足してる部分があったため、原子力規制委員会から追加の調査を要請されたからだ。
この日、柏崎刈羽原発では、再稼動に向けて去年から試運転中だったボイラーに水を供給するための大型タンク2基から約4万7600リットルもの水が流出するという事故が起こり、高さ3メートル、直径3メートルのステンレス製の大型タンク2基は大きく変形した。それなのに東電は、この事故の原因究明を後回しにして、とにかく何よりも優先して再稼動に向けた断層調査を開始したのだ。だって、急がないと7月の再稼動に間に合わなくなるからだ。
そして、翌日の3月11日、この柏崎刈羽原発の再稼動計画を認可した安倍首相は式典で「原発事故のためにいまだ故郷に戻れない方々も数多くおられます」と語り、東電の広瀬社長は福島第一原発で「故郷を離れて生活されている被災者のご苦労を決して忘れずに」と語ったのだ。あたしは、これほどの二枚舌は前代未聞だと思った今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?
‥‥そんなワケで、先日まとまった政府の「エネルギー基本計画」には、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけて安全が確認された原発から再稼動を進めていくと明記されてるし、安倍首相自身も同様のことを何度も口にしてる。で、この「安全が確認された」というのが何かというと、原子力ムラの人たちで組織された「原子力規制委員会」が作った新しい安全基準のことであり、田中俊一委員長は「世界一厳しい安全基準だ」とドヤ顔でノタマッてた。
だけど、この田中俊一委員長の発言に、真っ向から異を唱えた人がいた。柏崎刈羽原発を立地する新潟県の泉田裕彦知事だ。泉田知事は、当初から「原子力規制委員会に国民の命と安全と財産を本気で守るつもりがあるのか疑問です。彼らが守ろうとしているのは電力会社の財産ではありませんか」と厳しく批判してきた。
泉田知事によると、原子力規制委員会の策定した新しい安全基準は、地震対策や津波対策や機器に関することばかりで、ようするに「いかにメルトダウンを起させないか」ということばかりに終始している。福島第一原発のようにメルトダウンが起こったら、もう完全にお手上げになる。こんなものは新しい安全基準とは言えない、とのこと。
泉田知事は言う。「世界ではメルトダウン事故が起こると考えて対策を講じているのに、日本ではメルトダウン事故を起こさないという形でやっている。これでは話にならない。メルトダウン事故が起きた時にどう対応するか。 ヨーロッパではコア・キャッチャーが義務づけられているし、アメリカは軍の専門の冷却部隊がすぐに出動することになっているが、日本ではメルトダウン事故を起こさないことが前提だから、どちらもやらないことになっている」
‥‥そんなワケで、ここで世界の原発の安全対策事情をザックリと説明すると、泉田知事の言うように、欧州では原発に「コア・キャッチャー」の装着が義務づけられてる。メルトダウン事故が起こり、溶け落ちた核燃料が圧力容器の底を突き破って下に落ちても、それをキャッチして安全な容器に誘導して一気に冷却するというシステムだ。欧州の原発はこの「コア・キャッチャー」が義務づけられてるから、福島と同レベルの事故が起こったとしても、今の日本のようにはならない。
ちなみに、この「コア・キャッチャー」はフランスのアレバ社が特許を持っているため、日本やアメリカの原発には装着されていない。そこで、アメリカの場合は、たとえばテロリストがどこかの原発の電源を破壊したとしても、訓練された軍の専門の冷却部隊がすぐに駆けつけて、数時間以内に完全に冷却して放射性物質の拡散を防ぐように配置されてる。もちろん、これでも不安だけど、何の対策もしていない日本よりは百万倍もマシだろう‥‥ってことで、せっかくだから、欧州の原発に義務づけられてる「コア・キャッチャー」の図解を添付しておく。
