イニシャリズムとアクロニム
interfmで平日の朝7時から10時まで生放送してるピーター・バラカンさんの「Barakan Morning」の中で、毎週水曜日の8時半すぎころから、言語学者で英語学を専門にしてる井上逸兵先生の「Talking About Language」というコーナーが始まる。以前もやってたコーナーなんだけど、しばらくお休みしてて、今年4月から新たにスタートしたコーナーだ。
知ってる人は知ってると思うけど、このコーナーは事前に録音したものを放送してるので、たぶん、このコーナーの間に、ピーターさんや稲葉智美さんはおトイレに行ってると思う‥‥ってなワケで、この「録音」と「おトイレ(音入れ)」をカケるというハイレベルなギャグを展開しつつ、今朝の放送も、とっても面白かった。あたしが説明すると長くなっちゃうので、井上先生が前日の夜にツイートした内容をそのまま紹介しちゃう。
井上逸兵 @ippeiinoue
あす放送のバラカンモーニングTalking about Laguageは、UFOなどアルファベットの頭文字言葉(頭字語)から話が始まって…いろんなところに展開。オチあったかなー。とにかく打ち合わせなしで話してるので、ピーターさんの反応も読み切れず(笑)よろしければどうぞ。
20:29 - 2014年5月13日
‥‥そんなワケで、今日はレイアウトの都合上、「いかがお過ごしですか?」は割愛して先へ進むけど、このツイートの通り、今朝の放送では、井上先生が「アルファベットの頭文字言葉」について話してくださった。あたしが驚いたのは、レーダー探知機とかの「レーダー」も、この「頭文字言葉」だったということだ。
「レーダー」のスペルは「radar」だけど、これは「radio detecting and ranging」の頭文字から作られた単語だそうだ。頭文字と言っても、最初の「radio」からは「ra」の2文字を取り、続く単語から「d」「a」「r」を1文字ずつ取り、これらを並べて「radar」ってワケだ。だから、雰囲気的には「rader」って感じなのに、最後の部分が「er」じゃなくて「ar」になってるんだね。
で、この「radio detecting and ranging」ってのは、「電波で検出して計測するもの」的な意味だから、これだけで「探知機」って意味も含んでる。だから、さっきは「レーダー探知機」って書いたけど、これだと「マグカップ」や「フラダンス」のような重複表現になっちゃう。それぞれ、「レーダー」「マグ」「フラ」が正しい。
続いて、井上先生が教えてくださったのは、スキューバダイビングとかの「スキューバ」だ。ピーターさんは「英語だとスクーバと発音しますね」って言ってたけど、日本でも「スキューバ」と「スクーバ」の両方が使われてる。「セラピー」と「テラピー」みたいだ。で、この「スキューバ」のスペルは「scuba」で、「self-contained underwater breathing apparatus」の頭文字を並べたものだそうだ。直訳すると「自己充足的な水中酸素補給装置」ってワケで、重たそうな空気ボンベとか、口にくわえるホースみたいなやつとか、あのシステム一式のことだ。だから、あのシステムを使ってダイビングすることを「スキューバダイビング」と言うのは重複表現にならない。
‥‥そんなワケで、こうした英語の頭文字を並べた単語は、大きく分けて2種類ある。1つは、「USA(ユーエスエー)」とか「FBI(エフビーアイ)」のように、並べたアルファベットを1字1字そのまま読むもので、これらを「イニシャリズム(initialism)」と呼ぶ。もう1つは、「NATO(ナトー)」とか「AIDS(エイズ)」のように、並べたアルファベットを1つの単語として、新しい読み方をするもので、これらを「アクロニム(acronym)」と呼ぶ。
だから、日本語で「未確認飛行物体」と直訳してる「UFO(unidentified flying object)」の場合は、「ユーエフオー」と読めばイニシャリズムになるし、「ユーフォー」と読めばアクロニムになる。今朝のラジオでは、ピーターさんは日本で「ASAP」を「アサップ」と読んでることについて「ダサいね」と言ってたし、「UFO」に関しても「英語圏でもユーフォーと言う場合もあるけど、多くの人はユーエフオーと言っている」と説明してた。だから、日本人がカッコイイと思ってるアクロニムが、英語を母国語としてる人たちには意外と「ダサい」と思われてるのかもしれない。
「世界保健機関」のことを日本でも「WHO(World Health Organization)」と表記することが多いけど、日本ではアクロニムで「フー」と読む人が多い。だけど、英語圏の人たちの大半は、イニシャリズムで「ダブリューエッチオー」と読んでる。こうした例を見ると、日本人がアクロニムを使うのって、田舎の若者がファッション雑誌を見て「都会で流行してるファッション」をそのまま全身にまとって東京にやってきて、みんなから失笑されてるフレーバーが漂ってきた。
だから、あたしは、自民党が公約を反故にして強引に進めてる「環太平洋経済協定」が、英語では「Trans-Pacific Partnership」で良かったと思ってる。これなら頭文字言葉は「TPP」だから、イニシャリズムで「ティーピーピー」と読むしかない。もしもこれが「TAP」や「TOP」だったら、英語圏の人たちはみんな「ティーエーピー」とか「ティーオーピー」とかって読んでるのに、日本人だけがカッコイイと思い込んで「タップ」とか「トップ」とか言って、英語圏の人たちから「だっせえ!」って思われてたことウケアイだからだ。ま、世界の舞台で恥をかくのは担当大臣の甘利明を筆頭にした安倍政権の面々だけだからどうでもいいんだけど。
‥‥そんなワケで、ここで1つ、面白い例を紹介するけど、あたしでも知ってる有名なのが、タバコの「マルボロ」だ。あたしは中学生のころからF1を本格的に観始めたんだけど、一番夢中になったのが、高校生になってから、アイルトン・セナとアラン・プロストがマルボロカラーのマクラーレンホンダに乗るようになってからだ。あたしはプロスト派だったんだけど、とにかくマクラーレンホンダが大好きだったから、ミニカーも買ったし、「マルボロ」の意味も高校生の時に調べた。
「マルボロ」のスペルは「Marlboro」、「Man always remember love because of romance only.」の頭文字を並べたものだ。これまでに紹介してきた頭文字言葉と違うのは、これは「文章」になってるってとこだ。簡単な文章だから中学生英語で分かると思うけど、「人は常にロマンスのためだけに愛を記憶している」って意味だ。
文章としては単純だけど、頭文字言葉にするには長い部類なので、この「マルボロ」はホントに良くできてると思う。だって、この頭文字言葉って、意外とアバウトなとこがあるからだ。最初に紹介した「radar」の場合は「radio detecting and ranging」の「and」も「a」としてちゃんと利用してるけど、たとえば「NASA」の場合には「National Aeronautics and Space Administration」なので「and」は除外してる。「and」まで入れちゃうと「NAASA」になっちゃってイマイチだからだ。
一方、ちゃんと「and」も使ってる「radar」のほうも、最初の「radio」だけ「ra」の2文字を使うっていうズルをしてる。だって、そうしないと「rdar」になっちゃって読みにくいからだ。これと同じ方式なのが、意味的にも似てる「ソナー」だ。船とかに付いてるやつで、「レーダー」が電波を飛ばして障害物を見つけたり対象物までの距離を算出したりするのに対して、「ソナー」は音波を飛ばす探知機だ。だから、魚群探知機なんかも「ソナー」の一種なんだけど、日本では、船を安全に航行させるために船の前方や左右に音波を飛ばすものを「ソナー」と呼び、船の下に向かって音波を飛ばすものを「魚群探知機」と呼び、使い分けてる。
で、この「ソナー」のスペルは「sonar」、「sound navigation and ranging」の頭文字言葉だから、「radar」と同じで、最初の「sound」だけズルして2文字使ってる。そうしないと、アクロニムで読みにくいからだ。アルファベットを1字1字読むイニシャリズムなら、こんな小細工をする必要はないんだから、この「radar」や「sonar」は、最初からアクロニムにすることを狙ってアルファベットをピックアップしたってことになる。