この図の下部にあるのが「コア・キャッチャー」のシステムで、左下の「コア・キャッチャー」の中に敷かれてるものは、高温の溶けた核燃料から容器の底を守るための特殊素材だ。こうしたシステムが義務づけられているということを知れば分かるように、欧州では、メルトダウン事故やメルトスルー事故は「いつか起こるもの」という前提で安全対策が講じられてるということだ。
一方、安倍首相が再稼動を目指している日本の原発には、この「コア・キャッチャー」が装着されている原子炉は1基もない。だから、日本中のどの原発でも、メルトスルー事故が起これば、福島第一原発と同じ結果になる。原子力規制委員会が策定した新しい安全基準にしても、その内容のすべてが「いかに事故を起こさないようにするか」という対策ばかりで、「もしも事故が起こったら」という対策はゼロ。つまり、事故が起こったら「ジ・エンド」なのだ。
「地震対策」や「津波対策」というのは、事故を起こさないための対策であり、自動車で言えば「ブレーキ」のようなもの。でも、この「コア・キャッチャー」というのは、事故が起こった時に被害を最小限にするためのものであり、自動車で言えば「エア・バッグ」のようなもの。原発を自動車に置き換えれば、欧州車には「エア・バッグ」が義務づけられているが、日本車には装着されていない、ということになる。
そして、安倍首相が「日本の技術は世界一だ」と大嘘をついて各国にセールスして回ってる日本製の原発にしても、当然、この「コア・キャッチャー」は装着されていない。たとえば、東芝の最新鋭の「AP1000」という加圧水型軽水炉なんて、逆に「コア・キャッチャー」が付いてないことを「売り」にしてる始末だ。
「シビアアクシデント(過酷事故)時に原子炉容器キャビティに注水して原子炉容器を外側から冷却することで原子炉容器内に溶融炉心を保持し、コア・キャッチャーを不要とした最新鋭の原子炉です」
つまり、「メルトダウンが起こったら外から注水して冷却するから絶対にメルトスルーは起こりません」て言ってるワケだけど、これじゃあ今の福島第一原発と同じことじゃん。メルトダウンした核燃料が安全な状態になるまで何十年間も注水し続けるなんて、こんなもん、どう見たって「最新鋭」じゃなくて「手抜き」じゃん。
東芝だけでなく、日立だって同じこと。「最新鋭」を謳いながら、メルトダウンが起こったら原子炉内を水びたしにして冷却するシステムだそうだけど、こんなお粗末なもんを「システム」だなんて呼べないよね。そして、こんなもんを「世界一の技術」だと言ってアチコチの国にセールスして回ってる安倍首相、日本国内の事故も完全にお手上げ状態なのに、よその国で日本製の原発が大事故を起こしたら、いったいどうやって責任を取るつもりなの?また国民の税金を流用するつもりなの?
‥‥そんなワケで、あまりにも呆れ果てて言葉づかいが崩れてきちゃったから、ここらでクルリンパと元に戻すけど、新潟県の泉田知事は、柏崎刈羽原発を再稼動させる最低限の条件として「福島第一原発の事故の検証」と「柏崎刈羽原発へのコア・キャッチャーの装着」を要求している。230万人もの県民の命と安全と財産を預かってる知事としては、極めて当然の要求だろう。
泉田知事は言う。「福島第一原発の事故の検証も総括もされていないのに、他の原発を再稼動させるのは時期尚早です。たとえば福島第一原発の事故のように原子炉への海水注入が必要になったとき、誰が責任を持って決断するのか。原子力規制委員会は「事業者の責任だ」と言うでしょうが、海水を注入して5000億円の原子炉をパーにする決断が、果たしてサラリーマンの現場所長にできるでしょうか?経営者ですら簡単には決断できないでしょう。万が一のときは安全のために国が補償します、というような制度を作るべきではないか。だから福島の検証と総括が必要なんです」