これと同じなのが、あたしの大好きな「MAX」だ。今は玲奈ちゃんがお休みしてて、ナナさん、りっちゃん、美奈子の3人で活動してるけど、デビューから20年を迎えて30代後半に差しかかった「MAX」は、去年の「Tacata'」の大ヒットで、また新しいファン層を開拓した。
そんな「MAX」だけど、今までに何度も説明してきたように、これは「Musical Active eXperience」の頭文字言葉だ‥‥って言っても、分かりやすいように大文字で書いたけど、最後の「X」だけは、頭文字じゃなくて2文字目を使うというズルをしてる。「radio」や「sound」の最初の2文字を使うズルは、ズルと言ってもちゃんと頭文字も使ってるから、まあ、ギリギリセーフだろう。だけど、頭文字をスルーして、2文字目だけを使うなんて‥‥。
でも、これも何度も説明してるけど、この「Musical Active eXperience」ってのはアトヅケで、ホントは、エイベックスの社長の松浦勝人さんのニックネームの「MAX松浦」から命名されたのだ。松浦さんが自分のニックネームをグループ名にしようと思うほど、4人のメンバーに期待したってワケだ。そして、この「Musical Active eXperience」ってのは、後から「いかにも」って感じで添えられたものだ。
‥‥そんなワケで、最初にあたしは「こうした英語の頭文字を並べた単語は、大きく分けて2種類ある」と言って、イニシャリズムとアクロニムのことを書いてきたけど、「大きく分けて」と言ったのには理由がある。それは、同じアクロニムでも、こうして先に「MAX」という単語が作られて、後から「いかにも」って感じの意味を付けたものを「バクロニム(backronym)」と呼ぶからだ。これは「back」と「acronym」をくっつけて作られた造語で「アトヅケのアクロニム」という意味の呼び名だ。
たとえば、よく耳にする話で、「news」という単語は「north、east、west、south」の頭文字を並べたもので「東西南北いろいろな方面の話題を集めたもの」という意味‥‥って言われるけど、これは完全にアトヅケの語呂合わせで、もともとは「新しい」という意味の「new」を複数形にしただけだ。だから、この話なんかはバクロニムの一種ってことになる。
で、またまた複雑になっちゃうんだけど、このバクロニムも2種類あって、「MAX」のように、音楽グループや企業なんかが、最初にグループ名や企業名を決めて、後から「いかにも」っていう意味を付けるタイプ、いわゆる「公式のバクロニム」と、意味のない単語に一般の人たちが面白い意味を付けちゃう「非公式のバクロニム」だ。そして、英語圏では、後者が圧倒的に多い。
日本版より遥かに信頼できる英語版のウィキペディアで「backronym」の項目を見ると、面白い例がたくさん書かれてる。たとえば、自動車メーカーの「フォード(Ford)」、これはリンク先にも書かれてるように、創立者であるヘンリー・フォードの名前で、日本の「ホンダ」や「トヨタ」と同じワケだけど、ここにはいろんな「非公式のバクロニム」が紹介されてる。
「First On Race Day」(レースの初日)
「Fix Or Repair Daily」(毎日、調整か修理)
「Found On Road, Dead」(道路で死体を発見)
‥‥そんなワケで、こうした例を見れば想像できるように、英語圏では、主に「笑いを取りつつ相手を揶揄」する手段として、このバクロニムが使われてる。だから、「ノーベル平和賞」にノミネートされてる日本の立派な平和憲法をトンチンカンな解釈で捻じ曲げて、アメリカの子分になって世界で戦争をおっぱじめようなんてしたら、安倍晋三は世界中から揶揄の対象になり、アッと言う間に「ABE」に「Addled Brain Egoist(イカれた脳みそのエゴイスト)」なんてバクロニムを付けられちゃうと思う今日この頃なのだ!(笑)
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