これまた、極めて当然な主張だろう。福島第一原発の事故の収束のメドも立たず、未だに何万人もの人たちが放射能汚染からの避難生活を続けていて、事故の原因も分からず、原子炉の中がどうなっているのかも分からず、溶け落ちた核燃料がどこにあるのかも分からず、いったいいつまで高濃度汚染水が流出し続けるのかも分からず、誰1人責任を取っていないのに、何が「再稼動」だ!‥‥と言いたい。
阪神淡路大震災と比べると、東日本大震災の被災地の復興は20分の1しか進んでないけど、これだって原発事故が原因だ。もしも原発がなかったら、もしも原発が事故を起こさなかったら、もしも原発が事故を起こしても「コア・キャッチャー」さえ付いていたら、こんなことにはならなかったハズだ。福島県の復興は一次産業である農業や漁業を中心にして、今の20倍のスピードで進んでいたハズだ。「たられば」の話をしても仕方ないと言う人がいるけど、あたしは、「たられば」の話こそが経験を教訓に変える唯一の手段であり、同じ轍を踏まないための最善策だと思ってる。
‥‥そんなワケで、先日まとまった政府の「エネルギー基本計画」で原発を「重要なベースロード電源」に位置づけて再稼動を進めていくと発表した安倍首相しかり、「原発を再稼動しないと電気料金が上がり続ける」と利用者を脅し続ける東電の広瀬社長しかり、福島第一原発の事故によって数えきれないほどの国民が苦しみ続けているのにも関わらず、国のトップと企業のトップがタッグを組んで原発を推進し続ける背景には、経済産業省の天下りたちが原発利権で甘い汁を吸い続けてる下部組織がある。
独立行政法人は「原子力安全基盤機構」「原子力発電環境整備機構」「科学技術振興機構」「放射線医学総合研究所」「日本原子力研究開発機構」「産業技術総合研究所地質調査総合センター」など、財団法人は「日本原子文化振興財団」「日本分析センター」「日本エネルギー経済研究所」「日本立地センター」「放射線影響研究所」「放射線計測協会」「放射線照射振興協会」「放射線影響協会」「放射線利用振興協会」「電力中央研究所」「原子力環境整備促進・資金管理センター」「原子力国際協力センター」「原子力公開資料センター」「原子力安全研究協会」「原子力発電技術機構」「原子力研究バックエンド推進センター」「原子力国際技術センター」「原子力安全技術センター」「エネルギー総合工学研究所」「東電記念科学研究所」「福井原子力センター」「核物質管理センター」「高度情報科学技術研究機構」「発電設備技術検査協会」「日本電気工業会」など、社団法人は「日本原子力技術協会」「日本原子力産業協会」「日本原子力学会」「原子燃料政策研究会」「茨城原子力協議会」「土木学会 原子力土木委員会 地盤安定性評価部会」「新金属協会」「エネルギー情報工学研究会議」など。
これでも、まだまだ書ききれないほど、原発利権にぶらさがってる「天下りの受け皿」の団体は日本中にマウンテンだ。経産省から天下ったOBたちが、何もせずに莫大な年俸や退職金をフトコロに入れるために作られた「意味のない独法や外郭団体」の数は、全国で50を超えると言われてる。そして、そこにひしめく数多くの天下りたちが、日々、パソコンでゲームをしたりエロサイトを眺めたりして、何も仕事をせずに国民の税金を山分けしているのだ。
‥‥そんなワケで、日本には、経産省の役人たちのために作られた独法や外郭団体という「天下りの受け皿」は数えきれないほどあるけど、日本中に林立する原発には「コア・キャッチャー」という「溶け落ちた核燃料のための受け皿」は1つもない。この国の政府にとっても、この国の電力会社にとっても、原発が大事故を起こした時に溶け落ちた核燃料を受け止めることより、経産省の天下りを受け止めることのほうが、「原子力ムラ」の利権構造を死守する上では遥かに重要視されてるんだと感じた今日この頃なのだ。
| 固定リンク